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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
26/34

閑話 はぐれ白狼前編

リクエストのあったモミルシャの閑話です。

全3話構成の予定。


 世に数多の数だけあると言われる恩恵(ギフト)は、その取得方法の傾向によって幾つかのカテゴリに分類する事ができる。

 血筋によって取得される先天性恩恵のうち最も多様かつ特徴的なのが、総称して“獣の加護”と呼ばれるものである。頂点に立つと言われる【獅子王の加護】を始めとして100種以上が見つかっているそれらは、いずれも恩恵を受けた者に加護を与えた獣の特徴が強く現れる。多くは耳、爪、牙。目や体毛に現れるもの、時として尾が生えるものや骨格にまで影響される場合もある。

 加護による獣化の程度は血縁に影響される事もあり、特徴が似通う血が近いもの同士が部族という形で1つの村を作り、生活を営む場合が殆どである。

 ただしそれでも、突然変異あるいは先祖返りという形で異分子が生まれる事もある。

 それが吉兆として大事に扱われるか、それとも不吉として追放されるかは、生まれた子に取ってはそれこそ運次第としか言えないのだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――カーン 

 ――――カーン

 

 森の中に、硬いもの同士がぶつかりあう音が響き、それに追い立てられるように走り回る無数の気配。

「そっち行ったぞ!」

「大丈夫だ、塞いでる!」

 何人もの男達の声が忙しなく飛び回り、それと共に音と気配も移動する。

「ほら、手を抜くんじゃねぇぞー」

「分かってるってば!」

 引率役の壮年男性の叱咤にムキになって怒鳴りかえした少年は、左腕に構えた木の盾に右手の古びた剣を叩きつけ、打楽器のようにガツンガツンと何度も鳴らして森の中の獣を追い立て、あちこちに隠れた仲間の方へと誘導する。

 持ち手を通して伝わるその衝撃自体がさらに疲労を蓄積させるが、隣で同じように盾と剣を打ち鳴らしている2つ上の幼馴染達が平然としている様子を見て、半ば意地になって剣を振る。

「おいおい、そんなに振り回したら危ないだろうが。疲れたんだったら少し休めっての」

 熟練の狩人であり優れた戦士でもあるその壮年男性はブンブンと出鱈目に振り回された剣を持つ腕を危なげなく掴み止め、少年の手から剣を没収した。

 重い荷物から解放された腕をムスっとした顔でさする少年に、壮年男性は呆れたように言った。

「うーん、お前にはまだ狩りは早かったかねぇ」

「そんな事ないって! ルーもツァンナも俺と同じ歳に狩りに出たんだろ!」

「こいつらはその頃から無駄に育ってたからなぁ」

 壮年男性がちらりと目線を送った先には、少年よりもずっと体格のいい2人の男女。彼らは盾を叩く手を止めないまま、意地の悪い笑顔を少年に向けた。

「モルドはいつまで経ってもちっこいからな」

「その小型盾(バックラー)でも全身守れるから便利でいいわねー」

「なんだとー!?」

 顔を赤くして威嚇する少年――モルドは今年10歳を迎えたにも関わらず身長は120cm程度であり、全体的に大柄な傾向のある一族どころか、一般的な平均から考えても明らかに小柄な体躯であった。

 一方の2人――歳が近く幼馴染兼遊び相手でもあるルーとツァンナの双子は、まだ12歳にも関わらずそろって170cm台。いつも一緒にいるおかげで周りから比べられる事も多く、それが尚のことモルドにとっては腹立たしい。

 最も、揶揄う双子も言い返す少年も、大人の目から見ればどちらもまだまだ子どもであり、彼らの口喧嘩が半ば日課になっている事をしっている壮年男性はわざわざ仲裁に入る気も起きなかった。

「まぁ、盾を叩くのも大声出すのも同じだから別にいいんだがねぇ」

 この様子だとまだまだ手伝いしかさせられないな、と呆れたような溜息をついた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 総勢100人にも満たないその村は、【猟犬の加護】を受けた一族が暮らしていた。

 “猟犬”の特徴としては群れ(・・)を作る事で身体能力の補正がされる事、同一の|群れの中で交わされる微弱な精神感応による高レベルの連携能力が上げられる。

 獣化の程度としては“耳付き”と呼ばれる一般的な耳の変化。一部の者には爪や目まで獣化している者もいるが、奥地には殆ど獣としか見えない部族も存在している事を考えると、“加護なし”の人と比べても差異が少ない部類であると言える。

 ふさふさとした茶褐色の毛が生えた耳を掻きながら、モルドは今日の獲物であった野豚の料理を抱えて歩いていた。

「ちくしょー、あいつらいつか絶対見下ろしてやる」

 2人を踏みつける程に成長した自分を想像してニヤニヤしながら、モルドは村の片隅に建てられた小屋の前に立つと、声を張り上げた。

「ねーちゃーん。飯もってきたー」

 大きさこそ然程でもないが、小さな村の中では一際豪華な――と言っても狩りで生計を立てている者が多いここでは比較的といった程度ではあるが――小屋の扉が開き、着崩れた服にボサボサの髪の少女が顔を出した。

 身長は少年と同じかやや小さい程度。整っているが感情の起伏のない顔つきは、少年よりもさらに年下のように見える。

「ごはん……?」

 だが少女の最大の特徴は、手入れをされていないにも関わらず眩しく光を反射する、その艷やかな銀髪にあった。

 “猟犬”の一族はみんな、多少の濃淡の差はあっても少年のような茶褐色の髪をしているが、極々稀にこのように異なる髪色の子どもが生まれる事がある。そのような子どもは【猟犬の加護】がない場合が殆どで、多くは幼いうちに養子に出されるか運が悪ければ捨てられる事になる。これは概ねどの“獣の加護”の一族にも見られる傾向だ。

 しかし、その例外となるのが、この少女のような場合である。

 ――“双獣者”。

 【猟犬の加護】を持つと同時に、彼女には【白狼の加護】が備わっていた。本来であれば狼の加護を持つ場合は耳が立っているのだが、猟犬特有の垂れた耳と白狼の銀色の毛並みが合わさった特徴的な容姿をしている。

 彼女――ルシャはモルドの姉であるが、同時に村の守り神として“白狼姫”と呼ばれていた。

 実際に彼女に守り神としての何らかの特殊な力があるわけではない。加護はあくまで、本人にのみ影響されるものである。しかし複数の獣の加護を持つというのは、特別な扱いをされるには充分な理由であった。

 

 

 また、彼女には加護の他にもう1つの特徴があった。それは成長が非常に遅い事である。

 白狼姫(ルシャ)は弟よりも5つも年上であるにも関わらず、容姿としては同程度かむしろ幼いように見えるのだ。また精神面についても、物心着いてすぐに守り神として扱われるようになり、早くから社で一人暮らしていた。そのため他者との接触も少なく、表情や感情表現の少なさにも繋がってしまっていた。

 もっとも一族の中では最年少であり、同時に実の弟であるモルドにとってはそのような事情はあまり関係の無いことである。歳の近い――ように見える肉親として、暇さえあれば遊びに来るのが常だった。

 いつものように2人分の食事を運んだモルドは姉と並んで座り、初めての狩りの事を身振り手振りで話す。姉は小さく頷きながら、黙って耳を傾けるのであった。

 

「ほう、これは珍しい」

 唐突にかけられた声。2人が振り返った先には、大きな三角形の耳と一振りの房状の尾を持つ、歳の頃20代後半と思われる赤毛の女性が立っていた。

 胸元とサイドスリットの大きく開いた赤地に金の刺繍が施された派手な服に、踵の高い靴。質素な村に到底相応しいとは思えない華美な格好をした彼女は、面白いものを見つけたとばかりに金色の目を大きく開いて、2人――いや、ルシャを見つめていた。

「……あんたは誰だよ?」

 不躾な視線を向けられながらも反応の薄いルシャに代わり、モルドが不審なものを見るような目つきで問い返すと、狐耳の女性はカラカラと笑う。

「おぉ、すまんすまん。妾は先頃この村に仕事を持ってきた“狐”なのじゃがな。長の家が見つからないもんでぶらぶらとしていた所じゃ。そうしたら白い“猟犬”などと言う珍しいものを見たもので、ついつい声をかけてしもうたというわけでな」

 決して怪しいものじゃないぞえーとパタパタ手を振ってみせるが、その喋り方だけで充分怪しいとモルドは思う。

 それに最寄りの街からこの村までは道というのもおこがましい、単なる獣道が通っているだけなのだ。狐耳の女性が纏うようなひらひらとしたドレスなど着たまま踏み入れようものなら、たちまち枝葉に引っ掛けられて鉤裂きだらけになってしまうだろう。しかし彼女の服には傷やほつれどころか一片の土汚れすらなく、まるで下ろしたてのような状態であった。この村に来てから着替えたという可能性はもちろんあるが、そんな服をわざわざ持ち歩いているという時点で胡散臭い。

 じーっ。

「なんじゃ少年は年上好みかや。そんなに見つめられると妾も流石に照れるぞえ」

「ばっ、違ぇよ!」

 10歳の少年に好きだの何だのというような話を振ってやれば、案の定この通りの反応だ。

 照れるな照れるな、とニヤニヤ笑う“狐”の仕草には、それでも不思議な気品というものがあった。

 

この世界にはいわゆる亜人というのはおらず、“人”と見た目が違うのは殆どが何らかの加護の影響です。

猟犬の他には闘犬、忠犬など色々あり、それぞれに微妙に特徴があったり無かったり。


話は変わりますが、新シリーズの「Dual Harmony」も良ければご覧ください。

そちらは職業適性の合間に気分転換で書いているもので、基本的に章単位で出来上がってからまとめて投稿するつもりです。

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