02話 ステータス閲覧
――――キンコン♪
――キンコン♪
妙に響く電子音に、意識が覚醒させられた。
目を開いてみるが、妙に周りが薄暗い。そして天井が低くて窮屈だ。
手探りで確認してみると、石畳の感触。
どうしてこんなところにいるんだろうと思いつつ、光の見えた方へ四つん這いで移動する。
――キンコン♪
さっきからうるさいな。
外へ出てみると、そこは山肌にある洞穴のようだった。いや、人工的に加工された穴だから石窟ってやつか。どうでもいいけど昔同級生の女子に“石窟”って声を出して読んでもらったら殴られた記憶がある。
どうやらあの窮屈な中にしばらく丸まって寝ていたらしく、身体の節々が痛い。
背伸びをしたところで、自分の格好に気がついた。何の変哲もないパーカー&Gパン&スニーカー。ちょっとコンビニに行く時のような格好だ。
寝る前にこんな格好していたっけ……というかここはどこだ。
そこまで考えたところで、先ほどからうるさいチャイムの音がポケットからなっている事に気がついた。携帯だ。
取り出してみると、着信中だったのでとりあえず出てみる。
「もしもし」
「――おはようございます。お目覚めのようですね」
そのセクシーボイスを聞いた瞬間、意識を失う直前の会話を思い出した。
「ちょっと! ここはどこですか!?」
慌てて問いただしてみても、その口調は微塵も揺らがない。
「即時移住とのご希望でしたので、<クレアティオ>へご案内いたしました。靴はサービスです」
裸足よりはいいけど、そうじゃなくて。
「――申し遅れました。わたくしシンタロウ様の担当を務めさせていただく、ヨティスと申します。今後ともよろしくお願いいたします。ご説明の前にまずは」
だめだ。話が通じない。
そう思って思わず電話を切ってしまう。が――
「ありがとうございます。このように<啓示>に道具は必要ございませんが、プライバシーの問題もありますので基本的にシンタロウ様への連絡は携帯電話を経由させていただきます」
意識を失う直前のように直接耳元で声が聞こえる。
慌てて周りを見渡すが、人の気配はまったくない。
――キンコン♪
もう一度携帯に耳を当てる。
「――ご理解いただけたでしょうか」
「いや、よくわからん」
ついつい不機嫌な声が出てしまうのを誰が責められようか。
相手の――ヨティスさん? がすまなそうに答える。
「申し訳ございませんが、なるべくわたくし共からではなく、現地の者と接して自然にこの世界に慣れていただくことになっております。いずれ案内の者が参りますのでご安心ください」
つまりあれか。ここは本当に異世界ってやつなのか?
まだ半信半疑ではあるが、開き直ってきたのか少しばかり好奇心が疼いてきた。
「最後に1点だけ。シンタロウ様の“恩恵”について簡単にご説明させていただきます」
――“恩恵”?
言葉の意味を理解しきれない俺に構わず、ヨティスは続ける。
「ご自分の身体に向かって<ステータス表示>と心の中で唱えてみてください」
よく分からないが、とりあえず手の平を目の前に掲げて<ステータス表示>と唱えてみる。と、目の前に無数の文字が現れた。
◆名前
境 慎太郎
◆称号
異世界からの 来訪者
◆恩恵
【ステータス完全閲覧】
【才能レベル補正】
【限界レベル補正】
【スキルレベル補正】
【レベル減少無効】
【称号再設定】
【異国語理解】
【啓示】
◆スキルランク
・
・
・
それを見たとき不思議なことに、その異常な現象を自然なものとして完全に受け入れていた。
「シンタロウ様の固有恩恵である【ステータス完全閲覧】は、知識習得や理解力にも補正がかかりますので、この世界にはすぐ馴染めると思われます」
存分にお楽しみくださいとだけ言い残して、通話――いや、【啓示】は切れた。
しばらくそのまま突っ立っていたが、だんだんと笑いがこみ上げてくる。
「ふふっ……あははははは!!」
我慢できず、その場に寝転がって足をばたばたさせながら笑い転げた。
冗談のつもりが、随分と愉快な放浪生活のスタートになったものだ。
ヨティスに言われるまでもなく、存分にこの世界を楽しもう、そう思った。