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異世界での職業適性  作者: 子儀
1章 異世界への移住者募集中
13/34

11話 翌日

 俺が目を覚ましたのは、日が完全に落ちた頃であった。

 窓の外に目をやってそれを確認した後、自分がベッドの上で横になっていたことに気がついた。

「おや、起きたかい」

 声をかけられて振り返ると、俺と同年代くらいの柔和そうな顔立ちをした青年が座っていた。

 傍らのチェストに読みかけの本を置き、こちらに向き直る。

「悪かったね、うちの隊長が無茶やったみたいで。まさか意識を失うとは思わなかったって焦ってたよ」

「いや、倒れたのはどちらかというと走り回ってた疲労の方が原因じゃないかと」

 深々と頭を下げられてしまい慌てて首を振ると、彼は安心したように笑った。

「そうか、良かった。頭を打ったかもしれないって心配したよ。一応目に見えた範囲の傷は治しておいたけどね」

 そう言われて身体の様子を見ると、所々ぶつけたり擦りむいたりしていた傷が綺麗に無くなっていた。まぁ、傷とは言っても本当に軽いものしかなかったのだけれど。

 彼はコーテッド=レークランドと名乗った。称号は“深緑の 高等司祭”。エルクハウンドさんのパーティーの仲間で、留守にしている仲間の代わりに看病を買って出たのだそうだ。

「あ、気を悪くしないでくれ。もともとは自分が悪いからって隊長は残ろうとしてたんだけど、特に居ても仕方ないからって僕が追い出したんだ」

 気絶させた本人がそれを置いて出かけるというのに抵抗を感じていたようだ。立場のわりに妙に律儀というか生真面目というか。

「それならむしろ、急に倒れて申し訳なかったと伝えてもらえれば」

「了解したよ」

 その後も少し言葉を交わすうちにわかったのだが、ここは彼らが常宿としている宿屋らしい。俺が倒れた場所が偶偶ここの近くだったということで、運び込まれたのだそうだ。

 わずかな時間ではあるものの、横になっていたおかげで疲労はだいぶ取れている。ベッドから降りて立ち上がり背筋を伸ばすと、心地よい痛みと共にパキポキと関節がなった。

「そういえば、俺が帰らない理由知ってるのかな」

「本部の人達かい? それなら隊長達が連絡しておくって言ってたよ」

 そう言われて自分があの発光ジャケットを着ていない事に気がついた。ついでに討伐証明ということで持っていったのだろう。あれだけ強いのにさらに景品として強力な装備を手に入れたら、ますます手がつけられなくなりそうだなと思ったら、既にずっと性能の高い装備を持っているので、他のメンバーの装備として使うつもりだとか。それもあって、テッド――そう呼ぶように言われた――以外は全員出かけてしまったのだ。

「それじゃ、目が覚めたことだし俺も行くかな」

 自分はこのまま宿でのんびりしていると言ったテッドに挨拶と礼をし、宿を出る。

 十分な休息を取ったおかげで体調は回復したものの、今度は腹が減って仕方ない。中央広場では色々な出店も用意されていたことだし、こちらの世界の軽食を試してみたいものだ。

 

 中央広場にたどり着いてみれば既にウェイスト氏は帰ってしまっていたものの翌日鍛冶ギルドを尋ねるようにと伝言を受け取った。

 なんで鍛冶ギルド? と疑問には感じたものの、明日になればわかるだろうと考えるのはやめて食べ物を求めてぶらぶらとさ迷う。そのうち同じように食べ歩きをしていたエルクハウンドさん一行と遭遇し、詫び代わりに食事をおごってもらうことになった。そのうちどこから話を聞きつけたのか途中でセンテが合流。日が暮れていた事もあって酒が入り始め、やがて広場中を巻き込んだ大宴会となったのだった。

 やっぱり祭はこっちのノリの方が楽しいな、俺は。

 エルクハウンドさん達は明日にはこの街を出るらしい。

 仕事なので仕方ないとは思うが、折角知り合ったのだしまた会えるといいね。


 ◇ ◇ ◇


「おおぉぉ、ホントに好きなのを貰っていいの!?」

 翌日。ウェイスト氏の伝言を受けたというセンテに引き連れられ鍛冶ギルドを訪れると、体育館くらいありそうな巨大な倉庫に案内された。

 広い倉庫にギュウギュウに収められた数々の武器を目の前に、センテが目をキラキラさせている。

 何を隠そう、昨日俺の派手なリタイアの仕方のおかげで参加者の半数が解散ムードとなってしまい、有耶無耶のうちにタイムアップまで逃げ延びてしまったのだ。その景品として好きな装備を1品貰えるということになっている。

「言っとくが全部じゃねぇぞ。そこの棚に並んでいるヤツの中からだけな」

 苦笑するのは、ウェイスト氏の古い友人であるというこの街の鍛冶ギルド支部長であることのマスティフ氏。

 

 ◆名前

  マスティフ・ロットワイヤー

 ◆称号

  火の精霊の信頼を受けた 鍛冶マイスター

  

「一般向けの景品で出したのよりは若干性能は落ちるがな、それでも其処らの武器屋の店先に並べられているものよりは遥かに上等な品だぜ」

 そう言って示したのは、倉庫の奥まった所にある巨大なラック。幅は5m、高さは3m近くありそうだ。文字通り金属の塊である武具を収納するもののためか、棚板が異様に分厚く頑丈な作りとなっている。どうでもいいがこの棚を倉庫に設置するのは大変だったろうと言ったら、この倉庫の壁際にある棚は基本的に全部作り付けらしい。

 他の棚も似たような作りだったものの、置いてある品は剣なら剣、槍なら槍だけと種別毎にある程度まとめて収納されているのに対し、ここだけは様々な種類の武器が雑多に並んでいる。

 整理自体は丁寧に行われているものの他の棚とは随分と雰囲気が違う理由を尋ねてみると、マスティフ氏は頭を掻きながら答えた。

「あー……ここにあるのはみんな流通に乗せられないか、売れ残ったかの曰く付きばかりでなぁ」

 曰く付きって言っても別に呪いの品じゃないぞ、と訂正を入れた。

 

 いわゆる魔法武器(マジックウェポン)と呼ばれる武器防具を作る方法は、あまり体系付けられておらず職人の感性に頼っている。そのため、量産品を作るのならともかく完全な新作を作る場合は、相当の試行錯誤と試作が繰り返されらしい。

 期待した性能を満たせなかった試作品については鋳潰したり解体したりして素材に戻るのだが、そうするには惜しい性能や効果のものができることもある。だが、試作品ゆえにその大半がコスト度外視……というよりはコストと性能が釣り合っていないものなのだ。

 早い話が、これを買うくらいなら別のを買うわという微妙な出来だったり、効果やら何やらニッチ仕様で全然売れなかったものだそうな。

「いや、物自体は悪くないんだ。物は」

 だからこそこうして、棚の肥やしにせざるを得ないのだという。

「だがまぁ、売れない物なら売る以外の使い方をすればいいって事になってな」

 依頼の報酬やらなんやらで現物支給する必要が出た際にご活躍願うという役割が定着したそうだ。

「折角作ったものだからどうせなら使って欲しいからな」

 ごもっとも。

 製造業に多少なりとも関わったことがある身からすると、その気持ちは多少なりとも理解できるものだった。

 

「ねぇ、これ、これがいい!」

 先ほどからあれでもないこれでもないと引っ掻き回していたセンテが差し出したのは、刀身が60cm弱の1振りの鉈。腰に下げているマチェットに比べてその先端がさらに肉厚で幅広くなっており、俺の知っているもので言うと“ククリ刀”が一番イメージに近いものだ。

「お前そういうの好きだなぁ」

 センテの戦闘スタイルは敏捷に重点を置いたものであり、あまり重かったり大きかったりする武器は使いづらい。だが、小剣や短剣だと今度は攻撃力が不足する。

 そのため、長剣に比べれば比較的軽く小さいながら、移動力や速度を遠心力としてそのまま威力に繋げやすい、鉈系の武器を好むのだ。

「おお、それは確か先代が作ったものだな。重力系の魔法がかかっていて、効果は確か……速度に応じて重量が増すんだったか」

「へぇ、ぴったりじゃないですか」

 武器としての特徴と効果が噛み合っている。これが売れ残っているには正直違和感がある。

「先代は短所を補うよりも長所を伸ばす方を好んでたからな。そういう意味ではあれは結構いい品なんだが」

 外に出て素振りを始めたセンテを見る。

「効果が高すぎて、一度空振ったら止まらねぇんだ」

 通常であれば、剣を振り切った後は一旦動きを止めてから次の1撃を行う。だがあれは振り切った瞬間の腕にかかる荷重が大きく、どうしても身体が流されてしまうのだ。逆に止められる速度で振れば今度は武器として十分な威力を出すことが出来ない。

 そういう意味では結構欠陥武器なのかもしれない。

「使いこなせなくは無いんだろうが、そこまであのタイプの剣にこだわる奴もいなくてな」

 その目線の先には、嬉々としてククリ刀を振り回すセンテ。

 止められないなら止めなければいい、とばかりに武器の勢いのまま全身ごとグルングルンと振り回している。普通であれば一方向からの単調な斬撃になってしまうのだろうが、さすが同系統の武器の扱いに慣れたセンテ。手首や肘を十分に使い回転の中心点をずらすことで、巧みに回転方向を変えている。

 さらには武器の勢い自体を推進力にも利用しているようで、全身の動きのキレが増している。

「ふむ」

 欠陥と言ったばかりの武器を早くも使いこなしているように見えるセンテに興味を持ったのか、傍らに落ちている木切れを投げつけた。

 鍛冶で鍛えられた筋力も加わったそれは補正込みの俺の全力<投擲>並の速度で飛翔し――

「――フッ!!」

 素早く身を躱したセンテが発する気合と同時に空中で叩き割られた。ククリ刀を手元でくるりと回し、鞘に収める。

「お見事」

 パチパチと拍手をしながらの賞賛を受け、照れるセンテ。

「いや、見事なもんだ。腕もそうだが、あれだけの武器の中から迷いなくそいつを選んだってのもな」

「そんなに凄いことじゃないよ。あそこにあったのは全部使える(・・・)ものだったんだよね。欲しいのが剣だったら悩んだと思うけど、これは形で使い方が決まっちゃうし」

 どんな効果であれ、少なくともククリ刀としての使い方を補助するか、少なくとも阻害するものではないだろうという判断か。欲しかったのは魔法効果ではなく武器そのものだったのだから、その効果がなんであれ構わなかったのだろう。

「そういう意味では、これは大当たりだね」

 いやー、いい物をもらった、とホクホク顔。

「いいんですか? アレ本当に貰っちゃって」

「気にすんな。確かに意味もなくほいほい気軽にやる物じゃねぇが、逆に理由さえあれば譲っても構わねぇ。それが上手く使ってくれる相手なら尚の事だ」

 そろそろ棚に収まりきらなくなってきたからな、と豪快に笑った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「それじゃぁ、そろそろ失礼します。この後ウェイストさんの所に行くつもりなんで」

 そう、まだスキルの登録報酬を貰っていないのだ。

 なので財布の中には今のところ牙猪の素材報酬で貰った分のお金しかない。昨日は飲み食いでそれなりに散財したのだ。

「ん? お前はいらんのか? ウェイストの奴からはお前にも1本譲ってやって構わないと聞いているんだが」

 そうなのか。どちらにしろ装備は整える必要はあったし、渡りに船とは言えるが……

「……それじゃあ保留にしてもらっていいですか」

「あぁ、それは構わんが」

 若干訝しげな目を向けられたので、正直に答えることにした。

「いやぁ実はあまりこういう武器を使ったことないもので、どういうタイプの物が向いているか全然分からないんですよ。折角いいものが貰えるんだったら、自分に合っているものを使いたいですから」

「そりゃ堅実だな。適当に選ばない所は気に入ったぜ。……まぁ逆に、お前に合った物が在庫にないかもしれないが」

 選ぶだけならいつでも来るといい。

 その言葉は有難く受け取り、また後日じっくりと見させて貰う約束をしてその場を後にした。

刀系を選ぶ主人公が多いですが、私は鉈系の肉厚な武器が好きです。

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