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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
17/34

15話 狼狩り

大変お待たせしました。

 というわけで翌日2人に連れられてやってきたのはビオテースの東側に広がる平野、街から徒歩で2時間といった距離の場所であった。

 今回2人が選んだ獲物というのは、平原狼という群れをなして行動するタイプのD-Cランクの獣らしい。狼と名はつくものの体格は小柄で力も弱く、個々の能力値としては魔物の中でも最下級の“D”と牙猪より劣る。ただし厄介な点は常に群れをなして行動する所であり、脅威度が中程度の“C”と指定されているのだそうな。

 能力値と脅威度はどちらの方が重視すべきかというのは個々人によって違うので、牙猪とどっちが厄介かというのは一概に言えないらしい。モミさん達は正面突破の方が得意らしく、そういう意味では牙猪よりも遥かにやりづらい相手だと言っていた。

 ただ悲しいかな、いくら群れが厄介と言っても所詮能力値最低のDランク。中堅所の方たちにとってみればどれだけ集まってもただの雑魚でしかない相手だというのが、この世界の力関係を如実に表している。

 

「お、見つけたぜー」

 平原をのたのた歩いている最中、いきなりモミさんが耳をピクっとさせて立ち止まったかと思ったら、右手のなだらかな丘のほうを指差した。

 そちらを見てみればなるほど、そこには20頭くらいの小柄な狼の群れがこちらをじっと見ていた。

 いや、小柄って言っても肩の位置が太腿くらいまであるんだけど。

 ちょっとビビっている俺を尻目に武器を構える2人。その平然とした様子に、俺も落ち着きを取り戻す。

「それじゃいつもの通り、俺が抑えてルシャが火炎弾な」

「ええ」

 前に出たモミさんが構えるのは冒険者ギルドには持ってきていなかったルシャよりも大きそうなカイトシールドと、同じく大振りな片手持ちの長剣(ロングソード)。両方ともグリップに巻かれた革が鈍い光沢を放っており、よく使い込まれていることが分かる。

 一方のルシャが持つのは昨日と同じ金属製の長杖。よく見れば中程にリボルバーのような回転機構が組み込まれており、カチリカチリと音を立てながら回転させて調整している様子。剣や盾はともかく、こちらの武器はどのような使い方をするのか非常に興味をそそられるところだ。

 

 2人が臨戦態勢を整えた事を感じ取ったのか、遠巻きに見ていた草原狼が身を低くしてゆっくりこちらとの距離を詰めてくる。

 モミさんは連中とルシャの間に常にいるような位置取りをしつつ身構え壁となる。その後ろに隠れるように立ったルシャは、杖を高く掲げて半眼になり口の中でなにやら呟き始めた。言葉を連ねるごとに、その身体の周囲に蛍のような赤い光の粒子が漂い始める。

 俺はというと今回は基本的に見学ということで、ルシャが直接狙われたときにフォローできるよう傍に控えるに留まる。草原狼は初見ではないということなので心配はしていないが、気を抜かないようにはしないといけないな。

 俺は草原狼の動きから意識が離れないように注意しつつ、前に立つ2人に向かって<ステータス表示>を使用した。

 

 ◆名前

  モルド・ミュート

 ◆称号

  身体を張った 戦士

   

   

 ◆名前

  ルシャ・ミュート

 ◆称号

  小さな 魔術師

 

 なんというかクラスを見てみると2人ともゲームで言うところの1次職的なもので、“十字騎士”やら“中位巫女”やらに比べると見劣り感は否めない。もっとも、下宿人に比べれば余程ファンタジーしているが。べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ。

 先日からあちこちでマメに<ステータス表示>してきた限りでは、この他には“剣士”とか“狩人”とかのようなオーソドックスなクラスの者がほとんどだった。たまに上位クラスか特殊クラスらしき変わったものを持つ人もいたが、比率としては全体の1割にも満たなかったように思う。最初の“1次職”という印象はあながち間違っていないのかもしれない。

 まぁ今見たかったのは称号ではないので表示を2人の所有スキルに切り替える。2人同時に<ステータス表示>を使うのは少々神経を使うが、フィルターをかけて表示する情報を絞ればさほど負担にはならない。

 俺自身がスキルを使った時に使用スキルが表示されたように、他人に対して<ステータス表示>を行なっている最中はアクティブとなったスキルを見ることができることは、ここまで移動している最中に確認してあった。この世界では一挙手一投足とまでは言わないものの凡ゆる行動にスキルが関わっているのだ。活動している限りは何かしらのスキルが発動しているため、<ステータス表示>のこの機能に気づくのに時間はかからなかった。

 ここに来る途中でも隙をみては<ステータス表示>でスキルレベルを確認してきたが、2人のスキル構成は大雑把に言うと以下のようになる。

 モミさんはその大柄な体格通り<腕力><体力>がB-と高めで、体技<防御><反撃><強打>および近接<片手剣><大型盾>に比重が置かれた典型的な壁役である。<敏捷>C-と少々低いのは躱すのではなく受ける事を重視したスタイルであるためだろうか。正面からやりあう方が得意だというのも頷ける。

 一方のルシャは基礎体力がほぼ最低値であるのに対し、基礎知能が高いランクになっている。特に<集中力>がA-と飛びぬけており、他の<知能><思考速度>などもBランク台と平均を上回っているように思う。ただ総合的に見るとマイナスが目立ってしまうが、そこはやり方を工夫して特技を活かせるようにすればいい。低い基礎体力からわかるように体技スキルについては特筆することがないが、魔技の<火魔法>が得意らしいという事が分かる。魔法! ここに来てから見た魔法と言ったら探知系の地味なやつばかりだったので期待は高まるばかりだ。

 一応壁と火力、前衛と後衛というパーティーとしての最低限の形は整っているが、さてどのような戦い方をするものだろうか。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『――・焔よ舞え・[ファイア・ブリッド]・発動(トリガー)!』

 犬が走る程の速度で距離を詰めてきた草原狼の群れに向かって杖を突きつけ、高らかに唱えるルシャ。

 やはり先ほどから呟いていたのは呪文だったのかと感動する俺の目の前で漂っていた光の粒子が収束し、バスケットボールサイズの赤々と燃える炎の玉を形作る。ルシャの周囲を漂う5つの火弾は、続く言葉で動きを変える。

射出(シュート)!!』

 リボルバーの射撃のように1発ずつ連続で打ち出された火弾は背を向けたモミさんの横を抜け、一直線に駆ける草原狼達に正面から襲いかかった。

 泡を食って横っ飛びする先頭の何頭かは回避することに成功するが、その影に隠れていて反応に遅れた後続が次々と突っ込む。接触と同時に重い音と共に爆発する1発目の火弾と誘爆する後続の火弾。直接接触していない草原狼が爆炎に巻き込まれる様子が見えた。

 5つの火弾が爆裂した後に残るのは、直撃を受けてバラバラの黒炭になった影。炎による火傷を負って倒れる者。間近で衝撃波を浴びせられ、内臓や鼓膜をやられてもがく者。初撃をやり過ごし、こちらに襲いかかる者。

 今の1撃――いや5連撃を躱してモミさんの元まで辿り着いていた先頭の1頭が、牙を剥き出しにして飛びかかる。

「っだぁっ!!」

 気合と共に振り抜かれたロングソードは草原狼の口元から入り、後頭部に抜ける。吹き出した血潮がモミさんの顔を汚し、その足元に下顎より上を失った死骸がどさりと落ちる。その隙をつこうとした2頭目も、反対側の手に握られたカイトシールドによって殴り飛ばされた。

 

 ――<強打>

 

 [|盾による<強打>《シールド・バッシュ》]で殴られた草原狼はそのまま生き残った後続の足元に突っ込み、たたらを踏ませる。2度3度とバウンドしたそいつはまだ息はあったがどこかを痛めたのか藻掻くだけで立ち上がる様子はない。

 出鼻をくじかれた後続は足を止め、勢いのままに突っ込むことを止めた。先頭に立つモミさんから10mほどの距離をあけて、じりじりとこちらの様子を伺うように回り込み始めた。その数、6頭。

 

 最初の<火魔法>で半分以上をあっさり仕留めて残った魔物も危なげなくさばいた様子に、これは思っていた以上に楽勝モードだったかと俺は気を緩めかける。だが、回り込む草原狼を追って巡らされたモミさんの横顔が険しくなっている事に気がついて集中しなおした。隣のルシャも火弾に続いて詠唱を始めているが、その表情には若干焦りが見える。

 3頭ずつ左右に分かれて回り込む草原狼達は、正面に立つ厄介な敵より後ろにいる小さな生物を標的に定めたようだ。決してモミさんの一定距離以内に入らないように警戒しつつ、しかしゆっくりとこちらに近づいている。

 10mという距離は俺であれば一足飛びに詰める事が出来るが、モミさんはそのような行動は取らなかった。

 理由の1つは装備の重量に加えて<敏捷>が低く、そこは射程外であるということ。

 そしてもう1つが、下手に片方を狙えば、もう片方に回り込んでいる連中とルシャの間に壁が無くなるということ。

 完全に後ろに回り込まれないようにゆっくりとモミさんは後ろに下がっているが、完全に合流してしまえば今度はルシャ自身が障害となって、自由に武器を振り回せなくなってしまう。打開策として考えられるのはルシャの魔法だが、様子を見る限り発動にはまだ少し時間が必要そうだ。

 ここで2人の手数が少ないこと、硬直状態になると取れる手段が少ないという弱点が露になった。

 

 一応俺も控えているので最悪の事態にはならないと思う。今までの動きを見た限りでは、3頭程度であれば俺でもルシャを守りつつ時間を稼ぐことも充分にできる。

 だが今回の目的としては俺が2人の実力を確認することだ。試すような立場となるのは若干申し訳ない気持ちではあるが、今後の事を考えると一時の情で妥協するのも良くない。

 小剣を構えていつでも草原狼とルシャの間に割り込めるようにしつつ、2人の動きを見守る。

 手を出しかねているモミさんの壁をあと数秒もあれば右側の3頭が抜けてしまうだろうという時、スイッチを切り替えたようにルシャの表情から焦りが消えた。

 

 ――<無視>

 ――<平常心>


 ――――<早口>

 

 <無視>により、こちらに向かう草原狼の様子を伺うのに割いていた意識を強制的に外し、焦りによる乱れたコンディションを<平常心>によって瞬間的に整える。2つのスキルによって高まった集中力は<早口>のパフォーマンスを上げ、これまでに数倍する速度で失敗する事なく一気に詠唱を唱え終える。

『――・立ちはだかれ・[ファイア・ウォール]・発動(トリガー)!』

 真っ直ぐ伸ばした杖が示した地面から、空に向かって炎が吹き出して右側先頭の1頭を飲み込み、悲鳴をあげさせる間も与えずに焼き焦がす。虚空に線を引くような杖の動きをなぞって炎は広がり、残りの2頭とこちらの間を遮る壁となった。

 本来であれば間に合わなかっただろう時間を見事に取り戻したルシャが極度の精神疲労からか倒れかけ、俺は慌てて手を伸ばして支えた。

 もちろんこのチャンスを見逃すほどモミさんも素人ではない。

 ――<疾駆(ダッシュ)>

 炎壁が生じたのと同時に盾を構えたまま左側の残りに突っ込み、2頭をまとめて斬り飛ばす。残った1頭は盾で力任せに押しつぶし、己に数倍する体重を加えられて肺からグッと息を漏らした3頭目を、そのまま長剣を突きこみ止めを刺した。

 

 だが、わずかな油断。

 炎壁を回り込んだ最後の2頭は、俺がそばに居るルシャではなく背中を向けたモミさんへと襲いかかった。

「後ろっ!」

 俺の声に反応して背後からの奇襲に気づくも、その武器は敵の死骸に深々と埋まって咄嗟に抜き取ることができない。

 モミさんの後方左右に分かれて飛びかかるため、片方は盾で防げても両方は難しい。

 ――<投擲>

 咄嗟に買ったばかりの投擲短剣(スローイングダガー)を投げつけるが、さすがに使い始めて間もないため命中こそするものの上手く刺さりはしない。それなりに鍛えた<投擲>スキルのおかげで石をぶつける程度のダメージを与え、一瞬体勢を崩させるのが精一杯だった。

 

 ――<強打>

 振り返りざまに1頭を[|盾による<強打>《シールド・バッシュ》]。遠心力を加えた打撃は先ほどの1撃には劣るものの大型犬程度の体躯をはじき飛ばすことはできた。だが続けてもう1頭を仕留めるには遅い。

 ガッと剥き出した牙がモミさんの喉元に迫ったとき。差し出されたモミさんの右腕がその牙を遮った。

 ――<剛体>

 1本1本が親指程もありそうな牙は引き締められた筋肉に食い込むのが精々で、モミさんの前腕部の皮膚を浅く裂くのに留まる。慌てて引き抜こうとするが間に合わず、もう片方の腕でがっちりと押さえ込まれる。次の瞬間、

 ――<格闘グラップル>

 力任せに首をへし折られて脱力した四肢がだらりと垂れ下がった。

 仕留めた草原狼の牙を引き剥がし、素早く足元の死骸から長剣を回収するモミさん。周囲を伺い、まだこちらを襲おうとしている敵がいない事を確認して、大きく息を吐き出した。

 

 ――<咆哮(ハウリング)>

「……っ、痛ええぇぇぇぇ!」

 全力の雄叫び。

 それは痛かろう。<剛体>の効果は一瞬だったようで接触のダメージ自体は最小限に抑えられたものの、その前腕部は草原狼が食い込んだ牙を引き抜こうともがいた拍子に抉られ、だらだらと血が流れていたのだから。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 見た感じ傷はあまり深く無いようで、太い血管や神経も傷ついてはいなさそうで幸いだ。唯一体調万全の俺が手早く息のある草原狼の息の根を止め、モミさんの応急手当を行っていた。

 最初心配だった生き物を殺すという行為も、直前までの戦闘行為の余波と先日の牙猪を解体した経験から、案外抵抗なく済ませることができた。圧倒的優位から無抵抗の立場の相手を殺すのではなく、俺自身は手を出していないものの直接殺意のやり取りをした事が抵抗感を消していたのだろう。ちゃんと止めをさしておかないと治療中に息を吹き返した奴に襲われるかもしれないという意識もあった。

 噛み傷は病気が心配なので、染みると藻掻くモミさんを押さえ込んで念入りに洗浄してガーゼを巻きつける。

 応急手当を終えたあとは、討伐証明確保のために<解体>を行う。多少勝手は違うものの、センテのレクチャーの元に牙猪を<解体>した経験が早くも生きてきている。

 腕が使えないモミさんはともかくルシャがどうしているかというと、足を投げ出した格好でモミさんの背中に寄りかかり、ぼけーっと弛緩している。

 羨ましいぞモミさん。その場所を代われ。

 冗談でも口に出さないのは、迂闊な発言をして“少女愛好家”とかみたいな称号を手に入れたら堪らないからである。俺的に許容できるのは“変態紳士”が限界だ。紳士だからな。

 先ほどルシャが連続で使った3つのスキルは全て魔技に属するものだ。体技が体力を消耗するのに対し、魔技は精神力を著しく消耗させるらしい。複数のスキルを組み合わせて連続使用する、所謂“コンボ”は効果が飛躍的に高まる代わりに、疲労も激しいようだ。

 <立体軌道>も<疾駆(ダッシュ)>や<跳躍(ジャンプ)>、<登頂(クライム)>のコンボのようなものであることを考えると、ルシャのそれも少し工夫すれば何か複合スキルを見つけられるかもしれないな。

 今度試してみようと心に留めつつ<解体>を続けていると、少し回復したのかモミさんがこちらに歩いてきた。

「どうだったよ、俺らの腕前は」

 その腕の中にはいつの間にか、すよすよと寝息を立てているルシャの姿。羨ましいぞ、代われ。……いや、ルシャと交代したいんじゃなくてモミさんと交代したいのだからね。一応確認しておくけど。

 起こさないように注意しつつゆっくりとしゃがみ込み、ルシャを抱えていない方の手で、解体した部位の片付けを始めるモミさん

 

 少し手を止めて考えた後、俺はぐっとサムズアップして笑顔でこう答えてやった。

 

「うん、まだまだだな!」

 

描写の巧拙は置いておくとして、やはり戦闘回は楽しいです。

前半であれこれもたついていたのが嘘のように、あっという間に書き上がりました。

あとは指摘いただいた前の話の誤字をあれこれ修正してから、次の話です。

あまり遅くならないように頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

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