第123射:魔族の動向
魔族の動向
Side:アキラ・ユウキ
「じゃ、行くか」
そう言って、田中さんはドローンを操作して、魔族の王が住んでいるであろう、お城の様子をカメラに収めていく。
お城は、ルーメル王城に負けず劣らずの立派なもので、魔族の人たちのしっかりとした知性を感じさせる。
こんな人たちを相手に戦争なんてのは嫌だなと思いつつも、田中さんの操作でドローンは進んでいき、先ほど話していた、大きな広場、練兵場を探している。
どうか、戦争の準備なんてしていませんように。と願っていると……。
「ん? あそこってなんか広場じゃない?」
「あ、そうですね。田中さん、わかりますか?」
「ああ、あれな。確かに土が見えているから、そういう場所の可能性が高いな。近づくぞ」
そう言って、ドローンが近づいていくと、確かに俺たちが城やギルドで訓練した時のような案山子が立っている。
間違いない。ここは練兵場だ。
「これぐらいが限界だな。で、この中身は間違いないく練兵場だな」
田中さんからもお墨付きをもらったし、ここは練兵場だと判断できたけど……。
「でも、誰もいないってわけじゃないけど、3人だけしかいないよ?」
「そうですわね。3人のうち、2人で試合、もう1人が案山子にむかって弓の練習をしているだけですわね」
「つまり、これって兵を集めていないってことですか?」
2人の言うように、練兵場は3人しかおらず、ほかの国を攻めようって言う感じはしない。
なので、俺は田中さんに聞いてみる。
「まあ、この場にはいないが、ほかの場所に集まっているということもある。この場所に流石に万越えの兵力は集められるようには見えないしな」
「あ、そっか。こういう練兵場って兵士さんのみで、徴兵された人は違うんだっけ?」
「ああ、光さんの言う通りです。この世界の戦い方は詳しくは知りませんが、私たちの地球の歴史に照らし合わせるなら。こういう戦争の時の兵力は主に、徴兵した人たちで、職業軍人は一割ほどと聞いたことがあります」
「それは、俺も聞いたことある。戦国時代とかで、兵士は農民がほとんどだって。で、その所、どうなんですかリカルドさん?」
ここは近衛隊隊長として、立派な軍人を務めているリカルドさんに話を聞くことにする。
「そうですな。勇者殿たちの言うように、軍の大半は村や、町から徴兵した者たちです。無論、私たちのような職業軍人が指揮官として立ちます。しかし、魔族のルールが同じとは限りませんが」
「そうですね。私たちが知るのはあくまでの人の国家での話ですし、魔族がどう戦うのかは知りませんし、徴兵制度をどうしているのかはわかりません」
キシュアさんもリカルドさんと同じ意見のようだ。
でも、そうなるとよくわからないな。
「田中さんはどう思います?」
ここはやっぱり田中さんに聞くのが一番だよな。
「さあ。魔族の戦うルールとか知らないからな。とはいえ、どのみちかなりの人数を集めるなら、それなりの場所がいるしな。そこを探せばいいだろう。とはいえ、今すぐじゃなくていい」
「え? なんで?」
「パッと見た感じ今すぐにでも出撃じゃないってことがわかればいいんだよ。今すぐ出撃なら、防衛準備に取り掛からないとまずいからな」
あー、そうか。
ルーメルに攻めてきそうならすぐ動かないといけないって話か。
なら、急いで調べる必要はないよな。
「相手が動いていないなら、思う存分情報収集ができるってことだ。相手の常に先手を打てる。ありがたい限りだ」
田中さんはそう言いながら、練兵場から離れていき、お城の全体を見渡せる位置まで高度を上げる。
「町を見た限り、出兵にかけての準備をしているようにも見えないしな。夕ご飯の時刻になって、煙が沢山立ち上っているところを調べれば、人が多くいるってことだから、そこを調べればどこに大人数がいるかわかるだろう」
「確かに、このまま無暗に町を偵察するより確実ですな」
「人が多ければ多いほど準備は大変になりますからね」
「話は分かったけど、これからどうするの? どこ調べるの?」
光の言う通り、これからすることがぱったりと無くなってしまった。
「ま、これから調べるなら国家元首の動向とかしれたら一番いいんだが……」
「国家元首。そう言いますと、魔王になると思います。それを調べれば……」
「その魔王さまはお城のどこにいて、どんな容姿なのかわかるか?」
「あ、いえ……」
「それじゃ、これ以上調べようがない。まさか、ドローンで会話が聞こえる範囲まで近づくわけにもいかないからな」
確かに、魔王が誰かわからないのに、調べる方法はないよな。
「でも、それらしい部屋に入って調べることはできるのでは?」
「……ドローンをなんでもできる便利道具として勘違いしているみたいだが、ドローンにできるのは、空中撮影ぐらいのモノだからな。部屋にこっそり侵入できるほど器用じゃない」
「そうなのですか?」
意外そうに首を傾げるお姫様たち。
なんかリカルドさんたちも驚いている。
そうか、俺たちにとって身近な物でも、何も知らない人から見れば何でもできるように見えるよな。
空を飛んで、映像を送ってくる時点でおかしいんだし。
「そういうもんだ。まあ、窓を銃撃でぶち破って侵入とか、入り口から堂々と入って、ほかの人と一緒に侵入するぐらいだな」
「いやいや、それはもう侵入って言わないでしょ」
光の言う通り、そこまでしたら強襲とかになりそうだ。
「でも、田中さん。王様が使っていそうな部屋とかを事前に調べるとかはできないのですか?」
「どうだろうな。そういう部屋の様子がわかるほど近づくには、流石に明るすぎる」
「あー、そうだね。やっぱり、夜からかなー」
「で、どうする、お姫さん。ばれるの覚悟で飛び込んでみるか?」
「いえ。ばれてしまえば却って危険です。夜を待ちましょう。……私たちもそれなりに疲れていますし」
「そうだな。飯食ってから結局集中しっぱなしだからな。俺も寝かせてもらうとする。なんかほかに意見はあるか? ないなら、休むことにするぞ?」
「「「……」」」
その言葉に誰も意見を言わなかった。
そういえば、いい加減眠い。
「下手すると、夜にはフクロウが情報を持ってくるし、俺も人の姿のことをクォレンの方へ伝える必要もあるからな。今日は夜までお休みだ。じゃ、俺はさっさと用事を済ませてくる」
田中さんはそう言って、さっさと部屋から出ていく。
「……田中さん。寝るって言ってなかったっけ?」
「言っていましたわね。でも、あれが性分なのでしょう。というか、慣れているのでしょう。私たちは素直に休んだ方がいいですわ。フクロウさんが夜に来たとして、その間に居眠りするとかはアレですし」
「確かになー」
「じゃ、アキラさん。寝ましょう!! お昼寝ですよ!!」
そんな感じで、田中さんにクォレンさんへの報告は任せて、俺たちは素直に休むことにした。
やはり疲れていたのか、横になったらすぐに眠たくなって。
……ああ、こんな寝方したら起きられるかな?
既に、ヨフィアさんのぬくもりを意識するレベルではなくなっていたので、やっぱり疲れているんだろうなーと、なんか他人事のように思いながら、寝てしまうのであった。
カチャ、カチャ、カコッ……。
そんな音が聞こえて、俺は目が覚めた。
「すっー……」
俺が目を開けた先にはヨフィアさんが気持ちよさそうに寝ている。
その姿を見て、俺は一旦休憩で寝ていたことを思い出して、体を起こすと……。
「……なんか、体がだるいな。寝すぎたか」
なんか頭がぼーっとする。
とはいえ、まだ寝たいという気分でもないので、ベッドから降りると、窓の隙間から覗く夕焼けが見えていた。
「もう夕方か。……あ、夕方。夕飯の準備!?」
確か立ち上る煙を見て、多くの人が集まっているところを確認する予定なのを思い出した。
「田中さん。いま夕方ですから、起きて……」
俺がそう言って、田中さんの場所を見ると……ドローンのコントローラを握って、映像の監視をしている田中さんがいた。
カチャ、カチャ、カコ……。
田中さんがコントローラーを動かすたびにそんな音がする。
俺が起きた時に聞いた音はこのことだったんだ。
でも、田中さんはヘッドホンをしているため、俺の呼びかけに気が付かなかった……。
「ああ、今調べている所だよ」
そう言って、ヘッドホンを外しながら振り返った。
「あれ? 聞こえてたんですか?」
「ドローンから音を聞いているだけだからな。別に音楽をガンガン聴いているわけじゃないからな」
「ああ、確かに。で、どうですか? たくさんの兵士がいそうな場所とかは?」
「見る限りはないな。一緒に見てみるか?」
そう言われて、俺は田中さんの横に座って、モニターを見ると、魔族の城下町が映っていて、あちこちで煙が立ち上っている。
「どれもこれも、細い煙で、たまに見る太い煙は、食堂とかだな」
確かに、太い煙の元には酒屋や宿屋みたいなのがある。
「まあ、それでもせいぜい10人、20人程度だな。煙が一番立ち上っているのは、やっぱりというかお城だな」
そう言って、ドローンがゆっくりと旋回して、お城をとらえると、黙々と煙が一か所から何本も立ち上っているのが分かった。
「お城で働いている人たちの食事だからな。あれぐらいにはなるだろう」
「じゃあ、兵士を集めているってのは?」
「なさそうだな」
「そうですか。よかった」
なんかほっとした。
魔族はまだ本格的に動くことはないということがわかったから。
「だな。慌てて迎撃準備を整えなくていいのは助かるよな。まだ話し合いの余地はあるってことでもある」
「ですよね」
もうなんか、戦争は避けられないって感じだったけど、そうでもないってわかった。
これで何とかなる気がしてきた。
「あとは、フクロウの交渉が上手くいって情報を引き出せればありがたいんだが……。どうだ上手くいったか?」
「え?」
田中さんは唐突に変なことをいう。
上手くいったかって、フクロウさんはどこにも……。
「全く、気が付いてたのかい?」
そう声がしたと思ったら、窓からフクロウさんが入ってきた。
「うわっ!?」
意外過ぎたのを声を出して驚いてしまった。
この宿屋3階の部屋を取っているはずなんだけど……。
「ん? あ、ババア!! アキラさんに何してんだ!」
「何もしちゃいないよ。しかし、ヨフィアはことあるごとに寝てるね」
「映像を見てみろ!! あれで起きてられる奴なんかいねえよ!」
「えいぞう?」
そういって、首を傾げるフクロウさんは田中さんのモニターに目を止める。
「これが、そのえいぞうってやつかい? 綺麗な絵だね。……いや、動いてるのか!? これは一体!?」
流石のフクロウさんも動画を見て驚いている。
こういうのはやっぱり、この世界にはないんだな。
となると、やっぱりまた説明をってことになるんだけど……。
「まてまて、その説明はまずは全員を起こしてからだ。フクロウが来たってことは面会できることになったんだろう? それかその関連の情報を得てきた」
「あ、ああ。そうだね。まずはそこからだね」
「ということだ。結城君、ヨフィア、手分けしてみんなを起こして話を聞くぞ」
「「はい」」
そういうことで、俺たちはみんなを起こし始めるのだった。
簡易的にではあるが、魔族に戦争の動きは無し。
ひとまずは安心だが、今度はフクロウからの情報提供。
この情報提供次第で、また動きは変わってくる。
仲介役との面会はできるのか? 情報は得られるのか?




