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私は、好きだった先輩を追いかけて、高校に入り、部活に入った。中学時代から、3年越しの片思い。
結果は...撃沈。
あっさり振られて、当の先輩は、語学力磨をくため、留学中だ。
「でも、なんで、来住が知ってんの?」
私は、先輩のことを誰にも言った覚えはない。
「わかるよ」
と、来住は言った。
「センパイは、ずっと先輩を見てたから」
来住が先輩と接したのは、ほんの数か月だ。来住たち一年生が入ってきて、すぐに先輩の留学話が持ち上がった。
私は、その時すでに振られていて、それでもまだ瞳は彼を追っていた。
...それに、来住は気づいていた?
「俺は、ずっと先輩を...りかを見てたから」
来住は、きっぱりと言い切った。赤面もせずに、よくもそんなことが言えるもんだ。
「なんで、私なの?」
聞くと、
「さあ?」
ただ私を見つめ返す。
隣に、ちょっと手を動かせば触れるほど近いところに、こうして座っているのが、なんだか気詰まりになってくる。
「さっき言ったっしょ? 理想だって」
あんまり軽く言うから、
「外見だけじゃ、わからないでしょ」
反発すると、
「ちゃんと中身も見てます」
そんなことを言う。
「もう、先輩のそばに2年もいるんだよ?」
嘘をつけ。まだ、1年と数か月じゃないか。
「だからって!」
声を荒げてしまった。
そんな自分を反省して、私は、椅子の上で少し小さくなる。
「たとえば」
来住が、諭すようにゆっくりと話す。
「俺がドアを開けて待ってると、先輩は、ありがとうって言ってくれるだろ?」
「そのくらい...」
私が口を挟みかけると、来住は、まあ聞いて、と続けた。
「結構、トーゼンって顔して通ってくヤツもいるんだ。...今日のことにしたって。俺が、無理矢理誘ったんだから、すっぽかしたってよかったんだ。でも、先輩は、ちゃんと来てくれた」