第122射:敵拠点偵察
敵拠点偵察
Side:タダノリ・タナカ
今までの退屈な映像解析とは違う、物凄い緊張感を持って俺はドローンを飛ばしている。
既にドローンは魔族の拠点が存在しているだろう、死の山脈へと踏み込んでいる。
死の山脈は、どうも地殻変動か、大陸移動かなんかでぶつかり合って、天然の内陸の孤島みたいになったわけだ。
だから、山にいる魔物は見たことが無いやつばかりだ。
白くてデカい蛇、ゴツイ岩のゴーレム、食虫……人植物みたいなやつと、人の手が入っていない分、独自の進化を遂げたって感じだな。
地球で言う、アマゾンってとこか。
「うへー。物凄く強そう」
「何をしてくるのか想像もつきませんわね」
「……よく、こんな中で魔族の人たちは生きていけるな」
「「「……」」」
そう呟くのは、ルクセン君たち。
そして、その後ろにはお姫さんたちが無言でモニターを見つめながら立っている。
結局あの宣言のあと眠るメンバーはいなかった。何かが見つかると確信していたんだろうな。
寝れる時に眠らないのはどうかと思うが、まあ、情報を仕入れることを優先したということだな。
「結城君。こういうおっかないのがいるから、村長たちみたいに入植していたんだろうな。安全な所で住みたいってな」
「そりゃ、そうだよね」
「こんなところに住むのは危険な気がしますわ」
「撫子。気がするんじゃなくて、絶対危険だよここは」
結城君の意見に大賛成だな。こんな怪物がいる場所は危険極まりない。
こんなところで、畑なんぞ広げられんだろう。
あ、因みに岩山を抜けるとその中には、また森が広がっていて、土地はあったが、この恐怖の動物園だったというわけだ。
素敵サファリパークとでもいうべきか?
まあ、こんなところを開拓するのは並大抵のことじゃないだろう。
だからこそ、昔から魔族の侵攻があったわけだ。
なんとか、安全な土地で暮らしたいってな。
勇者に見逃してもらったのが始まりのようなことも聞いたが、案外、そんな土地に追いやった勇者にも恨みを抱いていてもおかしくはないな。
それとも当初はここまで危険じゃなかったという可能性もあるが、今はそんな当時のことを考察するのが目的じゃない。
敵の動向を探るためにやってきているのだ。
と、そんなことを考えていると、遠方に人工物が見えてくる。
「あれ、なんかの塔?」
ルクセン君も気が付いたようで指を指しながら言うと、他のメンバーも気が付く。
「確かに何かの塔に見えますね」
「田中さん。あそこって……」
「ああ、魔族の拠点があるかもしれないな」
そういうことで、一旦周囲を観察しながらゆっくり飛ぶのはやめて、最高速度で、目の前に見える塔へとドローンを進めていくと、その塔の全容が見えてきた。
「うわぁ。あのとがっているのって、塔じゃなくて、お城の一部だったんだ」
「まさか、ここまでのお城がこんな森の中にあるなんて……」
「というか、街もしっかりあるぞ」
「「「……」」」
この衝撃的シーンを見て、声を出せたのは魔族のことを敵と認めていない、結城君たちだけだった。
まあ、魔族の拠点がまさか万に届くかもしれない規模の町を築いていたとなると、絶句するだろうな。
それはつまり、この凶悪な森で生きている種族は万人いるという意味だから。
とはいえ、全員が全員ってわけでもないだろうが、脅威と思うのは無理もないだろう。
「さて、とりあえず、外周をぐるっと確認するぞ」
俺はそう言って、ドローンを魔族の町をぐるっと偵察させる。
見事な分厚い防壁に囲まれた町で、出入り口も東西南北に存在しており、出入りができるようにはしている。
てっきり、この山岳地帯を利用して、背中に山として天然の防壁としているかと思えば、そうでもないから不思議だ。
まあ、そういう疑問はいいとして、これは侵入し放題の場所だな。
とはいえ、防壁は二重だし、町の防壁を突破しても中央にそびえる城を落とさなくてはいけないから、隊伍を組んでの戦いだとかなり厳しいだろう。
現代戦なら、大陸間弾道弾でも撃って吹き飛ばしておわりだが。あ、まあ、人道的に認められないって言われるとは思うが、戦争になれば、そうなるって話な。
さて、戦いとしてのこの町の機能はいいとして、別に気になるモノがあった。
門から続く道は東西南北に大きい道があるのだが、それとは別に細い道がある。
そこをたどってみると、そこまで大きくはないが、森を切り開いた農場が多数存在していた。
流石にあの規模の町を維持するには、壁の中だけの生産量では追いつかないわけか。
となると、搦め手としては、この農場を焼き払えば、長期戦争はできなくなるわけだ。
食べる物が無くなるから飢餓が発生するし、兵士たちは動揺するだろう。
まあ、これは最終手段に近いな。逆に後の無い魔族が死にもの狂いで攻めてくる可能性もあるからな。
と、そんな俺の思いとは別に、お姫さんたちは、畑を耕す魔族?らしき人達を見て、驚きの声を上げる。
「……村長と会って、ある程度は理解していたつもりですが……」
「本当に魔族が畑を耕し、獣を狩り、町を守っているのですね……」
「……私たちと何もかわりませんね」
「……確かに。魔族は別に怪物でもないということですな」
ここに来てようやく魔族が本質的には、人と変わりないと理解したようだ。
魔族だけが住んでいる村長たちと会ってはいたが、未だに半信半疑のだったわけだ。
まあ、人類の敵って言われているからな。
敵が自分たちより、優れている、或いは自分たちと同等だといわれても、信じられないもんだよな。
そして、何よりも、自分たちと同じだと思うと、戦意がそがれていく。
必死に畑を耕して、食べ物作って、家族や仲間を養って、生活している。
これが大多数の人の営みだ。
だからこそ、上は、偉い人はその事実を隠す。
戦いに躊躇いがあれば、死ぬのはこっちだからな。
だから、俺はこういうことに躊躇いはない。
戦闘区域にいて、ただ邪魔なら遠慮なく殺す。
と、そこはいいとして、今まで反応を示さない奴が1人いる。
「で、ヨフィア。お前は何かコメントはないのか?」
そう、ヨフィアだ。
なぜかこの魔族の町を見ても特に動揺することもなく、ただじーっと画面を見つめている。
「え? えーと、ただの町だなーという風ぐらいにしか見えないです」
「敵だからとか、俺たちと同じように生活している所を見て、何か揺れ動くことはないか?」
「いえ、そういうのは何もないですね。この画面に映る町も私が住んでいた町と何も変わりません。ただ私たちの敵になるなら殺すだけです。まあ、見るからに私より強そうだなーって人が多いのがアレですけど」
「そんなものか」
「そんなものですよ。王侯貴族も、ただの民も、私みたいなゴロツキも生きていることにかわりはないですから、魔族の方々も同じ。そうして、戦争で一気に何もかも無くなるんです」
「「「……」」」
その言葉に逆に結城君たちが沈黙する。
ヨフィアの残酷さでなく、おそらくヨフィアが生きてきた、こういう風になった環境を知って、沈黙しているんだろう。
そして、それをすごく気にしている。
ということで、俺がデリカシー無く聞いてみるか。
「その口ぶりからすると、戦争経験者か?」
「そうですよ。まあ、色々あったんですよ。戦争なんてごめんですけど、それでも起こるモノですから。そして、死って言うのは誰にでも簡単に訪れますし。だから、私は危険なことはしてほしくないんですけどねー。それでも、アキラさんたちは何としても戦争を止めようとするんでしょう?」
「……ヨフィアさんは無理に付き合わなくても」
「あー、アキラさん。そう言うのはなしです。私にとって、アキラさんたちはとても大事な人たちですから、命を懸けるに値します。ただ、それだけのことですよ。あ、あと、これだけは約束してください。絶対生き残るって。生きてさえいれば私やタナカさんが必ず助けにいきますから。生きるのをあきらめないでください」
「だな。生きてさえいれば助けには行くと思うから、自決は最後の最後までまっとけ。大体、生き残るのは最後まであきらめない奴だからな」
「「「はい」」」
ヨフィアと俺の言葉に、結城君たちはしっかり返事をする。
これで、ヨフィアに対しての違和感疑問はあれど、不信感は消えただろう。
こうして、しっかり結城君たちを守ると宣言したんだからな。
「さて、全員の感想を聞き終わったところだし、そろそろ本丸の調査をしてみるか」
「本丸って?」
ルクセン君は首を傾げて、聞いてくる。
難しい言い方だったかな?
「ああ、お城へ行ってみるってことだよ」
「お城に? ばれない?」
「光さんの言うようにばれたりすることはないのでしょうか?」
「2人の懸念も分からないでもないが、まずこの世界にドローンは存在しない。そして、今まで上空を警戒をしている様子はない。最後に、このドローンはいつでも消せるから、データの流出はないとみていい」
「あ、そうか。それなら、別に見つかっても問題ないんですね」
結城君が納得した様子で言うが、問題が無いわけでもない。
「見つからないことに越したことはないがな。見つかれば二度目からの偵察は警戒されるだろうな」
「それはそうでしょう。警戒されては、それこそ問題です」
「ですな。とはいえ、偵察できるのであればしたい。ということですな?」
「リカルドの言う通りだ。まあ、失敗したからと言って、魔族が、ルーメルが調査をしてきたとは思わないだろうが。しかし、絶対ばれないとも言えないから、ここでどうするかは、お姫さんの指示に従おう」
「え?」
ここであえて、俺はお姫さんに判断を任せよう。
お姫さんとして、一体どういう選択をするのか。
宰相と同じようなら、ドローンに武器でも載せて攻撃とでもういうかな?
それとも、話し合いを模索するか?
正直な話、適当にドローンで敵を消していった方がいいとは思うけどな。
あ、攻めてくるならな。
攻めてこないのに、攻撃するんだったら、それこそ戦争の引き金になりかねん。
さて、そういうのも全部踏まえて答えをだすのか、それとも一時の感情なのか。
俺と同じように、ほかのメンバーもお姫さんの答えを待つ。
「……ここは、できうる限り、情報を得るべき場面だと思います。協力してもらえますでしょうか?」
「お姫さんの指示に従うって言ったからな。構わないぞ」
流石にここで、偵察はやめますとは言わないようだ。
「方針とかはあるか?」
「……そうですね。では、お城の中などで広い土地、練兵場などがないか確認できますか? 兵をそろえているのであれば、そこで兵士が訓練しているはずです」
「その通りですね。確かに兵たちは練兵場で訓練をしています。今から戦争しようというのであれば、なおさらのはずです」
「姫様、キシュア殿の言う通りですな。タナカ殿、頼めますか?」
「ああ。いいぞ。魔族が攻めてくるかどうかを判断するのには、それが一番だよな」
兵士が集まっているかどうか。
こればかりは隠しようがないからな、見ればわかるからな。
特に、数を集めて攻めるような時代ではな。
ということで、俺はドローンで城の偵察を開始するのであった。
それなりに凶悪な森の先に、魔族の町が。
しかしながら、ノーダメージで魔王城に到着。
さてさて、この偵察で何がわかるのか?
魔族は侵攻の準備をしているのか、それとも……。