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確かに、無理矢理だった。
7月最後の部活も終わり、お疲れさま、と解散した後のこと。
ECSは、そんなに熱心な部でもなく、8月の活動予定はなかったから、 これで、次にまとまって会うのは、2学期ね、という暗黙の了解で。
だけど、来住は、真っ直ぐ帰るなら別方向のなのに、駅のホームまで追いかけてきて、いきなり、「俺と付き合ってください!」だもの。
私に答える間を与えず、今日の時間と場所を言い捨てて、走り去った来住。
...私は。例え、一方的だったとしても、約束を放り出せなくて。待ちぼうけさせたり、できなくて。
ただ、それだけで、気が重いながら、指定された時刻に充分間に合うよう家を出てきた。
そして、今、私は来住の隣に座っている。
「そんなんじゃ...」
バツが悪くて言いよどむと、
「いーんだよ、そんなんで」
と、来住は微笑んだ。
都合よく照明が消え、スクリーンの幕が上がった。しばらくは、本編前にコマーシャルが続く。
「さっき」
来住が、スクリーンを見つめながら言った。
「駅のとこで、何、考えてた?」
「どして?」
私も、じっとコマーシャルを見ながら、聞き返した。
「なんか、遠い目してたから」
軽薄そうに聞こえる画面の宣伝文句に混ざって、でも、来住の声は妙に深刻だった。
「結構、カップルが多いなーとか、思って見てた」
取り敢えず、そう答えた。
「それだけ?」
突っ込まないで。本当に考えてたことを、言っても、いいの?
それでも、彼が言葉を待っているので、
「みんな、一番好きなひとの隣にいるのかなー、って」
結局、努めて明るく私は言った。
先輩と、デートらしきことをしたこともある。私は有頂天だった。だけど、先輩にとっては、後輩と歩いてる、ただそれだけのことだった。
「俺は、一番好きなひとの隣にいるよ」
来住は、言った。
「先輩は、違うかもしれないけど」
言葉に自嘲的な響きが混じる。こんな来住を、私は知らない。
もしかして、私は、先輩と同じことをしてるんだろうか。
「誰もが、一番好きなひとのそばにいられるわけじゃないから。俺は、けっこう幸せなほうだと思うけど?」
来住は、表情の曇りを消して、またスクリーンに視線を戻した。
そのまま本編が始まって、私は応えないままでいられた。