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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
25/34

23話 求められるもの

構成やら設定やら途中ちょっとふらふら定まっていなかった事もありましたが、これで何とか1章終了ということで。

「っだー、やっとついたー」

 ようやくたどり着いたビオテースの巨大な正門を前にして、背負っていた山のような荷物を下ろすと大きく伸びをした。

 背筋をぱきぽき鳴らす俺に、倍近い荷物を平然と担いだモミさんが声をかける。

「ほら、そんな所に転がしたら盗まれるぞ」

 時刻はすでに夕方。近隣随一の規模を誇るというこの街の入口には、閉門前に駆け込もうとする人達の列ができていた。

 一応隅っこに寄ったつもりだったが、人でごった返すこの辺りではそんな気遣いもあまり意味がないようだった。ぶつかりそうになった人に謝りながら、再びつぎはぎだらけの急ごしらえ毛皮リュックを背負いなおす。

 これ、途中で壊れない事だけ気を使って重心とか適当だから結構背負いづらいんだよなぁ。それに……臭いし。

 ずっと背負っていたおかげで麻痺しかけてはいるものの、それでも漂う獣臭はきついものがある。俺でさえそうなのだから、周囲にいる人達などはたまったものじゃないだろう。傍を通る人達がそろって顔をしかめている。

「臭いわ」

「改めて言わなくていいよ……俺も丁度そう思っていた所だから」

 鼻をつまんでいるルシャは、当然ながら俺達2人に比べるとずっと荷物が少ない。嵩張るものの重量はあまり無いものを優先的に任せているのでまだ元気そうではあるが、さっさと下ろして楽になりたいのは同じだろう。先程から俺の袖を引っ張り、さっさと歩けアピールを頻りに繰り返している。

 どうせ休むならこんな窮屈な所じゃなく腰を落ち着けられる所の方がいいか。疲労の残る身体をかばいつつ、ラストスパートをかけた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 門を越え、中央広場まで真っ直ぐ伸びたこの都市一番の大通りの片隅にあるオープンカフェで、俺たちは最後の小休止を取っていた。ここはモミさんに教えてもらった同業者向けの軽食屋で、こんな薄汚れた状態でも入店を断れられるという事がないので重宝しているそうな。

「んで、こいつらはどうするつもりなんだ?」

 久々の甘味を楽しみつつ、結構な空間を占領している荷物の山を左手でぺしぺしと叩く。

「ほーふるって?」

 口いっぱいに食べ物を詰め込んだままモミさんがもごもごと聞き返し、行儀が悪いとルシャに窘められる。

「どうするって言っても、この荷物をギルドに持って行って換金するのでしょう? 私は大丈夫だけど、モルドは予備の装備も無いのだから買い替えるか修理するかしないと何もできないわ」

 一瞬“モルド”って誰だと聞き返しそうになった所で思い出し、一心不乱にリゾットをかきこむモミさんを横目で見た。

 俺達2人の装備については正直大した損傷はない。ルシャはほぼ無傷だし、俺は武器が全壊の他は防具が所々擦り切れたりパーツがなくなっているくらい。

 ただ、モミさんについては長剣半壊。盾全壊。胸甲全壊。その他パーツについても、留め具やフレームが辛うじて残っている状態。いっそ捨ててきたほうが良かったんじゃないかとそういうレベル。

「修理っつーより新調だなぁ、これは」

「ここまで来ると直す方が高くつくわね」

 俺のように軽装ならともかく前衛用の重装備ともなると、一式揃えるのに相当な値段もかかる。自分たちで狩った分だけでもそれなりの収穫はあったのだけれど、地竜素材を譲り受けなければどうなっていたやら。

「そこで、だ。どうせ新調しなけりゃならないんだったら、素材全部売って新しいの買うよりもこの素材を持ち込んで作ってもらった方がいいんじゃないか? これだけあればモミさん1人分くらいは足りるだろうし、完成品を買うよりは安くなるんじゃないか。どうしても金は必要になるだろうけど、それは余った分を現金化するとか」

「あぁ、それはいい考え。素材としては結構いいものの筈だから、長い目で見れば換金するよりも得かもしれないわね」

 俺の意見にルシャも賛同する。が、直後に少し眉をしかめて、

「ただ鎧と盾はそれでいいとして剣だけは買わないとダメね」

「ここにあるのじゃ作れないか?」

「杖とかメイスなら骨を使えばいいものができるけれど、刃物は金属が一番いいわ。あなたの小剣サイズなら牙や爪を使えば作れるかもしれないけれど、さすがに長剣サイズは難しいわね」

 なるほどな。今回牙も根こそぎ持ってきたけれど、そのサイズは大きくて肘から指先くらいまで。ツギハギにするわけにも行かないし、モミさんの長剣は諦めるしかないか。あ、でも俺の武器は作ってもらえるかもしれないから一番大きい牙はキープしておこう。

「その辺の見積もりを出してもらうためにも、一旦荷物を整理してから鍛冶ギルドあたりに聞きに行ってみないか? 換金はいつでも出来るしさ」

「それもそうね」

 大雑把な方針がたったところで口を噤み、お互い食事に戻る。モミさんは相変わらず継続中。

 若竜とはいえ、地竜の巨躯から取れる素材はさすがに3人で持ち運べる程度の量ではない。当然ながら現在手元にあるのは一部であり、過半数は今のあの平原に残されたままである。本来であれば剥ぎ取りの際の取捨選択に悩むところではあるが、幸い今回はセンテメモの助けがあった。高品質であったり傷が少ない部位、希少なものを優先的に持ってきたので、もし誰かが今なお転がっている残留部位を見つけたとしても俺たちの戦利品と被ることはなく値崩れの心配は少ないだろう。

 うん、とりあえずは慌てる必要はないな。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 荷物を一時保管し整理する事にしたのはいいのだが2人の宿ではスペースがないというので、そろって俺が世話になっている孤児院へと向かっていた。倉庫を借りられないか頼み込むためだ。

「へぇ、こんな所に住んでたのか」

 ここ半月ばかりで台所事情も若干好転したおかげで、建物自体のボロさこそ相変わらずではあるものの多少小奇麗になっている。

 油がさされて最初とは異なりだいぶ滑らかな動作となった門を開け、2人を招き入れた。

 さて、タリアさんはどこにいるだろうか。

 とりあえず庭に行けば誰かしらいるだろうと思って回り込むと、何人ものチビッコ共とそれに囲まれたセンテの姿を発見した。

「げっ、シンタロ……」

 目が合い、気まずそうな顔をしたセンテに満面の笑みを浮かべてみせる。何かを感じたのか咄嗟に逃げようとする気配を見せたものの、周囲を囲みを脱する前に距離を詰める。

 そのまま一閃。

「っ痛ぁあ――――っ!!」

 ばちこーんと盛大にかましたデコピンに、額を押さえて悲鳴を上げる。それを指差してゲラゲラと笑うチビ共。

「久しぶり。面倒ごとに巻き込んだのはこれで勘弁してやろう。あと、竜を譲ってくれた事とアドバイスはありがとう」

 そうまくし立てるように言ってやると、しばらくぽかんとしていたセンテは何が楽しいのか、にへら、と笑いを浮かべたのだった。

 

 奥から出てきたタリアさんに2人を紹介した後、リビングに案内されてお茶を飲みながらのひと時。

「そっちの2人も1日ぶりー」

 そう言ってぱたぱたと手を振るセンテに、2人もそれぞれに挨拶を返した。

「今日は揃ってどうしたの?」

「それなんだけどさ」

 貰った素材の大半は換金せずに装備のオーダーに使う事にしたこと。保管するスペースを借りたいこと。首を傾げるセンテに簡単に説明すると、「いいよー」とあっさりと許可がでた。

「そんなの言いに来なくても、好きに使えばいいのに」

「一応間借りしてる身だから、あまり好き勝手するのも良くないだろ」

 けじめはしっかりとね。

「それじゃ荷物はあとで倉庫に運ぶとして……整理はシンタロー1人でやるわけじゃないよね?」

「これだけ量があると1人じゃさすがに無理だって。一応こっちの2人も手伝う事になってるけど、3人がかりでも1日じゃ終わらないだろうな」

「ふーん」

 そこでタリアさんが口を開いた。

「お2人の住まいはどちらにあるんですか?」

「あぁ、俺たち家はないんで宿場通りで部屋借りてます」

 こくこくと頷くルシャ。

「あの辺りだと、ここから結構遠いですよね」

「いやぁ、遠いと言ってもどうせ街の中ですし大した事ないっすよ」

 こくこくこく。

 通りの名前を言われても今ひとつパッと出てこないけど、確かここからだと片道30分くらいだっただろうか。

「それでも何度か来るとなると手間ですし……そう、良かったらシンタロウさんと同じようにここの部屋を使いませんか? 空いている部屋がまだいくつもあるんですが、使わないと勿体無いですから」

「うぇぇ?」

 タリアさんの唐突な申出に驚くモミさんとルシャ。

 でも案外ありなんじゃないかね。安いし、ご飯付きだし。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 結局宿暮らしにこだわっているわけでもないという事で特に断る理由が見つからなかった2人は、そのままあっさりとこの孤児院の空部屋に下宿することとなった。

 今まで金がないということで2人で1部屋を使っていたらしいが、初めての1人部屋だ! となんだかんだで大はしゃぎしていた。

「良かったんですか?」

 とタリアさんに尋ねたところ、俺の知り合いだから信用しているとの事。そんなに買われるような事をした覚えはないんですが。ただ、だからと言って片っ端から連れて来られるのも困りますけどね、と釘を刺された。大丈夫そんな事はしませんって。

 デカい割に人のいい風貌のモミさんは、言うなればレトリーバー系の大型犬のようなタイプで、案の定速攻で子どもらに懐かれていた。廊下やらで出会うときは大体1人肩車、両腕に一人ずつひっついているのがデフォルトで、ひどい時は両足や背中にまで子どもを搭載していたりする。おかげで俺の方に来る人数がすっかり減った気がする。……べ、別に悔しくなんかないんだからねっ。

 むしろうまくやっていけるのか心配だったルシャの方は、普通に溶け込んでいた気がする。子ども達の集団の中にいると、一瞬見失ったりするくらいだ。言ったらぶん殴られたけど。妙にタリアさんに気に入られてるようだが彼女も案外まんざらじゃないらしく、並んで食器洗いなどをしている姿を見かけるようになる。

 そして、俺はというと……

 

 夜中の自室。

 聞きなれた電子音に目を覚ます。

 

 ――キンコン♪

 

 見ればサイドテーブルに投げ出した私物の中で光を放つ携帯電話。

 不思議なことにこの携帯、この世界に来てから何日経っても電池が減る様子は無かった。ただ、メイン機能である通信など使える筈もなく、かといって入れてあるアプリを起動するような機会もなく。使う必要はないものの捨てる気にもなれないということで、ずっと放り出してあったのだ。

 それが鳴っている、という事は。

「……もしもし」

「お久しぶりです、シンタロウ様。そちらでの生活には慣れましたか?」

「えーっと……確かヨティスさん、でしたっけ」

 俺をこちらの世界に連れてきた張本人。確か【啓示(オラクル)】だったか、そんな恩恵で会話ができると言っていたきりずっと忘れていた。

「まぁ慣れたかって言えば慣れてきましたけど……ちょっと不親切すぎませんかね。今どきゲームだってちゃんとチュートリアルありますよ」

「失礼ながら、20代後半ともなればゲームと現実の区別くらいはつけた方が宜しいかと」

「そういう意味じゃねぇ!」

 いきなり放り込んでおいてそのまま放置ってのはどういう事か、と。

「そうですね……先ほどのゲームの例で言うのであれば、プレイする前に説明書を読むよりも知識がない状態で多少進めてから読んだほうが理解が速いという事になります」

「確かに俺もそういうタイプですけどね」

 もしくは最後まで読まないわけだが、

「という事は今なら説明して貰えるわけですか。なんで俺をここに連れてきたのかについて」

「知りたいと言うのであれば」

 受話器の向こうで、こほんと小さな咳払いの音が聞こえる。

「正確に言えば、シンタロウ様……あなた方をこの世界にお呼びしたこと自体には、特に目的はございません。

 例えばこの世界が滅びに向かっている最中であるとか、いわゆる魔王のようなものが目覚めようとしているというような切羽詰った予定は特にございません。したがってシンタロウ様が何かをしなくてはならないというような使命もなく、今後一生引き篭っていても極端な話今この瞬間ご自分の命を断つといった行為を行なっても、特に何も問題はありません」

「それでは」

 俺は何のためにここに連れて来られたのか。

「我々があなたを呼んだのではありません。あなたが来たいと願ったので招き入れたのです。我々にできるのは扉を開くこと。開いた扉を潜るかどうかは、あなた自身が決めたことです。お尋ねしますが……あなたはこの世界に来たことを後悔したことは?」

「……それは、ないな」

 慌ただしいけど、純粋に楽しい日々を過ごしている。

「この世界を退屈だと思ったことは?」

「それもないな」

 厄介事も多いけど、純粋に面白い。知りたいと思ったこと、試したいと思ったことが此れ程次々に出てくるなんていつ以来だったか。少なくとも退屈を感じる暇もない。

「最後に1つ質問があります。

 あなたはこの世界の一般の平均的な方々に比べれば、いくつかの大きなアドバンテージがあります。しかしそれでも全ての問題を思うがままに解決出来るほどの力はなく、いずれ大きな困難にぶつかり必ず後悔する事も出てくるでしょう。もしかしたら戻りたいと思うこともあるかもしれません。しかし元の世界に帰れる機会は今この時だけです。

 あなたは元の世界に戻りますか?」

「それは必要ありません」

 それは即答できる。

 危険に飛び込みたいわけじゃないし、トラブルを楽しみにしているわけでもない。だが、それとは別の次元で退屈を拒む気持ちがある。

 何が幸福だとか賢い人生だとか、そういうのは人それぞれだし押し付ける気もない。いわゆる普通の人生だってそりゃあ楽しいこともいっぱいあるだろう。日々平和に慎ましく生きていくことこそが何だかんだで最大公約数の幸福を手に入れるルートだとは思う。

 それでも目の前にあるこれだけ面白そうな脇道を諦めるだなんて、そっちのほうがよっぽど後悔する。それだけは断言できる。

「そう言って戴ければ幸いです。……それと、もし興味があるのでしたら同郷の方を探してみては如何でしょう。あなたの身近にいる巫女の知人に1人いるようですね」

 巫女ってーと、センテか。センテの知人というと誰のことだろう。今のところ知り合った中にはそれらしい人はいなかったはずなので、まだ会ったことのない人だろうか。

 普通に聞けば分かるのかもしれないけれど、そもそもなんて聞けばいいのか。

 

 話しているうちに夜も更けてきた。ここの所早寝早起きを心がけている身としては、これ以上の夜更しは辛い。

 今後も何かあったときはこの携帯で連絡を入れるとのこと。場合によってはこちらからの呼び出しも可能らしいが、あまりその機会もないだろう。

 通話を切る直前、ヨティスさんが思い出したように付け足した。

 

「そうそう、1つだけあなた方をに招き入れる目的がありました。

 ――我々が作り上げたこの世界を、誰かに自慢したかったのです」

 

 それなら大成功ですよ。

 そう言うと、電話の向こうでかすかに嬉しそうな笑い声が聞こえた気がした。

2章は現在プロット練っている最中、閑話も追々書き上げていきます。

閑話についてはリクエストありがとうございます。受け付けておいて無茶ぶりされたらどうしようかとヒヤヒヤしてました。

まぁ、書けるかどうかは別として、誰々の昔の話も読んでみたいとかそういうのは今後も常時受け付けようかなぁと思っていますので、何かございましたらどうぞ。

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