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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
145/516

第145射:心の傷の治療法

心の傷の治療法



Side:ナデシコ・ヤマト



私たちは、田中さんが戻ってきたと、ソアラさんたちからの報告を聞いて、地下牢から出て、二階の部屋へと向かっていると、廊下でばったり晃さんと出会いました。


「お、光。撫子」

「やっほー、晃」

「どうも晃さん。もう田中さんとは?」

「あ、いや、俺も今からなんだ」

「じゃ、一緒に行こう」

「おう」


昨日は落ち込んでいた晃さんですが、ヨフィアさんに励まされて元気を取り戻したようですね。

男はなんて単純ですねというべきでしょうか?

それとも、ヨフィアさんのおかげと思うべきでしょうか?

と、そんなことを考えている間に田中さんの部屋の前までやってきます。


「たーなーかーさーん!!」


ノックをする前に、光さんが大声で田中さんを呼び出します。


「あーそびーましょー!!」

「「いやいや」」


唐突な光さんのボケに、反射的に私と晃さんでツッコんでしまいました。

で、それで終わるかと思っていたら……。


「はーあーい」

「「うぉい!?」」


田中さんがノッてドアを開けてきました。


「いや。ノリがいいね田中さん」

「ま、たまにはいいだろう。というか、大和君もツッコむんだな」

「誰のせいですか、誰の!!」

「まあまあ、落ち着けよ。撫子。で、田中さん。話があるんですけど……」

「おう。いいぞ、中に入ってくれ」


私の訴えはほぼ無視されて、田中さんたちの部屋に入ります。


「帰ってきたばかりですか?」

「ああ、お姫さんも部屋にいると思うぞ」

「そっかー。話は晃から聞いてたけどさ、実際どうだったのかなーって」

「無事そうで何よりです。晃さんたちと別れたあとに何か変わったお話は?」

「特には何もないな。まあ、あとで一緒に防衛関連に関して話を聞いたり見て回ったりはする話は付けたな。向こうも冒険者ギルドと本格的に揉めるつもりはないようだ」


ふむふむ。

アスタリの領主様は愚かという感じはしませんね。

田中さんがバカにしていないのもその証拠です。


「ま、俺のところはそんな感じなんだが、こっちもソアラたちから聞いたが、魔族の女性たちはいまだに話を聞ける状態じゃないって?」

「あ、うん。傷は治したんだけどねー」

「心までは治せませんでした」


彼女たちの体の傷は確かに治りました。

ですが、完全に怯えていて、話はまったくできませんでした。

魔族の男たちには本当に腹立たしい限りです。

あそこまでする必要がどこにあったのでしょうか。


「そうか。話を聞くのはまだまだ先になりそうだな」

「だねー。なんとかして心の傷を治せたらいいんだけどなー」


そう、光さんが言うと、田中さんが首を傾げます。


「ん? ルクセン君、もう一度言ってくれないか?」

「はい? 傷は治したってやつ?」

「いや、そのあとだ」

「えーと、なんて言ったっけ?」


なぜか悩んでしまった光さんに代わって私が答えます。


「光さん。心の傷を治せたらいいといっていましたわ」

「ああ、それそれ。ド忘れしちゃったよ~」


この年でたった今話したことを忘れてしまうのはどうなのでしょう?

と、それよりもこの話を聞いた田中さんはというと……。


「心の傷を治す。心の傷……」


どうやら、彼女たちが負った心の傷のことを気にしているようです。

確かに、治せたらどれだけいいでしょうか。

あの怯えようはとても悲しいですから。


「なあ、光。心の傷ってさ、回復魔術でパーッと治せないか?」

「そんなことができるなら、とっくに撫子が治療した時に、治ってるよ」

「ですわね。そんな都合のいいことが……」

「あるかもしれないぞ」


私の言葉を遮るように、田中さんが口を開きました。


「え? でも、そんなことは……」

「いや、エクストラヒールだ」


そういわれて、一斉に視線が光さんに集まります。


「え? エクストラヒールで心の傷なんて治らないでしょう? だって、ラーリィたちの記憶は戻らなかったし……」


そうです。

以前、リテアで共闘したオーヴィクさんたちはオーガの上位種との戦いの結果、大怪我を負って、助かりそうもない傷を偶然光さんがエクストラヒールを使用して助けましたが、私たちと会った時からの記憶をなくしていました。


「あれは、脳にダメージがいってたからな。回復の時に細胞再生で全部真っ白になったんだろうさ。でもな、今回の場合は物理的になくしたわけじゃない。心が壊れているって感じだ」

「だから、心なんて目に見えないものを治すのは無理ではないですか?」

「そうでもない。あの時ルクセン君は、オーヴィクたちのケガの完治を願っただろう?」

「そりゃ、そうだけど。それが?」

「でも、ルクセン君は体の体細胞の細かい修復を願ったわけじゃないだろう? 知識として、どこをどう治療すれば生命活動に支障がないとわかっていたか?」

「そんなのわかるわけないじゃん。お医者さんじゃないんだし」


あ、田中さんの言いたいことがわかってきました。


「つまりだ。あの時は目に見えるケガが治ってほしいってことで、オーヴィクたちは治療できた。今回は心を治す風にやってみたらどうだ? オーヴィクたちには記憶を回復魔術で治療するなんてことはやってなかっただろう?」

「確かに、そう言われるとそうですよね」

「私たちの回復魔術の認識が間違っていたということですね」

「いや、あくまでも仮定だけどな。とは言え、イメージの通りに魔術が発動するっていうのは、俺よりもルクセン君たちのほうがよく知っているだろう?」


そう言われて私たちは頷く。


「そう言わると、案外いけそうな気がしてきた!!」

「だな!! 光いっちょやってみてくれ!!」

「おー!!」


2人はそう言って走り出そうとしますが、私が慌てて止めます。


「待ちなさい2人とも! 一度ソアラさんに話を通さないと、面会はできませんわよ。あと治療についても心の傷が治るのか一度相談することも大事でしょう」

「おっとっと……。焦っちゃったよ」

「そうだな。慌てても仕方ないし、ちゃんと手順を踏もう。いいですよね、田中さん?」

「別にいいぞ。俺も行こう。発案者だしな」


ということで、私たちはそろって、ソアラさんのいるギルド長室へと足を運びます。


「あら? ナデシコさんたちじゃないですか、それに先ほど来られたタナカ殿まで。何かありましたか?」

「ああ。魔族の女性に対しての手段が見つかってな」


何か妙な言い回しな田中さんに不思議に思った途端にソアラさんの目が鋭くなって田中さんを睨み……。


「……先ほどのは冗談だったのでは?」

「別にそういう物騒な方向じゃない。詳しくはそこの大和君から聞いてくれ」


田中さんは肩をすくめながらそう言って、私に視線を向ける。


「いったいどんな冗談を言ったんですか?」

「別に。捕虜から無理やりに聞き出そうって話があっただけだ」

「「「……」」」


素直に答える田中さんに何も言えない私たち。

冗談に聞こえません。

田中さんはやると言ったらやる人です。


「冗談にするかしないかは、君たち次第だが、こうして沈黙していると、やってくれということにみえるんだが?」

「すとーっぷ!! やる、説明するからまったまった!!」

「撫子、ほら説明!!」

「そうですわね。ソアラさん、田中さんが冗談を実行に移す前に試してみたいことがあります。話を聞いていただけますか?」

「タナカ殿の方法はともかく、ナデシコさんたちは彼女たちに何をするつもりでしょうか?」


そういうソアラさんの視線はこちらを多少睨んでいる。

……田中さんはなんでこう敵を作るようなことを……。

ともかく、説明して納得してもらわないと……。


「簡単に言いますと治療です。あの怯えようを治療できればと思ってソアラさんに相談いたしました」

「……ああいう心の傷というのは時間が掛かるはずですが」

「それですが、回復魔術で治療できないかという話になりまして」

「回復魔術でですか? しかし、回復魔術は目に見える傷を治すもののはずですが……」


どうやら、ソアラさんも回復魔術への認識が外傷を治すだけのモノと思っているようです。


「いえ、それが実は違うようなのです。理由はといいますと……」


私はそれから田中さんたちと話した内容を説明すると……。


「ちょっと待ってください。話は理解できますが、ここは魔術師でもあるイーリスの意見も聞いたほうがいいですね。彼女を呼んできます」


ということで、イーリスさんを交えて、改めて説明することになり……。



「なるほど。確かに、体の組織というか、仕組みは知らずに治療できていますね」

「ああ。ギルド所属の回復術師にも確認を取ったが、体の仕組みについて知っていて、治療をしている人物は少なかったな。そして、体の仕組みを知っている者のほうが明らかに回復力が違う。おそらく、ナデシコ殿たちが言うように、意識して悪い箇所の治療ができるからということだろう」

「そういえば、ケガしている箇所に集中的に回復魔術を当てることによって、回復速度が上がるというのは聞いたことがあります」


患部集中治療というやつですね。

こういうところは何となく、直感でやっている人も多いということですね。


「で、どうでしょうか?」

「そうだな。ナデシコ殿が言うことは可能性としては十分にあり得る。いままで試したことはないから、何とも言えないが。失敗しても、治らないだけで、悪化することはないだろう。あとはソアラが許可を出すかどうかだが……」

「……やってみる価値はありますね。しかし、タナカ殿は外で待っていてもらいます。まあ、男性全員ですね」

「俺としては構わない。頑張ってくれ。じゃ、結城君、俺たちは出ていくぞ。リカルドにも話しておかないといけないからな」

「あ、そうでした。じゃ、後は頼む」


そういって、田中さんと晃さんは部屋を出ていきます。

まあ、リカルドさんとそろそろ監視を代わってあげないとつらいですからね。

昨日はあれだけあわただしかったのですが、ちゃんとドローンの監視をやっていましたから。

子爵の訪問で私たちに監視を任せていたのでリカルドさんと晃さんが夜の監視をして、この場にリカルドさんが来ていないとなると、ずっと監視をしているんでしょう。

と、私はそんなことを考えていると、ソアラさんとイーリスさんが何かを話し合っています。


「ソアラ。気持ちはわからないでもないが、あの言い方は失礼だぞ」

「普通の対応だったはずですが?」

「嘘つけ。言葉は普通でもにらみつけていたからな。嫌味にしか聞こえなかったぞ」

「……ふん。それぐらいいいでしょう。それよりも彼女たちの治療宜しくお願い致します。今から案内いたします」

「はい。よろしくおねがいしまーす。とちょっとまって、他のみんなを呼ばないと」

「そうですね。ヨフィアさんたちを呼ばないといけませんね」

「では、地下の入り口前で待ち合わせで」


ということで、私たちは治療のために準備を始めるのでしたが……。


「田中さん、ずいぶん恨み買ってるね~」

「仕方がありませんわ。必要なこととはいえ、顔を踏んでぼろぼろにしましたから」


ソアラさんと田中さんの関係が多少気になる私たちでした。






これが成功すれば、魔法ってすげー!!ってことになるね。

まあ、治療の仕方から、治っても特に不思議じゃないけど。

こうして、魔術に対しても色々考えるのって面白いよね。



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