第160射:自ら仕掛ける
自ら仕掛ける
Side:タダノリ・タナカ
「基本的に、この防壁を頼りに籠城戦の構えなのですね」
「ええ。魔族の戦闘能力は高いと聞きます。それに森から出てきた時点で、このアスタリの町からは目と鼻の先ですからね。外に展開する時間はないでしょう」
「確かに。だからこそ、弓矢での攻撃がメインというわけですね」
「そうなります。ですが、弓矢は訓練がいるモノですからね。弓を引ける者が少ないのが懸念です」
そんなことを話しながら、防壁の上を歩くお姫さんとアスタリ子爵。
俺たちはいま、アスタリ子爵が考えている防衛機能を見て回っている。
内容に関しては、聞く限り一般的な防衛を想定しているようだ。
まあ、ここまで攻め寄せられていて、わざわざ門を開けて展開するほど余裕はないだろうからな。
となると、この場合は俺たちだけ外にでて迎撃って所か?
メンドウだな。敵と勘違いされて背中から撃たれるとか勘弁だ。
でも、その弓矢を撃つ連中も足りていないっていう体たらくだしな。
「質問していいか?」
「構いませんよ。タナカ殿の意見ならぜひお聞きしたい」
「弓矢を上から降らせるのはわかった。でも、そうなると、近接武器しか使わない冒険者連中とかはどこに配備するつもりだ?」
「別に弓矢を撃つだけしかいらないというわけではないですよ。投石や熱湯などを浴びせてもいいんですから」
「確かにな。それは単純にして効果的なのはわかっている。それでも、全部を使うわけでもないだろう?」
「ええ。流石に全部使うことはないですね。残りは門の防衛や、隙を見て他の門からでて、後方かく乱でもできればと思っております」
囮かよ。
まあ、それぐらいしか近接武器を持っている連中はやりようがないよな。
「もう一つ質問だ。対抗しうる戦力なら、外で陣取るつもりか?」
「はい。それはもちろん。町を守る防壁に攻撃を加えられるということは、それだけ領民に被害が出る確率が高い。相手が来るのをしっかりと待ち伏せして倒す方が効果が高い」
そこはわかっているわけか。
だが、現実的に奇襲を察知するすべはない。
「じゃあ、問題は敵の接近を知ることと、展開できる時間がいるってことか」
「そうなりますが、森で敵、魔族の進軍を確認した冒険者がいるとして、その事実確認をして、迎撃用意をするまでどこまで時間がかかると思いますか?」
……確かに簡単な話じゃない。
冒険者が発見したことを、冒険者ギルドに伝えて、それから伝令がアスタリ子爵にいってから号令をだして防衛用意。
外にでて迎撃用意している暇は確かにないな。
間がありすぎるし、冒険者ギルドに伝えてすぐに冒険者たちが集まるわけもない。
仕事に出ているやつらとかもいるからな。
まあ、そういうのが森の遺品回収に向かっていて、戻ってくるんだろうから、多少は集まるが、やっぱり行動は遅い。
「今のままじゃ外での迎撃は不可能だな」
「ええ。この場で魔族の動きを完全に知ることが出来れば可能かもしれませんが、そんな都合のいい道具は存在しません」
「「「……」」」
その都合のいい道具を持っているよな。っていう視線でお姫さんやカチュア、結城君がこっちを見つめてくくる。
「どうかされましたか?」
「いいえ。そういう道具があれば本当によかったのにと思っただけですわ」
流石に、俺がそういう道具を持っているとは言わないようだ。
まあ、この状態でアスタリ子爵に喋ろうものなら、俺が殺すけどな。
俺にとっては奥の手の一つだ。
まだ味方か判断できない相手に手の内をさらすとかありえん。
「ですな。そんなものがあれば、魔族の動きを知ることが出来ますから、常に優位に準備を整えた状況でむかえられますから。あればどれだけありがたいことか……」
しかし、アスタリ子爵はそういう構想はあるわけだ。
ただ突撃、守るだけのバカというわけでもない。
それが分かっただけでもありがたいか。
まあ、元から、防衛戦を想定して物資を集めていて、数もある程度把握していたから、この程度は当然ともいえる。
「ま、ない物をねだっても仕方ないとして、こうして防壁を盾にしつつ、王都へ救援の連絡を出すわけだ」
「そうなりますな。アスタリからの急報を受けて陛下が軍を動かします。規模によって動かす量は違ってきますが、まずは直轄軍を、そのあとに地方軍をということになる予定です」
「近いところからって言うのは基本だな」
「ええ。そして、撃破できる数が集まってから魔族を押し返すということになります」
「そして、その数がそろうまでの間は、アスタリの町は独力で耐えなければいけないんですね」
「姫様の言う通り、魔族が出て来た際には、アスタリの町は独力で守り魔族の進軍を妨害しなければいけません。そのために、陛下や宰相には便宜を図ってもらっていますから」
「「「……」」」
アスタリ子爵は、自分の町が防衛の盾になることは覚悟の上なのだというのを改めて知る。
まあ、和睦になるならそれはそれでいいのだろうけど、そんな都合のいいことを考えて防衛を整えないわけにはいかんよな。
「姫様たちが目指す和平、成ることを願っておりますが、私はアスタリの町を預かるものとして、そしてルーメル王国の一員として、守る術を捨て去るわけにはいきません。そのことはどうかご容赦願いたい」
「いえ。アスタリ子爵の言うことは尤もです。でも、私たちは和平への道をあきらめたくないのです」
「ええ。それでいいかと思われます。私たちのような堅物ではそういう柔軟な発想は出来そうにないですからね」
お姫さんの言葉に変わらずそう返事をするアスタリ子爵。
まあ、別にアスタリ子爵に損がある話でもないからな。
勝手に頑張ってくれという話だ。
「で、防壁を盾に防壁の上から攻撃をするって言うのはわかったが、外堀とかは掘らないのか?」
「そとぼり?」
俺の質問の意図が分からなかったのか、結城君が首を傾げている。
まあ、一般高校生には堀とかいってもわからんか。
学校の歴史の授業でちょっと出たぐらいだろうしな。
「そうだ、堀。ほれルーメルの王城は周りは水で囲まれてただろう?」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「ああいう穴を堀っていって、敵が攻めてくるのを制限するのに使うわけだ。近代戦じゃ塹壕とかいう感じで、現代でも紛争地帯ではよく使われているぞ」
「なるほど。それを作るわけですね」
「まあ、大きい堀を作って、敵が接近するスピードを落とすわけだな。その隙に攻撃をする。って、ことだがどうだ?」
俺は結城君に説明を終えて、アスタリ子爵に振り向く。
「堀についてはなんとも言えないのが現状ですな。まず、堀を掘ってしまえば今後の発展に色々支障をきたしますし、魔族の方にも体制を整えていると警戒されかねません」
「それはわかるが、宰相が俺、というか、結城君を呼び出したことは喧伝しているんだし、魔族にそのことが届いているのは当然だろう? それを知って攻めてくるのが早いか遅いかだけだと思うが? 俺たちが和平に成功でもしない限りは」
「むう。確かにそうですな。とはいえ、そこまでの堀を作る人員と予算が微妙ですな」
「そっちの問題か。まあ、それもそうか。穴を掘るだけで済む話じゃないな」
堀として機能するにはちゃんと物資がいる。
適当にごみを埋めるための穴を掘るのとはわけが違う。
掘り起こした土砂をどこに持っていくとか言うのも大事だしな。
この町囲むように堀を作ろうとしても、莫大な資金がかかるというわけだ。
世の中何をするにも金がかかるというわけだ。
とはいえ、ここは俺がいるわけで、ある程度方法は思い浮かんでいる。
「……一つ方法がある気がする」
「本当ですかな?」
「まあ、やってみないと分からないが、可能性は高い。方法は勇者、結城君たちの魔術だ」
「へ? 俺たちですか?」
ご指名された結城君は首を傾げているが、お姫さんはわかったようで……。
「なるほど。魔術を応用して堀を作ろうというわけですか」
「はぁ、それはわかりますが、普通の魔術師ではすぐに魔力が空になるので、非現実的のはずですが……」
「そこだよ。結城君たちは普通の魔術師じゃない。高火力の魔術を使えるからな。費用に関しても通常であればそれなりの金額がいるだろうが非常事態のようなものだし、俺たちは別の目的のために動いているから、そこまで金をとる気はない。というか、もともと、こういうのは役に立つ一人を雇った方が安上がりだろう?」
「まあ、そうですな」
この世界でもそうい認識は変わらないようだ。
使えないやつを10人使うぐらいなら、5人の予算で10人分の働きをする奴を雇った方がいい。
もっとわかりやすく言うのであれば、人を雇うぐらいなら、人より役に立つ機械を導入すればいい。
そういう話だ。
まあ、機械は動かす人物が必要になるけどな。
この場合、高火力の魔術を操る人物が該当する。つまりは結城君たちだ。
「で、どうする?」
「協力してもらえるなら願い叶ったりですが。どうですかな、勇者殿?」
「あー、えっと……。話が急でついていけないんですけど。田中さん。俺たちに堀づくりを手伝えってことですよね?」
「おう。その認識で構わないぞ。ついでに、結城君たちの最大火力を試すにもちょうどいいだろう?」
「いや、それって、まずくないですか? アスタリ子爵が言ったように魔族が反応する可能性があるんですよ? ですよね?」
「ですな。外に堀を作ること自体、外敵を気にしていると言っているようなものですからな。それに大魔術を使うという話ですし、まず確実に魔族を刺激することになるかと」
「いや、それはさっきも言っただろう? 俺たちがこの場所に来ているんだし、バレるのは時間の問題。こっそり準備を整えるより、堂々と防衛準備をしていた方がいいだろう? こっそりしているうちに来られたら意味がないからな」
「ふむ。その話は一理ありますが……」
そんな感じでアスタリ子爵がもう一押しという感じになっていると、結城君が近づいてきて……。
「ちょっと、いいんですか? 今は少しでも時間が欲しいんじゃ……」
「だからだよ。今の状態でこっちに攻めてくるということは、好戦派の連中が進軍して、和平派は残るだろう?」
「ああ、つまり、その間に話をつけるって、もう戦争始まってるじゃないですか……」
「ばか。反対勢力を抱えたままの交渉の方がきついわ。膿は全部絞り出した方がいいだろう? こっちのドローンで適当にできるんだからな」
「うわ……。でも、魔族の好戦派の人たちからすればこっちの情報は全部遮断されているんじゃ?」
「それは時間の問題だって言っただろう? 向こうは情報が遮断されていることが気になるはずだからな」
「うげ!? だからこそ、焦らせるために!?」
「そうそう。別に、俺たちを殺そうとするやつらと仲良くする必要はないからな」
「……光と撫子は反対しそうですよ?」
「反対した結果、多くの人が死んでもいいならいいんだろうさ」
「……」
俺の言った言葉に、何も返せなくなる結城君。
若いな。
だが……。
「事実だ。このままでは戦争だ。その際、ぶつかり合いで、俺たちが行動するより多く死ぬ。まあ、確かに、停戦を求めて握手をして和平に応じてくれる可能性がないともかぎりらないが、そんなバカみたいな賭けをするほど酔狂じゃない」
「……わかってますよ」
「まあ、深く考えるな。どのみち誰かが死ぬ道だ。それが自分の命か、他人の命か、それだけの話さ」
生きるっていうのはそう言うことなんだよ。
ガキども。
俺はそう思いながら、アスタリ子爵とお姫さんの交渉を眺めるのであった。
大事なお話があります。
少々仕事が忙しく、更新ペースを保てそうにありません。
読者の方々には大変申し訳なく思うのですが、ペースを週一まで落とさせていただきます。
「レベル1の今は一般人さん」をこれからもよろしくお願いいたします。
ま、必勝ダンジョンの遅延はないから心配なく。
とりあえず、ゲームを沢山してネタを仕入れたら戻ると思う。
次回の更新は3月17日となります。
それまで待ってね。




