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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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151/524

第151射:話を聞く

話を聞く



Side:タダノリ・タナカ



「そうかい。ま、両方頂いていいかな? 今から話をしようと思ってね。これがあれば話せそうな気がするんだ」

「そうかい。じゃ、もっと出そう」


リクエストされたんで、ボロボロとチョコをスキルで出す。

このチョコ程度で、魔族のことを教えてくれるならいくらでも渡そう。

実費もかからないからな。

まあ、力尽くで喋らせるのは、止められるし、効率悪いんでする気はないが。


「あー!? 私にもーー!!」

「「「ヨフィアさん!!」」」

「ぬぐぐぐ……」


俺がチョコを出していると、ヨフィアが叫び、周りから叱られて悔しそうにうなる。

そこまで欲しいのか……。


「ま、一つやるから黙ってろ」

「やったー。もちろん黙りますとも」


現金な奴だ。というか、この調子だから部屋に来て「チョコをください」とか言われても素直に信用できなかったわけだ。

とはいえ、ヨフィアが言っていることが本当なら、俺も話ができるかもしれないという希望もあったんだ。

ということで、両方といわれたのでチョコ2種類を持って目の前の少女?に差し出す。


「ありがとう。でも、あなたたちはナデシコとは違って騒がしいんだね」

「どちらかというと、そこのメイドだけが叫んでいるんだがな。ああ、追加が欲しければこの籠から好きなだけ取ってくれ」


俺はそう言って、余っているチョコを籠に入れて渡す。


「こんなにたくさんあると食べ過ぎるかもしれないね」

「まあ、ほどほどにしておくのがお勧めだな。食べ過ぎるとお肌に悪いらしい」

「おっと、それは年寄りにはつらい話だね」

「年寄り? ああ、魔族だから見た目のわりに年齢がいってるのか?」

「そうだよ。しかし、女性に年齢を聞くのにためらいがないね。人族の男はデリカシーってのがないのかい?」


やっぱりか。

ぶっ壊れていた時はわからなかったが、今までのやり取りはずいぶんと落ち着いていたからな。

魔族の村の村長もあれだったから、もしかしてと思って聞いてみたが、見た目は子供、頭脳は大人ってやつか。

魔族はそういう意味でも侮れないな。

子供の姿をして戦力的には大人というのもあり得るわけか。

と、それよりも今は返事をしないとな。


「状況によるな。今のあんたに遠慮はいらないと思ったな。と、あんた呼ばわりはあれだな。俺の名前は田中という。呼び捨てでいいぞ。で、あんたの名前は?」

「宜しく、タナカ。私の名前はノールタルだよ」

「おう、よろしく、ノールタル。さて、俺たちは用事が終わったし出るか」

「おや、もう帰るのかい?」


俺と結城君は用事が終わったのでさっさと戻ることにしたが、意外なことにノールタルから呼び止められる。


「ああ、まだノールタルも本調子じゃないだろうしな。お前さんたちがどんな目にあっていたかは、あの時の姿を見れば理解できる。男はなるべくいないほうがいいだろう?」


また叫ばれでもすれば、結城君がまた気に病むからな。


「ははっ。ここまで正気なら話すぐらい大丈夫さ。で、そこの少年がやけにこちらを気にしているのはそのためか」

「そうだ。繊細なんだ。女性を泣かす、怖がらせるのは悪いことだって教えられていてね」

「素晴らしい教育だね。まったくこっちの男連中にも教えてほしいぐらいだよ」


と、あっさり軽口を返すところを見ると、本当に大丈夫そうだな。

だが、確認は取らないとな。


「大和君、本当に大丈夫か?」

「はい。問題があれば止めます。なにより、本人の希望でもあります」

「そうか。なら、少し話を聞かせてくれるとありがたい」


こっちはそろそろドローンでのコンタクトを考えているんだ。

誰と話せばいいのか分かればすごくありがたく、状況とかだけでも教えてもらうだけでも助かる。

最高なのはこのまま、ノールタルがこちら側について無線での対話に立ってくれればこれ以上のことはないぐらいの感じなんだが……。

まあ、まずは対話からだな。


「で、場所は変えるか? それともここでいいのか?」

「あー、そうだね。私としては彼女たちが心配なんでこのまま話をさせてもらえればいいね。こうして私たちを助けてくれたんだ。礼を忘れるほど、今の私は壊れちゃいないよ。とはいえ、何を話したものかとは思うんだけどね」

「そうみたいだな。なら遠慮なくと行きたいが、何をか。確かに難しいな」


こういうのはいきなり確信を聞いても、それが回答とはならない。

いきさつが大事なのだ。


「じゃあ、まずは、ノールタルのことを教えてくれ。まあ年は言いたくないようだから、どこの住まいとか、家族構成とかだな」

「おっと、そこから聞くかい? まあ、お互い種族を詳しく知らないんだ。そういうところから話すべきなのかもね。じゃあ……」


ということで、ノールタルの自己紹介が始まる。

まあ、特に特筆すべきこともないような話だ。


名前:ノールタル

出身:魔族の国ラスト王都

現住所:ラスト王都 一級市民区 から ルーメルのアスタリの冒険者ギルドへ

家族:両親はすでに他界、妹が一人すでに独立している

年齢:ひみつ

職業:パン屋 独立


年齢以外を除けば、普通に履歴書に書いても問題ないだろう。

普通過ぎて面白みがない。


「パン屋ですか」

「そうだよ。一応これでも人気の店でね。機会があればふるまってあげるよ」

「はい。楽しみにしています。でも、おひとりで暮らしていたんですね」

「ああ。これでもそれなりに年は取っているからね。独り立ちをして長いものさ」

「魔族もあまり人と変わらないんですね」

「そうかい? それならよかったよ。君みたいな気持ちのいい若者に嫌われるのは嫌だからね」


しかし、結城君にも自分から話しかけるか。

思った以上に元気になっているな。


「男はしばらくいいとか言ってなかったか?」

「そりゃ、あんなむさくるしい男の相手は勘弁だね。とはいえ、それで恩人まで拒否するほど落ちぶれちゃいない。礼には礼で答えるそれだけさ」


小さいなりだが年を重ねているだけあって、答えはずっしりとはっきりしているな。

まあ、こういう相手のほうが俺としては話しやすいからありがたい。

女心の機微なんて俺にはさっぱりわからないからな。

と、俺がそんな感じで見つめていると、ノールタルは何か思いついたようで……。


「なんだい? そっちの方面でのお願いだったのかな?」


変な方向で察した。


「いや、それはない」

「ありえないですよ!?」


だが、即座にノールタルの言葉を否定する俺と結城君。

大和君たちの視線が痛いからな。


「おや、そこまではっきり違うといわれるのもなんだかショックだね」

「本当に余裕だな。治療する前は色々垂れ流しながら、叫んでたんだが」


上の口はもちろん下の口からもな。

それがここまで回復するとは、本当に回復魔術のお陰だな。

ルクセン君や大和君は回復魔術のお陰かどうか悩んでいる様子だったが、あのぶっ壊れた状態からここまで話すほど戻っているとか、普通はあり得ない。

俺の経験則では本当にない。普通はあのまま廃人コースだ。

だから、この驚異的な回復は十中八九回復魔術のお陰だと俺は確信しているわけだ。


「タナカは本当に遠慮がないね。ま、それだけ壊れていて、元に戻してくれたんだ。それだけ感謝していると思ってくれ」

「わかった。だがそういうのはやめてくれ」

「はい。撫子たちの視線が辛いですから」

「ああ、わかったよ。ま、冗談はここまでにしておいて。一人暮らしに関してはそこまで辛いモノじゃなかったよ。生活にも困ってなかった」

「結構魔物がいるような地域とは聞いたが?」

「ああ、魔物の森のど真ん中にあるからね確かに、魔物の脅威はすごい。だけど、ちゃんと食料を生産する地域は押さえているからね。というか、そういう生産体制がなければ町なんて維持できないからね」

「まあ、もっともな話だな」


ドローンで、魔族の拠点を色々調べてみたが、畑がある地域も確認しているし、ちゃんと国民を食わせるだけの生産力はあるというわけだ。

そうでもないと国として成り立たないからな。

せいぜい集落とか村がいいところだ。

しかし、話には続きがあって……。


「だけどね、生活はできるといっても厳しい環境だから、その生活に不満を持つ連中も多々出てくる。今回もその延長のようなものさ」

「今回っていうのは、ノールタルたちの事か?」

「そうだね」

「しかも、今回もっていうことは」

「昔からあった、口減らしのようなものだね」

「どういうことですか? 口減らしって、わざと人を殺すような話ですよね?」

「そんなことをしてたんですか!?」


大和君と結城君は信じられないような顔をしている。


「落ち着け、口減らしのようなモノって言ってただろう? 別にそれそのものが行われていたわけじゃない。そうだろう?」

「ああ、そのとおりだ。そんなのが表向きに認められていれば国として崩壊するし、女王がそんな政策を認めるわけないからね。まあ、噂ではあったんだよ。巷で、ふっと住人が消えるとかね。そして別の誰かが成り変わっているとかね」

「なんか、怖い話ですね」

「どっかの都市伝説みたいですね」

「二人の感想はいいとして、その被害に実際あったわけだ」

「そうだよ。私たちをここに連れてきた連中はデキラ率いる好戦派の連中だ」


お、意外と面白い話がでてきた。

好戦派を率いるやつの名前が判明しただけで何よりだな。

その好戦派の連中に説得をしても無駄だってことだからな。

とはいえ……。


「疑うわけじゃないが、なぜここに連れてきた連中が好戦派の連中だというのがわかったんだ?」


実は融和派で好戦派のミスリードということもあり得る。

そこらへんは詳しく聞いておかないとな。


「それは簡単だよ。って、これっていいのかね? まあ、あんたたちに協力するって言ったんだしね。今更だね。魔族は今まで人との友好のために各地、人の国に村規模ではあるが、居住区を作っているんだよ。まあ、作物もだけどね。それは女王陛下の政策で昔から行われてきたことで、国民の支持も得ていたことだよ。だからいまさら……」

「こっそり、ノールタルたちを連れ出す理由はないってことか」

「そうだよ。それに、男連中がデキラの名前を言っていたからね。自分たちは配下だってね。しかも、私たちの財産は使わせてもらうとかふざけたことを言ってやがったからね」


まあ、話の筋は通っている。

というか、なんつー物資調達の仕方だよ。


「最近好戦派デキラたちの金回りがいいという話があったけど、これが理由なんてのは、全く持ってふざけているよ。とはいえ、前のルーメルだっけ? そこからの侵攻で、デキラを支持する意見があるのもまた事実だ。こうして、私たちがいなくなることも、きっとデキラのやつらは女王陛下を追い落とす材料にしているんだろうね」


なるほど。ついでに女王の支持する連中を狙うことで、相手の力もそぐことも考えているってことか。

全く、監視で見た変態のように、アホな連中ばかりでもないようだ。

そんなことを思っていると、ノールタルはふぅっと息を吐いて……。


「……ん。ちょっと疲れたよ。横になってもいいかい?」

「ああ。病み上がりに悪かったな。今日はゆっくり休んでくれ。大和君あとは任せる」

「はい」

「結城君。俺たちは行こう」

「わかりました」


こうして俺たちは新たな情報を得て部屋に戻るのであった。




ノールタルたち魔族の女性をさらっていたのは好戦派の連中だと判明。

さてさて、田中たちはこの事実を知ってどのように動いていくのか?

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