7
ストーリーは、息もつかせぬ展開で、主人公の冒険にドキドキハラハラさせられっぱなし。とはいえ、スクリーンを見つめながら、やっぱり何故だか隣が気になって仕方なかった。
来住とは、部活内でも結構よくしゃべるし、仲もいい方だと思う。
だけど、こんなふうに二人っきりでいることなんてなかったし、まして、恋愛対象として見たことなんてなかった。
ひとつ年下の男子。普通の男の子。
顔も、それなり。悪くはない。
機転もきくし、頭もいいんだろう。中学では、水泳部だったそうで、細いけどよく鍛えられた感じ。今でも、日焼けと塩素まけで髪は薄い栗色をしてる。
こどもっぽいところもあるけど、面倒見はよくて、さばけた性格。
....結構、モテるかもしれない。
映画の世界に入りこみ、主人公の冒険に一喜一憂する一方で、私は来住のことを考えていた。
来住。なんで私なの?
こんなヤツを一番なんて、言っちゃっていいの?
私も。なんで出てきたの? 待ちぼうけさせちゃいけないから? 告白されたりしたら、もちろん嬉しいよね。でも、それだけ?
待ち合わせ場所で、通りすがりの恋人たちを、この暑いのにって斜めに見ていた。幸せそうでも、その内側は見えなくて。そんな曖昧さが、どうしても不安に思えたのは。
エンディングテーマが流れ出すと、ぞろぞろ席を立つ人が出てくる。でも、音楽が終わって明かりが点くまで、私と来住は黙って座ったままでいた。
スクリーンに幕が降りると、やっと彼が私の方を見て、
「そろそろ、出ますか?」
と言った。丁寧というより、ふざけた物言いで。
「そうだね」
私は答えて、席を立った。
☆ ☆ ☆
映画館を出て、真夏の喧騒の中に出ると、来住は目を細めながら空を仰ぎ、肩を上げ下げした。
「どしたの?」
大きく息を吐いている来住にきくと、
「......緊張した」
短い答えが返ってきた。
そういえば、来住、本編が始まってから微動だにしなかったような....。
「先輩が横にいると思うと、なんか動けなかった」
.....笑っちゃ、いけない。笑っちゃ.....!
来住ったら、上映が始まる前は、歯の浮くようなことを言ってたくせに。意外と、純情。
我慢しきれず、腰を折って笑う私を、来住は恨めしそうな顔で見下ろした。
それから、
「暑いっ!」
と喚いて、
「どっか、入ろっ」
勝手にすたすた歩いて行く。
私は笑いながら、来住の後について行った。