第101射:情報整理と……
情報整理と……
Side:タダノリ・タナカ
穏やかな草原を馬車がこれまたのんびり進んでいく。
空は晴れて、程よいほど白い雲も出ている。
なんて旅するにはいい日だろう。
だが、俺はそんな天気と自然を楽しむ余裕はなかった。
『そうですかな? 私には大きなことを成し遂げる若者たちに見えましたぞ』
あの村長の爺さん、最後に結城君とお姫さんにでっかい釘を刺しやがったな。
期待している、信じている、言葉としての聞こえはいいが、あの時の2人にはこれ以上ないぐらい「呪い」の言葉となるだろう。
「勇者」として「姫」としての責務を果たせと村長の野郎は言い残した。
会話に付き合わずさっさと出ていくべきだった。
ああいう会話をさせないために、準備ができ次第でて行くと言って、村長の相手は俺がしたのに、最後に出し抜かれた……。
はぁ、俺もまだまだだ。
まあ、この2人が村長の言葉をどこまで真剣にとらえているかは分からんがな。
ルクセン君や大和君みたいに受け流せればいいんだがな。
と、そんなことを考えていると不意に大和君が話しかけてきた。
「田中さん。そろそろ村で聞いた情報を教えていただけますか?」
「あ、そうそう。村の中で話すのはあれだったんでしょ?」
ああ、そういえばそんなこともあったな。
村長がいらんちょっかいを出さないかと警戒してこっちで話したかったんだが、先回り?されたからな。
しかし、結城君やお姫様はもちろんリカルドたちも情報を気にしているようだから、気を取り直して村長から聞いた情報をある程度絞って説明することにする。
勇者のことは特にな。
勇者が実は魔族を逃がしていて、救世主扱いとか、今度はルーメルが結城君たちを真剣にやりに来るだろう。
敵に回られたら厄介すぎるからな。そうなる前に消すのがセオリーだ。
俺が話すのは、敵の派閥のことと、俺たちの情報は既に魔族にばれているということだ。
「あー、まあ、そうだろうとは思ってたけどさ」
「……もう私たちのことは伝わってしまったのですね」
「じゃあ、もう敵が攻めてくるんですか?」
ルクセン君はまあそんなものかという感じで、大和君は今後の展開を考えているみたいだ。
そして、結城君は俺の話を聞いて戦うしかないのか、といった感じの表情をしている。
しかし、この中で一番警戒しなければならないのは……。
「アキラ様、落ち着いてくださいませ。タナカ殿は今すぐ攻めてくるとは言っていませんでした。むしろ、派閥がありお互いの足を引っ張っていると。そうですよね?」
そう、意外としっかり話を聞いている、ユーリアというお姫さんだ。
てっきり、国に戻れば突撃だーとか言い出しかねないと心配していたが、そこまでバカでもないようだ。
「ああ」
「では、時間がまだあるということですわね。これを宰相は知っているからこそ、焦ったわけですわね」
「たぶんな」
宰相が俺たちを排除して使える勇者を欲したのはこういう理由からだ。
いつになるかはわからんが、遠くないうちに、敵が来るとわかっていて頼りにならん勇者はさっさと入れ替えたかったわけだ。
というか、勇者の戦力を把握せず喧伝するから悪いんだろうが。
それとも勇者の名前でも使って、各国を巻き込んで連合でも作って攻め込むつもりだったか?
でもなー、既にガルツとロシュールは戦争中。リテアは内部分裂から内戦が起きそうだしな。
ここまで周りの情勢が不安定でなんでここまで強硬姿勢をとった?
全く分からん。それともこの情勢不安定が魔王や魔族の仕業と受け取って動き出したか?
「ま、詳しいことは宰相から聞くとしよう。どうせ、こんな状況だから手を貸せとか言い出すんだろうが。間違っても頷くなよ?」
俺がそう言うと全員が頷く。
下手な返事は利用されるというのはよくわかっているからな。
「で、リカルドたちに聞きたい。兵士として、メイドとしては今までの状況を踏まえて、どう見る?」
こういうことは、王女や勇者といった特別な立場の人よりも、より一般人に近い人たちの意見の方が参考になったりする。
しかし、質問した当人たちは聞かれたことに驚いている様子だ。
「私たちの意見ですか?」
「ああ、いくら上が騒いでも国民に戦う意思がなければ兵士は集まらんし、集まっても士気が低くて使い物にならんからな。そして一番大事なのは、戦争が始まるという雰囲気は感じたことがあるか?」
ここが一番重要だ。
幾ら俺たちが止めようが、国民がやる気になっているなら止めようがないのだ。
逆に王やお姫さん、そして宰相が戦争だと叫んでも、人が集まらなければ戦争はできない。
まあ、普通は国家のトップが号令かければ、よほど人気が落ちていない限り、戦争という流れになる。
あ、日本は別な。あそこはちょっと特殊だ。
で、肝心のリカルドたちの様子は……。
「いえ特には何も感じませんでしたな。元部下たちも普通に過ごしていましたし、会話をした限りそう言う話はありませんでしたな」
「私も同じです。ルーメルに戻った際色々知り合いから話を聞きましたが、噂話で上がるのは、以前の冒険者ギルドと闇ギルドの戦いと、貴族と魔族が繋がっているという話ですね」
「キシュアさんの言う通りー、それで一時期ピリピリしてましたけど、今ではそれも落ち着いていますね。姫様や巡回の兵士さんが多く動員されて、その不安を解消していましたからー」
「部下のメイドの話からは、基本的にあの事件、宰相様ドトゥス伯爵のことで色々怯えてはいますが、戦争という雰囲気は有りませんでした」
なるほど。どうやら、ルーメル王都は戦争という流れにはなっていないらしい。
ひとまずは安心そうだな。
「じゃあ、まずは王都に戻って宰相の話をもう一度詳しく聞く必要がある。まだ色々知っていることがあるみたいだからな」
あの村をあのまま放置していた理由も不明だ。
宰相のやり口なら、既に何か手を回しているかと思ったんだが、特にそんな様子は見られなかった。
俺たちを戦争に駆り出したいならもっと効果的なことがあるからな。
魔族が村を全滅させてその場面を、結城君たちに見せるということもできたはずだ。
それをしなかったということは、まだ何かを抱えているからこそ動いていないのだろう。
恐らくは、村長から聞いた魔族の派閥の関係だろうな。
派閥を利用できれば、敵対する魔族の数をこちらが苦労することなく減らせるわけだから、こんなに楽なことはない。
「そっかー。結局、戦うのかー」
「仕方ありませんわ。ばれていないということの方が変なのですから、これからは注意して動くことを心がけましょう」
「だな。こんなことで死んでたまるか」
「だね。死にたくはないよね。なるほど、シンプルだ。あれだけ悩んでた晃からそんな言葉が聞けると思わなかったよ。成長したねー」
「相変わらず光がおちょくってくるんだが、そろそろ口引っ張っていいかな?」
「2人とも馬車の中で暴れるのはやめてください。なぐりますわよ?」
「「はい。すみませんでした」」
大和君が叱ると素直に謝る2人。
なんというか、大和君はなんだかんだ言いながらもしっかりリーダーをやってくれている。
結城君もルクセン君が言うようにそこまでこの話を気にしていないようだ。
深く考えたところでどうにかなる話でもないからな。
聞く程度でいいんだよ。こういうことは。
「ですが、晃さんの言うように死ぬのはごめんです。しかしながら、話を聞く限り、魔族の国の方にも、村長さんのような皆と仲良くしよう思われる方がいたのは幸いです。今後はそういうところを攻めてみる方がいいのでは? 運が良ければ戦うことなく済むのではないですか?」
「可能性はある。だがな、以前のルーメルが行った魔王への出兵で、親交、融和派が劣勢なんだとさ」
「「「あー」」」
「「「……」」」
そう納得する勇者3人と、気まずそうに顔をそむけるルーメルの連中。
別にお姫さんやリカルドたちが直接悪いわけではないが、今回のトラブルの元というならそこだしな。
「それに、どうにかしようとするのは、恐らくこのメンバーぐらいのモノだ。魔族に偏見がないからな。この世界の人たちは、基本的に魔族は危険な生き物、排除すべき敵という認識があるから、任せたところで、失敗するのは目に見えている」
「だから、戦争を止めたいのであれば、私たちが動く必要があると?」
「そうなる。危険なことに真っ先に首を突っ込む形になる」
残念なことに、大和君たちが戦争に参加せずに穏便に済ませるのは、大和君たちが一番危険な事をしなければいけないという矛盾。
「まあ、あの宰相や王が何とかしてくれる可能性もあるが……」
「「それはない」」
と即座に否定の言葉が入る。
言ったのはルクセン君と意外なことにお姫さんだった。
はもったルクセン君もお姫さんの発言には驚いていて……。
「いやいや、僕が言うのもなんだけど、宰相は仕方ないとして、王様は信じてあげていいんじゃない? お父さんでしょう?」
「残念ながら、お父様には戦争を止めるといったことはできないでしょう。今まで宰相の動きも知らなかったのですし、私が勝手に動くのも止められなかった。流されやすいというか様子を見るタイプですね。その後の勇者様たちへのフォローも中途半端です。何かあった時の保険として勇者様たちを頼りたいというのが丸わかりでした」
「「「……」」」
適確な指摘過ぎるので何も言えなくなるルクセン君たち。
ルーメル王は確かに、人当りは良いし俺たちにもちゃんと謝罪をしてくれたが、まずはこうなる前に動くべきだったというのはお姫さんの指摘通りだ。
どちらかというと、率先して動く方ではなく、起こったことを治めるタイプの指導者なのだろう。
自ら動くのではなく、相手の動きをみてから決めるタイプだ。
だから、後手に回りやすい。優しいともとれるが、お姫さんの言うように、もっと毅然として、しっかり意見を言っていればこんなことにはならなかったといいたくなる気持ちも分かる。
まあ、こればかりは人の性格、向き不向きがあるからなぁ。……巻き込まれた大和君たちは憤慨ものだろうが。
さて、気まずい雰囲気を払拭するためにも、俺が話を続けるか。
「そんな感じでというわけじゃないが、俺たちが動かずに戦争が回避されることはないと思っておいた方がいいな。そこで俺たちがどう動くかは、結城君たちしだいってところだな」
「え? 俺たちですか?」
「どうして僕たちしだいなの?」
「……私たちが決めろということですか?」
「そうだ。結局、戦争になろうが、なるまいが、君たちにとっては関係のないことだ。逃げるもよし、協力するのもよし、独力で解決するのもよしだ。俺やお姫さんが無理強いしたところで本気は出せないだろうし、油断して死ぬことになったら、化けて出そうだからな」
結局は大和君たち次第だ。
所詮は誘拐犯が助けてくれといっているだけの話。
それを無視してもなにもばちは当たるまい。
関係のない人が死ぬ? そんなの地球で何万、何十万人と毎日死体になっている。
いまさら、知り合いでもない人の生き死にを気にする必要はない。
「ま、時間はその時まである。じっくり考えることだな。そして3人の意見が一緒になる必要もない。人それぞれだからな。戦うのが怖いと思う者がいて当然だし、それでも人助けをしたいというのもいるだろう。意外性で合法的に人を殺せるってことで参加するか?」
「「「絶対しません」」」
冗談で言ったんだが、3人は速攻で否定した。
まあ、合法的に仕事ってことで人を殺して喜ぶジョシーみたくは成りたくないよな。
さて、大和君たちはどんな答えをだすのやら。
場合によっては俺は抜けることになるかね?
不可解な国内状況。
宰相の意図、そしてアキラたちの答えは?
そして、その中でタナカはどう動くのか。