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桜の牢獄  作者: コガラシ
2/14

1-2 失踪事件

 

 「失踪事件の調査をお前に依頼する」

 ホコリ漂う空気の中で会合が行われていた。

 そこは、応接室の看板こそ掲げられてはいるが、乱雑に書類が散りばめられ、

 電子ポット、だるま、ゴミなどがカオスに混在している

 そんな、応接室の看板が泣いている小汚い一室。

 その部屋に似つかわしい、これまた更に小汚いボサボサ髪の無精ひげの男と、

 そこに似つかわしくない、綺麗に整髪剤で整えられた髪のメガネの男。

 

 無精ひげの男は、メガネの男の発言を聞いて餌を見る犬のように目を輝かせ、

 そそくさと後ろの電子ポットでコーヒーを作り

、甲斐甲斐しく客であるメガネの男に差し出した。

 

 無精ひげの男は祭原 宋祀(さいはら そうし)という。

 仰々しい名前に似合わぬ俗っぽい男だった。

 よれよれの黒紺色のスーツ、首元にやけに特徴的な首飾りをしている

 祭原はこの住居を探偵事務所として、曲がりなりにも探偵を営んでいる。

 部屋はその人の性格を現すように、服装はその人の個性を表すように、

 カオスにいろんな物が乱雑に置かれた部屋、皺だらけの服は

 祭原のいい加減で、面倒くさがりな性格を何より象徴していた。

 

 「聞こえなかったのか?もう一度言ってやる。

  失踪事件の調査を依頼する。」


 「はいはーい、聞こえてますよぉ、

  失踪事件だろうがなんだろうが、お金を貰えるんなら何でもお受けしますよお」

 

 祭原は椅子を反対に向け、抱え込むように背もたれを抱き、顎をその上に置いた。

 とても客をもてなす格好には見えない祭原を見て、メガネの男は眉をひそめた。  


 「さて、失踪事件についてだが…

  お前も知ってるだろう、以前からニュースで話題に…

  いや、お前の様な衣装棚をキノコの苗床にする人間はニュースなぞ見ないか。

  すまない、いきなり本題に入って困惑させてしまったな、

  類人猿と対話する心構えで私は話すべきだったんだ、可哀想なことをしたな。

  よし、底なし沼に落ちたタワシの様に哀れなお前に一から説明してやろう」


 メガネの男は上から排水溝に落ちた1円を見るような目で言った。

 汚いソファに座ろうともせず、竹の様に背をスックと伸ばし

 対面の無気力そうな無精ひげの男を見下ろした。

 メガネ男の名は清水 享一(しみず きょういち)


 身分よさげな顔立ちに、鮮やかな黒紺色のスーツがまぶしく、

 自信家であるといいたげに、やけにギラギラした目付きをしている。

 彼は服に金バッチが輝く、立派な刑事だった。

 その立派な刑事がお世辞にも立派に見えない

 "この"タワシ男に仕事を持ってきたのである。


 「知ってるし!!ニュースぐらいみてるし!何だよ!タワシって!?

  泣くぞ!?オイ!

  あれだろ女子高生の家出が増えてるアレだろ!?

  俺が探して優しく指導した上で家に帰してやるよぉ。

  だめだなぁ警察は、少女の心なんかわからんからなぁ、俺と違って」

 

 清水は祭原の下種な発言を全く意に介さず続けた。


 「この隣のT県F市で半年前から起きている失踪事件だ。

  既に10人が謎の失踪を遂げている。

  10人とも何の関係性もなく、半年も経つのに手がかりの一つすら見いだせない、

  消えた瞬間を見た目撃証言もない。

  失踪事件の被害者の一人は家族が目を離した、

  5分間の間に忽然と消え失せたという。

  まるで神隠しのように。」

    

 「警察の怠慢を神のせいにするのは良くないなぁ、"享ちゃん"よぉ」

 

 清水は祭原の目をまっすぐ見据えた。

 

 「"お前"が冷蔵庫で漬物と称して野菜を腐らせる仕事を続けた半年とは違う。

  事例が10件もある中で、T県警が全力で"半年間"も調査した結果だ。

  数百人の警察が調査して、手がかり一つ見つから無いというのは異常なのだ。

  

  人間が起こした事件には必ず跡が残る、

  跡を消したつもりでも跡を消した"跡"が残る。

  

  我々は、一ヶ月前にお前がこっそりタバコをポイ捨てしたり、

  幼女に発情したりしていても、

  どの銘柄のタバコを吸ったか、どの地点で捨てたか、

  どの幼女に興奮したのか、

  お前の様な社会のダニが起こす、

  ピコグラムの揺らぎさえ証拠としてつかんでみせる」


 「俺はロリコンじゃねぇし、タバコも吸わねぇよ!

  何だよ!!その悪意的仮定話は!!」

 

 清水は祭原の突っ込みを気にせず続ける。


 「この事件には"人が消えた"という事実、それ以外は何も無い。

  小さい米粒ではなく、10人も人間という大きなものが消えて

  何か動いた形跡、人間が干渉した後、何一つ見つからなかった。

  これは異常なんだ。

 

  普通の失踪ではありえない。

  この失踪は我々の理の外にある異常な事件だ。   

  異常な事件には、異常な手段を用い、

  異常の世界で残った跡を見つけられる人間が必要だ。

  だから、お前に依頼するんだ "宋祀"」

 

 祭原は名前を呼ばれて、嬉しそうに「ははっ」と笑った。 


 「久々に名前で呼んでくれたなぁ、享ちゃんよぉ。

  お国からの依頼だぁ、金は期待していいな?

  ははっ!今ぁ、金が無くてよぁ、最近カップラーメンしか食ってねぇからな」

 

 祭原は探偵を生業とした男であるが、

 生来のいい加減さと要領悪さが原因で、顧客や同業者に悪い印象を与えやすく、

 どんどん評判が落ち続けて、最近では仕事がほとんど来なくなってしまった。

 他の業者からの仕事の斡旋も無く、個人探偵事務所としては致命的である。

 閑古鳥が鳴き、応接室もゴミ屋敷と化す有様である。

 そんな祭原が未だに個人で探偵事務所を開設できる理由は、

 いわばオカルト、いわば怪奇といったような類の事件を扱える探偵だったからだ。

 

 オカルト、心霊、怪奇、そういった類の事象を信じる人間も少なく、

 また、そんな怪奇現象が度々起こるはずもなく、

 超常現象を扱う探偵が居るなんて、思いもしないだろう。

 客は事情を知る、ほんの一部の人間のみ。

 その為、その日暮らしが続き、かなりの貧乏生活を強いられている。

 ビールの一本すら我慢し、

 4月だと言うのに祭原は大好きな花見すらできないでいた。


 「なぁ、享ちゃん、もう花も散るころじゃない?完全に散る前に、

  事件が終わったら久しぶりに花見でも…」


 そういう祭原を無視し、清水はカバンからそそくさと書類を取り出した。

 二人は学生時代、同じゼミで学んだ友人だった。

 現在は仕事の依頼でしか顔を合わせない関係だが、

 祭原の能力を知る、数少ない友人である。


 「了解してくれたようだな、渡せる資料等を此処に置いていく。

  俺は成果をオフィスでエスプレッソでも飲みながら優雅に待っているよ、

  お前は精々、魑魅魍魎の中でもがいて、俺に捧げる結果を持って来てくれ給え」

  

 と言って清水は天然水のペットボトル飲み干し、

 空のボトルを応接室の床に投げ捨てた。

 先ほど差し出されたコーヒーは手付かずで放置のままである。

 

 「おぃいぃ!!ナニすんだよ!!ゴミ箱 ココ!!見えますか!?ねぇ!?

  ゴミ箱ちゃんが泣いてられますよ!?」

 

 「ゴミ箱と このゴミ部屋、どう違うんだ」


 清水は床に転がったカップラーメンのゴミを一瞥して立ち去った。


 「待って!前金ちょうだい!前金でステーキ食べるから、

  お願い!享ちゃーん!!カムバーック!!」

 

 祭原は追いすがろうとするも、清水の捨てたペットボトルに躓き、派手にずっこけた。


 今は4月の中旬、桜も散る頃。


 

もう4月も終わってしまいましたが、花見あんまり出来なかったんで俺もしたかったです。

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