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桜の牢獄  作者: コガラシ
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2-2 探偵と少女

  



 祭原は両鼻にこよりを突き刺し、先ほど地面に打ち付けた鼻から

 あふれ出す血潮を抑えながら資料に目を通し、

 調査を概要をメモに書き込んでいった。

 仕事に使う道具をカバンに詰め込み、

 準備が整った祭原は鏡の前に立ち、目薬を刺す。


 180cmを超える長身の祭原は、

 低い化粧台の鏡から顔がはみ出すので屈みながら鏡を見る。

 面倒くさがり屋の、鏡を別のものに代えたり、鏡の位置を変えようとしなかった。

 屈みながら、いつも付いているはずの自分の目玉を、不安そうに確認する。

 光に当らなければ解りにくいが、祭原の左目は紅い。

 両目の色が違う、いわゆるヘテロクロミアだった。

 髪を後ろにかき上げ「行くか…」と呟き、

 床に散らばったゴミを足払いしながら、 

 事務所の奥の部屋のドアを開けた。もうひとつの準備をする為に。


 「仕事が入った、手を貸してくれないか…」


 祭原が清水の時のだらけた口調ではなく、やけにしっかりとした口調で言った

 部屋の奥でTVゲームに興じている巫女服の様な格好をした少女は、声を掛けられても

 液晶の画面から目を離さない


 「我々は一心同体の存在。言わば二人でひとつの人間みたいなものだよ、

  祭原さまは脳であり、心臓である、私は手であり、足でもある。

  主の思う通りに動く、それが私の役目なんだから、

  頼みごとなんて、わざわざ畏まる必要はないよ」


 少女はこんな奇異な事を、全くの本気で淀みなく話すので、祭原は内心ゾッとした。


 「一心同体だと、勘弁してくれぇ。俺は俺。アンタはアンタだ」


 引きつった顔で言う祭原。

 するとTVゲームを辞め、少女は振り返った

  

 「我々は血の盟約で結ばれた仲だ。恋人や肉親より、もっと強い絆で結ばれてるのだ。

  冷たいじゃないか、祭原さまよ」

 

 少女は音も無く祭原の足元に移動し、

 140cmぐらいの身長を精一杯背伸びして祭原の顔をじっと見た。

 何だと祭原が思う間も無く、少女急に祭原の鼻血止めを抜き去った。

 開放されたノズルのように噴出す血、円弧を描き祭原はそのまま倒れた。

 

 「あははー。漫画みたいだ、あははは、おバカさんみたいだねえ」


 「月夜ぉぉぉ!!なにすんだよぉぉ!!血が!血が!?」


 「変に真面目ぶってるからさー 祭原さま

  さて、ひさしぶりに入った仕事はなにだ!? なにだ!?」

 

 少女の名は 月夜(つきよ)

 清水の如く流れる美しく長い黒髪、魂を吸い込みそうな大きな目

 雪のように白い肌、巫女副のような妙な服装も相まって、

 この世のモノではないような、そんな異質な雰囲気を持つ少女だった。

 祭原は訳あって、この少女とこの事務所で暮らしているが、

 未だに彼女の奇妙な立ち振る舞いに慣れず、ずっと振り回され続けている。


 「えーと、失踪した人間の行方とその原因を調査しろ、という依頼だ」


 「そんなの警察に任せればよいじゃないか」

 

 月夜はつまらなそうに言う。


 「これが結構な事件なのさぁ、月夜ちゃん。

  10人ほどの人間が同じ地域で、全くの前触れもなく、跡形もなく、消え去った。

  警察が半年前から捜査しているが、全くのお手上げだとさぁ。

  さっき、昔なじみの刑事が来て言っていたが、さながら神隠しのごとし、だとよ」 


 「警察が神隠しとか、ポルターガイストだとか、幸運の赤い壷とか信じているようじゃ

  この国もながくないねぇ」

 

 「だから愛国心溢れる俺こと祭原さまが亡国を防ごうというのだ!

  そして今回はお上がお客だぁ、給料も期待していいぞぉ。

  カップラーメンが主食となって久しい、

  そんな悲しい俺の食生活のためにも協力してくれ」


 「えー、もっとこう、悪の秘密結社とか、超能力者とか出てくる派手な事件がいいなー

  敵の攻撃を受けて死んだ祭原さまを乗り越えて、真の力に覚醒したいのに」

 

 「おまえ一体俺に何を期待しているんだよ。俺には変身ベルトも、

  イマジンブレイカーも無いオカルトに少し耐性があるだけの普通の人間だからな

  組織暴力と喧嘩できる力は俺には無い」


 「普通の人間というのは謙遜しすぎではないかな、祭原さま」


 「別に手からエネルギー波だしたり、ゴムみたいに手足も伸びん

  空中浮遊もしない一般人ですよ!

  ていうか、そんな事はどうでもいいんだってぇ!

  ご褒美やるから仕事に協力してくれぇ!」


 「じゃあ褒美として、あたらしいゲームをいっぱい買ってくれたまえ。

  今あるゲームはぜーんぶ、飽きてしまったよ。

  月夜は暇なので、祭原さまのラヴブラスに延々と汚い言葉を吐きかけ続けて、

  『サイテー!』としか返ってこなくなるまで、画面の女の子の高感度を下げたり、

  祭原さまのアカウント使って運営にBANされるまで禁止用語叫びまくったりしたり、

  そんな退廃的な遊びに興じるのに飽き飽きしてたところだったのさ」


 「ええっ、ウソォ!!なにやってんの!!貴様ああぁぁーー!!

  リンコちゃんがぁー!!ここまで愛を築いてきたのにぃーーー!!

  ごめんねぇぇぇー!リンコちゃん、ごめんねぇぇー!

  ああぁぁぁーーー!!仕事の金を殆どつぎ込んだ課金キャラが、

  アカウント停止になってるぅ!!なんてことをぉぉ!!月夜ぉぉぉーーーー!!」


 「さぁ、しごとーしっごとー」


 泣きじゃくる祭原を尻目に、巫女服に身を纏った少女はそのまま外に飛び出した。

 

 祭原はパソコンの前にショックで突っ伏したままだったが、

 携帯のメール着信のバイブで立ち上がった。

 相手はオンラインゲームの中で仲良くしていた女性アカウントだ。

 祭原はゲーム内で仲良く話していたこの女性アカウントに、

 半ば恋心に近い感情を抱いていた。

 先日、なんとか頑張ってチャットで口説き、

 ついにその女性のメールアドレスをゲットしたのだ。

 

 「ユリアちゃんからメールぅ!? メールキターーッ!口説いた甲斐があったよー!

  えーと何々ぃ…」


 <初めてメールさせていただきます、昨日のあなたの禁止用語発言連発、

  私は正直言うとネカマなんですが、そんな私でもあの発言は酷すぎだと思います。

  BANされて当然。

  せめてアナタからもらった装備、有効活用させていただきます。さよなら>


 祭原は膝から崩れ落ち、頭に落ちた絶望の重さでまた地面に顔面から突っ伏し、

 また血だらけに。

 祭原は一人、血まみれで泣きながら、仕事の為、金の為、外に飛び出すのであった。 

  

 「待てぇー!!月夜ぉーー!!」


 アスファルトに塗りつけられた桜の花びらを踏みしめて。

 



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