表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
first  作者: 真織
6/9

6

確かに、無理矢理だった。

7月最後の部活も終わり、お疲れさま、と解散した後のこと。

ECSは、そんなに熱心な部でもなく、8月の活動予定はなかったから、 これで、次にまとまって会うのは、2学期ね、という暗黙の了解で。

だけど、来住は、真っ直ぐ帰るなら別方向のなのに、駅のホームまで追いかけてきて、いきなり、「俺と付き合ってください!」だもの。

私に答える間を与えず、今日の時間と場所を言い捨てて、走り去った来住。

...私は。例え、一方的だったとしても、約束を放り出せなくて。待ちぼうけさせたり、できなくて。

ただ、それだけで、気が重いながら、指定された時刻に充分間に合うよう家を出てきた。

そして、今、私は来住の隣に座っている。

「そんなんじゃ...」

バツが悪くて言いよどむと、

「いーんだよ、そんなんで」

と、来住は微笑んだ。

都合よく照明が消え、スクリーンの幕が上がった。しばらくは、本編前にコマーシャルが続く。

「さっき」

来住が、スクリーンを見つめながら言った。

「駅のとこで、何、考えてた?」

「どして?」

私も、じっとコマーシャルを見ながら、聞き返した。

「なんか、遠い目してたから」

軽薄そうに聞こえる画面の宣伝文句に混ざって、でも、来住の声は妙に深刻だった。

「結構、カップルが多いなーとか、思って見てた」

取り敢えず、そう答えた。

「それだけ?」

突っ込まないで。本当に考えてたことを、言っても、いいの?

それでも、彼が言葉を待っているので、

「みんな、一番好きなひとの隣にいるのかなー、って」

結局、努めて明るく私は言った。

先輩と、デートらしきことをしたこともある。私は有頂天だった。だけど、先輩にとっては、後輩と歩いてる、ただそれだけのことだった。

「俺は、一番好きなひとの隣にいるよ」

来住は、言った。

「先輩は、違うかもしれないけど」

言葉に自嘲的な響きが混じる。こんな来住を、私は知らない。

もしかして、私は、先輩と同じことをしてるんだろうか。

「誰もが、一番好きなひとのそばにいられるわけじゃないから。俺は、けっこう幸せなほうだと思うけど?」

来住は、表情(かお)の曇りを消して、またスクリーンに視線を戻した。

そのまま本編が始まって、私は応えないままでいられた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ