第118射:映像解析の辛さ
映像解析の辛さ
Side:タダノリ・タナカ
「うわ。ほんとにやってる!?」
「いつの間に……」
「大体、そんなに昔でもない。宝石事件の時だ。アスタリの町に関しては詳しくはなかったが、情報はしっかり出てきたからな」
その時は、どこかに町でもあれば、そこを拠点に活動でもできるかなという感じだったが、既にそういう構想はルーメルも持っていたってわけだ。
ま、おかげで、ゼロから始めるよりはるかにましだし、戦争になった際の予防線を張れていることは喜ぶべきことだな。
とはいえ、これが原因で相手が攻めてくるという可能性もあるが、そんなことを言いだしたらキリがないからな。
この問題は地球でも良く論議の対象となる話だ。
とはいえ、武力を持つことでの防衛とするのはどこの国も当たり前のことだからな。
日本だって自衛隊とはいえ、ちゃんと防衛できる戦力は存在している。
難しいよな。平和って。
と、そんなことはいいとして、まずは映像解析のことだ。
「そこの4人も呆けてないで、説明を聞け。ドローンの映像を見るのは初めてじゃないだろう?」
「「「は、はい!!」」」
ここで漸く、お姫さんたちが再起動する。
ドローンで集めていた映像を4台のパソコンで流していると、それに圧倒されたようだ。
まあ、あの時はタブレットに映像1つだけだったから、テレビを知らない人からすれば驚きの光景というやつか。
「まず、フクロウの返事を待つまでの2日間。俺たちはこのドローンから送られて来た映像の解析を行って、相手の情報収集を行う予定だ。ここまではいいか?」
俺がそう聞くと、直ぐにお姫様から質問が飛んでくる。
「情報収集というのは、一体? この絵は一体?」
「ん? ああ、そう言えば、お姫さんはドローン自体を知らなかったな。……そうだな。一度しっかり説明しておくか」
大混乱されても後で困ることになるのだから、一応軽くだけ説明しておくことにする。
といっても、普通にもう一台ドローンを出して、部屋の中で軽く飛ばして、撮影してデータをパソコン上で見せてだけだ。
「……こ、こんな技術が」
「素晴らしい道具ですね。これがあれば、偵察し放題というわけですか。そして何より、姫様のお姿をこうしてずっと眺められるというのは素晴らしいですね」
それでも、2人は感激している。
そしてカチュアは微妙に怪しい発言があったが、まあ、お姫さま付きのメイドならば、子供のころからずっとって奴だろうから、親のような感覚があるんだろうな。
俺にはさっぱりわからんが。
「で、これを俺は魔族がいるであろう地域に飛ばしていて、既に偵察をある程度しているってわけだ。だが、自動で飛ばしている時もあったし、道中のデータを全て確認したわけでもないからな。その確認を頼みたいわけだ」
「なるほど。話は理解いたしました。まさか、このような道具が存在しているとは……」
「ま、こういう道具があって、ジョシーが使っていた凶悪な武器がある世界に対して誘拐行為を働いたわけだ。いつか、その精算はすることになるかもな」
「……」
俺がちょっと皮肉をいうと、お姫さんは黙ってしまい、カチュアが目を吊り上げてこちらを睨んで口を開く。
「……厚かましいとは思いますが、その時は、ご説明を、間に立っていただけないでしょうか?」
意外なことに、俺に対する文句ではなく協力を要請してきた。
流石に、地球の戦力をおぼろげながら把握し始めたか。
リカルドも黙ったままだからな。当時のお前はなんていったっけ?
ま、そこを突いて遊ぶのは今度でいいだろう。
「心配するな。そんなことになれば、俺みたいな一般人の意見なぞ聞かれないさ」
「……」
絶望したような顔になるカチュアだが、俺は続ける。
「だがな。別に戦いが大好きってわけじゃない。そこの結城君たちみたいに、平和を貴ぶ人たちも多い。そして、地球と関係ができる日がいつになるかは分からんからな。もう俺たちもいないかもしれない。その時の為に、まずは基本的な礼儀を押さえて、丁寧に接することだな。というか、基本的に他国の使者となれば丁寧に扱うだろう? それをすればいいだけだ」
「……肝に銘じておきます」
俺たちの場合は使者じゃなく、誘拐されて来たってことが問題だからな。
「あとは、地球の人を誘拐していたなんて事実は隠す方がいい。それかそれらしい人が来たというのはあるぐらいだな。わざわざ、自分から弱みを曝す必要はない。人としては間違っているが、国としては間違っていない。戦争の引き金だからな、それを回避するためだ」
「……検討いたします」
「ま、そんな先の戦争よりも、目の前の戦争のことだな」
どうせ、この技術力で地球と戦争をしても結果は見えてるからな。
まずは、魔族との戦いをどうにかしないと、未来も見られずに墓の下で安らかな睡眠につく可能性があるからな。
「話を戻すぞ。都合飛ばした時間は宝石事件の夜だから……」
「えーと、2日程度かな?」
「そうだな。ざっと確認する時間は48時間ってところだが、飛ばしたドローンは二つだから96時間だな」
「いえ、どう考えても時間が足りませんが」
「いやいや、撫子、これって映像記録だから早送りで見ろってことだよ。そうですよね、田中さん?」
「ああ、そうだ。リアルタイムで見るのも細かく見れていいかもしれないが、流石に時間がないからな」
「そっかー早送りで見ればいいんだよね」
「なるほど。言われてみれば道理ですわね」
納得した日本人メンバー3人だが、現地の4人は理解できていない。
というか、この説明だけで倍速とかの意味が分かったら天才だ。
「えっと、アキラさん。私にはさっぱりだったんですけど?」
やっぱりというか、ヨフィアがさっそく結城君に質問をしている。
「えっと、なんて説明したらいいのかな? 早送りは、用語だしな。早く見るかな?」
「早く見る?」
お互いに首を傾げる。
知らない概念を伝えるというのは難しい。
「ま、習うより慣れろ。百聞は一見っていうからな。お互いそのままペアを作って作業をするといい。教えたからといって覚えられるもんじゃないからな」
「そうだね。じゃ、お姫様一緒にやる?」
「ヒカル様、ありがとうございます。カチュアも一緒に」
「はい。かしこまりました」
あっさりと、ルクセン君とお姫様、カチュアがペアを組み……。
「では、キシュアさんは私と」
「はい。よろしくお願いいたします」
大和君はキシュアと。
ここは安定だな。
で、結城君はというと……。
「はいはーい。私はアキラさんに教えてもらいたいでーす!!」
「あ、うん。じゃあ、ヨフィアさんと……」
そう言って結城君は固まってしまう。
仕方がない、その視線の先には取り残されたリカルドがいるのだから。
それに気が付いたヨフィアは感情を隠すことなくストレートに……。
「おい。おっさんはおっさん同士でやれよ。アキラは俺じゃなくて、私としたいって言っていますので、ご遠慮ください」
「……おっさん。おっさんか」
ためらう事無く言葉という凶器をぶっさす。
しかし、ヨフィアの言うこともわかる。
若者のひと時を邪魔する物じゃないだろう。
となると、残る手段は一つ。
「リカルド。俺が教えるからこっちにこい」
「はっ」
俺と組むしかないわけだ。
一組だけむさくるしい気がするが、おっさんにはこれがふさわしいだろう。
ま、そんなことより、この映像解析に最後までやり切れるチームがでるか心配だな。
なんでそんなことを言うのかといえば……。
「王城を飛び出していく瞬間はとても素晴らしいものだと思ったのですが……」
「見えるのは草原ばかりですね」
「まあ、王都出た後はしばらく草原だったしねー」
と、このように、ただ草原を空から眺めるだけの映像を見つめる仕事は退屈極まりない仕事なのだ。
心霊関係の番組よりはましだと思うが。あれは、ひたすら動かないカメラの映像を見つめるだけだからな。
「ですが、街道には結構な人が流れているのですね」
「そうですね。ルーメル王都に続く道ですから、いろんなところから人が集まってくる様子がわかりますね」
この退屈な仕事でも、ちゃんと意味を見出せる大和君とキシュアのペアは優秀だな。
しかし、代わりにというか……。
「ぐー……」
「……」
ヨフィアはあっさり寝てしまう。
正直な話、この映像解析をしていると、寝落ちという危険が常に付きまとう。
しかしながら、ヨフィアのやつは結城君の足を枕にしてぐっすり寝ているから、確信犯なんだろうが、疲れている事実もあるからと咎めるつもりはない。
というか、無理に起こしてもまた寝るだけだからな。
一度脱落したものは二度と復帰できない恐怖の仕事なのだ。
そして、映像解析を初めて大体3時間も経つと……。
「「「……」」」
全員が沈黙して、ひたすら画面を見続けることとなる。
まあ、代わり映えしない草原をひたすら進むだけの映像を見せられたなら。
あれだ、高速道路での催眠効果ってやつかな?
ついでに、王都を離れたことにより道を歩く人の数も減ってきている。
時折、町や村などを通り過ぎるが、特に何も問題はない。
いたって平穏。そのつど、一応俺たちは巻き戻して確認をとるが、何か問題があるようには見えない。
ちなみに、王都を出た後の映像で飽きてきた頃には3倍速で流し始めており、それから約2時間ほど見ているので撮影時間としては6時間の道のりを映していることになる。
日本で言うなら……東京から大阪移動が車で約6時間と言ったところだ。
遠いように見えて、案外近いのかもしれない。
ただ、ドローンの速度はいいとこ40kmぐらいだからな。高速を走っている車と比べると半分以下の速度だな。
6時間×40キロ毎時ということで、240キロがいい所だろう。
とはいえ、歩く道が限られていて、ゴロゴロ馬車を引いてすすんでいるような連中よりは圧倒的に速いんだが。
しかしながら、目的のアスタリの町や魔族の砦は、まだ遠い。
「……あー、うー」
「目が痛いですわ」
「ああ、なんかつらい」
映像解析を4時間を過ぎたあたりで、流石にルクセン君たちも疲れてきたのか、頭が揺れて、疲労を訴えてきた。
「そうか、なら休め」
「え? いいの?」
「いいんでしょうか?」
「なんか、気合いを入れて見ろって言われるかと思った」
最後の結城君の言葉に2人とも頷く。
「まあ、訓練ならそうなんだがな。この映像解析で無理をさせればミスが出るからな。些細な情報が戦況を左右することは多々ある。これは失敗、ミスのできない部類の仕事だ。だから疲れたなら休んで、しっかり作業できるように体調を整えてくれ」
「あー、納得」
「確かに、無理をしてねこけてしまえば、大事なことを見逃しますものね」
「じゃ、遠慮なく。って、そう言えばお昼とかどうします?」
結城君に言われて気が付いたが、かれこれ部屋にこもって5時間近く。
すでにお天道様はてっぺんを通り過ぎている。
「そうだな。1つ皆で買い物にでも行って気分を晴らしてくるといい。飯食ったあとは昼寝な」
「やったー。3食お昼寝付きだー!!」
「しっかり食って寝て、仕事に復帰してくれ」
「わかったよ。任せて、田中さんの分も買ってくるね!!」
「あ、ちょっと、光さん!!」
「すいません。ちゃんと買ってくるんで」
「ああ、楽しみにしてる」
ということで、ルクセン君たちはお昼ご飯の買い出しにでて行く。
「じゃ、俺たちは、引き続き映像解析な」
「田中殿。私たちに休みは?」
「若者が楽できるように頑張るとかいえ。それとも寝ているお姫さんを起こすか?」
「……はい」
ということで、俺たちはそのまま映像解析を続けるのであった。
いいか、寝るなよ? 絶対、寝るなよ!!
君は耐えることが出来るか?