03話 初スキル習得
「さってとー」
笑い疲れ、大の字に寝転がりながら<ステータス表示>をもう一度実行してみることにする。先ほどはちゃんと見ていなかった「スキルランク」を確認する。
◆スキルランク
○物理 D+(C-)
○精神 C-(C+)
○感知 C+(B-)
○体技 D-(D+)
○魔技 D-(D+)
○近接 D-(D+)
○遠隔 D-(D+)
○物耐 D-(D+)
○魔耐 D-(D+)
○生産 D-(D+)
○商業 D-(D+)
「…………」
ほとんどDばっかりじゃないか。普通はもっとAとかBとかむしろSとかいっぱいある流れじゃないのか、異世界人的な意味で。それともDが最上位だったり……するわけないか。むしろ最低値っぽい。“どん底”の頭文字っぽい。
そして気になるのは、このたくさんある“(D+)”という2つ目の値。
この2つの値はなんだろうか。そう思って、基礎体力の値に目を凝らすと、
○基礎体力 16(26)
表示が変わった。どうも目を凝らすように集中すると表示が切り替わるようだ。
イメージとしてはデジタルな地図の倍率を切り替える感じで、表示が切り替わってもそれが同じものを示している事が感覚的に理解できた。表示の違いは、情報の精度の差のようだ。
とりあえず一番倍率の高い数値表示にした状態で他の部分も見てみると、
○体技 0(10)
○魔技 0(10)
○近接 0(10)
○遠隔 0(10)
・
・
・
と、“0”のオンパレード。
“0”ってなんだよ、“0”って。一瞬そう思ったが、スキルの「レベル」なのだからレベル0ってことか。無能力者か。やはりスキルを使うとレベルが上がるのだろうか。スキルというのがどうやって使えるのかは分からないが。
ただ、基礎体力、基礎知能、感知の3つが最初からある程度上がった状態ということは、この3つは別の法則になっているのだろう。
一通りステータスをみた感じでは、括弧の中は一律でデフォルト値+10レベルの値が表示されているらしい。これは保有恩恵の中の【スキルレベル補正】ってやつの効果だろうか、名前的に。“10”っていうのがどれくらいの値なのか分からないが。
とりあえず今後は数字表記を“レベル”、アルファベット表記を“ランク”と称することにしようと思う。
本質的には同じものなのだが数字表示は情報が細かくて意識が疲れるので、必要がないときは精度を落としたほうが楽なのだ。
それぞれの対応については、レベル0(ランクD-)ではない基礎体力・基礎知能・感知の3つの値から推測するに、10レベルが1ランクに相当するようだ。
ランクについては、D- ⇒ D+ ⇒ C-という順番になっている。この法則から行くと、80レベルでA+ランクだ。そこがMAXなのかもしれないが数字的には半端なので、仮にMAX100レベル、S+ランクという事にしておく。
まぁ今の所それぞれの違いはあまり深く気にする必要もないだろうと思う。それぞれの1段階がどれくらい違うのかは、ゆっくり検証していけばいい。
それにしてもスキルか。どうやれば覚えられるのだろうか。やはり人に教えてもらうとか、本を読むとかだろうか。
などと考えながら無意識に手元に転がっていた石を拾って、少し離れた所にある木に向かって投げてみる。と、<ステータス表示>を使ったときと同じように目の前に文字が浮かんだ。
――遠隔スキル<投擲>習得
……えー。
もう一度<ステータス表示>を行い今度は「遠隔」をよく見てみると、パソコンでフォルダを開くように表示が切り替わり、「遠隔」の詳細が表示された。
○遠隔 D-(D+)
<投擲> D-(D+)
なるほど、一度でも関連する行動を取ればスキルを覚えるのか。
再びレベル表示に切り替えると、遠隔と<投擲>がそれぞれ1レベルになっているのが分かった。
試しに2度、3度と石を軽く投げてみると、その都度1レベルずつ上昇するが<投擲>4レベルまで上がったところで上昇が止まる。
少し面白い。
試しに立ち上がって今度は全力で投げると再び上昇を始め、今度は上がったり上がらなかったりを繰り返して最終的に<投擲>25レベルまで上げられた。ランクで言うところの<投擲>C-だ。Dランクさようなら。
ただ現状レベルが上がっても投げる手応えからすると強くなっている感じがあまりしないのだが、これも1つの仮説が立てられる。
覚えたての<投擲>レベルは1だったが、仮にも成人男性が物を投げる力がレベル1相当という事はないだろう。さらに言えばほいほい気軽にレベルが上がりすぎた。これは実際の投擲能力に比べて、スキルとしての<投擲>のレベルが低かった事が原因なのだろう。
つまり最終的に成長が一旦止まった<投擲>C-、これが俺元来の物を投げる能力に相当するレベルということだ。
多少運動不足気味とは言え特に運動が苦手というわけでもないことを考えると、少し上のCランク前後が成人の標準だと予想できる。スキルによって多少変化はあるだろうが、基準が大きく異なることはないだろう。
そして【スキルレベル補正】による+10レベル(+1ランク)の効果。石を投げているうちに妙に速度が出るようになってきたと思っていたが、最終的にはプロ野球選手――とまでは言わないものの、それに近いくらいの球速に到達したように感じた。俺自身の身体能力と、実際の効果の差異。これが1ランクの差。
元の体力が上がればさらに威力が増すことだろうが、少なくともこれよりレベルを上げるにはちゃんと練習する必要があるな。トレーニングは一朝一夕にはならず、と。
どうもスキル習得時の通知は、<ステータス表示>の効果らしい。所持スキルの一覧表示だけでなく、それに変動があった際に通知を行う機能もあるようだ。現状手足を動かすだけでスキルレベルが上がるような状態でレベル上昇通知はうるさすぎるのでカット。スキル習得通知だけに設定。この辺り、無駄に手馴れてきている気がする。
その後、適当に身体を動かしてみると、比較的習得しやすかったらしいスキルがいくつか見つかった。
習得できたのは、
○体技
<跳躍>
<登頂>
<拳打>
<蹴撃>
○近接
<鈍器>
○物耐
<衝撃耐性>
○生産
<伐採>
といったところ。
面白かったのは<跳躍>がスキルだったこと。何の気なしにやった垂直跳びが1mくらい行ったのにも驚いたが、それで補正込みB-相当。もし<跳躍>がSになったらどのくらい跳ぶんだろうか。単純にスキルレベルが倍になれば効果も倍になるというわけでもないようだけど。
<跳躍>とセットで覚えたのが<衝撃耐性>。落下の衝撃を受けることで習得したけれど、名前から見る限りは落下以外にも効果が出るようだ。レベルが低いときはジャンプの着地でも少し足が痛くなったのだけれど、少し上昇すると2mくらいから飛び降りてみても平気になった。このスキルもSになったときが面白そうだ。地味に鍛えてみよう。
◇ ◇ ◇
――夢中になりすぎた!
最後の方は木に登って飛び降りてをひたすら繰り返していた俺が我に返ったのは、太陽が既に天頂を過ぎ空腹を感じるようになった時間帯だった。
目が覚めたのはどれくらい前だったか。はっきりとは思い出せないが、3,4時間くらいは経っただろうか。
スキル習得に熱中している場合じゃない。なにせ山の中で着の身着の侭なのだ。真っ先に人里に出るなりするために移動するべきだった。サバイバル技能なんてないのだから、下手をしたら野たれ死ぬ。
――サバイバルスキルとかあるかな?
一瞬脳裏に浮かんだ考えを慌ててかき消す。まったくこの世界は誘惑が多い。
そんな事を考えながら冷や汗を拭う真似をしていたときだった。
「――あ、もう終わり?」
突然背後から声をかけられた。
驚いた。
技能スキルの<反射行動>を習得するくらい驚いた。
振り向いた先にいたのは、胸くらいの高さのある岩の上に腰掛け、足をぶらぶらさせながらこちらを眺めている一人の少女だった。
年の頃10代後半くらい……すみません適当言いました。女性の歳を見た目で当てるのは本当に苦手なんです。活発そうな雰囲気からして年下なのは間違いないと思うけれど。アーモンド型というのか、ややつり上がった勝気そうな眼と色の濃い肌、杏色の癖っ毛ショートボブがその印象を強めている。
服装は薄手のコートに、太ももの辺りがゆったりしているズボン。それぞれ要所々々に金属プレートや革ベルトの補強がされているが、全体的に動き易さを重視したような格好だ。腰の後ろには小柄な体躯に不釣合な、刀身に比べて身幅の広いどちらかというと鉈の様な剣をぶら下げている。確かマチェットって言うんだったっけか。ネタで買った「図解近接武器辞典」を思い出した。
それを眺めて、「あぁ異世界だなぁ」などと妙な感動を覚えたのだった。
話かけようとして、言葉が通じるか一瞬不安になるが、最初に声をかけられた言葉がちゃんと理解できるものだったのを思い出し、安心した。これが【異国語理解】の効果か。ありがとうヨティスさん。
「……君は、いつから?」
名前よりも先に聴くことかと思われるかもしれないが、これはとても重要なことなのだ。俺のその問いに、彼女がにんまりと浮かべたいやらしい笑いに嫌な汗が出た。まさか、あのスキルを習得した瞬間を見られていたなんて事は……
「そうだね、君がそこの枝からぶら下がってる木ノ実相手に1人で拳闘ごっこしていたときかな」
……いっそ殺してくれ。
俺はあまりの羞恥心に、その場に崩れ落ちたのだった。
日本の伝統武術
それが電気の紐ボクシング
12/2/29 設定の整理に伴い、スキルの説明考察についての記述を修正しました。
話の流れには特に関係ないので、気にしなくてもOKです