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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
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第104射:意外と逞しい

意外と逞しい



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「「「……」」」


3人とも黙っていて、気が付けば夜になっていた。

まあ、仕方ないよね。

これからどうするか。それを考えろって言われたんだから。

僕たちの判断1つで、多くの人の生死が関わってくる。

今までも、自分や仲間の命を左右する判断はあったけど、流石にこの判断は重いよ。

僕もいつものようにちゃかせないや。


「……ふぅ。このまま黙っていても仕方がないですわ。まずは、今日は個人で考えをまとめるか、それとも軽く話をするかどうか決めませんか?」

「あ、さんせー」


流石、撫子。みんなが口を開き辛い状況で率先して動いてくれるのはやっぱり僕たちのリーダーだね。


「晃もいい?」

「ああ。大丈夫。まあ、考えてもどうしようもないな。結果なんて分からないんだし」


なんか、魔族の村を出て行ってから、多少悩みすぎることは消えた気がする。

田中さんの失敗談とか聞いたからかな?


「でも、どうしたらいいのか分からないよなー」

「まあねー」

「そうですわね」


晃の言う通り、どうしていいか分からない。

何が正しいなんて、分かんないもん。


「俺だって死にたくないし、でもさ、村長さんのような人たちが戦いに巻き込まれて死んでほしくもない」

「うんうん。皆平和がいいよねー。誰にも死んでほしくない」

「……理想とわかっていも、そう願ってしまいますわよね。ただ、現実が見えていないだけですが。現に、ルーメルでの冒険者たち、リテアの冒険者たちは自分たちの意思で戦って死んでいきました。ただ自分たちが死んでほしくないというわがままではあるんですが」


そう。撫子が言うように、平和がいいとか、誰にも死んでほしくないってのは、ただ現実を見ていないか、わがまま、いいわけでしかないんだよね。

こうして、田中さんに選択を突きつけられて、黙っちゃうんだから、どれだけ自分勝手かってわかった。

結局の所、人に死んでほしくないってのは、自分が悲しんでいる人を見たくない、人の死を見たくないってのが根源にあるんだ。不幸なことからは目を背けたいだけ。


「そうなんだよなー。結局さ。俺たちは自分が責任を負いたくないだけなんだよな。冒険者たちの死を見たこともあったけど、今程なやんでなかったのは、自分たちの責任だとは思ってなかったからって分かった」

「ですわね。田中さんにどうしたいと言われて、どっちにも誰かの死が待っていると理解してしまい、何も答えられませんでした」

「どっちを選んでも人が死ぬもんね……。そんなの選びたくないよ。自分たちが誰が死ぬのを選んだのと変わらないし」


僕たちは人に死ねと命令できるわけがない。

でもさ、晃の言う通り、僕たちは逃げてるだけなんだよね。

前に田中さんが言ってたけど、地球でも人は毎日死んでいるし、それを知らないって言うには僕たちはそこまで子供じゃない。

日本だって、年間の自殺者が3万人を超えるってのも聞いたことがある。

でもさ、結局僕は自分に関係ないから、聞き流してた。

そんな薄情な人間がさ、いまさら人の生き死にを決めるってきついよ。


「でも、それを考えると俺たちってさ、今までずっと、田中さんにこんな決断を任せていたんだよな」

「ええ。田中さんは私たちをいつも助けてくれていました。それは、私たちを守って、責任を負っていたということですわね」

「だねー。これが大人と子供の違いかーって感じ」


僕たちは今までも守られていたってことだよね。

いや、物理的に守られていたのは知っているけど、精神的にもこうしてフォローされているとは思わなかったよ。


「正直、田中さんに鍛えられているときは、精神的に結構きついことは多かったから、こっちはスパルタなんだーとか思ってたら全然違ったね」


僕がそう言うと2人とも頷く。


「ちゃーんとよく考えて、周りの情報をしっかり集めて、僕たちが生き残れるように、壊れないようにギリギリでやってくれたんだなーって」


いやいや、本当に大人の配慮だよねー。

と思っていたら撫子が突然声を上げる。


「ちょっとまってください」

「ん? どうしたの?」

「いえ、田中さんの質問に対して、答えが見つかった気がします」

「「え!?」」

「私たちは答えを出せと言われただけで、正解を出せとは言われていませんでした」

「まあ、そりゃなぁ」

「正解なんてあってないようなもんだし」


みんなが救われる答えがあれば、誰だってそれに飛びつきたいよ。

でも、そんなのはない。


「はい。その通りです。正解なんてあってないようなモノ。ですから、私たちがどうしたいかを言えばいいんです」

「どうしたいかって、そりゃー、人死には出したくないよねー」

「だよな」

「ええ。それでいいと思います」

「え!? それは具体的な作戦じゃないし……」

「駄目なんじゃないか?」


何の解決にもならないし、アキラの言う通り駄目な気がするんだけど、撫子は自信満々だ。


「別に私たちに全て作戦を任せるって話じゃないですし、元々どうしたいかと馬車の中で聞かれていたでしょう? おそらく、私たちが何を望んでいるのかを聞きたいんだと思います。私たちの言葉から」

「僕たちの言葉から?」

「ああー。何か作戦をするにしても、俺たちに余り無理をさせないためにってことか?」

「おそらくですが。私たちの意見を聞かずに無視してことを起こす気はなかったんじゃないでしょうか? そもそも、素人の私たちに軍事の事なんて判りませんから、何かすごい作戦なんて思いつくわけがありません」

「「確かに」」


なんてすごい説得力だ。

そういえば、勇者ってことで何でもやらないとって意識はあったけど、軍隊なんて扱ったことないし、戦争なんて経験はない。

こんな僕たちが作戦なんて立ててもたかが知れているだろうし、田中さんの作戦が一番に決まっている。


「あ、なら、今回はただ希望を言って、そのためになにをすればいいのか考えればいいのかな?」

「はい。それでいいと思います。まあ、無血で解決しようというのは虫のいい話ではありますので……」

「考えるにしても、魔族側を説得するしかないんだよな。でも、話す方法もないと……」

「まあ、今の段階では晃さんの言う通りです。ですが、別に今魔族が攻めてきてるわけでもないですし、まずはしっかり情報を集める方が先決でしょう」

「ああ、なるほど。最終的な目標は無血での解決って、もう血は流れているから、これ以上の被害拡大を防ぐとして、そのための情報を集めるってことだね」

「ええ。その通りです。まあ、結局のところ、血を見るところは避けられないでしょうが……」


撫子はそう言って、悲しげに笑う。

結局のところ、血を流すことになるってのは撫子も理解しているってことだ。


「でも、そのための努力は続けろってことかな? 田中さんが言いたかったのは」

「ああ、あきらめるな。ってやつか」

「ですわね。どんな状況でもあきらめるな。這いつくばってでも進め。考えることをやめるなと言っていましたから」


あった。そんなことを最初に言われた。

思考停止をするなって、最良の選択を取ったとしても、その後の展開をずっと考えろって。


「いつか、田中さんに頼れなくなる時もあると思います。そこで初めて経験するより、少しでもフォローできる内に私たちにこういう経験をさせているのだと思いますわ」

「自分たちの発言が何か左右するかもしれないってことも含めてかぁー」

「今まで、任せて、責任を負わせてたってようやく気が付いたから、的確だねー」


いやらしいというか、田中さんらしいというか、僕たちがおんぶにだっこだったというか……。


「じゃ、そういうことで今日はもう寝ましょう。悩み過ぎてかなり夜も更けていますし」

「そうだな」

「今日の話は明日田中さんに聞いてみればいいし、寝よう」


そんな感じで僕たちは寝るときには悩みをある程度解決できたので、ベッドに横になるとすぐに眠たくなって、目を閉じるとすぐに意識が遠くなった。



で、気が付けば朝。


「……寝るのが遅かったからかな、眠い」


まあ、遅いといっても精々0時前後だ。

日本で生活していた時は、常に起きていた時間帯なんだけど……。


「……こちらに来てから生活習慣が変わりましたからね。早寝早起きという感じで」


どうやら、隣のベッドで寝ていた撫子も目を覚ましていたらしく、そんなことを言いながら体を起こす。


「……撫子は眠くない?」

「昨日は夜が遅かったですからね。多少は眠いですが、身支度がありますからね……」

「だねー」


お互い、ぼさっとなった髪を見て苦笑いをする。

女の子は準備が大変なんだよね。

しかも、お風呂は毎日どころか無いし、自分で準備するしかない。

ということで、2人でのそのそと起き上がって、隣の部屋にある浴室の準備を始める。

わざわざ別室がある部屋を借りて、そこをお風呂場としているんだ。

ここに来たときは、お風呂も何もなくてびっくりしたよね。

皆でタオルというか、粗末な布を水で濡らして、体を拭くだけで、お湯に浸かるなんて夢のまた夢だった。

もちろん、シャンプーどころか石鹸無し、香油で頭を固めるとかいうひどい話だった。

しかも、最初はそこまで辛い訓練というほどでもなかったけれど、それでも汗だくになるような訓練を毎日していて、体を濡れた布で拭くだけ。

もう、この世界にそう言う面では絶望したね。

まあ、お城を出て行って、田中さんの代用能力で、地球の品物を呼び出せるって分かった時は歓喜したね。

石鹸とシャンプーが手に入ったんだ。おかげで、こうして……。


「じゃ、魔術でお湯をいれますわよ」

「おっけー」


僕と撫子は協力してお水を出して、私が火でお水をあっためるという合体技である。

ジャバジャバと音を立てて、湯船にお湯がたまる。

因みに、湯船も田中さんに出してもらっている。

いらなくなったら消せばいいからね。

田中さんの能力は超が付くほど便利なんだ。

きっと田中さんがいなければ別の意味で発狂してたね。



とまあ、そんな感じで朝風呂を満喫して、朝食に顔をだすと……。


「ん? 意外と元気そうだな。あの質問で悩んでいるかと思ったんだがな」


田中さんが多少驚いた感じでそう言う。


「いや、3人で話し合ったんだけどさ、やっぱり無血を目指して、まずは情報収集かなーって」

「ええ。今すぐ絶対的な答えを出す必要性もないかと思いまして」

「田中さんも言ってたからな。常に考え続けろって」


僕たちが田中さんの疑問にそう答えると……。


「おおっ。意外と成長しているな。びっくり。てっきりまた凹むと思ってたんだがな」

「ふふん。僕たちだって多少はね」

「まあ、悩んでも仕方がないと思いまして」

「みんなで頑張っていくって決めましたし、俺たちだけじゃなくて田中さんたちも同じですよね。リカルドさんも、キシュアさんも、お姫様も、カチュアさんも、ヨフィアも。みんなで頑張ればいいかなって」


そうそう。世界は僕たちだけってわけじゃないんだから、多くの人と考えればいいんだし、頑張ればいいんだ。


「だそうだ。リカルド、キシュア、ヨフィア」


僕たちの答えになぜか田中さんはリカルドさんたちにそう話しかける。


「成長しましたな」

「ええ。余計な心配でしたね」

「いやー。よかったですよー」


と、安心する3人。

どういうことなのかと思っていると、田中さんが答えてくれる。


「この3人の他にお姫さんとカチュアもな、昨日の夜、俺のとこにやってきて、心配だって言ったんだよ。ああ、リカルドとキシュアは早朝だったか」

「当然でしょう。ああいう決断に多くの責任が伴うことは、そうそう割り切れるものではありませんからな」

「はい。税金を徴収していた私はその苦悩は共感できます」

「でも、余計な心配でよかったです。今から色々大変でしょうが、私たちはアキラさんたちを助けますよー」

「ということだ。ひとまずは、みんなで頑張ってみるか」

「「「はい」」」


こうして、僕たちのこれから進むべき道は決まったのであった。

結局、今までやってきたことの延長だよね。

人生って案外こんなものなのかもしれないね。




過酷な環境は人を育てるという話。

でも、これはどうかねーと思う人もいるでしょう。

まあ、人は慣れる生き物とも取れますね。

とはいえ、心を病むことなく、健全な前向きな答えを出せたことを喜びましょう。


ですが、解決には届いてないんだよねー。

さあ、血が流れるのか!! それとも回避できるのか!!


それは、必勝ダンジョンが知っている。



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