第138射:冒険者ギルドの動き
冒険者ギルドの動き
Side:タダノリ・タナカ
まったく、面倒な。とは思ったが、この冒険者ギルドで今後色々融通を利かせるにはちょうどいいな。
ルクセン君の回復魔術もあったから、遠慮なくやれたのもいい。
女の顔を踏み潰すっていうのは、俺も流石にためらいは多少はある。
ああ、ジョシーは気にせずやれるけどな。
普通はこんな小娘を踏み潰したところでなんの得もないからな。
実際に……。
「もうちょっと、やりようというのはあったんじゃないか?」
こうして、お仲間が怒るからだ。
どう考えても喧嘩を売ってきたこの小娘が悪いはずなんだが、圧勝すると俺への非難が集中するという理不尽。
ま、そのまま言われて黙っている気は無いので……。
「興味がないし、配慮する必要性もなかったな。なにせ、そこの嬢ちゃんは俺を下とみていたからな」
「それはわかっている。しかしだな。女性の顔を……」
「戦争や魔物との戦いで、女性だと顔を攻撃されないとは初めて知ったな。俺の知り合った冒険者は魔物との戦闘で顔面が半分はつぶれていたぞ。アレは見間違いだったか」
「……」
イーリスは黙ってしまう。
すまんな、オーヴィク、クコ、引き合いに出してしまった。
あんたたちは最後まで頑張っていたからな。
ソアラはやめてといえばやめてもらえると思っていたバカだからな。
「ま、気持ちはわからんでもないから。ルクセン君に治療してもらっただろう。これで問題ない」
「……はぁ。いや、私たちが悪かったね。クォレンさんの話を無視した結果、痛い目にあっただけか」
「ソアラやイーリスには悪いと思うが、自業自得だな。最初に言っていたからな。タナカ殿は測れない強さがあるってな。とはいえ、俺も実際みるのは始めてだったが、恐ろしく遠慮がないな。だが、普通なら転ばせた時点で止めを刺すんじゃないか?」
「ま、そうだな」
流石にクォレンはわかっていたようだ。
これでも散々手加減していたってことが。
「さて、俺の戦い方に対するコメントはどうでもいい。ただ単に事実としては、俺が勝ったんだからな。約束を守るつもりはあるか?」
「……ええ。約束は守ります。しかし、いつかリベンジさせていただきます」
「おう。意外とガッツがあるな。そういうのは歓迎だ」
反骨精神というは、チャレンジ精神というのかはわからんが、やる気があるのはいいことだ。
良かれ悪かれ人を動かすいい原動力ではあるからな。
「はぁ、お前も懲りないな。正直言って次は命を落とすかもしれないぞ。タナカ殿は遠慮をしないタイプみたいだからな」
「次は油断いたしません」
「戦場に次があると思っている時点でおかしい話だがな。まあ、試合だから大丈夫か」
「……ふん。では、執務室で詳しい話に戻りましょう。そこ! 見世物じゃありませんよ!!」
ソアラに威嚇されて、散っていく冒険者たち。
「なんだよあのおっさん……」
「もしかして、ギルド長って意外と弱いのか?」
「バカ。ついこの間、喧嘩売ったランク5のチームがあっという間にやられただろうが」
「ということは、やっぱりあのおっさんが強いのか」
とりあえず俺のいいたいことは、一応20前半なんだが、なぜおっさん呼ばわりなんだ?
日本人は若く見られるんじゃないか?
そんなことを考えつつ、執務室に戻ってくると、ソアラは真っ先に自分の机に深く腰を掛けて、手鏡をとり顔を確認する。
「……本当に傷一つのこっていませんね。正直、大きな傷跡は覚悟していたのですが」
「彼女に感謝するんだな。素晴らしい回復魔術のおかげだ。タナカ殿の攻撃のあとは、正直見てられない状態だったのは間違いない。というか普通の術士なら傷跡が残っているレベルだ」
「そこまでの攻撃を受けたんですね……」
「ただ踏みつぶしただけだがな。ま、傷跡がないのを確認したところで、今後の協力についてだ。話を聞かせてくれ」
「「……」」
2人は沈黙するが、俺はお前たちの戦闘後の感想を聞きに来たんじゃない。
「沈黙は肯定と受け取るぞ。じゃ、まずは、魔族のことだ」
「魔族というと、アスタリの町に潜伏していた連中のことですか」
「そうだ。あいつらの半数は死亡。あと半数は捕縛していると聞いたが?」
「ええ、そうです。管理についてはイーリスが行っています」
「そうだな。私が魔族の管理をしている」
「ということは、引渡しをしていないっていうことか? アスタリの行政、領主には連絡していないのか?」
そういえばそうだね。
魔族の問題があったのに、領主に報告していないってどういうことなんだろう?
その疑問はお姫さんも同じようで……。
「どういうつもりでしょうか? 冒険者ギルドと国は緊急時には手を取り合い助け合うという条約があったはずですが?」
「今更過ぎる質問ですね。クォレンさんから聞いています。このアスタリの町に撒き餌をして冒険者を囮にして、信じられると思いますか?」
「……気持ちは分かりますが、もとより有事の際には」
「それを事前に話していて承諾をもらっているのならばともかく、勝手に行動に移している時点で、こちらが承諾しないと思ったからでしょう? そもそも、お姫様は今回の件に何も関係しておりませんからね。いうだけ無駄でしょう」
「……」
この話はソアラのほうに一理あるな。
勝手に盾にしておいて、協力しろって言うのはあれだよな。
そして、お姫さんに何を言っても仕方がないというのも理解している。
「ま、ともかく、今はそっちのイーリスが管理しているということだな」
「そうだね。で、その魔族が気になるのかい?」
「ああ。気になるね」
気になる。
何を目的にこのアスタリの町に訪れたのか、今後の予定なども含めてすべて聞き出したいね。
なぜなら……。
「俺はともかく、結城君たちは勇者として呼ばれているからな。いずれぶつかることになるからな。動向はしっかり把握しておきたい」
「ああ、なるほど。納得の話ですね」
「納得ではあるが、魔族から話を聞いてどうするつもりだい?」
「そりゃ状況次第としか言いようがないな。攻めてくるんなら防備を整えたり戦力を集めたりする。攻めてこないなら、なんとか対話を試してみたいな。こんな戦いで全く関係のない俺たちの命が脅かされるのは迷惑極まりないからな」
うんうんと頷く結城君たち。
「……聞いていましたが、勇者様たちは本当に異世界から連れてこられたんですね」
「信じるのか?」
「あなたたちのような冒険者がいて、私たちの耳に入らないなんておかしすぎますからね」
「そうだな。これ以上ないぐらいの真実だ」
そっちの方面で信じるか。
まあ、結城君たちがこの力を持って暴れていれば少なからず噂になるだろうからな。
もっと昔から活動しているのなら、もっと噂になるか。
「ということで、魔族の情報が欲しい」
「ん? 会わせてほしいとはいわないのですか?」
「今はまだ会う理由がない」
「どういうことだ? 勇者殿たちにとっては魔族は敵。というわけでもなさそうだが、タナカ殿が言うように情報が欲しいのであれば、直接会って話を聞く方がいいんじゃないか?」
ま、普通なら速攻会いに行くんだが、今回は事情が違う。
「理由としては、まず、魔族が本物かということ。これはお前さんたちを疑っているのではなく、そういう可能性もあるわけだ。他国の引っ掻き回しをな」
「……あり得ないことでもないですね」
「確かに、この町の話は各国も知っているからな。しかも今はガルツとロシュールが戦争中。間違ってもルーメルの参戦なんてのはガルツとしては避けたいはず。だからこそ足を引っ張ってくる可能性もあるわけか」
「しかし、とらえた魔族たちは、ステータスを開示させて確認はしていますが……」
「開示させて相手が魔族なのは私も知っている。だが、それがガルツの手の者でないとどう証明できる」
「……ですね」
そう、イーリスの言う通り、魔族と関係があった国はルーメルだけとは限らない。
敵対関係でなく、協力体制という可能性もな。
「わかってもらえたと思う。今この町のパワーバランスがわからないから、下手に名乗って顔を合わせるわけにはいかない。今回お前さんたちはクォレンの知り合いだからっていうのがあった。まあ、裏切られるのなら、それはそれでいいが」
その分、敵がわかりやすくなるからな。
遠慮なく喋らせてあげられるからというのもある。
「あなたを敵に回そうとは思いませんわ」
「ソアラと同意見だ。タナカ殿を敵に回すことはできないね。というかそもそも裏切る理由はない。しかし、捕縛した魔族のことに関しては自信がなくなってきたな」
「だからこそ、話を聞かせてくれ。いったいどういう状況で、どんな場所を、どういう風に襲撃して、どう捕獲したのか」
そう、この町での敵は本当に魔族なのか?
それを確認しないことにはアスタリの町で行動をするも何もない。
「そうですわね。そう言った事情でしたら……」
ということで、今回アスタリの町で起こった魔族に関する一連の話がソアラたちの口から説明される。
簡単に説明するとこうだ。
やはりきっかけは、クォレンからの手紙。
俺たちが教えた、アスタリの町へ魔族が侵入しているかもしれないという内容からだった。
まあ、俺が空撮した、森の中を抜ける人物がそのままドローンの映像に映っていたからなんだが。
その写真をそのまま、送ったのが幸いして、同じ格好をした男を見つけて追跡調査をして、魔族だということが判明して、潰したようだ。
その際に、逃げた魔族はおらず、冒険者ギルドで信頼のおけるメンバーのみで襲撃して、領主には悟られることなく、片づけたとのこと。
それから半月は立つが魔族に対して目立った動きはないようだ。
無論面会に来るような連中も来ない。
「いきさつはわかった。そのなかで聞きたいことがある」
「なんでしょうか?」
「魔族は抵抗をしたから、半数ほど死んだんだろう?」
「ええ。そうです。抵抗激しくやむを得ず殺害という方向になりましたわ」
「となると、拠点の中に、何か資料みたいなものはなかったか?」
「残念ながら、あの拠点に命令書らしきものはなかったな。おかげで、何が目的でアスタリの町に潜伏していたかも不明だ。かといって殺すわけにもいかないからな」
ま、大切な情報源だ。殺すなんてのは、最終手段になる。
しかし、それは地球での話で……。
「魔族を生かすっていうのは、このアスタリじゃ、珍しいことなのか? なんというか、見かけたら殺せ見たいな風潮になっている気がするんだが?」
そう疑問に思ったのはこの点。
この状況下で半数も魔族が生き残っているってことに驚きだ。
人類の敵って認識のはずだからな。
「ああ、そこは、クォレンさんから、魔族から情報を引き出す必要があるから、殺すなって言われていましたから」
「噂通りの怪物だったら殺していたよ。まあ、一番の理由はこちらが強襲できたおかげで、抵抗は激しかったが、こちらはほぼ無傷で終わった。おかげで、相手の戦意は低く、残った連中はあっさり投降してくれたってわけだ」
なるほど、圧倒的な戦力不足を見せつけて投降を促してくれたか。
「状況はわかった。で、怪物とか言っていたが、個人的に魔族に恨みとかはないか? それか、見てるだけで憎しみがわくとかは?」
「いえ、見た目は人と変わりませんから、逆に拍子抜けしました」
「ああ。噂の化け物とは全然違ったな。おかげで、協力してくれた冒険者たちもやる気をそがれていたな。女の魔族もいるのを確認してなおのことな」
……なるほど、一般的な魔族の認識は化け物ってことになっているわけか。
ここは意外だったな。
……とりあえず聞いた限り、冒険者以外には今のところ接触のない魔族に会ってみるのは問題ないな。
「よし、その魔族に会わせてくれ」
そういうことで、俺たちは捕縛した魔族に面会することにしたのだった。
アスタリの冒険者ギルドは領主とは連携せずに魔族を捕縛したもよう。
そして、捕縛した魔族からはどんな情報が聞けるのか?
もしかして、攻めてくるのか、それとも……。




