7‐2 エピローグ
拘留所、
畳の上で膝を抱え、うずくまる男が居た。
救え無かった少女への罪悪感で出頭した男は、
これが少しでも彼女の為の償いになるんだろうかと自問自答していた。
枝垂桜の異空間から開放されてから、男の考えることはそればかりだった。
朝起きて、そのまま倒れる様に寝るまで、
自分の罪とその償いについて考える日常が続いていた。
もう届かない相手にどうやって償えばいい、
自分が出頭したところで、彼女の慰みにはならない、
でも、何か償わないと自分が耐えられない、
ああ結局、俺は自分が逃避する為に自首したのだ。卑怯者め。
男は延々とその思考を繰り返していた。
窓から刺す光が暖く、春の終わりが感じられた。
しかし、男は罪悪感という名の牢獄で右往左往し続ける。
彼女が消えた時、もっと他に言える事はなかっただろうか、
後悔しても、結果は何も変わらない。
しかし、男は答えがほしかった。
助けられなかった相手を救えた一言を、償いの言葉を、懺悔の言葉を、
自分も彼女と同じように囚われの身になることで、何か思い浮かぶと思っていた
しかし、結局は何も思い浮かばなかった。
ふと、窓から風が入った。
透き通る風の心地よさに男は顔を上げてしまった。
何処から迷い込んだのか、風と共に桜の花びらが牢に舞い落ちてきた。
男は花びらをじっと見る。
桜の花びらから男は自分を好いた少女の姿が思い浮かんだ。
今は枯れてしまったが屋敷にあった桜が綺麗だったと、
そんな話しを少女にしたのを思い出した、
少女はそれを聞いて、そこで花見がしたい と言っていた。
突然、心の檻が開き、男の胸に言葉が飛び込んだ。
「そうだ、俺は鏡子に"好きだ"と伝えるべきだったんだ」
男の喉に締め付ける様な痛みが走り、目頭が熱くなり、視界がにじんだ。
兄の眼を盗んで、少女と牢の前でいろんな事を話したりした事や、
買ってきたドーナツを檻越しに一緒に食べた光景が頭に浮かぶ。
男はあふれ出すものを留める事が出来なかった。
自分が流した涙を見て、ようやく自分の気持ちに気付いた男は牢の中で泣き続けた。