8
外を歩いたのは、ほんのしばらくの間だったけど、エアコンの効いたカフェに入った時は天国だった。
来住は、メニューを私に差し出しながら、
「こんな暑い日に誘って、ごめん」
と、別に暑いのは彼のせいじゃないのに謝ってくれた。
「けど、今じゃないと、どんどん先輩に会う機会も減ると思ったから」
来住は2年。私は3年。受験だし、もう部活に出ることもなくなっていく。
オーダーを済ませ、注文したアイスティーがやってくるまでの間、私たちは無言だった。
それは、気まずい沈黙ではなくて、ただ降りてきた静けさと言えばいいのか。
私は、向かい合って座った来住を見ていた。
来住は軽く目を伏せて、ゆっくりと水を飲んでいる。
そして、アイスティーがやってきた。
「りか」
いきなり名前で。
「何、みてたの?」
その問いは、すんなり私の中に入ってきて、
「ああ、来住」
と何気に答えてしまった。...まずかったかもしれない。
赤面しそうな場面になると、かえってポーカーフェイスしてしまう私で。
反対に、来住の方が、一瞬絶句した。
それから来住は、意を決したように、
「先輩。返事、聞かせて」
と言った。
私は、ストローでグラスの中の氷をつつく。
「先輩」
来住が、呼んでる。
「....一番好きなひとと、付き合うべきだと思う」
逃げるように私が言うと、
「だから、俺はっ」
来住は、身を乗り出した。それから、はっと腰を落とし、
「...先輩は、違うんだっけ」
呟いた。
「まだ、先輩のこと...」
来住は最後まで言わなかったけど、言いたいことはわかる。
まだ、先輩を好きなのか。
私は、首を振った。
「そうじゃないと思う。けど、わからない」
「俺じゃ、だめ?」
まっすぐに。私を見てる。
私は、たまらずに視線を逸らした。