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桜の牢獄  作者: コガラシ
11/14

6-1 再会

 



 月夜の無事を確認し、祭原の全身に気力が漲った。

 鎖に吊るされたまま月夜は笑顔で顔をくしゃくしゃにして再会を喜んだ。 

 

 「祭原さまぁ、ごめん、ごめんね、助けに来てもらってなんだけど

  鼻血出しながら格好つけても、笑わせに来たとしか思えないよ」


 「うるせぇ!お前は黙って、俺に助けられろよぉ!!」

  

 月夜が再び呪詛を詠唱すると、鎖と共に西法寺夫婦は砕け散った。

 

 「ヒーローはいつでも切り札を持っているものだよ」


 「えぇー!俺、別に鍵探し頑張る必要なかったじゃん、お前一人で十分じゃねぇか!!」

 

 「いやいや、そうでもないのさ、これが」


 「何っ!」


 砕けた西法寺夫妻は一瞬のうちに再生し、再び月夜めがけて鎖を投げつける。

 咄嗟に月夜をかばい、鎖が交差する間に祭原は飛び込んだ、

 目標を失った鎖は祭原の上で暴れ、祭原の服ごと肉を裂く。

 

 「ぐぐぅ…!イテぇなぁ、ちくしょう、病院代も清水に請求しなきゃなぁ」


 祭原の目の前に、西法寺の夢で追いかけていた少女が檻越しに見えた。

 (そうか、この娘が鏡子ちゃんだな。)


 「祭原さま!うしろ、うしろ!」


 振り向くと、自分の頭蓋を割らんとバットがこっち目掛けて落ちてきていた。

、命の危険を感じた祭原の右目が紅く輝き、

 バットと祭原の頭の間に小型の竜巻が形成され、バットを弾いた。

   

 「よっし!間に合ったぁ!!」


 休む間も無く左右から復活した西法寺夫妻が、

 今度は祭原目掛けて鎖を左右から投げつけて来ていた。

 鎖をかわそうともせず、祭原は両手を横に広げた。


 「今度は喰らうかよ!」


 ジャケットの両裾から同じような鎖が飛び出し、

 祭原を巻きつけようと迫る鎖と絡み合い、

 鎖同士、雁字搦めになって地面に落下した。


 「うわぁ、祭原さますごい地味だよ。レーザーとか、

  無数のナイフとか投げて相手を攻撃しないと…」

 

 「うるさい、俺は平和主義者なんだよ!」


 祭原の力。異世界に干渉する力は、感知できない世界を認識するだけでなく、

 ある程度のレベルだが、その空間に自分の意識を投影して、

 具現化したり、異世界の理を曲げたり出来るなど、文字通り干渉できる。

 特に精神世界や霊的世界などの不安定な世界では威力を発揮し、

 他人の意識に干渉することで記憶やトラウマを捏造することも可能である。


 祭原は落ちた鎖を西法寺夫妻と兄に向かって念動力のように鎖を飛ばし、

 そのまま鎖で3人を縛りつけた。

  

 危険分子を拘束し、目的である鏡子が囚われている檻を破壊しようと試みた。

 しかし、檻はヒビが入っても一瞬で再生し、全く効果が無い。

 より強力な破壊のイメージを与えるため、祭原は檻に直接触れて破壊しようと、

 檻に手をかけたが、触れた所から火花が走り、弾き飛ばされた。

 

 強固な意志や怨念は、多少の干渉では揺るがない。

 (だから連れてきた、牢獄を開ける鍵を)

  

 誰かが降りてくる音が聞こえてくる、

 引きずり込まれた弟の西法寺周蔵が、やっと地下牢へ下りてきたのだ。

 縛られた兄は弟を見て、

 まるで案内するかの如くバットを鏡子がいる牢の方に向けた。


 バットの向いた先を見た西法寺の顔は驚愕と恐怖に塗りつぶされた。

 

 「鏡子っ……!鏡子なのか!?」

  

 「西法寺さん!? 西法寺さんっ!来てくれたのね!

  私、ずっと待ってたの!ここでずっと!」


 隔てていた檻が砕け散った。

 自縛の檻の少女『鏡子』と、鍵の男、待ち人『西法寺 周蔵』

 この世界(ろうごく)は、二人が出会うことで役目を終えたのだ。

 

 鏡子は腰が抜けたように動けない西法寺に向かって、

 一歩一歩を噛み締めるように近づいて行く

 

 「西法寺さん、私ね、寂しかったんだよ、何年も、ずっとここで待ってたんだよ。

  『俺が助けてやる』って約束、守ってくれたんだ…!嬉しいよぉ!」


 歓喜の涙を流しながら、鏡子は西法寺の胸の中に飛びついた。

 

 「ち…ち、違うんだ、俺はそんな気持ちで言った訳じゃないんだ、

  もう、お…お前は…その…殺されたんだよ、此処で、

  兄貴に俺と密通してたのがばれて殺されたんだ…

  俺は、お前が期待しているような男じゃないんだ

  『助けてやる』、『守ってやる』ってごまかしで言ったんだ…

  罪悪感をごまかす為に…

  汚い男なんだ、俺は…だから…」


 「助けに来てくれた!西法寺さん、好きなの!ずっとアナタが好きだったのよ!

  もう私、西法寺さんから離れないから!」


 「助けられなかったんだ!!お前は、俺のせいで…殺されたんだ!

  お前に好きになってもらう資格なんてないんだ!!

  体目的でお前に近づいたんだ! 

  ただ手近にやれる女が居ると思って…お前に…

  最低の野郎なんだ…俺は…」


 「ありがとう、助けに来てくれて、ありがとう!好きよ、西法寺さん!

  ずっと一緒に居てくれるわよね、西法寺さん!」

 

 「違うんだ、違うんだ、違う…」


 鏡子は西法寺の告白に耳を貸さず、ただ再開の喜びで一杯になっていた。

 二人の周りが歪み始め、どんどん二人は抱き合ったまま、

 液体の様に波打つ木の床に沈んで行く

 

 「まずいよぅ祭原さま、どうやら彼女はこのまま私たちごと心中する気みたいだよ」

 

 いつも余裕に満ちた月夜の余裕の無い声を聞き、

 祭原はさらに余裕が無くなってしまった。


 「階段が消えちまったぁ!!どうなってやがる!!

  出口はどこだぁ!出口ぃ!」


 空間が歪み、床がドロドロになって、祭原たちまで沈んでいっている。

 このまま肉体も取り込まれて行く恐怖にあせりが爆発していた。

 祭原の力では眼力を使っても空間の崩壊を防ぐことも、

 脱出口を創ることも出来なかった。


 「落ち着いて、祭原さま!

  待ち人を待つ執念が膨らんで怨霊になった彼女は

  再会に満足して、この世界を終わらせようとしてるんだ。  

  待ち人を見ても彼女はまだ怨霊のまま、正気を失っている。

  怨霊は相手を取殺す事しか出来ない、それが好きな相手であっても。

  このままじゃ、閉じた世界に巻き込まれて私達も消えてしまう。

 

  彼女が正気に戻るカギがまだあるはずなんだ…あぶぶ

  怨念が膨らむ前の純粋な願いっ はわわわっ!

  正気だった頃の自分を思い出す何かが…あぶぶぶ」

  

 月夜は溶けた床に飲み込まれそうになっていた。

 (正気を取り戻すカギ?

  純粋な願い?

  恋人と添い遂げる為にこの空間を作った。

  彼女に好きな人と会う以外、他の願いってあるのか?

  正気だった頃を思い出す、記憶刺激する何か?

  全然、思い浮かばないぃ!ああぁぁ沈む!いやぁぁぁ、死にたくない!)


 祭原もほぼ全身が床に浸かっており、顔だけがなんとか辛うじて取り込まれずいる。

 (もう、終わりだ…でも、こんな所で死ぬわけには…

  何か掴まる物を具現化するんだ!)

 

 木の棒や、鉄のポールなどを現出させるも、すぐに床に飲み込まれ溶けていく。

  

 (駄目だ、ドロドロの空間じゃ固定されたイメージが創れない!

  何か無いか、何か!)

 

 なんとかあがくも、限界が近づいていた、

 何か助かる方法はないかと見回した先に、牢の窓から覗く枝垂桜が見えた。

 

 (綺麗だ、最後に死ぬ前に、花見がしたかった…)


 沈み行く中、祭原は最後の力を振り絞り、枝垂桜の幻を眼前に構成した。

 (せめて、幻でも、間近で花でも見ながら…沈んでいこう、

  月夜…守れなくてごめんなぁ…) 


 溶け出した空間は全てを飲み込んで収束していく。

 断末魔の様に突き出した手が、飴細工のようにドロリと伸び、

 やがて中心に収束する様に飲み込まれ、ここに在った牢獄の世界は消え失せた。

 何も無い空間の中で、祭原の創った幻の枝垂桜が爛漫と咲いていた。



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