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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
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第149射:試行錯誤を重ねて道具はできる

試行錯誤を重ねて道具はできる



Side:タダノリ・タナカ



「聞いてよー!! セイールが喋ったんだよ!!」


いきなりルクセン君が部屋に入ってきたかと思えば、そう言って喜びをあらわにしている。


「おちつけ。いったい何があったんだよ。あと、まだお姫様とか、リカルドさん寝てるからな、静かにしろ」

「あ、ごめんごめん。寝てたんだね。だからお姫様は来なかったんだ」

「わざわざ起こすことでもないからな。で、その様子からすると、魔族の女性の名前を聞き出したってことか?」

「そう、田中さん、大当たり!!」

「だから静かにしろって」

「あ、ごめん」


とりあえず、ここにいると、騒いで他の連中の睡眠の邪魔になるのは確実なので、俺たちはカチュアに再び監視を任せて、地下牢へと戻る。

だが、さっそく魔族の女性たちがいる部屋に行くような真似はせず、近場で話をする。


「あれからさほど時間は経っていないが、案外うまくいったんだな」


正直驚きだ。

そこまでうまくいくとは思っていなかったからな。


「うん。でも、回復魔術が心の傷に効いたかってのはよくわからないけどね」

「ま、それは何度か試して要検証だな」


一度だけで何とも言えないのは、ルクセン君もわかっているか。

あとは、同じ症状に対して、同じように回復魔術を使ってどれだけ復帰できるかを試してみる必要があるな。

そうなれば、精神がぶっ壊れている相手を正常に戻すことも可能だし、こっちの都合のいいような考えを植え付けるという洗脳にも使える可能性が出てくる。

だが、そんな物騒な話にルクセン君たちが賛成するはずもないか。


「あはは、その言い方だと人体実験に聞こえるよねー」

「医療なんて実験と検証の繰り返しだ。人体実験で何も間違いじゃない」

「身もふたもない言い方をしないでくださいよ」

「こういう言い方に一々反応するな。そういう一面もあるってことをしっておけ。こういう言葉を投げつけられることはきっとあるからな」


本人たちは善意でやっていると、俺はわかるが、他人はそうじゃない。

まあ、他人の意図なんて判るわけもないからな。

治るかもしれないだけで、体をいじくられたくないというのはよくある。

特に地球の体を切って治すとか、輸血とかは、知らない人たちから見れば理解不能な行為だからな。

原住民とかでは忌諱される行為というか下手すると襲われる。

それぐらい医療というのはリスクが高いものだ。


「まあ、とりあえず、今まで通り、相談してから決めることだな。迂闊にだれもかれも治療するのはおすすめしない」

「それはわかるよ。聖女様みたいに治療治療で大変になるからねー。って、そういえば聖女様ってどうなったの?」


そう言われて、俺と結城君はとっさに顔を見合わせてしまう。

とりあえず、問題はないといえばないのだが、リテアから聖女が出奔したのは教えていない。

ルクセン君たちが飛び出しかねないという懸念があったからだが……。


「ん? 2人ともどうしたの? 何か聖女様のこと知っているの?」

「いや、俺は知らないな。クォレンからの話以降は情報は聞いてないな。結城君はどうだ?」

「俺も何もしりませんよ。というか、同じ情報源ですし」

「そっかー、そりゃそうだよねー」


……単純なのか、わざと見逃してくれているのかはわからんが、納得はしてくれたようで何よりだ。

聖女様の方は……まあ、あれから無事にロシュールにたどり着いたのなら、続報がはいるだろうし、頑張ってくれってところだな。


「それで、魔族の女性から名前を聞き出したのはわかったが。ルクセン君たちは俺たちにも同席してほしいという話か?」

「あ、いや。ただ伝えただけ」

「なにしに来たんだよ!?」


ルクセン君の返答にすかさずツッコむ結城君。


「いやー、騒ぎすぎて結局追い出されちゃって、今は撫子たちがゆっくり話を聞いている所」

「だめじゃん、光」

「うっ!? 仕方なかったんだよ……」


結城君にツッコまれしゅんとなるルクセン君。

おお、そのことについては反省はしているんだな。


「まあ、それだけうれしかったってことだな」

「そうそう」

「で、これからどうするんだ? 落ち着いたから戻るのか? 大和君と交代か? 残るのなら、ドローンの監視を……」

「さーて、田中さんたちに報告もしたし、僕も戻るね!! きっとナデシコたちも大変だろうから!」


そう言って、ルクセン君はぴゅーっと去って行ってしまう。


「露骨に逃げましたね」

「だな。まあ、部屋に居座られても、寝ているお姫さんたちには迷惑だしな。良しとしよう」

「意外とひどいですね」

「直接本人に言うよりはマシだろう。大和君に対して罪悪感はあるようだし、今後自分自身で改善していくさ。あとは、大和君に叱られて矯正されるだろう」

「あー、後者の可能性が高いと思います」

「俺もだな。さて、都合よくルクセン君が出て行ったところで、アスタリ防衛の続きを話すか」


ということで、俺たちは部屋に戻って、改めてドローンの使い方を考えることになる。



「意外といけましたよね」

「ああ、驚きだな」


魔族の女性の様子を見るというのをはさんだが、俺と結城君はドローン越しにアイテムを呼び出すという実験を続けていて、先ほど、魔族の拠点に監視として配置しているドローンの視界にスプーンを落とすことに成功した。

ナイフは先ほどのルクセン君が驚いたことでやめたのだ。

死ぬことはないだろうが、怪我でもさせれば後々面倒なことになりかねないからな。

あ、待て、高い所からナイフを落とせばそれだけでかなりの威力になる。

狙って当てるのは難しいが、無差別にやって軍に被害をもたらすには案外この方法も使えるかもな。


「これで、わざわざドローンをこっちから送る必要はないってことですよね」

「ああ、それは便利だな」


一機でもドローンが残っていれば、その視界から、即座にドローンが展開できる。

無論、無線付きもだ。

そして、敵が攻めてくるのであれば、先ほどのナイフの発展で上から爆発物、色々釘でも取り付けたC-4でも撒き散らせばかなり楽に片づけられるというのが分かった。

やはり、世界は無人機の時代に移り変わるのだなーと、しみじみ思う。


「で、無線機の方は向こうのドローンに設置するんですか?」

「いや、こっちである程度練習してからだな。ドローンと無線機をだしてと……」


俺は目の前にドローンと無線機を取り出して、荷物持ち運び用の籠を取り付けて中に無造作に無線機を入れる。


「これでいいか」

「とりあえず、無線機を動かしてみましょうか」

「そうだな」


ということで、実際にドローンを飛ばして、無線機の感度を……。


「あ、スイッチ入れるの忘れてた」

「あー。って、それ不味くないですか? 遠方に出した無線機って電源入ってないことになりますよね?」

「ああ。思わぬ落とし穴ってやつだな。ま、その改善方法は後で探すとして、今はどんな問題が生じるかちゃんと調べてみよう」


俺はとりあえず無線機のスイッチを入れた後、飛び続けるドローンをしばらく見守るが、特に不安定になるようなことはない。


「結城君。横からこれで煽ってくれないか?」

「大きい団扇ですね」

「なんか祭りの時に使った記憶がある。まあ、それだけでかければ、風の影響もわかるだろう」

「わかりました。行きますよ」

「おう。最初はゆっくりな。徐々に上げて行ってどれぐらいの風まで大丈夫なのか確認してみる」

「了解」


ということで、結城君が団扇を扇いで風を送るが、最初の段階では特にドローンが不安定になるようなことはなく、そのまま徐々に風を大きくしてもらう。

そうして、ある程度の風力になると、ドローンにつけている籠が大きく揺れて安定が厳しくなっていき、最終的には、バランスを崩して墜落してしまう。


「やっぱり、通常のドローンと比べると安定性を欠くな」


同じ風力ではドローンはバランスを崩すが墜落するほどではない。

荷物の部分が風を受けてしまってその分安定が難しいということだろう。


「でも、これってその場で滞空した時ですよね? 移動しているならある程度いいんじゃないんですか? それにそんな突発的にひどい風とかは今まで吹いてないですし」

「まあ、それもそうだな。風が強い時を想定しても今はそんなに意味がないか。最悪、一機でも残っていれば再展開は可能だし、ドローンは一機地面に置いておくのもいいかもな」

「あ、それがいいですよ。どうせなら、誰も来ない山頂とかのほうが見つからないでしょうし」

「それがいいな。ま、変な魔物がいなければだが」


そう言って、ドローンの一機を山頂付近に寄せて、ドローンを展開する。

むろん地面に出すようにする。

出した時はまだプロペラが回っていないので、空中で出せば墜落しか道がない。


「プロペラの展開まではできて出せるんだがな。稼働状態ではだせんな」

「まあ、それは仕方ないですよ。でも、それから考えると、スイッチをオンにした状態でドローンは出しているわけですから、無線機もいけるんじゃないですか?」

「確かにそうだな。ついでだ。今からスイッチ入っている無線機を出してみるか」


物は試しということで、無線機を電源が入った状態で出してみると……。


「あ、スイッチ入ってますよ。光ってます」

「そうだな。成功だ。あとは声が届くかど……って、忘れてた」

「どうしたんですか?」

「無線機には上にダイアル、まあ、テレビで言うチャンネルっていうのがあるんだが、その調整を忘れていた」

「ああ、そういえば有りましたね。この数字が合わないと会話ができないってやつですよね」

「そうだ。これを合わせないと無線機をスイッチオンにしていても会話ができない。もう一度ここを修正して出してみるか」


ということで、出した無線機を消して、また別のダイアルを調整するように念じて無線機を出してみる。


「あ、出てきました。えーと、ダイアルはB、4、7、2、2で間違いないですか?」

「おう合ってる。あとはこの無線機をドローンの籠にいれてと……。俺はちょっと離れる。無線機からの音が聞こえるかそこで聞いていてくれ」

「わかりました」


ということで、俺は部屋を出て行って、執務室のほうへ入り連絡をしてみる。

ソアラは地下のほうにいるので誰もここにはいないからな。防音もしているしちょうどいいわけだ。


「こちら田中。結城君聞こえるか?」

『あ、うん? ちょっと聞き取りずらいですね』

「そうか。理由はわかるか?」

『なんででしょうね? えーっと、なんか違う方向から声がって、ああーなるほど』

「理由がわかったのか?」

『ええ。無線機が上向いているから、上の方へ音が出ているんですよ。だから意識しないと自分に声をかけられていると思わないんじゃないですかね?」

「なるほどなー。適当に置くだけじゃダメか。とは言え、無線機を立ててってのはなー」

『それなら横に立てればいいんじゃないんですか? 別にスピーカーがドローンのカメラ視線のほうに向いてればいいんですから』


そんな感じで、俺たちはドローンに無線機を乗せる作業をしていき、結局形になったのは夜だった。


新しい道具を作るっていうのは、現存するものを組み合わせてもこれだけ掛かるんだ。

物を発明するってのはやっぱり大変なことだよなー。としみじみ思うのであった。


「……そういえば、あれからルクセン君、大和君から連絡がないな」


今更ながら思い出すが、眠気に勝てず寝てしまうのであった。






戦争は発明の母とはよく言ったものですね。

まあ、効果がわかりやすいですからね。

とはいえ、一瞬で完成品ができるわけでもないのです。

こうした、修正の積み重ねで完成度を高めていくものです。


なので、試作機でスーパーな活躍をした「ガンダ〇」とか普通はなかなかありえない代物だったりします。



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