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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
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06話 スキル習得条件


「まさか2頭とも仕留めるとは思わなかったなー」

 夕暮れ時。野営のために選んだ川のそばの広場で、センテは猪肉の入った鍋をかき回している。

 俺はと言えば、残り2頭の牙猪を借りたナイフで解体する作業の真っ最中だ。

 

 ――生産スキル<解体>習得

 

 素人にいきなりこれは如何なんですかと聞いたら、自分で仕留めた分は自分で捌けとの事。その代わり余った肉とか革とかは好きに使っていいそうだ。

 解体は今後使う機会が増えるだろうし、今のうちに覚えておくのは有りだろうけど。

 ただ、ちょっと匂いがな。

「最初に見たスキルレベルじゃ、牙猪相手だと逃げ回るのが精々だと思ったんだけど」

「そんな奴を2頭も同時に相手させたのか」

「頑丈だけど行動はワンパターンだから、逃げるだけならそんなに難しい相手じゃないからね。木登りしてたのも見てたし、いざとなればそれで逃げるとも思ったから。それにしても……」

 ちらっとこちらを見る。

「さっきの動きは何? 見た目から人族だと思ってたけど、もしかして猫人族とかの混血(ハーフ)だったりするの?」

「あぁ、さっき覚えたスキル。<立体軌道>ってやつなんだけど……」

 生返事を返しつつ、予備のナイフがあるんだったら、さっき貸してくれればよかったのに……などと思いながら解体作業を続けていたが、センテが黙り込んでいるのに気がついた。振り返ると、急に真顔になってじっとこちらを見つめているセンテと目があった。

 え、なに。

「……さっき覚えた?」

 

 ――はい、なんか条件満たしたみたいで。

 ――えぇ、<立体軌道>っていう名前です。

 ――いえ、さっき初めて使いました。

 

 <立体軌道>を覚えた時のことについて尋問を受けげっそりしている俺に対して、センテはこれ見よがしに溜息をついた。

「シンタロー、何か変な恩恵(ギフト)持ってるんでしょ?」

「あー、自分の保有スキル名を確認できるものを」

「効果はそれだけ?」

「……スキル習得時にそれがわかります」

 ここまでは気付かれているだろうから、勿体ぶりつつも素直に吐く。

 まぁ、嘘は言ってないな。

 それを聞いたセンテはやっぱりね、と納得顔で頷く。

「キミ、今までに“スキルチェック”受けたことある?」

「あー……いや、ない」

「だろうね。それだけ便利な恩恵(ギフト)を持っていれば」

 いい? とセンテは身を乗り出す。

「スキルレベルはある程度上がってないと、スキルチェックでは認識されないの。だからこそ、条件の緩い基礎体技系のスキルならともかく、いわゆる上位体技や複合体技に当たるスキルなんかは、偶然で習得するのが困難なの」


 所持スキルを確認するには、大きく2つの方法がある。

 1つはステータス閲覧系の恩恵(ギフト)を所有すること。もう1つは所有スキルと大雑把なレベルを確認するスキルチェックという魔法を使う方法だ。

 だが前者は比較的レアなために所有者は少なく、個人が気軽に使えるようなものではない。

 一方で後者は魔法の中では難易度が中の下といった具合のため、一般的にはこちらを使うことで自分あるいは対象の所有スキルを確認する。ただ、レベル確認の精度が低くてだいたいD~Sの5段階でしか確認できないらしい。

 どの程度のレベルまで鍛えていないと確認出来ないものなのかは不明だが、少なくとも1レベルのスキルは持ってないものと同じ扱いとして、スキルチェックでは判定されないのだろう。

「だから、普通スキルは習得するだけじゃなく、ある程度使用して初めて持っていることがわかるわけ。習得条件の厳しいスキルだと、仮に習得したとしてもその後のスキルレベル上昇に繋がらないから、なかなか発見されないんだ」

 なるほど。偶然スキルチェックで検出される程度にスキルレベルが上がっても、今度はいつ何をして(・・・・・・)習得できたのか確認するのが困難だということか。

 だが、俺の場合は条件を満たした時点で習得した事が分かる。未確認スキルを探すこと、その条件を確認するのにこれほどのアドバンテージはないな。

「未確認のスキルを発見したら権利者として登録できるんだ。あとは登録済みのスキルでも、未発見の習得条件の報告で報酬を貰えたりするよ」

 “統括ギルド”というのは、様々なクラスやスキルの種類、特性や習得条件を収集したり有料で公開したりする施設らしい。

 この世界では特定の条件を満たしさえすれば誰でも同じスキルを習得できる。そしてそのスキルはスキル同士の組み合わせや強化により、無数に生まれる。だからこそ、このようなシステムで1つ1つスキルの記録を蓄える必要があるのだろうな。

 

「さっきの<立体軌道>も、多分登録されていないスキルだと思う。これから行く街に統括ギルドの支部があるから、そこで登録しに行こうか」

「え、でもあれくらいなら誰でも……とは言わないかもしれないけど、もうあるんじゃないか? センテも見た時点ではそんなに驚いてなかったみたいだし」

「あれがスキルじゃなかったらね。猫人族とか、あとは<レンジャー>系でも上位のクラスだったらああいう動きをする人もいるけど、でもそれはスキルじゃなくて“アビリティ”だから」


 アビリティについて聞き返すと、微妙に不思議そうな表情を向けられた――また異世界常識か――が、俺の非常識っぷりにだんだん麻痺してきていたのか、それ以上つっこむこと無く普通に教えてくれた。

 この世界には先ほどから話に出てきている猫人族のような異種族や、色々な恩恵(ギフト)やクラスがある。それらはスキルランクに補正を与える他、様々な能力や特性が加わるらしい。それがアビリティ。スキルと違い初めからある程度の精度で使える代わり、使用してもスキル程の劇的な成長はあまりしないそうだ。

 俺の<ステータス表示>も【ステータス完全閲覧】によるアビリティということだろうか。

「多分アビリティで同じ動きをしても、習得条件は満たせないんじゃないかな。ベースのスキルをそこまで鍛えているなら普通はとっくにそれ系のクラスになっているからね。便利だからわざわざアビリティ使わないなんて事しないし」

 確かに普通はわざわざ無理してアクロバティックな動きはしないよなー。

 

 完成した食事を取りつつ会話をするうち、センテも<立体軌道>が欲しいと言い出した。敏捷型だがこれまで平面上の動きがメインだったが、<立体軌道>の存在を知って自分の動きに取り入れたいと思ったのだそうな。

「ほら、登録する前に習得条件確認しないと」

 それは建前だろう。本音は?

「買うと高いから」

 だろうね。

 

 本人はスキルチェックを使えないというので、どうやって取得したことを確認するのかと指摘したら、<立体軌道>としての特性がわかっていれば、ある程度スキルレベルが上がった時点でその効果の有無で習得の判断は出来るという。

 例えば<立体軌道>のような複合体技や上位体技の場合、対象のスキルを習得していなくても、ベースとなるスキルで似たような挙動を取ることが出来る。だが対象のスキルの有無は、その挙動の精度や効果に大きく影響するのだ。

 最適化というやつか。

 スキル無しでスキルと同じ挙動をするというのは、右手を上げる時に腕の筋肉1つ1つを意識して動かさないといけないような状態なのだろう。スキル制というファンタジーな法則で成り立っている世界だ。それ以上の効果があっても別段驚きはしない。

 

 食事と後片付けを終えた後、<立体軌道>を習得実験をする前にスキル効果を確認する事にした。

 <立体軌道>はその特性上入り組んだ場所でしか使えないため、野営用の広場から少し森の中へ移動する。

 軽く屈伸をしてから正面の木へ走る。

「――よっ……と」

 幹を駆け上り、勢いが無くなる前に跳躍。隣の木を飛び石のように渡り、枝に掴まって振り子のように飛距離を伸ばし、木の幹や枝を上下左右にダッシュ。

 案外無茶な動きをしても目が回る感じはないし、振り回された視界や意識も安定している。飛び回っているうちに時折スキルレベルが上昇し、それに伴い速度や跳躍力が強化。立体空間をより自由気ままに飛び回れるようになっていく。

「おー、結構速いもんだね」

 広場というほどではないが若干開いた空間の中に立ってその様子を観察しているセンテに使用感を伝えると、次なる要望が下される。

「んー、もうちょっと速度落としてみて」

「了解」

 センテに返事を返し、飛び回る動きを少しずつペースダウン。一歩一歩踏み出すテンポを、水平に飛んだ慣性がなくなり失速するぎりぎりまで落としてみると、その奇妙な感覚に気付く。

「木に吸い付く……?」

 慣性による影響が無くなり落下するはずのタイミング、コンマ数秒だけ壁面に留まれるのだ。歩数にしておよそ2歩ほど。それは一瞬だけ重力が横向きになったような感覚。本来ありえない現象。

 これが<スキル>による補正効果であると直感した。

 

 センテは元々敏捷型だったおかげで、<疾駆(ダッシュ)><跳躍(ジャンプ)>はどちらも俺より遥かにスキルレベルが高かった。

 残念ながら<直登(クライム)>は持っていなかったので、そちらを少し鍛えた上で実験を行なった。

 結論から言えば、センテは無事<立体軌道>の習得に成功した。

「あはは、これは面白いな!」

 1時間後、そこには元気に俺の頭上を飛び回るセンテの姿が!

 現時点で確認できた条件としては、

 

 ①<疾駆(ダッシュ)><跳躍(ジャンプ)><直登(クライム)>がそれぞれ一定以上のスキルレベルであること

 ②地面に一度も着地せず、5回<スキル>を使うこと

 ③②の際、<疾駆(ダッシュ)><跳躍(ジャンプ)><直登(クライム)>を最低1回ずつ使うこと

 

 ①については、<疾駆(ダッシュ)><跳躍(ジャンプ)>は俺、<直登(クライム)>はセンテの方がスキルレベルが低いため、その値を記録。センテの場合は街でレベルを確認してから、という事にしてはあるが。

 ②はほぼ確定。

 ③はもしかしたら2つでもいいかもしれないし、上記以外のスキルで代替できるものがあるかもしれない。

 それについては、先に聞いた統括ギルドという所が上記の条件をベースにして被験者を募集してテストを繰り返し、詳細な条件を突き詰めていくらしい。1回習得してしまったらその人はもう試せないから結構長期に渡ってテストする場合もあるのだとか。

 スキルの記録や習得方法の教育を行う機関だと思っていたが、研究機関のような役割もあるんだなと言ったら、学術ギルドの中にそういうのを研究している部門があって、統括ギルドはそこの窓口となっているのだそうだ。

 ちなみにスキルを登録した場合、登録時にスキルの効果に応じて一定額、そして販売額の何%かを還元というシステムになっているらしい。有用なスキルの登録者などは権利料だけで左団扇な生活している人もいるのだとか。

 

 ――見ているがいいセンテよ。俺をホームレス扱いできるのもあとわずかな時間だけだ。

 

 

お気に入り&評価下さった方々、ありがとうございます。

次も早めで行きます。

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