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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
150/516

第150射:ポツポツと……

ポツポツと……



Side:ナデシコ・ヤマト



「でさー。晃がね、これがうまいんだーって言ってさ、一気に食べてせき込んでやがるの。ゴホッゴホッってさ」

「そう、なんですか。ふふっ、おも、しろいです」

「でしょー? でもさ、晃のやつ……。


私の目の前では、光さんとセイールさんが仲良く?話しています。

まあ、光さんが一方的に話して、セイールさんが相槌を打つような感じですが、時折笑顔もみせるので、いいことなのでしょう。


セイールさんとお話して今聞き出せたことは多くはありません。

名前、そして年齢ぐらいのものです。

あとは、体に違和感がないかとか、痛いところはないかなどの聞き取りをしていただけです。

それから、わかったことですが、セイールさんは現在21歳。

そして、本人曰く体には問題ないとのこと。

記憶のほうはまだ質問するには早いと思い何も話していません。

それに……。


「ナデ、シコ。これ、おいしい」

「そうですか。それはよかったです。ノールタル。もっとありますよ」


そう言って、私がチョコレートを差し出す先には、セイールさんと同じように正気に戻った一番小柄の女性……というか、女の子がいます。

彼女は私の差し出したチョコレートを手を伸ばしかけて、びくっと動きを止めて……。


「た、食べて、いいの?」


こちらの様子を窺うように、おどおど聞いてきます。


「ええ。これはノールタルに上げようと思っていましたから、はいどうぞ」


私はノールタルの小さな手を握って、その掌に板チョコを手渡します。


「あり、がと、ナデシコ」


そう言って彼女はすぐに食べかけのチョコレートを食べてしまい、私が手渡したチョコレートの包みを破ってすぐに口に入れます。


「甘くて、おい、しい」


そう笑顔でチョコレートを食べている姿は無垢な子供そのものです。

そのノールタルの笑顔に癒されつつも、このノールタルをボロボロにした男どもに殺意を覚えます。

こんな子にまで、ひどいことをして……。

この子が一番下半身のケガもひどかったのです。

……魔族の男は人の道を踏み外しているとしか思えません。

魔族と会合がある席では、光さんは避けなくてはいけませんね。

と、それより今は、ノールタルが落ち着くまで、ゆっくり付き合うことが大事です。

そんなことを考えていると、キシュアさんが話しかけてきます。


「ナデシコ殿。何か必要な物はありますか? タナカ殿からまたいただいてきますか?」

「キシュアさん。そうですね。やはりというか、チョコを気に入ってくれたようなので、田中さんにお菓子類を頼んでもらえますか?」


餌付けと言われるとあれですが、お菓子があれば笑顔になるのは女性の常ですので、そう頼むと、なぜか光さんのフォローをしていたヨフィアさんが現れて……。


「はーい。チョコの調達なら私にお任せ有れ。チョコならたくさんぶんどってきますよー!!」

「はぁ、ヨフィア。チョコだけではないのです。その他もろもろのお菓子です」

「まあまあ、それにかこつけてチョコもたくさんもらえれば、私たちの懐に入れていいってことですよ」

「はぁ、断ってもついてくるんでしょう?」

「それはもちろんです。いい加減晃さんの様子も見たいですしね。私がいなくて、寂しがっているかもしれません」

「そんなわけないと思いますけどね。ということで、二人で行ってきます」

「はい。宜しくお願いします」


私はそう言って、キシュアさんとヨフィアさんにお菓子の調達を頼みました。


「チョコ、一杯たべ、られる?」

「ええ。今のメイドさん。ヨフィアさんはチョコが大好きですから、たくさん持ってきますよ」


ヨフィアさんなら適当に必要だと言ってタナカさんから自分の分を含めてチョコを請求するにきまっています。


「そっかー。楽しみだな。こん、な。婆様に優しくして、くれる。人は、やさしい、じゃないか」

「え?」


何か、すごく変な言葉が聞こえた気が……。


「すみません。いまノールタル、さんは自分のことを……」

「ああ、ばばあって言ったよ。ふう。ようやく、なんとか、喋れるようになったよ。まったく、男の相手はこりごりだね」


そう言って、ため息をつくノールタルは何かすごく落ち着きがある女性に見えてきました。

そんな感じでまじまじと見ているのがわかったのか、ノールタルさんはこちらを見て……。


「ん? ああ、そういえば、人は、年を取るのは早かったね。私たち魔族は基本的に長命なのさ。とはいえ、私はその中でも特殊でね。見ての通り、小さい体のままさ。まあ、それでいろいろ難儀はしたんだけど、まさか、慰み者として連れていかれるとは思わなかったよ。いい趣味なのか悪い趣味なのかは、判断に困るものだね。ははっ」


そう言って、自嘲気味に笑うノールタルさん。


「いえ、悪い趣味です。そういうことはお互い愛し合わないとだめですから」

「そうだね。ナデシコの言う通りだと思うよ。まあ、だけど現実はこんなもんさ。喋るのもままならないぐらいボロボロにされた。……はずなんだけど、なんかどこもかしこも綺麗に治療されていてびっくりだよ。君が治してくれたのかい?」

「はい。拙いものですが」

「いいや、すごい腕だよ。ナデシコは、と、今更ながら、呼び捨てで構わないかい? ここまでの腕前だ。なにか特別な立場にいるんじゃないかい?」

「いえ、撫子で結構ですよ。私はただの人です」

「……そうかい。ナデシコが言うならそうなんだろうね」


この人は聡く優しい人なんでしょう。

私の返事で、それを察してくれました。


「「……」」


とはいえ、話のこしを折った感じになってしまい、沈黙が続きます。


ポキッとチョコを食べる音だけが私とノールタルさんの間にある音で……。


「そういえば、このチョコってお菓子は初めて食べたけどおいしいね。人の世界にはこんなおいしいものがあるんだね」

「そうですね。結構珍しいものではありますが、私たちはそれなりに食べています」


まあ、人の世界というより、地球にしかない食べ物とは思いますが。


「ふうん。その珍しいお菓子をこれだけ食べられるってのは幸せだね」

「ええ、幸せです。しかし、その話からすると、魔族の町ではあまり甘いものは無いのでしょうか?」


私はお菓子を話題にして少し魔族のことを訊いてみます。

ノールタルさんなら大丈夫かなと思ったからです。

でも、拒否するのなら無理をして聞くつもりもなかったのですが……。


「そうだねー。精々蜂蜜とか、甘草だね。でも、ここまでしっかり甘いお菓子ってのはなかったな。だけどね、高くてめったに手が出なかったね」

「そうですか。やっぱり甘いものは高いですか」

「だね。魔族は使える土地も狭いからね」


あの強そうな魔物がいる森では思うように開墾できないでしょうから当然ですね。

しかし、それを考えるとやっぱり魔族の食料自給率は低そうですね。

だからこそ……。


「だから、馬鹿どもは君たちの世界を目指したわけだ。私たちを犠牲にしてね」

「……それを言っていいんですか?」


あまりに簡単に私たちが聞きたかったことを話してくれるノールタルさんに思わず聞き返してしまいます。


「私たちを助けてくれたのは、そういうことを聞きたかったんだろう?」

「それはそうですが、無理に訊こうとは思っていませんでした」

「ナデシコ君やあの小さい子を見ればわかるさ。まあ、だからこれを君たちになら話していいと思った。話した後でポイッと捨てたりはしないだろう?」

「そんなことはしません」

「だよね。そうでもなければあのまま無理やりに聞き出したほうがよかったはずだ。だからこそ、私はナデシコ。君に協力するよ。だから、彼女たちも……」


そう言って、ノールタルさんはいまだに目がうつろな女性たちを見ながら……。


「助けてやってくれないか? 私はどうなってもいいとは言いにくいが、それでも私より若い彼女たちがこのまま死んでしまうのは忍びないからね」

「もちろんノールタルさんも含めて私たちが助けて見せます。まあ、ノールタルさんからすれば心もとないように見えるでしょうけど」

「いや、ナデシコなら信用できるからこそ頼んでいるのさ。これからは宜しく頼むよ」


ノールタルさんはそう言うと、右手を差し出し、おそらく握手を求めているのでしょう。

こういう文化が魔族の方にもあるのですね。

ですが、こういうのは一度確認が必要です。

間違ってしまえば今後の話し合いがこじれる原因の一つとなりますから。


「すみません。一応確認でこの手は握手でいいのでしょうか? 握手として何か作法とかありますか?」

「ん? ああ、特に作法はないよ」

「そうですか。では宜しくお願いします」

「いや、お世話になるのは私たちだと思うけどね。しかし、そうか……、そういうところも気を使わないといけないんだね。私たちも人の文化とかには気を付けないといけないね」

「お互い大変ですね」

「そうだね」


異文化交流はどこでも難しいものですね。

でも、こうしてお互い歩み寄れば仲良くなれるとわかります。

これが、きっと魔族との和解への一歩になればいいのですが……。


「しかし、今はまだ体調を整えることを優先してください。私たちの回復魔術では治らないこともきっとありますので」

「慎重だね。でも、ありがたく体を休ませてもらうよ。その間にほかの子たちも回復すればいいんだけどね」

「ええ。彼女たちもセイールさんやノールタルさんのように回復してくれればいいのですが……」


私たちが見つめるその先には、未だに眠ったまま目を覚まさない女性が3人。

彼女たちが無事に意識を取り戻してくれればいいんですが。


「でも、その間ずっと休みっぱなしというのもあれだし、今までの経緯でも話そうと思うけどどうだい? こうしてベッドで横になって話すだけで体調が悪くなるわけでもないしね」

「ノールタルさん。本当に大丈夫ですか?」


私としてはありがたい話ですが、無理をさせるわけにもいきません。


「心配性だね。まあ、先ほどまで壊れていた私が大丈夫と言っても説得力がないのも確かだね。でも、ベッドの上なんだ。疲れたらそのまま眠るからいいよ」

「そうですか、では……」


話してもらっていいですか? と言おうとしたら、ドアが開いて……。


「チョコ下さいよー」

「はぁ、露骨すぎましたね。ヨフィアさん」

「だな。露骨すぎて、結局直接俺が持っていく羽目になるとは。ヨフィアお前のチョコは当分禁止な」

「えー!? アキラさん、何とかしてください!! 私のチョコが!!」

「えーと、俺のわけますから、静かにしましょう。撫子がにらんでますし」


ええ、当然ですとも。

静かにと言っていたのに、こんなに騒がしく入ってくるとは思いませんでした。

ですが、やはりそこは田中さんといいますか、気にした様子もなく、私に気を遣うように話しかけてきます。


「で、そちらの女性がチョコを欲しいのかな?」

「そうだよ。色々頼んで悪いね」

「気にするな。このメイドよりはマシさ。と、俺が近寄って大丈夫か?」

「ん? ああ、私は今は平気だよ」

「おお、意外と普通にしゃべるな。結構酷かったんだが。と、ほれ。これでいいか? それともブラックがいいか?」

「へぇ。どこから出したんだい? というか、あんたはナデシコの仲間なのかい?」

「そうだな。そんなもんだ」

「そうかい。ま、両方頂いていいかな? 今から話をしようと思ってね。これがあれば話せそうな気がするんだ」

「そうかい。じゃ、もっと出そう」


……意外にノールタルさんは強かな人なのかもしれませんね。

こうして、ヨフィアさんの前で大量のチョコをせしめるのでした。




魔族の女性はこうして回復する。

ここで何か平和につながる話は聞けるのだろうか?

そしてヨフィアは無事にチョコを確保できるのか!?

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