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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
116/516

第116射:朝の撫子と梟

朝の撫子と梟



Side:ナデシコ・ヤマト



ドスッ!?


「かふっ!?」


私はそんな声を出して目を覚ましました。


「い、一体何が……っと、光さん?」


緊急事態かと起き上がろうとしてたら、体に足が乗っていて、その足の持ち主は光さんでした。


「んんー。むにゃ」


……どうやら、寝ぼけて私のお腹に踵落としをしたようです。

まったく、いつの間に私のベッドに、と不意に辺りを見回すとそこは私たちの部屋ではありませんでした。


「ここは、一体……。あっ!?」


ここまできてようやく、私は自分の状況を思い出しました。

私は、私たちは城下町に来て冒険者ギルドにより、クォレンギルド長に話を聞いてもらう前に、宴会を……。


「外は?」


私は咄嗟に窓へと視線を向けると、うっすらではありますが明るく、外が見えています。

夜は街灯などの光源が存在しないルーメル王都では、真っ暗になるので、この状況は……。


「あさ?」


そう呟くと、いきなりドアが開いて、慌てて振り返ると、そこには……。


「おや、ナデシコ殿が一番か。情けないね。ヨフィアの奴は」


そんなことを言う、フクロウさんがそこに立っていました。


「フクロウさんが、なぜここに?」

「なぜって、昨日の夜お邪魔したからね。ああ、ナデシコ殿たちはすっかり眠っていたけどね」

「寝ていた。というと、私たちは酔いつぶれてしまったのですね」


注意していたつもりなのですが、お酒は意外と怖い物です。

しかも私だけではなく、光さん、晃さんはもちろん、お酒になれているはずの、お姫様たちも寝てしまって……ん? 何か違和感を覚えます。


「……ただ単に、眠くなったから寝たのでしょうか?」


私たちが寝てしまった後に、飲み会を続けて、お開きになってお姫様たちはそのまま寝た。

その割には、私たちはともかく、お姫様の寝方がおかしいように見えます。

椅子に座ったままで、何も毛布などはかかっていません。

カチュアさんがいながら、こんな状態になるモノでしょうか?

そんなことを考えていると、フクロウさんが口を開きます。


「いや、ただ単に眠くなったわけじゃないよ。タナカ殿が、睡眠薬を仕込んだらしい」

「睡眠薬を?」

「そういう手法もあるってことさ。迂闊に全員飲むとそうなる。誰か一人は控えるべきだったね。お酒ってのは酔わせることだけじゃなくて、何かを仕込むにもいいチャンスなんだよ。いい経験になったろう?」

「なるほど、そういうことですか。だから、全員寝てしまったのですね。すっかり油断していました」


下手をしたら、死んでいたということですわね。

それを田中さんは教えてくれたと。

今後は、光さんを残す方がいいでしょうか?

彼女なら、回復魔術で私たちを完全に治療できますから。

と、そんなことを考えていることを知らずにフクロウさんは話を続けます。


「まあ、普通なら、こんなことを警戒しなくていいんだけどね。ナデシコ殿たちは勇者様だからね」

「なりたくてなったわけではないのですが、仕方ないですね」

「それで済ませるんだから、ナデシコ殿たちは人が良くできているよ。戦争のために呼び出されたなんて、普通の人なら怒り心頭、逃げ出すのが普通さ」

「私たちだって普通の人ですよ。ですが、もう、そこは通り過ぎました」


怒っても泣いても、何も変わらないと田中さんに教えてもらった。

このままではただ死ぬだけだと、自分で歩けと。


「とおりすぎた、ね。なんだろうね。今のナデシコ殿たちにはその姿は一番望ましいのはわかっているが、無理をしているようにしか見えない」

「無理をしていないわけないです。無理してます。でも、帰れない。その方法を探すために、私は、私たちは我慢しているんです」

「……すまなかったね。当然の話だ」

「いえ。フクロウさんが悪いわけじゃありませんので、それにお姫様が私たちを呼んだ本当の理由もわかりましたので、ある程度は気持ちの整理はつきました」

「未来予知か」

「はい。誰も頼れない彼女が取ったのは、異世界の英雄を呼び出すことでした」


絶望の中で見つけたのが私たちだった。

それが、私たちにとってもある意味救いです。

ただ、敵国を攻めるためだけの戦力として呼ばれたのなら、ルーメルを出奔あるいは、田中さんに頼んで壊してもらっていたかもしれません。

あるいは、私の手で全員殺す。なんてことも考えたかもしれません。


「だからといって、そこで寝ているお姫様を助ける理由はないと思うけどね。命がけになる」

「逃げてそれで終わるのなら逃げます。ですが、それでは終わらないと、田中さんに教えてもらい、実感しました。それに、私たちはまだ帰ることをあきらめていませんから」

「……そのために、ルーメルを救うか」

「結果的にそうなるだけです。無くなってしまえば、私たちだって困りますからね」

「聡いね。現実がわかってしまうってのはつらいはずだ。それでもナデシコ殿たちは……いや、もうこれ以上は言う必要はないか」


そう言ってフクロウさんは口を閉じてしまいます。

ですね、それ以上フクロウさんが何を言っても、私たちが少しでも可能性があることに手を伸ばすのはやめません。

どれだけ可能性が低かろうと、あきらめるつもりはありません。

帰る方法にしろ、戦争を回避する方法にしろ、絶望的でもです。

そのためにも、私たちは情報を得なければならないのですが……。


「あの、田中さんやクォレンさんの姿が見えないのですが、どちらに行ったかは知っていますか?」

「ん? ああ、ただ用を足しに行っているだけだよ。そろそろ戻って……」


フクロウさんがそう言いかけた時にドアの先から……。


「あー、すっきりした。よく出たわ」

「昨日、あれだけ飲んだんだ。出ない方がおかしい」

「ま、そりゃそうか」


そんな声が聞こえてきて、ドアが開き、田中さんとクォレンさんが入ってきました。


「お、フクロウ。まだいたのか」

「まだとはひどい言いぐさだね。クォレン。これから各国の冒険者ギルドに連絡を送るつもりなんだろう? 私も手伝わなくていいのかい?」

「お? なんだ、手伝ってくれるのか? てっきり、報酬を出しても手伝ってくれると思わなかったがな」

「ふん。最初は手伝う気なんてなかったさ。だが、ナデシコ殿と話して気が変わった。正義感というわけじゃないが、こっちの問題を押し付けて踏ん反りかえれるほど、肝も太くないし、自分の住処ぐらい自分で守るぐらいの動きはするよ。そっちだって同じだろう?」

「まあな。下手に冒険者を送ってアスタリの町の連中が全滅なんてなればこっちとしても大損害だからな。なるべく冒険者を集めるように手配する」


どうやら、私たちが寝ている間に、かなり話は進んだようですね。


「で、大和君も起きたようだな」

「ええ。おはようございます。そして、フクロウさんから、睡眠薬を仕込まれたことを聞きました」

「ああ、すまなかった。一応、薬の効き目とかを確認したくてな」

「悪意が無いことは分かっていますので、大丈夫です。でも、次からは何かやるのであれば、言って欲しいですわ」

「ああ、今度からはそうする」

「で、薬の効き目ですか?」

「そうだ。こういう耐性上がっているのかと思ったが、そうでもないみたいだな。だから、毒物には十分に注意しておいた方がいいな」


そういうことですか、だからやってみたのですね。

まあ、飲めといわれて素直に飲むわけもありませんけど。


「そうですね。あっさりとやられてしまいました」

「まあ、俺が仕込んだからというもあるけどな。今後は注意しておけ。耐性はないのはハッキリわかったからな。毒物で攻めてくる奴は出てくるだろうな」

「はい。気を付けます。魔術の中に解毒というのがありますので、それでどれだけ効くか試してみるのもいいかもしれません」

「そうだな。そこら辺は検証が必要だな。でも、間違って自分たち自身で試すなよ。ルクセン君でも回復できなかったら終わりだからな」


自分自身で毒を飲んで死亡とかは嫌ですからね。

解毒の実験時は、何か動物とかでやることになるでしょう。


「で、田中さん。薬の話はいいのですが、結局、クォレンさんやフクロウさんとの話はどれほど進んだのでしょうか?」


そう、まず聞かないといけないのはそこの話。

私たちが今後どう動くかの大事な話になるはずです。

宰相と魔族を繋いでいた仲介役の居場所は分かったのでしょうか?


「ああ、それは……。と、その前に他のメンバーを起こすか」

「確かに、そうですね」


私だけが話を聞いても仕方ありません。

後ろで寝ている光さんたちを起こしましょう。

特に、光さんは先ほどのお返しも込めてやらないといけませんね。

ということで、私は光さんに近寄り、彼女を起こすのでした。



「ぜー、ぜー……撫子、ひどいよー」


そう言って苦しそうに体を起こす光さんは随分と憔悴していました。

まあ、当然でしょう。田中さんに頼んでもらって、テーブルで上に両手足をテーブルの脚に固定して、くすぐったのですから。


「ひどくありません。光さんは私のお腹に踵落としをしましたからね」

「寝ぼけてたから、僕は覚えてないよー」

「酔っぱらっていたら無実とはなりません。ちゃんと罪を償ったと思ってください」

「ぶーぶー」


光さんも私には悪いと思っているのか、それ以上は苦情を言うことはなく、そのまま田中さんの説明へと移ります。


「よう。みんな起きたようだな。薬でぐっすりしたか?」

「「「……」」」


田中さんはハッキリそう言って、寝てしまっていた皆さんは一様に睨んでいます。

まあ、飲み会、宴会の席で薬を仕込まれたのですから、文句の1つや2つはあるでしょう。

ですが、田中さんはそんな視線を気にしすることもなく……。


「ま、これで毒物に対しての耐性は人並みだというのが分かった。大和君には言ったが、今後は出された食事は疑うことだな。毒を食らったときの対処方については、大和君からまた話があるだろうから、俺はこの件に関してはこれで一旦終わる。今のこの場にいる理由は、これからの行動に関してだ。具体的に言うなら、宰相と魔族を仲介していた奴のことだな」


そう言って田中さんはフクロウさんの方を見ると、光さんが思い出したように声を出します。


「あっ、そういえばそうだった。フクロウさんがいるってことは、わかったの?」

「ああ、もちろん。置手紙を見たからね。こっちに連絡にきたのさ。まあ、どこかの小娘と違って酒に薬におぼれてダウンするようなことはないからね」

「……ちっ、クソババアが」

「アキラ殿とぐっすりおねむはさぞかし気持ちよかっただろうね」

「ああ、それはもちろん。相手のいないクソババアは寂しいですねよねー」

「ちっ、皮肉のつもりだったが、惚気やがった。このバカは振ったほうがいいよ。アキラ殿」

「ごらっ、クソババア。余計な事いうんじゃねーよ!!」


相も変わらず、ヨフィアさんはフクロウさんのことが苦手なようで、喧嘩腰ですね。

まあ、からかうフクロウさんもフクロウさんで悪いのですが……。


「2人して寝たいなら、そのまま続けろ」

「「……」」


田中さんの言葉でピタッと口喧嘩をやめる2人。

フクロウさんですら、田中さんを敵に回したくないようです。


「それで、フクロウさん。その仲介役はどこにいるんですか?」


私がそう聞くとフクロウさんは全員を見つめてから……。


「私の家の3軒隣の家に潜伏中だよ」

「「「意外と近かった!?」」」







ナデシコはやっぱりな闇を抱えつつも、それでも日本人らしく、地球の人らしく頑張っていく。

フクロウはそんな彼女を見てどう思うのか。

そんな、ナデシコたちはこれからはどうなるのか?


でも、意外と情報源は近かった。



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