第143射:あれからどうなった?
あれからどうなった?
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「……というわけで、お姫様たちは残ったよ」
「ふーん。そんなことがあったんだ」
「そっちはそっちで大変でしたわね」
僕と撫子は戻ってきた晃に領主の屋敷であったことを聞いていた。
聞いた限りではアスタリ子爵は悪い人じゃないみたい。
まあ、でもルーメル王国に忠誠心は高そうだからいざというときは、こっちを遠慮なく裏切りそうだよねー。
と、そんなことを考えていると、晃がちょっとこちらを窺うようにして、口を開く。
「で、その、光たちの方は、どうだった? 彼女たちは?」
「あー、そっちはそこまで時間がかからず終わったよ」
「はい。ヨフィアさんやキシュアさんはもちろん、ソアラさん、イーリスさんも手伝ってくれましたから」
「そっか。よかった」
そう言うと安心する晃。
うーん、実際内容はそれだけじゃないんだけど、晃は明らかに女の人たち見て動揺してたしなー。
多分、性的なこともわかってたんだろうなー。
晃がやったわけじゃないのにね……。
それを言うのは流石に……。
「聞いてくださいよ、晃さん。あの女性たちを暴行していたクソども、犯してもいたみたいなんですよー」
「ちょっ!?」
ヨフィアさんが遠慮なく言っちゃった!?
とはいえ、こっちの世界の常識ってこんなものかもしれないねー。
「ん? ヒカリ様どうしましたか?」
「いやー。まあ、晃は同じ男だから、色々気にしてるみたいなんだよ」
「私も同性が愚行をしたら、申し訳なく思いますから、気持ちはわかりますわ」
「その、すみません……」
晃はそう言ってヨフィアさんに謝る。
別に晃が悪いわけじゃないんだけどね。
それを見たヨフィアさんは……。
「あー、あー。なるほど。別にアキラさんはそんなことしませんから、気にしなくていいんですよー。世の中どうしようもない人がいるって話です。アキラさんが謝る必要なんてないんですよー。アキラさんのことは私が守りますから。どうです? お嫁さんにしたくなりましたか?」
「ええ。前向きに検討します。……ヨフィアさん、ありがとうございます」
おー、晃が灰色回答だとしても、前向きになんて言葉が出てくるとは思わなかったよ。
というか、ここでゴリ押しができるヨフィアさんスゲー。
それだけ、晃のことを好きなんだろうけど、僕としてはよくわからないんだよね。
まだまだ、僕がこどもってことかな?
ま、それはいいとして……。
「晃、こっちのほうはそんな感じで、治療は無事に終わったけど、心のケアっていうのかな? そういうのは全く追いついてないから、下手に近づくと、ガラスのハートが傷つくよ」
「俺がそんな柔かよ」
「先ほどまで、男代表で申し訳ないって謝っていて何をいっているんですか?」
「ぐっ……。すみません、強がりました」
「まあまあ、ナデシコ様、男ですから見栄を張りたいこともあるんですよ」
そんな感じで談笑していると、ドアからノックをされる。
「はい。どちら様ですかー?」
僕がそう問いかけると……。
「私です」
この声はアスタリ冒険者ギルド長のソアラさんだ。
「どうぞー。開いてますよ」
「失礼します。勇者様だけお戻りになったと聞きましたが? 姫様たちはどうなったのですか?」
そういえば、まだギルド長には話してなかったよ。
僕はとっさに撫子に視線を向けて説明をお願いする。
僕じゃまとまらないからね。
「わかりました。私が説明を致します。それとも晃さんか、クォレンさんがしますか?」
「いや、俺はパス。正直って、あの時の話はややこしい感じでまとめて説明できる自信がない」
「私もパスだな。客観的な意見が欲しいから、ナデシコ殿がまとめた意見を聞かせてくれ」
「わかりました。では、やはり私から説明させていただきますわ」
ということで、委員長のまとめ説明が始まる。
まあ、要約すると……。
・挨拶をして、アスタリ子爵にギルドの不満をぶつける
・一応今後はこういうことが無いようにするということで手打ち
・アスタリの防衛状況を聞き出す
・現有戦力は約1万人で、魔族1000人相手が精々だということ。(これは諸説あり)
「あれ? でもさ、なんかアスタリの町に兵士を集めて防衛するとか言ってなかったけ? それにしては兵士さん少なくない?」
「光さん。王様は別に兵士を集めるとは言っていませんわ。戦力を集めるといっているだけです」
「ん? どういうこと?」
撫子は理解しているみたい。
「光さんもわかっていると思いますが、アスタリの町の防備や兵士の数などを露骨に増やすわけにはいきません。ですから、冒険者を呼び込んで、徴兵可能の余剰戦力や、偵察のために使っています」
「うん。それはわかるよ。魔族を刺激するからって、ああ、そうか。だから兵士が少ないのか」
「はい。その通りです。魔族を刺激しないために、常駐の兵士は少ないのです。戦いの際には、アスタリの町を盾として、その間に各領主たちから戦力をかき集めるのが王様の判断ですわね」
「ちょっと待ってよ、それってこの町が捨て石みたいに聞こえるんだけど?」
「だからこそ、クォレンさんやソアラさんが怒っているんですよ」
ああ、そういうことか。
勝手に捨て石にされたら、誰だって怒るよね。
僕的には、てっきり、兵士と力を合わせて戦うのかと思っていたけど、まずは時間稼ぎのための戦力なのか。
大人って汚いねー。
「で、手打ちになったのは……」
「実質的な被害がないからな。文句の言いようがない。こっちも儲けが出ているからな」
次に僕の質問に答えてくれたのは、クォレンさんだ。
その表情は苦々しい顔だ。
やっぱり不本意だよねー。
いくら儲けが出ているとはいえ、勝手に盾にされればねー。
「クォレンさんが交渉してこの程度ですか……」
「残念ならソアラのほうから交渉しに行っていいぞ。儲け分を全部返すとかいえば納得するかもな」
「それは無理です。しかし、予想通りですね。クォレンさんからすれば、アスタリ子爵は信用できそうですか?」
「いや、全然。国のためならすぐに俺たちを利用するだろうな。まあ、そういうのは当たり前といえば当たり前だな。俺たちも俺たちで、色々な国の町にギルドを置かせてもらっているからな。お互い様といえばお互い様だ」
「ああ、なら、利害が一致している限りは信用できるってことだね」
タナカさんとか映画とかでよく見る。
「なるほど。利害が一致している限りですか。つまりは、冒険者ギルドがこの町にいる限りはアスタリ子爵は敵対する可能性は低いということですわね」
「そうそう。国のためにっていう明確な理由があるなら、国のためになる限りは協力してくれるってことだしね」
「前向きな考え方だな。まあ、確かに子爵が約束破りをするようなことは、国からの命令がない限りはしないだろうしな」
「そういう意味では信頼できるということですか……」
そうそう。
行動理由がはっきりしているなら、その行動理由に沿っている限りはこちらを裏切らないっていう理由もわかる。
「でもさ、晃が言った戦力比だけどさ。こっちが10人で魔族が1人ってバランスおかしくない? 冒険者ギルドもそんな感じで戦ったの?」
気になるのは、そこだ。
魔族の力は1人でこっちの10人分もあるという話。
「いえ、私たちの時は……、いえ、あの魔族の女性たちを戦力に入れないのであれば、大体5対1ぐらいの比率でしたね。でも、被害は碌にでませんでしたから。条件としては真っ向からぶつかった時というやつでしょう。魔族は魔物を操る術に長けると聞きますし。魔族1人かと思えば10体の魔物がいるような感じですからね」
「そういえば、私たちを襲ってきた魔族の人も魔物を引き連れていましたね」
「というか、魔物に襲わせて高みの見物してたけどね」
それが通じなくて、自分から襲い掛かってきたけど、タナカさんにあっという間にやられちゃったんだよね。
「なんだ。ただ魔族は魔物呼ぶから1人みたら10匹ついてくるみたいな感じか」
「その表現はどうなんだよ。台所のGみたいな表現になっているぞ」
「あはは、ごめんごめん」
魔族はちゃんとした人たちなんだから、Gみたいな表現はだめだよね。
でも、Gと和解はありえないね。
あいつらとはきっと、お互いの存亡をかけた戦いになるね。
「2人とも、Gの話はいいですけど、結局タナカさんたちは残って子爵と会談ですか?」
「まあ、お姫様だからな。子爵的には、ナデシコ殿、ヒカリ殿たちも招待したかったようだが、事情を聴いて呼ぶことは控えたみたいだな」
「え? 私たちを呼んでも良かったけど、事情って何を話したの?」
「ソアラの治療だな。タナカ殿がボコボコにしたのを治療していると聞いたら納得してくれたよ。なあ、アキラ殿」
「……ええ。少し驚いてましたけど」
苦笑いしながら答える晃。
まあ、女性の顔を踏みつけてボコボコというか血みどろにしたからねー。
「クォレンさん。何で私の話をしたのでしょうか?」
そして、恥を知られたソアラさんにとっては面白い話じゃないので、少し怒りながらクォレンさんを問いただすと……。
「子爵に魔族をアスタリ内で捕まえたときのケガを治療していますなんて言えると思ったか?」
「……」
確かに、そんなことを言えば大騒ぎになるよね。
「てっきり、カモフラージュのために戦ってくれたのかと思ったぞ。冒険者の証言も多数あるからな、子爵が裏をとっても何も問題ないだろう」
「カモフラージュで戦って、あそこまでボコボコにされません! とはいえ、事情は把握しました。私の敗北が役に立ったのなら、幸いです」
「おうおう。それぐらい常に冷静になれよ。タナカ殿みたいなのがそうそういるとは思えんが、今度も生き残れるとは思わないことだな。次はきっと死ぬぞ? 今後はむやみに喧嘩を売らないことだな」
「はい。肝に命じておきます」
いやー、田中さんみたいな人がそうそう……っていたね、ジョシーってイカレタのが。
ソアラさんがジョシーと対峙していたら、真っ先に殺されているのが目に見えるね。
と、そんな感じで話が横にそれていると、そこは撫子が……。
「はい、皆さん。そちらの詳しいことはまた後日ということで、まずは私のまとめた内容で間違いはないですか? 晃さん、クォレンさん」
しっかり軌道修正して、確認を取る。
「ああ。問題なし。完璧」
「そうだな。間違いなくアスタリ子爵と話した内容だ」
2人ともしっかり頷いて話した内容に間違いは無しと言ってくれるけど、肝心なことが抜けているのに気が付いた。
「あとは、これからどうするかとか聞いてないの?」
「ああ、言い忘れてた。まだ何をどうするのかはわからないけど、しばらくは田中さんはこの町にいるみたいなこと言ってたな」
「まあ、防衛準備がどこまでできているかとかも見せてくれることになったしな。冒険者ギルドも共同でだ。これで、魔族の女性たちが回復するまで多少時間ができたわけだ」
「でも、心の問題だしねー」
「そこらへんは微妙なところですね」
僕たちが心まで治して上げられるといいんだけど。
とはいえ、気にしても仕方ないからね。
今日はゆっくり休ませてもらう。
胸糞悪い話だけど、こういうのは地球でもあっている。
無論、日本でも。
見たくないところに光を当てられるのはいやだけど、直視しないと進めない。
そして、ここの傷ってどう治すんだろうね?