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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
19/34

17話 炎の道

もうちょっと先まで書くつもりでしたが、文字数が結構オーバーしそうだったので一旦カット。

このエピソードはあと2,3話くらい続きます。

少しは主人公もいいところを見せられるようになったかな。



「うぃーっす」

「ちーっす」

 冒険者ギルドの片隅で、妙に間の抜けた声が交わされる。

 1週間ぶりに会い、片手を上げて挨拶をしたのは俺とモミさん。ルシャはさすがに顔を合わせるなり殴りかかってくる事はしないものの、じっとりとした眼差しを向けるだけで応じてくれなさそうな様子。

 どうやら先日の1件で俺の株はすっかり暴落してしまったらしい。元々高くないからあまり気にしてないけどね。

 むしろそういう目で見られると何だかゾクゾクするような気が。

「なぁ、シンタロウ」

「……あぁごめんごめん、少し考え事をば」

 少しぼーっとしてしまったようだ。何を考えていたか知られるとさすがに気まずいので、適当にごまかす。

「で、この1週間で何をやってたんだ?」

「ちょっとした調べ物と実験だ」

「へぇ?」

「この間なんであんなに苦戦したのか考えて、2人とも集団戦(パーティープレイ)のノウハウとか無さそうだと思ったわけ。で、ちょっとその辺りをカバー出来ないかと色々考えてみたというわけだ」

「ほぉ?」

 よく分かってないなコイツ。モミさんは体で覚えるタイプだから、1回実践させれば大丈夫だろうと思うけど。

 その影に隠れたルシャの方はさすがに頭脳労働担当なのか、俺の言わんとしている事は理解できているようだ。

「それで、あなたの言う集団戦のノウハウ? それを教えてくれると言うのかしら。確かあなたもあまり経験はなかったのだと思うのだけれど」

 ルシャの心配しているのも分かる。要するに素人考えやら生兵法は怪我の元という事だ。1歩間違えば大怪我に繋がるような事に机上の空論を持ち込まれるなんてのは、本人が自滅するだけならともかく巻き込まれる方としてはたまった物ではないだろう。

「そんなに大した事はしないって。結局のところ集団戦にもセオリーってものがあるわけだから、まずはそいつを試してみようと思う。……まぁ、モミさんはちょっと特訓するけど」

「俺ぇ!?」

 どこか人ごとのような表情でぼんやりしていたモミさんが唐突な流れ弾を食らって目を白黒させているが、それには構わずルシャは納得したように頷いた。

「それなら構わないわ。……特訓するのは面倒だもの」

 ……ルシャはルシャで、俺の提案そのものよりもそっちの方を気にしてたらしい。苦手そうだもんなぁ、チームワークとか。

 改めて見てみると何とも前途多難な2人組。誰かが面倒見なかったらそのうち野垂れ死にするんじゃなかろうかとだんだん心配になってくる。そう思いつつ放り出すのも後味が悪いし、最初とは違う意味で目が離せなくなったなぁ……

 

 ◇ ◇ ◇

 

 本日の目的も草原狼狩り。そういうわけで先週と同じ道を、とことこと歩いていた。どうせなら前回と同じ相手の方が、工夫の効果が分かりやすくていいだろうという理由からだ。

 さらに言えば何やらここ数日ほどは平原での目撃数が増え始めたらしく、異常繁殖の可能性もあるという事で討伐報酬が値上がりしているので、我々のような新米にとって降って湧いたボーナスタイムなのだ。

 とりあえず今日の目標としては、無傷生還ということで。

「そういえば先週の傷はもう平気なのか?」

「あぁ、あの後すぐ治療院に行ったし、もう痕くらいしか残ってないぞ」

 包帯すら巻いていない右手をグーパーしてみせる。

 

 この世界……全体が共通という事はないかもしれないが少なくともビオテース周辺の文化圏では、暦上は10日で1週間となっている。ちなみに30日で1月、12ヶ月プラスアルファで1年。端数となる10日前後については、末月と言って暦のズレを修正するついでに年末年始の祭をやる習わしになっているそうだ。ただ暦の精度がそこまで高くないのかそれとも本当に年によってずれているのか、年によって日数が異なるらしい。数学はさほど得意ではないので、天地明察するのは他の誰かに任せた。よろしく。


 前回、何も異論が無かったので普通に1週間と指定したのだが、よくよく考えるとあの傷は10日程度で治るようなものだったのだろうか。……そういえば別れる時、1週間の間特訓すると言ってたような。という事はさらに早く治ったとでも言うのか?

「あぁ、うちの家系はみんな傷の治りが早くてな」

「それでもモルドーは異常」

「うちの爺様は若い頃不意打ちで斬られて腕半分取れかけたけど、3日で治してその腕で相手を殴り倒したって言ってたぞ」

「お爺様の自慢話は半分くらいに割り引いて聞くべき」

 ……話半分でも6日で完治ですか。

 それにしても回復速度、か。たしか基礎体力にそんなのがあったような。

 <ステータス表示>は便利だけど情報量が多すぎて、意識して探さないと普通に見落とすから困る。

 基礎体力は体技などとは異なり、肉体的な性能そのものを示すカテゴリだ。スキルとは言うものの、<腕力><敏捷>のようにゲームでいうSTRやAGIなどのような、ステータスとしての要素が強いようだ。その中の1つ、<治癒>というのが恐らく怪我の回復速度に関係するのだと思われる。

 モミさんは<治癒>A+。ルシャが<治癒>B+。俺は補正込みで……<治癒>C-。うん、怪我しないように気をつけよう。この2人を基準にされると困る。

 上にS-やS+があるという推測からするとまだ上限値の85%でしかないが、スキルのランク付けは人数分布ではなく性能によるものだ。どのスキルでもほとんどの人がCランク前後に集中していることからすると、モミさんよりも高ランクの人がどれだけいるか……という高レベルぶりだと思われる。

 それにしてもどうせ高ランクなら他にもいろいろあるだろうに、傷を受けないと効果がない<治癒>が高ランクというのもなぁ。一瞬そう思ったが、よくよく考えてみれば現代日本ほど医療技術が発達していないと思われるこの世界で生きるためには、かなり重要な要素なのかもしれない。鍛えた方がいいよなぁ。でも鍛えられるのかなぁ。

 

「それにしても全然見つからないな」

 平原の外れにある森林地帯に辿り着くかという頃になって、先導していたモミさんに訊ねてみた。一応言っておくとビオテースを出てから平原を横断したわけではなく、外周に沿うような形で移動しただけである。横断すると1月くらいかかるらしい。さすが日本とはスケールが違う。

「おっかしいな……最近増えているっていうから、手っ取り早く繁殖場所を押さえればいいかと思ったんだが」

 モフモフと耳をいじりながら、モミさんが首を傾げている。

「繁殖場所ってこの辺がそうなのか?」

「この辺っていうか、森と平原の境界近辺だな。出産が近づくと身を隠せる場所の多い場所に移動する習性があるんだ。生まれた子供がある程度成長するまでは、しばらくそのまま森の近くにいるはずなんだが」

 なるほど、いつ出くわすか分からないままフラフラと平原をさ迷うのではなく、遭遇する確率の高い所を狙っているわけか。意外に頭を使っている……

「それって常識なのか?」

「どうだろうなぁ。草原狼狩りをする事が多ければ知ってると思うけど」

 それは……

「先を越されたんじゃないか?」

「……有りうるな」

 それでも無作為にだだっ広い平原をフラフラするよりはまだ見込みがあるんだが。

「ちなみに脚だけは速い上に多少は頭も回るんで、腕が立つ奴の場合は向こうが近寄って来ない。そういうわけで、強くなると逆に狩りづらい獣だ」

「難儀な連中だなぁ」

 さすがに障害物のない平原を走って逃げる四足歩行の獣に、走って追いつける人間なんて殆どいないだろうし。……絶対いないと言い切れないのが、この世界の恐ろしいところだ。

「とりあえずはこのまま外周に沿ってしばらく進んでみるか。ここらは街に近いから狩られたにしても、先に行けばそのうち……っと」

 モミさんは急に言葉を切ると、長剣を引き抜きつつもう片方の手で合図を送る。見ればルシャは既に杖を構えて詠唱を始めていた。

 平原とは言っても完全に平坦なわけではなく、窪地や丘陵、背の高い茂みなどの死角はそれなりにある。小剣を抜きながらモミさんの視線を追ってみれば、森林方向の茂みに幾つかの影が見え隠れしている事に気がついた。

 よく見つけるな。これも野性味溢れるあの耳の性能のおかげか、それとも<気配察知>だか<索敵>あたりの効果なのか。俺も後で覚えよう。

「じゃ、2人とも作戦の通りで頼んだ」

 今回は俺も手出しすると伝えてはあるが、あくまでメインはこの2人だ。

「とりあえずやってみるわ。……上手く行くかは知らないけど」

「俺もそれなりに大丈夫だとは思う」

 自信があるのだか無いのだか、微妙に締まらない返事を口々に返す2人に苦笑する。

「元々出来ることの順番とタイミングに少し気をつけるくらいだし、そんなに気負う事もないって」

 失敗しても怪我するだけだと笑ってやると、それもそうだなと頷いてモミさんの緊張が解けたのが分かる。

 いや、冗談だから出来れば怪我もしない方向で頼むよ。

 

「外れだな……小鬼(ゴブリン)の群れだ」

 キィキィと甲高い声を上げながら茂みから飛び出してきたのは、緑っぽい肌をした醜悪な子供のような外見の生き物。20体に届こうかという各々が手に持つのは原始的な石器や棍棒、上等なものでも精々がどこかで拾ってきたようなボロボロの刃物だ。

 ゴブリン! これまで見かけた生物といえば地球の動物の改変版のようなものばかりだったが、ここに来ていよいよファンタジーっぽい物に出くわした。ただ、基本的な外形は猿よりも余程人間に近い。これに躊躇いなく武器を振り下ろすのは、なかなか心理的なハードルが高いかもしれない。

 だがまぁ、やるしかないな。

「珍しいな、あまりこの辺では見ないのに」

 長剣を構えたまま、モミさんが軽く眉をしかめた。

「厄介な連中なのか?」

「森の中だったら。開けた場所なら奇襲の心配もないし、草原狼ほど足も速くないから正直楽勝だ。こいつらもそれくらいは分かってるから普通は平原には出てこないんだが……」

 普通じゃない何か、か……やだなぁ、こういう悪い意味で何かがありそうな兆候ってのは。

「で、方針は変えなくていいんだよな」

「当然」

 耳障りな甲高い叫びを上げながら武器を振り上げる小鬼達。その距離がある程度詰まった所で、既に詠唱を終えていたルシャに合図を送る。

「――[ファイア・ウォール]・発動(トリガー)

 急激に熱せられた空気が膨張する音と共に、先頭に立つモミさんの位置から小鬼の群れの後方まで長い長い炎の壁が地面から間欠泉のように吹き出す。

 この魔法で倒せたのは、最も右端にいた運の悪い1匹のみ。だがこれでいい。

 群れの厄介な所は、多面的に襲いかかってくる事。一旦囲まれたら、手数を持って相対しない事にはいずれ弱点に食いつかれる。ならばバラけさせなければいいのだ。

 [ファイア・ウォール]によって右側を塞がれ戸惑う小鬼達の姿に、詠唱を終えたルシャがこちらを見る。

「言うとおりにやったけど……左側ががら空きよ? これじゃあまり意味ないんじゃないかしら」

 [ファイア・ウォール]は持続的に発動する魔法。一旦解除しない事には他の魔法を使うことは出来ず、少なくともルシャの腕ではもう一度使用することで両脇をふさぐという事は出来ない。

 ならば話は単純だ。

 先ほどからこっそり唱えていたものを解き放つ。

「――[火壁]・発動(トリガー)

 小鬼の群れを挟むようにして左側に築かれる、もう1枚の炎の壁。ルシャの発動したそれに比べれば高さも厚みもないが、そこはさすがに使用者のポテンシャルの差だろう。だが今は乗り越えられない程度の火力があれば充分。

「……魔術使えたのね、驚いたわ。……それに、私よりずっと詠唱が速い」

 その声に横目で見れば、ポカンとした表情のルシャ。そういえばルシャが詠唱している真っ最中も、俺は呑気にモミさんと話していたっけ。

「確か使えるようになったのは3日前だったかな」

「っ!? 3日前って……」

「その話はまた後で。終わってないのに気を緩めるとまた怪我するぞ。……モミさんが」

 [ファイア・ウォール]が解除されるのも困るしな。

 ルシャが慌てて魔法の維持に意識を戻したのを確認し、そして。

「モミさん、GO!」

「了解――っと!」

 返事と同時に、ここへ来る道すがら地味に練習させたスキルの1つが発動する。

 

 ――<突進(チャージ)>

 

 炎に囲まれて半ばパニックに陥っていた小鬼達に身構えさせる暇を与える必要はない。2枚の火壁によって作られた狭路を、盾を低く掲げたモミさんが重い足音と共に駆け抜ける。

 ――ゴッ!!

 盾と衝突した先頭の1匹がひしゃげる様な音と共に空高く跳ね上げられ、続く2匹目は金属補強されたブーツに頭蓋を踏み割られる。3,4匹目は反射的に横によけようとして火に撒かれ、5匹目は盾の直撃で水平に吹き飛ばされて後続の仲間を巻き込み、転がった挙句に胸骨ごと内臓を踏み潰された。


 ただでさえ大柄なモミさんに装備の分を合わせると、その総重量は100キロを超えるだろう。一方の小鬼は精々1m程の身長で、手に持つのは正面に掲げられた重厚な盾の表面を削るのが精々の、粗末な武器。

 小鬼達にとっては、走るトラックの前に丸腰で放り出されたようなものだ。取得したばかりの<突進(チャージ)>スキルによって増幅された些細な衝撃力でも、小柄な体躯は接触した次の瞬間冗談のように次々と宙を舞う。


 火壁の間に作られた道は、モミさんの身体と盾だけで完全にふさげるほど狭くはない。そこまで狭くすれば、その間にいるモミさんにもダメージが行ってしまう。

 <突進(チャージ)>の軌道はやや火力の低い左側に寄っており、そちら側から抜けられるような隙間は殆どない。その代わり右側にはやや広めのスペースができてしまう。少し頭の回る個体はそれに気付き火壁に突っ込まない程度に寄ってやり過ごそうとするが、

 ――ゴリュッ

 モミさんの左手に掲げられた盾が横を通り抜けた次の瞬間、右手に握られた長剣が首に食い込み、頚骨をへし折り引きちぎる。

 さすがに<突進(チャージ)>をしながら同時に剣を振るような器用な真似は出来なかったが、腰の高さで構えた剣で引っ掛けるだけでも結構な威力だ。到底綺麗に両断することなど望むべくもないが、それは小鬼達からして見ればギロチンの刃が水平に飛んでくるようなものだろう。


 狭い道の左半分を押しつぶす鉄塊と、右半分を刈り取る白刃。

 結果としてモミさんの<突進(チャージ)>の射程は道幅一杯まで隙間なく広がり、狭い壁の中に押し込まれた小鬼の群れを文字通り“一掃”したのだった。

括弧の使い方について改めて説明すると、

【 】がギフト、< >がスキル。[ ]がそれ以外の名称ですね。スキルじゃないけど固有の呼名があるもの。魔法とか。

用語を強調したいときは“ ”なんてのも使いますが、これ自体は括弧でくくる事自体には特に意味はありません。


それと、魔法と魔術という言葉が混在していますが、これも一応誤字ではありません。この使い分けについては次回まわしです。

その時代の文明の力では絶対に実現不可能な「結果」をもたらすものが魔法で……というわけではないのであしからず。もっと単純な話です。

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