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なろうだけよ-短編

覗いてしまった。

作者: ササデササ

 約一メートル。

 俺が住むワンルームマンションから、裏道一つ挟んだ隣のマンションまでの距離。

 それが、約一メートル。

 裏道、車道のない歩道だけの裏道、それを一つ挟んでの距離にマンションがあった。

 カーテンをしなければ、お互いがお互いの部屋を見れてしまう距離。

 



 ある日のこと。

 秋だってのに、やたらと蒸し暑い日だった。

 窓を開けながら寝ようとベッドに横になったときに聞こえてくる不快な声。

 酔っ払いらしき声が聞こえた。

「おえー」

 吐いたのか。

 時間は、深夜

 うるせーな、と俺は怒りながら外を見てみた。

 あらら。

 隣のマンションの一室でとてもラッキーシチュエション。

 着替えが見えた。

 

 二十中盤?

 いや、全然顔は分からん。

 でも、スーツがそれっぽい。

 学生じゃない、と思う。多分。

 でも若いと思う。多分。


 俺は見た。ジーッと見た。


 そして……、目が合った。


 やばいかなと思いつつ、俺は見てないフリをしながら、ゆっくり空へと視線をそらした。


 十分待機


 もう一度、着替えしてた窓を見ると、カーテンがしてあった。




 

 数日後。

 今日は休日。

 そして、今日も、あちーデー。

 クーラーしない主義の俺は、今日も窓を開けるのだけれど……。

 ん? エコ?

 違う。

 ビンボー。

 とにかく、窓を開けて、窓の対角線上に扇風機を置く。

 これだけで、充分涼しいもん。

 うそ。

 あちー。

 ぐてー。


 まぁ、良いか。

 予定もないし、今日はこのままぐてーデー。


「あそこだよ」


「そうなの? 夜だったんでしょ? 分かんなくない」


「うん。何度も数えたもん」


 声が聞こえてきた。


 どうでも良い。

 ぐてー。

 ごろごろ。

 ぐてー。


「Aは自意識過剰なんだよ。だって、その後は空を見てたんでしょ?」


「うん。だけど普通はさ、こんなに近かったら、隣のマンションの視界が気になって見れなくない?」


「さぁ?」


「絶対覗かれたの!!」


 ぐてー……。


 出来ない!!


 あれあれ。

 なんだか、胸がドキドキ。

 この声、あの時の着替え女性じゃないか?

 一メートルの距離は、視界だけでなく、声も届けてしまうらしい。


「でも、あのマンション、ってかあの部屋か。

 あの部屋さ、あそこしか窓ないじゃん。

 夜空見たかったら、あの窓使うしかないじゃん?」


「違うの! だって、あいつカメラもってたの!!」


 多分、こいつらの言ってるのは、俺のことらしい。

 カメラは持ってなかったけどな。

 動けん。

 声が聞こえてる事を悟られてしまう。

 ぐてーのフリを続ける。

 動いたら、この会話が聞こえてるのがばれる。

 嫌待てよ。

 カメラは絶対持ってなかった、俺じゃないかもしれん。

 

「だって、あいつの顔見てよ。超だらしないじゃん。寝方もだらしないじゃん」


「どうして、それが見てた証拠になるのよ」


「だって、だって、見えてたもん」


 あ、やっぱり俺のことだ。

 イライラする。

 女って生き物は、大概自意識過剰だよな。

 そんなにそんなに、興味もってね~よ。

 いや、ゴメン。

 確かに、ドキドキしながら見入っちゃった。

 でも、まだ下着の段階で、ばれちゃったじゃん。

 そこから見てないじゃん。

 あ~。クソ。

 反論するか?

 でも、反論すると心当たりがあることバレるな。

 モヤモヤする。イライラする。


「あの部屋、突撃訪問しよう。そうしたら分かるよ。動揺の仕方とかで」


「でも、違ったら気の毒じゃない?」


「良いよ。絶対絶対見えてたもん」


 あ~、もう! 

 いい加減にしろよな。

 俺は遂に反論する事にした。

 すばやく起き上がり、窓に近づく。

 怒鳴ろうと、ベランダに出るんだけれど、


「うるせ~ぞ! 偶然視界に入っただけじゃん。数秒のことじゃん。嫌ならカーテンぐらいしろよな!」

 

 俺は、最後、ぶち切れた。

 もうどこか忘れちゃったけれど、例の部屋を探す。

 でも、見当たらない。

 人影が見当たらない。

 とりあえず、もう一度抗議してみる。


「だから、偶然だっツーの! それに、カメラとか持ってないし!」

 

 その時、天気雨が降ってきた。

 いや、違う。

 雨じゃない。

 このちょっと粘性質のある液体は、雨じゃない。

 多分、よだれだ……。


 上を見ると、

 上の階のベランダから、さかさまでこっち覗いてる女二人が見えた。


「ほら、見えてるし聞こえてるじゃん」


「ホンとだね。ヤバイね。たべよーね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読いたしました。 テンポが良く、最後まで何があるのかとドキドキしながら読んでしまいました。普通の会話の中にある小さな違和感のなかに恐怖を煽る手法は勉強になりました。 最初の女と最後の女は一…
[良い点] ありえそうな環境を書いてるのが良いです。 窓とか開けてると嫌な声とか聞こえてきますよね。 [一言] 最後のところでゾクッとしました。 どこがホラーなのかな~なんて読んでたら、最後に不意打ち…
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