第124射:情報の照らし合わせ
情報の照らし合わせ
Side:タダノリ・タナカ
フクロウが訪れてから、みんなを叩き起こした。
「ふぁぁ……。眠い」
ルクセン君はまだ眠そうだが、まあ大丈夫だろう。
「さて、みんな起きたな。フクロウが仲介役の方の話を持ってきてくれた。その話を聞いてからまた動きが変わるから、眠たいのはわかるがしっかり聞いておけよ」
俺はそう注意を促して、フクロウに振り返る。
「じゃ、聞かせてくれ」
「あいよ。私の拠点の近くの仲介人の件だが、単刀直入に言って、タナカ殿、勇者殿たちの面会は拒否された」
「「「え!?」」」
この答えに驚いたのか、結城君たちは声を上げる。
「まあ、まっておくれ。別にこれだけで話が終わりってわけじゃない。ただタナカ殿たちと直接話をするのが嫌だってことだ。安全のためだね。代わりに、私が情報を聞くということで決着がついたんだよ」
何事もうまくいくわけがないという話だ。
まあ、狙われている情報屋としては、正しい判断だと思うが。
俺たちが殺さなくても他の誰かが手を伸ばしてくる可能性がある。
それを避けるには、なるべく人と接触しないというのは生き延びるということに関しては正しい。
人を信じたら裏切られるような世界だからな。
「なるほどな。ま、よくあることだな。後はフクロウを信じられるかってことか」
「そうだね。私を信じてもらえると助かる。仲介人は嘘を言っていないと私は断言するよ」
「「「……」」」
そのフクロウの言葉にどう反応していいのか迷っている様子の結城君たち。
情報っていうのは自分の目で耳で確認したいものだからな。
とはいえ、今回はそれが叶わないことを知らないと、納得しそうにないな。
「フクロウ。俺たちが直接踏み込んで聞きに行った場合は?」
「私もこれ以上話を聞くことはできなくなるだろうね。向こうの安全を守るのを破ってしまうんだ。信用する理由がなくなるし、逆に、魔族側に勇者殿たちのことを伝える可能性もあるだろうね」
「となると、フクロウを通した方が安全ってわけか」
「そうだね」
「で、それでフクロウが聞いてきた情報が間違っていた場合は?」
「私もあいつを殺す側に回るしかなくなるね。勇者殿たちに嘘の情報を掴ませたとあっちゃ、商売あがったりだからね」
そんな感じでフクロウは俺の話に乗ってきて、情報が間違っていた場合の話をしてくれる。
勝手に結城君たちが暴走して乗り込んでもらっても困るからな。
そこの釘を上手く刺せたといいんだが……。
さて、この話を聞いて、結城君たちはどう判断するかな?
「……無理は良くないって話だよね?」
「まあ、簡単に言えばそうだな」
「……個人的には会って話してみたいというのは有りますが、そういう事情なら仕方がありませんわね」
「だな。逃げられて敵になったら厄介だよな」
と、結城君たちは納得したのだが、問題は、ルーメルメンバーで……。
「なぜ、私たちと顔を合わせるのを拒否するのでしょうか? ことは国家存亡にかかわることなのです。直接会って話を聞くべきです」
「やましいことがある証拠ですな。そういう輩はひっ捕らえた方がのちの為では?」
「リカルド殿のいうことは過激ですが、どうも腑に落ちませんね。顔を見せずに信じるというのは……」
こんな感じで、お姫さん、リカルド、キシュアは仲介人が面会を拒否しているとこに不信感を抱いている。
因みに、メイドのカチュア、ヨフィアは口を挟まない。
まあ、使用人だしな。
そこはいいとして、お姫さんたちの言い分は、国家を運営する側の人としては至極正しい。
だが、世の中そんな綺麗事で回っていない。
だから、裏情報を集めて稼ぎにしている連中もいれば、犯罪者もいるわけだ。
司法取引というわけじゃないが、ここら辺は目をつぶるべきことなんだよな。
別に、現行犯で捕まえたわけでもあるまいに、リカルドのひっ捕らえる発言なんぞ聞いて、会いたいと思うわけがないよな。
とはいえ、このままじゃ話が進まないな。
「フクロウ。俺たちはお前さんのことを信じる。話してくれ。どうせ、仲介人は場所を移動しているだろうし、追いかけるのは無理だろうからな」
「そこまでわかるかい?」
「そりゃ、俺たちが話した時点で向こうだって、自分の居場所がばれていると思うだろう? というか、それぐらいできないと、疾うの昔に死んでいるからな」
「当然だね」
「ということだ。仲介人に会って問いただすってのは諦めとけ。そもそもリカルドみたいに捕まえるといっている時点で、仲介人の判断は正解だったってわかるからな」
「ぐっ」
俺の言葉に、リカルドがうなる。
まあ、リカルドは脅す、倒す、捕まえるのが仕事だから、そういう話になるのは分かるがな。
今回に限っては駄目だったという話だ。
それで、お姫さんもあきらめたようで……。
「分かりました。確かに、こちらに非がありますね。それに、フクロウ様は私たちに良くしてくれているのは分かります。私は、フクロウ様を信じましょう」
「必ずやそのご信頼にお答えいたします」
お姫さんの言葉に、フクロウが恭しく頭を下げる。
「はっ。フクロウのババアが媚売ってや……がふっ!?」
「お前は、その態度を改めることだね。失礼いたしました」
コインを投げてヨフィアの額にクリーンヒットさせやがった。
手慣れていて、威力も十分。
分かってはいたが、やっぱりこういう世界にいるから戦えないわけないか。
「いえ。お気になさらずに。ヨフィアがいてとても助かっています」
「ヨフィアの素の姿を見て、動揺しないとは、流石姫様です。器の大きい」
「そうでもありません。タナカ殿には、随分驚かされましたから」
「なるほど。確かに、タナカ殿に会っていれば、ヨフィアごときでは、驚きを取れないでしょう」
なんか、俺が貶された気がするが、今は放っておこう。
「挨拶はそこら辺しておいてくれ。話を聞く方向で固まったのなら、情報を聞きたい。余裕があるとはまだ判明していないんでな」
「そうですわね。フクロウさん、お願いいたします」
「はっ。では、私が仲介人から聞いた情報ですが……」
そこから聞いた話は、基本的には村長のところで聞いた話と同じで、現在魔族内部は、融和派と好戦派で分かれているらしい。
だが、そこの話を詳しく聞くことができ、現在かなり融和派の方の立場がよくないらしい。
どうやら、ルーメルからの侵攻でピリピリしていた好戦派が融和派を追い落とそうとしているようだ。
現在の魔王は融和派で、追い落とされている側で、ルーメルの侵攻を受けてしまったことを随分と責められているらしい。
まあ、敵から国を攻められてしまったからな。
「……というわけで、魔族の中では、融和派の甘さが今回の人達からの侵攻を許した原因だといわれて、支持者が少なくなっている状況らしい。それに加えて、ルーメルの軍を撃破したということも後押ししている。人に勝てると思っている連中が多く、それが交戦派を後押ししている」
よくある話だな。
守るぐらいなら攻めた方がいいという話だ。
攻撃は最大の防御ってやつだな。
向こうも宰相たちと同じく、話し合いよりも、禍根を断つ方がいいという考えのやつがいるってことだ。
そのほうが話し合いより簡単だからな。
まあ、人望がないと人も集まらないから戦争もできないから、どのみち簡単にできることではないが、話し合いが通じない相手は倒した方がいいって話だよな。
それに加えて、敵を撃退したって記録も……。
「まて、フクロウ。やっぱり、前王のルーメル軍と魔族はぶつかったんだな?」
「そうみたいだね。ぶつかった場所は、アスタリの町から大樹海に進んだ魔族の道を進んでいった先にある砦らしい。そこで、敵の指揮官を討ち取りルーメル軍をほぼ殲滅したそうだ……」
「敵の指揮官って言うのは……」
「恐らく、前王のことだろう。しかし、他国と交流があるわけでもないから、こちらに遺体を送ることもなくというわけだ。で、話を戻していいかい?」
「ああ。話を止めて悪かった」
「こういう経緯で、融和派の現魔王は色々周りから非難を浴びている最中らしい。とはいえ、好戦派の連中が支持を集めているとはいえ、今のところは上の揉め事で済んでいるみたいだ。現魔王がルーメル軍の指揮官を倒して、侵攻を食い止めたことから、無駄に戦線を広げる必要もないのでは、という意見もまたある。これが、私が仲介人に聞いてきた主な内容です」
そう言って、フクロウは再びお姫さんに頭を下げる。
「ありがとうございます。しかし、主な内容以外はどのようなものがあったのですか?」
「はっ。まあ、大したことではないのですが、魔族の中にも将軍という地位に当たるモノがいまして、四天王という能力に秀でた魔族がいるようです」
「そのような魔族が……。手ごわいのでしょうね。で、その四天王の話とは?」
「いえ、それが、予算を使いこみ過ぎているザーギスがそろそろクビだとか、真黒が魔王の護衛ばかりをしているので、四天王に入れている意味はないのではないかとか……」
「「「……」」」
大事な情報のはずだが、なぜか沈黙してしまうお姫さんたち。
「権力争いなんて、どこにでもあることだろう? というか、役に立たない奴を上の地位に置いておくほど怖いことはないからな」
そのせいで、末端の兵士は死んでいくことになる。
使われる側はたまったものではないし、国としても大きな損失だ。
無能はさっさと斬り捨てるに限る。そういう話だ。
で、俺の言葉で正気に戻ったのか……。
「あ、はい。そうですね。そういうことがあっても不思議ではないです。確かに、あの街並みを見れば、私たちと同じ知性は感じられました」
その言い方に、何で固まっていたのかが分かった。
「なるほど。未だに、魔族を見くびっていたいわけか。現実を見ろ。ちゃんと砦もあるし、こうして城もある。文明レベルは同じだよ。ただ暴れて襲ってくる野蛮人や魔物でもない。相手はれっきとした国と軍を持っている」
「……はい。どこかで、未だに魔族が憎く、野蛮で下等なというイメージがあるようです」
「ま、気持ちは分からんでもない。士気を上げるためにも相手を貶めるのは必要だが、お姫さんは相手を侮ったら終わりだぞ?」
「はい。しかし、その四天王が入れかわりそうということは、魔族の国にとって、痛手ではないのでしょうか?」
お姫さんは直ぐに切り替えて、四天王のことをフクロウに詳しく聞く。
ま、こういうところはちゃんとしているな。
魔族が敵っていうのは本当に潜在意識レベルで刷り込まれているんだろうな。
と、俺がそんなことを考えている間に、フクロウがお姫さんの質問に答える。
「魔族の国にとっては特に。新しい者が四天王の椅子に座るだけですが、現魔王にとっては指名した四天王の失態ですので、更に立場が苦しくなるかと……」
「なるほど……。魔族の国は今や、人の国へ攻めようという方向性になっているのですね?」
「なりかけているという感じです。未だに、現魔王が実権を握っていますので、何かない限りは……」
「そこまで、大きく動くことはないと?」
「はい。上が揉めているとは言っても、現魔王は今まで国をよく治めていた名君だという話ですから、今回の失態も今までの実績と信頼の前には些細な事だという臣下も多いようです」
フクロウのその話を聞いたあと、お姫さんは俺に視線を向けて……。
「で、実際の動きはどうですか?」
「実際の?」
フクロウが不思議そうに首を傾げている。
「ま、都合がいいか。フクロウ、俺たちがやっていたことの説明をしてやる」
俺はそう言って、モニターを見せながら……。
「俺たちは今魔族の拠点を偵察中だ。パッと見た感じ、敵は軍事行動を起こしているようにはみえないから。フクロウの話はまず間違いないだろう」
俺がそう言うが、フクロウは微動だにせず、モニターを見たまま固まっていて……。
「おーい。ババア何を固まっていやがりますかぁ~? ……あいたぁ!?」
ヨフィアにはしっかり反応した後に……。
「な、なんだこれは!?」
ようやく反応した。
ま、フクロウだからこれが何だか、ある程度察しはついているんだろうな。
フクロウから伝えられた内容と、実際の魔族の王都?との齟齬は存在せずのように見えるが……。
まあ、魔族も魔族で色々問題を抱えているようで、大変だねーって話。
あと、仲介役は出てこなくて正解。リカルドたちは立場上しょっ引くのが仕事だからね。
最後に、謹賀新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。