第106射:宝探し?
宝探し?
Side:ナデシコ・ヤマト
「こちらが、王家の倉庫となります」
そう言ってお姫様に案内された場所は、お城の奥深くというのは何か違う気がしますが、門の方からはかなり遠い場所です。
謁見の間を抜けて、上階へ上がり。
豪華な廊下を抜けた場所に王家の倉庫はありました。
「歴代の王が使っていた道具などがありますので、価値的には宝物庫ほどとは言いませんが、我が国にとっては歴史を持つ大事な場所で、このように兵士が警備についています」
確かに、扉の前には兵士が立っていて、椅子も用意されて、長時間の警備にも耐えられようになっているようです。
「ちなみに、王の部屋やその家族が住む部屋は通り過ぎて参りましたので、この場所がどれだけ大事にされているかおわかりなると思いますが、なるべく、慌てず大事に扱ってくださいませ」
最後の最後にお姫様は私たちに注意を促してきました。
それほど高く、価値のあるものがあるのかと私たちが緊張していると、田中さんが平然と……。
「いや、普通に探すぞ。宝物の正式な扱い方とか知らないからな。せいぜい、真珠は素手で触ってはいけないぐらいか? 手で触ってはいけないモノとかあるのか? それは先に言ってくれ」
そう聞いていました。
確かに、私たちに宝物の扱い方なんて判るわけがありませんし、普通に壊さないように触るぐらいしかできません。
「いえ、普通に扱っていただければ問題ありません。雑に扱わないようにという話です」
「そうか。なら心配ない。ま、ツボとか割れ物を調べるときは気を付けろよ」
「「「はい」」」
その程度なら何も問題はありませんので、普通に返事を返します。
「では、開けなさい。話は通っているはずです。こちらが許可証になります」
「はっ。拝見いたします」
お姫様といえど、出入りするのに許可証がいることから、ここがどれだけ大事にされているかがわかります。
「確認いたしました。……どうぞ」
許可証を確認した兵士は、扉を開けます。
その扉の先には、大きな部屋が広がっていました。
「前王の遺品は、右手前のところに置いてあります」
「ありがとう。では、下がりなさい」
「はっ。出るときはまたお声掛けください」
そう言って、兵士さんは門へと戻っていく。
中は大きな部屋と表現しましたが、それだけではありませんでした。
荷物が置かれている箇所には、豪華な絨毯が敷かれていて、それだけでもかなりの価値があるとわかるのですが、その絨毯の上には、さらに私の目から見てもすごいと言えるほどの装飾が施された家具が置かれていました。
「うわー。なんかあの家具とかキンキラだねー」
「だな。金を貼り付けてるのかな?」
「ええ。あちらの家具は5代前の陛下のモノで、金の鉱脈を見つけたことで、ルーメルの財政の礎を築いたといわれております。別名、金の王と呼ばれております」
まんまですわね。ひねりがありませんわ。
そのように、お姫様の説明を受けながら進むと、目的の場所に付いたようで立ち止まります。
「こちらが、叔父様。前王の遺品となります」
目の前にあったのは、ほかの王様の遺品とはちがい、派手さはなく、質素な感じのするものが置かれていました。
「じゃあ、これを調べればいいんだね」
「というかさ、こういうのって中身空なんじゃないか?」
「いえ、アキラ様。中は当時のままになっております。軍が全滅した関係でかなり慌てておりましたから。執務室の方はそのまま引き継ぎですんだのですが、こちらの方はそうもいきませんでした」
なるほど。ということは、調べる必要性はあるということですわね。
「では、一個一個丁寧に確認していきましょう。晃さん。まずは一番怪しい、そのクローゼットの中から確認いたしますので、こちらに引っ張り出してください」
「えっ?」
「流石に、目の前に家具があると調べられませんし、中身を取り出しますので、こちら側に取り出してください。男ですから平気ですわよね?」
まさか、か弱い私たちに重たいクローゼットやタンスなんかの移動をさせたりしませんよね? と、圧力をかけておきます。
いざという時ならともかく、こういう時は男を立てる女性であるようにしないといけませんからね。
決して、家具の裏側とかに虫の死体やネズミの死体があって怖いなどと言うわけではございません。
「……それって、男女不平等じゃ……」
「まあ、我慢しろ。世の中、そう言うのは残るもんだから」
「でも、この世界なら、レベルが上がっているし2人が家具を持てないわけ……」
「女を立ててやれ。あとでちゃんと何かしら返ってくるからな。……多分。ここで文句を言って雰囲気を壊すこともないだろう?」
「……わかりました」
と、不満そうな晃さんですが、紳士である田中さんに説得されて、一緒にクローゼットを引っ張り出します。
そしてそれと同時に、やっぱり埃が舞い上がります。
長い間放置されているのですから、当然ですね。
「ごほっ!! ごほっ!? 田中さん、これって毒ガスとかじゃないですよね!?」
「ごほっ。そっちの方が対処しようがあるから、マシなんだが、残念ながらただの埃だ。というか、マスク出せばよかったな。ほれ」
「ありがとうございます」
直ぐにマスクをつけて2人はクローゼットを無事に引っ張り出すことに成功します。
本当に田中さんの道具は便利ですね。
そして、そのマスクをみて思いついたことがあります。
「田中さん、私たちにもマスクと、手袋をお願いできますか?」
「あ、それはいるよね」
「……ねぇ。田中さん。俺たちってただの……」
「いうな。最初に思いつかなかった俺にも問題がある。というか、リカルド!!」
「はっ!! なんでしょうか?」
「お前も男だろうが!! ボーッとしてないで手伝え!! それともなにか? お姫さんに家具の移動をやらせる気か?」
田中さんがそう言うと、リカルドさんよりも先に、お姫様が反応します。
「え? リカルド、私に手伝えと言うつもりだったのですか?」
「そんなことは決して!! 今すぐ手伝いますから、誤解を招くようなことは言わないでください!!」
田中さんに脅されてリカルドさんも家具の運び出しを手伝い始めます。
「さ、私たちもクローゼットの中身を確かめましょう。男性方に任せっきりで、何もしなければ、ただの駄目な女ですから」
「おー。がんばろー!!」
「はい。しらべますよー」
「では、姫様はこちらにご用意しています椅子にお座りになって……」
「いえ。私も手伝います。国家の存亡がかかっているのですから、私がのんびり待つなどというのは有ってはいけません」
ということで、私たちも取り出された家具の中から荷物を取り出し、丁寧に調べていきます。
「うひゃー。高そうなマント。見てみて、毛皮がすごいよー」
「そちらは、叔父様が王子であった時に倒したブラッドグリズリーの革をなめして、作ったものですわね。叔父様御自慢の一品でしたわ」
「こちらは……、何かの皮靴ですわね。粗造りにみえて、繊細な装飾が施されていますわ」
「ナデシコ様がもっておられる靴は、サラマンダーの皮を利用して作った靴ですわ。非常に火への耐性が高く、皮本来の耐久性もかなりありますので、かなり高価なものですわね」
と、取り出す服飾はお姫様が説明してくれます。
「へー。前王って結構冒険者って感じの人なんだねー」
「ええ。王位を継ぐ前は冒険者などに扮して城の者を随分と困らせたことがあったとか」
「なるほど。でも、そうなりますと、冒険者をしていく中でなにかしら、情報を得るという可能性はありますわね」
「だね。でも、クローゼットの中にはないみたい。もう空っぽ」
光さんの言う通り、気が付けば、クローゼットの中身は全て取り出して調べ終わっていました。
さて、次の家具を調べようとしていると、田中さんが荷物を抱えて近くに下ろしながら口を開きます。
「よっと。お姫さん。そういえば、今更だが、前王の家族とかはいなかったのか? 遺品はその家族も持っている可能性があるんじゃないか?」
確かに、言われてみればそうです。
今の王様にお姫様という娘がいるのであれば、前の王様もそういう家族がいてもおかしくはないはずです。
ですが、その質問に対してお姫様は少し困った顔をして……。
「……叔父様は結婚をする前に出陣して戻りませんでした。だから、家族というのは、兄弟である私の父、陛下や、おじい様、おばあ様ぐらいです」
「何でまた、結婚前に?」
「理由は詳しくは聞いていませんが、王位に就く前に一つ武勲をということで、遠征に出られたと聞いています」
武勲欲しさがために、魔王城へ向かって死んでしまえば元も子もありませんわね。
生きているからこそ、価値があるというのに。
「となると、前王の血縁の子供などはいないわけだ」
「はい。ご子息やご息女がいるのであれば、王位はそちらに移りますわ。私の父は、王位を継げないと知って、早いうちに政略結婚をしていまして、私が生まれたわけです。ああ、その関係でいうのであれば、どの相手がいいのかを見極めていた、という可能性もあるでしょう」
「ああ、そういうのもあるだろうな。ま、遺品が散逸してなさそうで安心だ。ここになければ、もう探す必要はないってことだな」
「はい。そうなります。しかし、叔父様と仲が良かった宰相が何かを知っている可能性はありますが」
「ま、あの性悪の宰相を問いただすのは、この場所の調べ物が終わってからだな」
確かに、宰相さんの言葉はどこか嘘くさいので、頼るのは最後にしたいですわね。
と、2人の話を聞いていましたが、まずは調べ物をしないと終わらないので、田中さんが持ってきた家具へと手を伸ばす。
「田中さん。こちら調べますわね」
「ああ。任せた」
どうやら、持ってきた家具は長方形の小型のタンスのようなもので、小さな取っ手が3つほどついています。
私はまずは、上の段から順番に引き出しを開けて確認を始めたのですが……。
ゴロン。
と、そんな音と立てて、引き出しの中で何か丸いものが転がる音がしたと思ったら、透明な丸いビー玉のようなものが出てきました。
「おお。ビー玉だ。こんなのもあるんだー」
「あっ」
いつの間にか覗いていた光さんが、ビー玉のようなものをひょいと取り出します。
「なつかしー。見てみて、晃」
「ん? ビー玉じゃん。そんなもので遊んでないで……」
「それは、宝玉じゃないですか!?」
晃さんが注意しようとすると、ビー玉を見たお姫様がいきなり叫びます。
「うひゃっ!? ととっ!?」
「ああっ!?」
その叫び声に驚いた光さんが、ビー玉を落としそうになり、お姫様も慌てます。
どうやら、お姫様の様子を見るにただのビー玉ではないようですが、あのままでは、と思っていると、横から手が伸びてきて、空中を飛んでいたビー玉を確保します。
「何やってんだか。ルクセン君。ここにある物は貴重品だ。おもちゃじゃないんだぞ」
ビー玉、ではなく宝玉を掴んだのは田中さんでした。
そして、光さんに注意をします。
「あははー。ごめんなさい」
「で、お姫さん。これはそんなに貴重なものなのか?」
「ああ、タナカ殿たちはご存知ありませんね。そちらの宝玉からは魔力が感じ取れます。つまり、それは魔石なのです」
「魔石っていうと、魔物からとれる核みたいなやつか?」
「はい。基本的には核というのは、魔物の魔力に染まって属性をもっていますが、稀に属性に染まっていない魔石が出てくるそうです」
「それが、これか?」
「ええ。価値としては、そこまで高くはありませんが、それだけ多くの魔物と戦ってきたという証拠ですね」
「なるほどな。本当に冒険者をやっていた王様だったわけだ」
そう言って田中さんは宝玉を引き出しの中へと戻します。
「まあ色々出てくるのは仕方がないが、いちいち反応してたら、夜になっても終わらないからな。そこらへんは気を付けてな」
「「「はい」」」
という感じで、私たちの宝探し……ではなく、引き続き魔族の拠点に関しての資料がないか調べるのでした。
「というかさ、試験前の大掃除みたいな感じだよねー」
「いうなよ」
「確かにそんな感じですわね……」
年末が差し迫ってきましたが、世の中の家での男の仕事は力仕事って定番が決まっているよね。
まあ、そうやって掃除をしていると、へそくりとか出てきたりするのは、もうひと昔前かね?
それはいいとして、しばらく扱っていなかった倉庫の片づけとかわくわくするようなことがあるよね?
中身を知らなければ。
中身を知ってれば、ただの重労働……。