第131射:操作
操作
Side: ヒカリ・アールス・ルクセン
『そうだな。あの変態に対する作戦会議だ。女性陣はちょっと話にならん。自分たちでもわかっているだろう?』
そう言われて、僕たちは何も反応ができなかった。
程度としては、人殺しの方がひどいはずなのに、あの下着を嗅ぐ魔族の映像を思い出すだけで、身の毛もよだつ感覚が駆け巡ったんだよね。
あれだよ。生理的に駄目なタイプ。
世の中そういうのに初めて出くわしたけど、あれは駄目だ。
本当に駄目。アウト。
そのせいで、田中さんたちに迷惑をかけちゃった。
恐らく、あの変態の性癖を利用して、色々交渉とかに使おうって話なんだろうけど、素直に協力できなかった。
それで、多分僕たちが休んでいる間に、男たちだけで行動を起こそうってことなんだと思う。
目をつぶりながら、同じ室内で晃たちが作業している音が聞こえるけど、それを手伝うことができないのが申し訳ない。
でもさ、貰った休みなんだし、せめてしっかり休んで、他のことで協力できるように頑張ろー。
そんな決意をしてから、僕は心地よい眠気に身をゆだねた……。
ガヤガヤ……。
そんな城下町の音が聞こえて来て、自然と目が覚める。
「……なんか目が覚めた」
そんなことを言いながら、スパッと身を起こす。
なんか妙にすっきりしている。
「二度寝のあとって感じかな? 最近、二度寝というか不規則極まりない生活だったしね」
フクロウさんが来るまでに、結構な徹夜に近いこともしたからね。
それだけ体が疲れていて、今回の睡眠で今までのつけが解消されたのかな?
そんなことを考えつつ、ベッドから降りて体を動かしてみる。
「うん。体もすこぶる好調。問題無し」
なんか、珍しいぐらいに体調がいい。
「よし、これなら変態の調査も手伝えそうだね!」
すこぶる体の調子もいいので、気持ちもずいぶん前向きになっている。
あの変態を見ても、精神的にダメージを負うことはないとおもって、仕事をしている田中さんたちに視線を向けたんだけど……。
「あれ? いない?」
作業をしていた隣の部屋はモニターとかの機材だけで、もぬけの殻になっていた。
「誰もいないってのは珍しいなー。機材も置きっぱなしだし、田中さんにしては不用心な……」
ブブ……。
僕がそう独り言をつぶやいていると、そんな不自然な音が耳に届き、とっさに音がする窓の方へと視線を向けると……。
「んー? 特に異常はないよね」
窓の外はお昼ぐらいで、町の人たちが食堂に入ったりでて行ったりする姿が見られるんだけど、虫が飛んでいたりはしない。
「あの音は、虫の音に聞こえたんだけどな~。部屋の中かな?」
意外と窓から虫が侵入してくるってことはよくあるので、部屋の中をよく観察してみるが……。
「……いないね」
羽音、虫が飛ぶような音は聞こえない。
「おっかしーな。確かにブブって、ハエのような、蚊のような音が聞こえた気がするんだけどなー」
でも、いないものはいない。
とりあえず、撫子を起こして何か知らないか聞いてみよう。
というか、いつの間にか、起きているって言っていたカチュアさんやキシュアさんも寝ているや。
モニターの前で寝ているから、おそらく田中さんたちの映像解析を手伝ってダウンしたんだろうな……。
僕たちが嫌がったから、こうして、こっそり手伝ってくれていたんだと思う。
「あとで、お礼を言わないとね。と、まずは撫子っと」
そう言って、撫子が寝ているベッドに近寄ろうとすると……。
ブブ……。
そんな音がやはり聞こえる。
音源はやっぱり窓の外。
僕はさっきよりも素早く振り返るとそこには……。
ブワッ……!!
と、窓の上へと逃れていく何かが見えた。
あー、なるほど、真上か。
そりゃ見ないよね。
しかもちょっとだけ見えたけど、あの形は……。
「となると……」
僕は、窓際に隠れて、あれが再び来るのを待つ。
さっきのタイミングをみると、そう長い間我慢できるわけないよね。
そんなことを考えているうちに……。
ブブブブ……。
そんな音が窓の外から響く。
これはよく聞くと羽音じゃなくて、プロペラ音だ。
つまり、外にいるのは……。
僕はタイミングを見計らって、一気に窓に顔をだすと、そこには……。
「やっぱりドローンだ!」
そう。ドローンが部屋をのぞき見していたのだ。
ドローンもすぐに逃げようとするが、身構えていた僕の方が早く、ドローンを取り押さえる。
「バカだなー。僕の手が届く範囲にいるからだよ」
もっと遠くから見てれば、まあ、すぐにばれただろうけど、逃げることはできんじゃ……。
と、思ってたら、パッと消えてしまった。
「おっと。田中さんが消したのか」
でも、なんでこんなことしているんだろう?
僕たちを盗撮なんかしても意味ないのに。
と、思っていると、ドアが開いて、田中さんたちが入ってくる。
「おはよう。ルクセン君」
「おはよう。光」
「おはようございます。ヒカリ殿」
「あ、おはよう」
普通に挨拶されたから挨拶を返す。
「って、違う違う。なんで、ドローンで遊んでるんだよ。しかも盗撮。撫子を起こして一緒に怒るよ!」
慌てて、先ほどの盗撮について抗議をする。
僕をカメラに撮るなんて高いよ!
というか、寝顔を撮られただろうし、データは確実に回収して処分しないと。
「落ち着けって、光」
「いやいや、変態魔族と同じようなことをしておいて何を言っているんだよ。ちょっと、申し訳ないなーと思ったらこれだよ!」
僕は怒っているんだよと言っていると、何も気にしない風で、田中さんが話しかけてきた。
「興奮している所悪いが、どういうところで、ドローンに気がついた?」
「まったくもー。って、田中さん。えと、僕は今怒ってるんだけど……」
「そう言うのは後にしてくれ。ほれ、魔族の痴女がドローンに気が付いただろう? その状況を知りたくてな。それで実験してみたってわけだ」
「あー。そういうこと。変態の盗撮が目的ってわけじゃないんだ」
「いや、変態目的の盗撮しても仕方ないだろう? というか盗撮には変わりないって自分でいってるじゃんか」
「女性の下着とか、裸とか、あられもない姿を撮るのはダメなんだよ」
そこは絶対譲れない。
そう、これは盗撮の中での越えてはいけない一線ってやつだよ。
「結城君。ツッコミたい気持ちはわかるが、今は黙っててくれ」
「あ、すいません」
あ、まずい。
つい、田中さんからの質問無視して話してた。
「と、ごめんね。田中さん。えーと、ドローンに気が付いた理由だったよね」
「ああ。どうして気が付いた? 相手は窓の外にいただろう?」
「そうだね。音が聞こえたんだ。ブブ……って感じのプロペラ音なのかな? 最初は虫かと思ったけど、虫は部屋にいないから残るは外でしょう」
「なるほどな。プロペラ音か。音でバレたってことか」
「あれだね。気にならない時は全然だけど、一度気になるとすごく気になるやつって感じ」
「あー、夜中の蚊とか? 寝るとプーンってうるさいやつ」
「そうそう」
一度気になると気になって仕方がないってやつ。
で、僕のそんな意見を聞いた田中さんはというと……。
「音か。となると、ドローンの改造ぐらいしか思いつかないが、そんな器用なことはできないし、無音で飛ぶのはほぼ不可能だからな。やっぱり、多角的に監視して、近寄ってくる奴がいないのを見張るのがいいか」
「それしかなさそうですね」
「いやいや、田中さん、晃。僕を無視して話を進めないでくれるかな。なんか、ドローンをみんなで使ってあのお城を監視しようって話になっているの?」
「まあ、そんなところだな」
「へー。なら僕もやってみたいな」
ドローンの操作とか結構楽しそうだし。
「いや、流石にそれはできない」
「えー。なんで?」
「普通にこれからドローンをまた魔族の城に送る余裕がない。もう2機送ってるからな。これ以上送ると、空にいるドローンに気付かれる可能性が高い」
あー、確かに。
空にドローンは5つも6つもいたら、流石に誰か気が付くよね。
「まあ、何かあった時用に、動かせる人員は欲しいから、練習する分はいいぞ」
「本当!?」
「ああ、各々で遠隔的に偵察ができるならありがたい話だからな。俺一人じゃ全部の操作は……多分できない」
「多分?」
「いや、今まで考えたことがなかった。まあ、タブレットの操作画面を操るには体が足りないからな。手は二本しかない。でも案外、魔力で操作ができるのかもしれないが」
「そう言われると、なんか出来そうだよねー。練習しないの?」
「残念ながら、俺が魔力での操作を練習する時間があれば、偵察に時間を充てる方がいいな」
ま、そうだよね。
まだまだ、油断はできないし。
と、それはともかく、僕は撫子も連れて、ドローンの練習に向かうことになった。
「いきなり、起こされて驚きましたが、確かに、これは結構新鮮ですわね」
「でしょー。楽しいよねー」
「ラジコンを楽しむ人の気持ちが分かったんじゃないか?」
「ええ。晃さんの言う通り。わかった気がします。こうして、自分の意思で飛ばしているっていうのは心が躍りますね」
「だねー。そーれ」
僕は自分が操作しているドローンを傾けて、器用に機体を操作する。
アクロバット飛行のようなものができるのでこれが楽しい。
「意外と早く慣れたな。普通に何度も墜落するかと思っていたけどな」
と、そんなことを言うのは練習に付き合ってくれている田中さん。
ちなみに、お姫様たちは操作する自信がないとのことで、映像解析と監視をするといって残った。
「じゃ、今度はこの場から、ドローンを飛ばして、ドローンの映像を頼りに、俺たちの部屋を監視してみるといい」
「もしかして、僕が見つけた時ってこの練習してたの?」
「そうだよ。で、バレたんだ」
「なるほど。私は気が付きませんでしたが、光さんが見つけた時はそんなことをしていたんですね」
「これから、魔族の町を偵察しようって話だからな。練習も何もなしに任せらないからな」
ごもっともな話だね。
ばれたら面倒なことになるもんね。
「で、誰からいってみる?」
そう聞いてくる田中さんにもちろん……。
「はーい。僕が一番に行くよー」
ここは僕が行くしかないでしょ!
誰も反対することはなく、僕はドローンからの映像を頼りに、宿屋の方へと向かい……。
「おー。いるいる」
送られてくる映像からは、窓の向こう側でモニターを見つめているお姫様たちがいて、ベッドの方には……。
「というか、ヨフィアさんは寝てるのか。僕たちが出て行ったあと寝ちゃったもんね」
窓から見える晃が使っているベッドではヨフィアさんが気持ちよさそうに寝ている。
「俺たちが田中さんとの話し合いで出て行ったときヨフィアさんは進んで監視してくれるって言ってやってくれてたし。疲れてるんだろう」
「というか、ナチュラルに晃のベッドで寝るよねー。本当に好きなんだねー。よく理由は分からないけど」
「晃さんにヨフィアさんはもったいないですわね。良妻賢母と言って良い人なのに……。なぜ?」
そう言って、僕と撫子は横にいる晃を見つめる。
「なんだよ、その悲しそうな顔!? 俺が駄目みたいな感じになってないか!?」
と、晃が叫んだ瞬間……。
『ガンッ!!』
モニターの向こう側から衝撃音が響き視界が暗転する。
「え? え? ど、どういうこと!?」
滞空状態にしてたはずなのに、何があったの!?
というか、壊れた!?
そんな風に僕は慌てているんだけど、田中さんは落ち着いていて。
「キシュアが気が付いたみたいで、剣を振って叩き落としたな。気が付いたら迎撃しろとは言ってたが、遠慮なしだな。ということで安全圏に離脱していない内からよそ見はダメってことがわかったか?」
「「「はい」」」
こんな感じで、僕たちのドローン練習は始まるのでした。
1人だけ操作できる必要はないですし、これで索敵の幅が広がるわけで……。
田中は一体何をねらっているのか。
因みに、自分はドローンの操作はしたことがありません。
楽しそうだけど、免許か許可証がいるんだっけ?