第128射:衝撃映像
衝撃映像
Side:タダノリ・タナカ
……。
何も感じない。
ただ暗闇の中にいる。
なんでこんなところに俺はいるんだろうと考えて思い出す。
そういえば、俺は休んだんだったか。
そう。俺は、大和君たちに情報を伝えた後は、さっさと休むことにしたのだ。
いい加減、俺もモニターを見つめていて眠かったからな。
休めるときに休む。それも兵士の仕事だ。
休めない時はずっと働きどおしだからな。
ブラック企業も真っ青……とは言い切れないのが、恐ろしいな。
傭兵業や兵士は命の危険がある分ちゃんとした報酬がある。
だが、ブラック企業は命の危険があっても何も補償なしだからな。
恐るべしだな。現代社会。
生きることは戦いだということか。
なんて、くだらないことを考えていると、瞼が自然に開く。
大人しく寝てればいいものの、意識がはっきりとしたから、起きないといけないと体が思ってしまうんだろうな。
「……まだ夜か」
瞼を開けてみると、真っ暗だ。
いや、モニターがあるので、そこからの光源で光は出ていて真っ暗ではないな。
とりあえず、辺りの暗さから、まだ夜なのは間違いない。
ローテーションからすれば、俺の出番はまだ先のはずなんだが、目が覚めてしまったので、二度寝する前に一応状況を確認しておこうと思い体を起こす。
「職業病だよな……」
傭兵という職業柄、こういうときに目が覚めるときは何かが起こるということが多くはないが……ある。
まあ、勘ってやつだ。
何事もなければいいんだが、と思いながら、とりあえず、映像解析の方に異変がないかを確認すると……。
「あれ? 田中さんじゃん」
「あら、本当ですわ。起きられたのですか?」
「まだ、時間まで随分とありますが」
どうやら現在はルクセン君たちの当番の時間のようだ。
「ああ、なんか目が覚めてしまってな。とりあえず、何か問題ないか確認しにきたわけだ」
「えーと、特にないもないかな。眠気の方も全然だし」
「はい。ちゃんと当番制が機能していますから、昨夜のような眠気と戦うことはないですね」
「異常はございません」
3人とも特に問題はないというし、俺から見ても問題があるようには見えない。
モニターに映る停止画像も異常無し。
じゃ、あとはフクロウかと思っていると……。
「タナカ殿、起きたみたいだね。ちょっと操作してほしいんだが……」
どうやらこっちの方に問題があったようだ。
「一体どうした?」
俺はそう聞きつつフクロウが見ているモニターを見てみても特に俺が停止させた時から代わりは無いように見える。
違いがあるとすれば寝た時より夜が更けているので、街の灯りは少なく、闇に包まれているというところだろうか。
となると一体何があったんだろうと思っているとフクロウが口を開く。
「城の方で妙な灯りが見えるんだよ」
「城の方?」
そう言われて、画面の端に映る城の方を見てみると確かに一室でチラチラと揺らめきが確認できる。
「誰かが部屋に入っているだけじゃないか?」
「部屋に入るなら部屋の燭台なんかに火を灯すか、魔術で全体的に明るくするから、ああいう感じで灯りがちらつくってことは……」
「誰かがばれたくない事をしているってことか」
「その可能性はあると思う。だから……」
「ドローンをあそこまで飛ばして確認したいって事か」
「ああ。これで魔族に対する何かが見つかるとは思っていないが、少しでも情報は欲しいからね」
「話はわかったが、夕暮れ時に一度ドローンが発見されているからな。そこら辺の判断が難しいところだな」
あの薄着の女が警戒していないとも限らないからな。
次のドローンも到着していないから、これを壊されると、魔族の拠点の動きがわからなくなる。
その間に侵攻する様な事は無いと思うが絶対無いとは言い切れない。
とは言え、フクロウの言うことも分かる少しでも情報は欲しいところだからな。
……となるとこういう場合は上官に判断を委ねるべきだな。
そういう事で、俺は話を聞いている、この中で一番偉い人に視線を向けてみる。
「え?」
お姫さんは意外だった様で驚いた声を出すが、直ぐに意図を把握したようで……。
「……私に判断しろということですね」
「その通り、どっちもどっちだからな。偵察がばれる危険があってもあの灯りの正体を確かめるか、それとも大人しくここでじっとしている安全策を取るかって話だな」
個人的には、あの灯りのちらつきが毎日確認できるなら調べてみようって感じだな。
位置だけを覚えておくだけでもありだと思うのだ。
今はあの灯りだけを調べるのに近寄るのはどうかなーと思っている。
さて、お姫さんはどういう答えをだすのかな?
そう思ってみていると、お姫さんは口を開き……。
「近づいて、詳しく調べたいと思います。リテアが援軍に来られない可能性が高いこの状況では、少しでも情報が欲しいところです」
「わかった」
そういう考え方も、もちろんある。
むしろ、こういう決断をするからこそ、何かが動くことが多い。
安全策はあくまでも安全策でしかない。
「いいですか? ヒカリ様」
「いいよ。これでばれても何とかなる気がするし。田中さんならうまくやるよ」
「ま、その時はその時で何とかするのは間違いないな」
「では、私はお茶をお持ちしますね」
「おう。助かる」
ということで、俺はいまだに明かりがちらつく城の一角に上空から接近する。
しかし、長い間よくもまあ、こんなちらつかせるな。
秘密裏に動くのなら、短時間で済ませろよと思ったが、俺たちのような上空偵察なんてのはやっぱり警戒外なんだろうな。
城の高いところ、つまり尖塔には見回りの兵士もいなければ、明りもない。
見張る気がないのがよくわかる。
つまり、夕方のあの痴女は例外だったってことか。
そんな答えを出しつつ、明りが揺れる窓へと近づく……。
映像は暗くて見え辛い。
明りが小さいせいもあるし、未だに夜だからな。
仕方ないので、暗視モードに切り替える。
「ふぉっ!? こんな機能まであるの!?」
「星空とかを撮影なら、夜間撮影でいいんだがな。部屋の中だからな」
「というか、このドローンっていくらするのか、聞くのが怖くなるよ……」
「ん? この程度ならせいぜい……と、まて、やっぱり部屋に誰かいるな」
俺が値段を伝えようとすると、暗視モードに人の姿がはっきりと映る。
やはり誰かが中にいるようだ。
ドローンを慎重に近づけて、バレないように部屋の奥が見える角度に寄ると……。
「……2人? いえ、3人は姿が見えますね」
「はい。確かに確認できます。と、お待たせいたしました。お茶です」
「お、ありがとう」
流石できるメイドのカチュア。
素早く美味しいお茶を飲みながら、映像を確認してみると、確かにお姫さんの言うように3人が集まって何かを話しているように見える。
「ただの相談っていう割には、こそこそしすぎているな」
「はい」
「そうだね。何とかして、あの連中がなんの話をしているのか聞き取れないか?」
「それは窓から中に入る必要があるからな。流石にばれる。まあ、出来るだけやってみるが……。その前に何かを持っているように見えるな」
3人は何かを持っている。紙のようにみえるから、何かの書類の可能性が高いので、しっかりと、何を持っているのか確認しようと……。
ピシっ!!
その時、空気が凍った瞬間が分かった。
もう、絶対零度って感じだった。
なにせ……。
「「「……」」」
ルクセン君、お姫さん、カチュアの顔がゴミでも見るような、何も感情を感じさせない絶対零度の瞳になっているからだ。
で、その理由は……。
『ははは、いいぞ。これぞ、魔王の下着だな! 褒めて遣わす』
『『はっ。ありがたき幸せ!』』
この通り、女性の下着を取って喜ぶ変態だったからだ。
中身あってこその下着だと俺は思うがね。
そして、極めつけは……。
『すぅー……。間違いない。奴の匂いだ!!』
下着を嗅いでいたのだ。
なんともまあ……。
「……とりあえず、離れるぞ」
「「「……」」」
俺は、ルクセン君やお姫さんの返事を待たず窓から一気に離れる。
このままこの場にいて、バカ共がさらなる変態行動をとってしまう可能性もあるからだ。
世の中の変態は想像を超えるからな。
あ、いや、まてよ……。
俺は、安全圏まで戻ってきてからあることにきがついた。
「案外、魔族の中ではごく普通の文化なのか……」
「「「ない」」」
俺のフォローは速攻で否定され。
「そんな文化は存在しないよ。アレは変態だっただけ」
「ヒカリ様の言う通りです。あのような変態的な魔族はあの変態たちだけで十分です」
「タナカ様は本気で、あのような行為が魔族では普通な文化だと思われているのですか?」
「まあ、可能性は低いと思うが、ああいう隠れた性癖っていうのは、誰でもあるからな。ほら、ルクセン君やお姫さんも人に言えない趣味の一つや二つあるだろう? こっちは隠し撮りした感じだからな……」
「えー、あんな変態な趣味はないよ」
「私もそのようなことはございません」
「普通の人から逸脱しているのは明らかですね」
ということで、この世界でも下着を嗅ぐようなやつは変態扱いされるようだ。
「毛嫌いする気持ちもわかるが、こっちが隠し撮りした事実を忘れるなよ。あの男が交渉の席にでてきたら、対応する可能性もあるんだからな」
「「「……」」」
ここまで言うと、俺の言いたいことはわかったようで、文句は無くなる。
あの男が外交官になる可能性はゼロじゃないからな。
「というか、俺たちとしては、あの男が交渉相手になってくれる方が楽だからな。さっきの映像はもちろんデータに残っている」
俺がそう言うと、ルクセン君たちは俺が言いたいことが分かったようで……。
「あ、なるほど。これを脅しに使えるんだね」
「ああ、そういうことですか。変態も役に立つのですね」
「姫様やヒカリ様には危険かと思っておりましたが、国としてみれば悪くない話ですね」
「というか、田中さんが一番ひどくない?」
「相手の弱点を突くのが、交渉の第一なんだよ。でもやりすぎは良くないからな。そこら辺のバランスはお姫さんの方がいいだろう」
こういう、政治的な判断は俺たちよりもお姫さんの方がいい。
あくまでも俺たちは異世界人だからな。
この世界の常識などは知らないし、ルーメルの代表というわけでもないからな。
俺たちがなにか魔族と約束したからといって、ルーメルなどの国と約束をしたわけじゃない。
「……わかりました。その際はお任せください。しかし、ああいう相手は交渉相手として信用はできませんが」
「だからこそ、脅す記録があるんだよ。で、フクロウ。予想とは違ったか?」
この窓際の変態を一番に発見して、今まで黙っているフクロウにそう話しかけてみると……。
「お姫様やヒカリ殿の反応は当然だが、ああいう変態がおおいなら、私なら色々やりようがあるからね」
「だろうな」
ただ下着だけで喜ぶ変態なら、裏社会に生きているフクロウから見れば、ただの初心なガキにしか見えないだろう。
魔族と交渉するにはわかりやすい方法が見つかったわけだからな。
情報としてはかなりのモノだな。
「じゃ、俺はまた寝るけどいいか?」
「あ、そうだったね。すまないね。ゆっくり休みな」
「おおー、すっかり忘れてたよ。お休みー」
ということで、目を覚ました直感は間違ってなかったようだな。
さて、変態の映像は取れたことだし、俺ももうひと眠りするとしよう。
しかしながら、ルクセン君でああいう反応だから、大和君はどう反応するかねー?
結城君には話を振るのはやめといたほうがいいか。
そんなことを考えつつ再び眠りにつくのであった……。
変態は魔族にもいたよ!!
あれ? 知ってる?
そんなまさかー。
ま、これが同物語に関わるか楽しみに。
でも最後に、下着は着るものやからね。
嗅ぐものじゃないのよ?




