第147射:ドローンの有効活用
ドローンの有効活用
Side:アキラ・ユウキ
田中さんはアスタリ一帯の地図の上に将棋の駒を置いて、俺に防衛計画の話をしてくれている。
「……とまあ、先ほどの話から踏まえると、俺たちは、こうして森からくる魔族の軍隊相手には……」
「アスタリの町に到着する前に布陣して迎撃するってことですね」
「そうだな。まあ、あれだノルマンディー上陸作戦に近い。知ってるか? ノルマンディー上陸作戦」
「聞き覚えだけはあります。たしか、結果的には連合軍の勝利だったけど、大きな被害をだして、作戦通りにはいかなかったみたいな。あ、あと歴史上最大の上陸作戦だったって」
俺は覚えている限りのことを言ってみると、田中さんは頷いて……。
「そうだ。よく勉強してるじゃないか。まあ、海と森で違いはあるが、森の道があるのはかなり先で、アスタリの町に到着するまでは普通に原生林を抜けていく必要がある。つまり、その間には……」
「軍としての機能を生かせないってことですよね」
「ああ。水際迎撃作戦ってやつだな。今回に限っては、空挺降下もないからな。後ろを気にしなくてもいいのはありがたい」
「つまり主戦場は……」
俺はそう言いながら、森と平原の境を指さす。
「この森の出入り口ってことですね」
「そうだ。ここから出てくるのが、森の遮蔽物もなく、隊列を整える必要があり、一番脆いところだ。まあ、銃器があればの話だけどな」
「あー、そういうことですか。いままでなんでそこらへんでの戦いがないのか不思議でしたけど、それが理由ですか」
「ああ。さらに魔族は個々の能力が高いとかいうからな。同数で当たって勝てるとは限らないからな。俺たちの世界は銃を持って当てればそれで敵は倒せる」
「でも、こっちはそうはいかないんですよね」
一撃で倒せないなら意味ないよな。
「まあ、似たような飛び道具で弓があるが、防ぐのは比較的簡単だし、射程距離もないからな。あまり意味はないな。というか、普通にアスタリの防壁を盾に上から撃ったほうが効果的だな。地球の塹壕戦で突撃とか近づく前に戦死決定、自殺志願なんだがな」
確かに銃弾の雨の中を無事に進めるなんてことはないよな。
「じゃあ、結局、森から出てくる水際迎撃はだめってことか……」
弓矢が効果的じゃないとなると、ここで戦うのは無謀だ。
魔族のほうが強いってことを考えてなかった。
いい作戦思いついたと思ったのになーと思っていると、田中さんが口を開く。
「ま、このアスタリの連中なら無理だな。でも、俺ならいけると思わないか?」
「え? 田中さんがですが? でも、流石に大人数の相手とか無理じゃないですか?」
いくら銃とかを呼び出す力があったとしても、引き金を引けるのは結局田中さんだけだ。
いや、俺たちも手伝えるかもしれないけど、結局のところ精々4人がいいところで、大人数の相手ができるとは思えない。
「そりゃ、手数を増やせばいいだけだ」
「手数を増やすって言っても……。あ、ドローンですか?」
「そうそう。まあ、ドローンに限らず、センサーによる自動照準で撃たせることもできるからな。そういうのを設置して後は撃たせるだけだ」
「でも、弾薬の補充とかどうするんですか? 4人じゃ回らないでしょう?」
「それこそ周りを手伝わせればいいからな。銃を持たせるわけでもない」
「なるほど」
確かにそれならいける気がする。
どこまで練習できるかってところだけど……。
そんな感じで、練習方法を考えていると、田中さんがすごいことを言い出す。
「というか、弾薬が切れれば俺が再度呼び出しして入れ替えればいいだけなんだがな」
「それって、俺たちが補充する必要もないじゃないですか」
田中さん1人で事足りる。
これで問題は解決かなと思っていたけど、そう上手い話はないようで……。
「ああ。とはいえ、そこまで正確に遠距離にモノを配置できるかって問題もあるんだよ」
「あーそういうことですね」
田中さんの地球のモノを呼び出せるスキルは近場というか、手に取れる位置でしか見たことがない。
遠距離に置けるかどうかは未知数だ。
「まあ、ある程度、視認できる場所にはおけるんだ。こんな風に」
そういうと田中さんは手のひらをちょっと離れたテーブルのほうに向けると、テーブルの上にスナック菓子の袋が出現してポトリと落ちる。
「行けそうなんですか?」
「向きも関係なく置くならな。というか、ここはまだ目に見える場所だ。目に見えない遠方は試したことが無いんだよな。というかどう確かめるかも必要だしな」
「確認だけでも一苦労ですよね」
「そうなる。これをクリア出来ればアスタリの防衛は楽になるんだが、なかなか思いつかないな。あとは事前に森の中と、進軍路にトラップを仕掛けておいて削るかだよな」
「そっちのほうがよさそうですね」
「まあ、こっちの問題点は全部回収できるか、ほれ地雷が埋められたままでどこにあるかわからないってやつだ。まあ、これは解決策はある。俺が消えろと念じれば消える。まあ、大量に出したものが本当に全部消えるのかっていう疑問点もあるがな。だが一番の問題が仕掛けたあとで冒険者の侵入を規制しないといけないっていうのがある」
「うわー……」
それは問題しかない気がする。
地雷原とか、無関係の人が戦後に迷惑するやつじゃないか。
そして、遺品回収で高額報酬を狙っている冒険者を押しとどめることは実質的に不可能だ。
冒険者たちの仕事がなくなるって意味だから、アスタリの防衛戦力が少なくなるってことだ。
「まあ、楽になるだけじゃないってことだな」
「ですねー。あ、でも要所、要所に爆弾とかは仕掛けてもいいんじゃないんですか? そこだけの超火力とか? それだけなら管理はしやすいんじゃないですか?」
「それもありだな。そういうのを仕掛けるなら、やはり道が出来ているところに仕掛けてドカーンがいいだろう」
田中さんはそう言って魔族の町へと続く道を指さす。
進軍路といったらここしかありえないから、ここで吹き飛ばすのが一番いいと思う。
だけど……。
「戦うこと前提になってますよねー。何か話をする機会はないですかね?」
「さあな。それは今、ルクセン君たちが頑張っている最中だろうさ」
「でも、治ったとしても、和平につながるような情報があるとは限りませんけど、その時はどうするつもりなんですか?」
そう、そこが心配だ。
今は魔族の女性たちを治すことに力を入れているけど、無駄骨に終わる可能性だってあるんだ。
その場合は俺たちはどう動けばいいのかさっぱりわからない。
「そうだなー。こういうのは自分で考えろっていうのが定番なんだが、今回ばかりは時間がどれだけあるかわからん状況だからな……。俺なら……」
「俺なら?」
田中さんならどうするんだろう?
そう思って身を乗り出して聞いてみると……。
「ドローンに無線機でも載せて、対話を試みてみるか?」
「はいっ!? そんなことできるわけ……って、出来そうですね」
「だろう? というか、適当に言ってみたつもりだが、下手なことをするよりもこっちの方が安全かもしれん」
「ですよね」
ドローンは既に魔族のお城に到着しているんだから、ルートは既に確保できている。
あとは、無線機を持たせて対話を試みればいいんじゃないか?
「最終手段はそれだな。まあ、ドローンからの声にちゃんと応じてくれそうなやつ選ばないと、下手すると戦争勃発の引き金みたいには成りかねないけどな」
「うーん。結構一か八かって感じではありますね」
「そう都合よくはいかないってことだな。とは言え、狙ってみるのもいいかもしれない。わざわざ俺たちが出向くよりはましだし、ドローン程度で敵認定されるなら、生身で行ったところで得られることもそこまでないだろう」
「日本なら誠意にかけるとかの話になるんですけどね」
「ここは日本じゃないからな」
安全保障もくそもないどころか、国交すらまともにない国に対して、生身で向かうのは命がけになるからな。
しかも、一応お互い敵同士だと認識しているから、難易度はかなり高いんだよな。
この時代、敵対国の使者の扱いは雑だ。
いや、慎重になっている前例もあるにはあるが、現代の地球と比べると雲泥の差としか言いようがない。
となると、やっぱりドローンで「やぁ、僕たち人間。ハハッ」って言ったほうがまだましのような気がする。
壊されるのは、ドローンだけだしな。
「とりあえず、ドローンに無線機を持たせられるか、確認してみたらどうですか?」
「そうだな」
結城君の対案に従って、俺はドローンと無線機を出す。
「さて、オンオフの問題が出てきたな」
早速問題が出てきた。
ドローンに固定する方法は、ドローンに荷物を載せる用の網籠がついているので、そこに無線機を入れておけば落ちる心配はない。
だが、無線機のスイッチのオンオフをどうするかという問題だ。
「もう、オンの状態でいいんじゃないですか?」
「ま、それが一番か。電力に関しては魔力が勝手に補ってくれる便利仕様で、動かない心配はないものな」
ここら辺は便利だよな。
電力の代わりができる魔力というのは便利すぎる。
「ついでに、銃器を乗せたタイプも派遣するか? いつでもやれるぞって感じで?」
「いやいや、駄目でしょう話し合いなんですから」
「だからだよ。交渉が決裂したならその場で戦闘が可能だから、指導者関係をそこで削れるなら削るに越したことはない」
いっそのこと、C-4でも括り付ければいいか?
敵軍が来た時もそういう戦法が便利そうだな。
使い捨て、つまり神風ってやつだ。
「まあ、話はわかりますけど、それは何も相談なしにはできませんよ。光と撫子も怒りますよ」
「だろうな」
こんな作戦を容認するぐらいなら、対話の道を探そうとは思っていないだろう。
ま、これは俺が勝手にやったってことにすればいい。
結城君からそれとなく今回のことを聞くだろうし、それで俺と袂を分かつならそれまでだ。
悪いが、簡単に済む方法があるのなら、その方法を俺は取らせてもらう。
命を懸けて、戦場で戦うよりはるかにましだからな。
「ま、今は遠距離に出せるかの実験だな。そういえば、ドローンをこの町に配置してるから、それを利用できないかやってみるか」
「え? どういうことですか? 見えない距離におけるかわからないって言ってませんでした?」
「ほれ、ドローンを通してその位置は見えるだろう?」
「あー、って流石にそれは無理じゃないですか? テレビの中のモノを取るとかそういう手品の類になってませんか?」
「何言ってるんだ。俺たちは魔術っていうものがある世界にいるんだから、できても何も不思議じゃない。ということで……。アスタリの町を監視しているドローンの1機をギルドの上に移動して……」
俺たちが泊っているギルドの屋根が確認できたところで、滞空させて、適当にモノを出現させるように念じてみる。
すると、ナイフが現れて、屋根に転がる。
「あっ!? でましたよ!?」
「行けたな。範囲が決まっているかは分からないが、とりあえず、ドローンの視界を介して認識できた場所には置くことができるみたいだな」
と、そんなことを話している間に、屋根の上に落ちたナイフはずるずると移動していき、屋根から落下してしまう。
「うひゃぁぁ!? だ、誰だよ!! 上からナイフ落としたヤツ!!」
すると、外からルクセン君の叫び声が聞こえる。
どうやら、治療は終わったみたいだな。
とりあえず、証拠を隠滅して、現場に向かうとするか。
無人機ってやっぱり便利だよねー。




