第152射:見えてきた道
見えてきた道
Side:タダノリ・タナカ
「思ったより元気でしたね」
「ああ。びっくりだ」
俺たちは、部屋に戻ってから、先ほどのノールタルの話をしていた。
まあ情報をまとめるってやつだ。
「失礼します。その様子だと、彼女たちは思いのほかうまく治療できたようですが? 詳しくお聞きしてもいいでしょうか?」
俺たちの会話が気になったのか、お姫さんとカチュアがこちらにやってくる。
流石にここまでドタバタしていると寝ていたお姫さんも起きたようだな。
因みに、モニター監視は消去法でリカルドがやっているのは仕方がない。
と、リカルドのことはいいとして、お姫さんに説明をしておくか。
「ああ。意外と大和君やルクセン君の回復魔術が効いたみたいだ。本人たちは心の傷に効いたかどうかは判断しかねているみたいだがな」
「つまり、タナカ殿の判断では?」
「俺としては効いていると思う。あそこまでぶっ壊れていた連中が今日中に俺と結城君に話しかけていたからな」
「それは、すごいモノですね」
「そうなの、カチュア?」
「ええ。普通はあそこまでなってしまうと、心を病んでしまうものが多いです。流石は勇者様ということですね」
勇者だからってのを言われると、ルクセン君や大和君の努力は無意味に聞こえるな。
いや、これは悪意的に聞き取りすぎか。
俺も大概だな。
そんなことで突っかかるよりはこれからの話だ。
「それで、話はできるようになったが、残念ながら普通に会話できるようになったのは5人中1人。もう1人はたどたどしい感じで、残り3人はいまだに反応はない。とはいえ、俺たちが同じ部屋に入っても叫ばないところを見ると、最初の頃よりははるかにマシってところだな」
「なるほど。それなら、私たちの質問に答えられそうですね」
「ああ、その件で多少話も聞けた」
「どのようなお話でしょうか?」
そう聞かれて、俺はノールタルから聞いた話をそのまま伝える。
彼女たちは好戦派の連中に拉致されて、ここに連れてこられて、使われる消耗品だったこと。
好戦派のトップの名前はデキラ。
そして、その好戦派の台頭のきっかけはルーメル軍の侵攻が原因だということ。
これ以上ないぐらいルーメルの危機は自業自得だというのは、お姫さんにもよくわかったようで、文句ひとつ言わず俯いている。
俺はその反応に一々反応してやるほど暇でもないので……。
「俺たちはとりあえず、一仕事終えたから寝る。カチュア、お姫さん、モニターの監視を頼む」
「あ、はい。わかりました。姫様」
「え、ええ。そうですね。リカルドばかりに任せておくのはだめですね」
ということで、俺の働けという意図は伝わったのか、さっさとモニター監視の役割を代わって、リカルドが戻ってくる。
「助かりました」
「リカルドさんお疲れ様です」
「お疲れさん。今日はとりあえず休め、魔族の詳しい話はまた起きてからだ」
「そうですか。では遠慮なく」
リカルドのやつはお姫さんのベッドにもかかわらず即座に倒れて健やかな寝息を立てて眠ってしまう。
「疲れてたんでしょうね」
「だろうな。と、俺たちも休むか」
「はい」
俺たちも特に激しく動いていたとは言わないが、度重なるモニター監視とドローンの改造で疲れているので部屋に戻って休むことになったのだが。
「ぐっー……」
結城君もリカルドと同じようにベッドに横になっただけで、すっかり寝てしまっているようだが、俺はここで寝ずに……。
ギィ……。
「遅くなっちまったな。タナカ殿は起きているか?」
「おう」
そう、俺はクォレンの帰りを待っていたのだ。
結城君と一緒に先にアスタリ子爵の所から帰っていたのだが、こいつだけは別行動をしていて、俺が戻ってきてからその姿をみていなかった。
「とりあえず、座れ。疲れただろう。ほれ」
そう言って、俺は缶ビールとおつまみを渡す。
「おお、ありがたいね。じゃ、さっそくいただく」
クォレンは遠慮なく缶ビールを開けて即座に喉に流し込む。
「かぁー。美味い」
「そりゃよかった。で、さっそくで悪いが。現場はどうだった? ソアラたちの言っていることは事実か?」
「……ふう。本当にさっそくだな。まあ、いい。ソアラの言っていることは事実だ。魔族たちがいたとされる拠点は焼け落ちている」
「ちっ。もうちょっとスマートなやり方はなかったのか」
クォレンはソアラたちが言っていることが本当かどうかを確かめるためにうごいてもらっていたわけだが、……最悪だな。
敵の拠点は焼け落ちて、情報らしきものは何もないか。
「まあ、そう言うな。正直子爵の動きもわからん状態で、魔族の拠点をそのまま残しておくよりはましだと思うがな」
「それは理解できる。だが、こっちとしては、そういう拠点を漁って敵の動きを探りたかったんだよ。そっちだってそういうやり方は知っているだろう? というか、魔族の女性を保護っていうのはどういうタイミングなんだよ」
「ソアラたちの報告書を読むと、魔族の拠点を不意打ちで攻め込んでから、ソアラが対峙していた相手が不利と見るなり家に火を放ったらしい。まあ、悪い手じゃない。おかげで地下を探索していたイーリスは監禁されている女性たちを保護するだけで終わったってことだ」
「……なるほどな。彼女たちが魔族とわかったのは、保護してからということか」
「そうだ。まあ、鑑定士なんて連れて行くわけないからな」
「はぁ。まあ、ないモノを悔いても仕方ないか」
ソアラたちはまさか魔族が自分の拠点に火を放つとは思ってなかったんだろうな。
拠点の放棄に関して火を放つのは証拠隠滅には最適だがな。
まあ、完全に燃えればという前提がつくが。
残っていれば証拠になる……のは地球だけか。
科学的根拠というのはないからな。
文章が残っていても偽装と言われるのが関の山か。
いるのは立場の高い人物から後押し。ここはあんまり地球と変わらんか。
上から簡単に握りつぶされる。
「しかし、その状況でよく逃がさずに済んだな。全員殺すか捕縛したって言いきっていただろう?」
火事っていうのはかく乱で一番いい方法だからな。
その状況で
「まあ、それは事前に拠点を取り囲んでいたからな。逃亡はしたかったけれどできなかったというのが正しいか」
「あー、そういえばそう言っていたな」
逃亡は阻止したというのは間違いなさそうだな。
地下に道でもなければの話だが。
とはいえ、ドローンの監視による大樹海への逃亡者は出ていないから、連絡を取っている連中がいるようには思えない。
その点だけは安心できることだな。
魔族に連絡が行って戦争勃発なんてことはないんだから。
そんなことを考えていると、ビールとつまみを食べ終えたクォレンから質問が飛んでくる。
「で、そっちは戻ってきてからどうなった?」
「保護した魔族の女性とやらの治療をやっているところだ」
「ま、唯一の情報源だからな。随分とひどい目に合っていて、喋るのもままならないって感じと聞いたが、何か聞き出せたか?」
「そこは、大和君、ルクセン君のおかげで、喋れるまで回復した」
「ほう。あの状態から復帰するのはなかなか時間がかかるはずだが」
クォレンも冒険者ギルドのギルド長をやっているから、ああいう手合いの回復がどれだけ難しいか把握しているようで、回復したということに感心している。
「そこは運がよかったんだろうな。ルクセン君たちの回復魔術を含めてな。おかげその女性たちから話を聞くことはできた」
「なにか使えそうな内容はあったか?」
「意外と使える内容があったぞ。アスタリの町に潜伏していた魔族の連中は好戦派の連中のようだ」
「好戦派か、それを信じられる理由は?」
「もともと、融和派、現女王派は村などを作って開拓、そして交流、交易をおこなっているから、わざわざアスタリの中に送りこむ理由がない。戦争のきっかけになりかねないからな」
「確かにな。だが、動向を探るためというのはあるんじゃないか?」
「それなら、好戦派のせいだと訴えることもないだろう。魔族の国内問題を俺たちに訴えても無駄だからな」
「あー、その通りだな。疑う余地がない」
俺がノールタルの話を信じたのにはこういう理由もある。
魔族の国内事情なんて俺たちに言っても本来は無駄だからな。
だからこそ信用ができたというわけだ。
で、そのあとはお姫さんに伝えた同じ内容をクォレンにも説明する。
「皮肉もいいところだな。ルーメル前王が動いたせいで、融和派がピンチってことか」
「みたいだな。フクロウの話と一致しているから、情報の正確さがわかる」
「全然うれしくない情報の一致だがな」
「ま、フクロウの信頼度が上がったと思っておこう」
今後はさらにフクロウの情報収集能力は利用させてもらおう。
そんなことを考えていると、急にクォレンの顔が険しくなって……。
「……で、これからどうするつもりだ? この状況から話し合いでどうにかなるってのはかなり厳しいぞ」
「好戦派が力を伸ばしてきて、融和派である現女王の力が弱まっているからな……」
この状況で融和派の女王と話が出来て協定が結べたとしてもただの紙切れでしかない。
というか、それこそここぞとばかりに好戦派が難癖をつけて追い落としをかけるかもな。
そして、内紛勃発。結果次第では魔族が人の地域への進軍を開始ってところか。
それで真っ先に狙われるのは間違いなくルーメルだろうな。
「運よく内戦で疲弊してこちらには被害なしってのはどうだ?」
「楽観的過ぎるな」
「だよな。そもそも、力や実績を見せつけるためにも、こっちに攻め込んで成果を上げたほうがいいよな」
「好戦派としては実績を見せつけるのが成果を出せない融和派に対して分かりやすいものだからな」
内戦で疲弊するよりは、こっちに出て戦果を上げたほうがよっぽど支持を得られるからな。
というか……。
「今回の女性たちの扱いを聞く限り、物資でもかき集めているんじゃないか?」
「やっぱりそう思うか?」
「そうだろう。誘拐した女性たちの資産は丸儲け。アスタリの町に放りこんでおけば偵察隊の気晴らしに使える。死ねば、人が悪いと戦意を煽ることもできるし、融和派の女王の非難もできる。ああ、こういう状況から考えると、どう見ても好戦派が動いているな……」
もう、好戦派は動き出す一歩手前ってところだろうな。
「さて、何をどうすれば相手を止められるかね?」
「そりゃ、わかりやすいのはこちらでかくまっている女性たちのことを融和派の魔族に伝えて、好戦派の魔族を何とかして止めてもらうくらいだな。融和派にとっては起死回生の話になるだろう。とはいえ、どうやって融和派の魔族と連絡を取るかっていう大問題があるけどな」
クォレンも俺と同じような結論にたどり着くか。
問題は、どうやって連絡を取るかだが。
幸い、その解決方法は、向こうで寝ている結城君と作ったばかりだ。
まあ、結局は話し合いがいるってことだからな。考えておいて損はないってことだ。
「そこの連絡については問題ない。遠距離で会話をする手段をついさっき、そこの結城君と開発したばかりだからな?」
「なに? そんなのがあるのか?」
その名も、ドローン無線機搭載型。
ひねりがないって? 俺にネーミングセンスを期待するな。
「あとは、ノールタルから詳しい話を聞いて、誰に接触するべきか決めてってところだな」
こうして、今後の予定は否応なしに決まりつつある。
さてさて、若者たちはこの状況にどんな選択をするのかね?
もういっそ、好戦派を聞き出して、ドローンで自爆したほうが早いよな?
って、駄目だよな、たぶん。
残された時間はあまりない。
そして、取れる道もあまり多くない。
さて、敵はドローンによる神風にあうのか、それとも会話ができるのか。
どっちだろうね?