09話 紅刃飛び交う街の裏
「さすがに数が多過ぎるな……」
俺は息を荒げながら、幅2mもない建物の間の路地に駆け込んだ。そのまま少し奥まで進み、積み上がった木箱の影にしゃがみこんで息を整える。
土地勘のまったくない裏路地に逃げ込むのは半ば賭けだったが、なんとか追手を撒くことができたらしく後からこの路地に誰かが駆け込んでくる様子はない。
「――そっちにいたか!?」
「――いや、この辺に隠れているはずだが……!」
通りの方からは俺を見失い、右往左往する何人もの声が飛び交っている。
……ここが見つかるのも時間の問題だな。
なにせこの路地は一本道。多少障害物があるといっても身体全部を隠せるものではない。ちょっと覗き込まれたらすぐに見つかってしまうだろう。
表に出るのは論外。この路地がどこに繋がっているのか、そもそもどこかに繋がっているのかは分からないが、奥に進むしかないか。
これだけ騒がしければ多少物音を立てても問題ないだろうが、避けられるリスクは避けるに越したことはない。
無秩序に積み重なったガレキに注意しつつ、そっと奥に向かおうとして……
――ジャリ。
――<反射行動>
頭上から石が擦れるような音が聞こえてきた瞬間<反射行動>によって飛び退くと、直前まで俺がいた空間に身長の倍ほどの長さの棒が突き立っていた。
掠めた脚に赤い飛沫が滲む……が、痛みはない!
「――ちっ!」
屋根の上から路地を覗き込んでいる狼の顔をした獣人族の男が舌打ちをしながら空振りした棒を引き戻そうとするが、すかさず反対側、穂先に近い部分をつかみ引っ張り返す。バランスを崩した獣人族がガレキの上に落下し、けたたましい音を周囲に響かせた。
「いたぞぉっ! ここだ!!」
頑丈さが売りの獣人族だけのことはあって、背中を打った衝撃で咄嗟に動けないものの懐の得物を<投擲>しようとする男。が、それよりも早く、ガレキの崩れた音を聞きつけた幾人かが路地を覗き込み、こちらに気づいた。
ばたばたばた、とこちらに集まってくる幾つもの足音。
もはや音を立てたら……などと構っている余裕はない。
足元に転がる邪魔な木箱や布袋を蹴立てて路地の奥へ駆け出して横道に飛び込みせめて追手の視界からは逃れるが、土地勘のある誰かが気を効かせて回り込んだのかそちらの方から何人かが向かってきた。
こうなると、狭い路地に逃げ込んだのは失敗だった。道を挟む壁の間隔が<立体軌道>を使うには狭すぎる。高さもあり、<跳躍>では手も届きそうにない。
間に逃げ込めそうな脇道はなく、後ろからはだんだん近づいてくる足音。正面からくる連中には完全に見つかっており、ここで方向転換しようものなら、その隙に一気に距離を詰められて捕まることは確実だろう。
だから、正面の連中をやり過ごす事を選ぶ。
一瞬足を緩めて諦めたように思わせると、正面の連中が勝利を確信して警戒を弱めた。その瞬間<疾駆>し、一気に距離を詰める!
慌てて武器を構えようとするも狭い路地である事が災いし、あるいは得物を壁にひっかけ、あるいはそばに立つ味方が邪魔となり此方に向けることが出来ないままとなる。
こうなれば必然、警戒するは先頭に立つ2名。隣に立つ仲間と反対側の壁が邪魔をして、取れる行動はかなり限定的となる。
まっすぐ向かうは、こちらから見て左。
狙われたことに気づいた左の男は慌てて得物を突き出してくるが、窮屈な姿勢からのそれは非常に読みやすくまた速度も遅い。半身になって突きを受け流し、体勢を崩した相方に邪魔をされたもう一人の攻撃もやすやすと回避。
――体技スキル<見切り>習得
ワンテンポ遅れたスキル習得通知を無視し、回避の勢いのままターン。回転の勢いをつけた左の裏拳が相手の手の甲をうち、得物を叩き落とす。そのままがら空きになったわき腹にタックル。
狙い通り後ろにつっかえていた連中を巻き込んで転倒。巻き込まれずに済んだ1人が得物を振り上げるが、すくい上げるようにして柄尻を叩くとすっぽ抜けたそれが屋根の上に消える。
――今だ!
転倒に巻き込まれ尻餅をついた男達の肩や背中を飛び石のように足場にし、<跳躍>!
助走と十分な高さの踏み台を得て、飛んだ俺の指先が屋根の縁に届く。すかさず掴み、上昇の勢いに腕の力を加えて<直登>。
下から聞こえる罵声を尻目に屋根の上にあがり、見える範囲には他に誰もいない事を確認して一息ついた。
足元に先ほど跳ね上げた物が転がっているのに気付き、拾い上げる。
それは通常より細い刀身の部分にスポンジ状の素材を巻きつけた木剣――いわゆるスポーツチャンバラ用の武器のようなものだ。刀身部分には赤い塗料が染み込ませており、それで切りつけられれば身体に印が残る。
先ほど掠めた脚に赤い飛沫が点々とついているのを見て、洗ったらちゃんと落ちるか心配になる。
腹いせに手元の木剣の刀身を路地の上で絞り、先ほどの連中に頭から塗料を浴びせながら、もう一度呟いた。
「……どうしてこうなった」
◇ ◇ ◇
孤児院に着いたその日は、施設の案内をしてもらった後に力仕事の手伝いと、物珍しさからかやたらと絡んでくる子供達の相手をしているうちに終わった。
本日の夕食は牙猪の肉を煮込んだシチュー。センテが自分の分を売らずに残しておいたものだ。
こう言っては失礼かもしれないが、経営状況はあまり良くないのだろう。これだけ肉を使った食事は久しぶりだという。
しきりにお代わりを繰り返す子供達を嬉しそうに見ているタリアさんに、ふと思い出したようにセンテが話しかけた。
「あ、そうだ。もしかしたら聞いてるかもしれないけど、明日はアレがあるから」
「そうなんだ、久しぶりね。それじゃあ明日は皆を連れて見にいこうかな」
そう言って、此方にも話を振る。
「良かったら慎太郎さんも一緒に行きますか?」
そう言って尋ねるタリアに、その妹は慌てて手を振った。
「ゴメンね、今回はシンタローが登録したやつだから明日はそっちに行かないといけないんだ」
「あら、そうなんですか。……凄いですね」
さっぱり話が見えてこないのだがと言うと、タリアは合点がいったように頷く。
「そういえば慎太郎さんはこの街は初めてなのでしたね。それなら、明日はきっとびっくりすると思いますよ」
この街は元々周辺国で行われるスキル研究の中心地であり、スキル登録というシステムが始まった最初の街の1つだったらしい。当時は新しい発見があるたびに、研究者達は揃って大はしゃぎし、バカ騒ぎを繰り返していたのだという。
その名残からか、今でもこの街は新しいスキルが登録されるとそれを祝い、街を上げて祝うという風習?があるのだそうだ。
今ではスキルを発見した者は、それを見たさにわざわざこの街まで来てスキル登録を行うことも多く、当の住人としてもゲリラ的にいきなり始まるイベントを案外楽しみにしているようで、スキル登録があったという情報はあっという間に街中に広がるのだという。
とは言っても近年スキル登録はめぼしいものが出尽くしてしまった感があり、その頻度も年に1,2度。だがその頻度の低さが逆に1回1回のイベントをエキサイトさせる要因ともなっているので、一般の人からすれば一概に悪いとも言い切れないのだ。
この世界は日本と比べれば娯楽もずっと少ないだろうし、そういう大勢で騒ぐ機会には目がないんだろうな、と思う。
タリアさんはそんな話を教えてくれたが、隣でセンテが「それ以上は黙って」風なジェスチャーをしきりに繰り返している。タリアさんも頷き返しているので、絶対それだけじゃないだろう。
なにせ言ってしまえば、相手はひたすら娯楽に飢え騒ぐ口実を探している連中。得てしてこういう人種は「その方が面白そうだ」の一言でたやすく常識やら良識の壁をぶち破って制限なく悪ノリしてくれるんだ。
……なんかお腹痛くなってきたよ。
「シン、食べないなら貰うよー?」
「あ、こらダール! 俺が大事にとっておいたお肉様をよくも!」
ちょっと気がそれた隙に、シチューの中から肉を掻っ攫われてしまった。犯人のダールは孤児達の中でも一番年上なのだが、その分食い意地が張っているので油断ならない。
「それじゃ代わりにこれやるよ」
「自分が嫌いなもの人によこすなよ……」
諦めて人参っぽい野菜を食べる。
「ちょっとダール、野菜はちゃんと食べなさいよ! シンも甘やかさないで!」
肉がなくなったんだからせめて野菜だけでも食べさせて……
ぷりぷり怒ってるのは、確かキャトルって名前だったかな。ダールが兄貴分ならキャトルはお姉さん役って立ち位置らしい。杓子定規ってわけじゃないがどっちかというと生真面目タイプ。
子供達はだいたいこの2人を中心にキャンキャン騒いでる。
しかしこいつら、最初は微妙に警戒してたくせに、もう遠慮なしに絡んでくるようになったな。名前が呼びづらいって言って、いつの間にか皆あだ名で呼んでくるし。
俺が微妙に感じている不安の元も、こいつらにはただの祭か。
今夜は、多分いつもより浮かれているであろうこいつらを適当に弄って、気を紛らわせるとしようかな。
◇ ◇ ◇
「……何で俺はこんなところにいるんですか」
「ふむ。なかなかに哲学的な問いだね」
「因果的な観点からの回答をお願いします」
翌日。センテと一緒に統括ギルドを尋ねた俺は速攻拉致られ、街の中央広場にある巨大なステージの上に立たされていた。
広場には街中の人間が集まっているんじゃなかろうかという勢いで人が流れ込み、広場を囲むようにして建っている様々な飲食店は、急に増えた客の対応で右往左往。
商売繁盛で羨ましいことです。
ステージの上にはイベントの責任者としてウェイスト氏を始めとする街の偉い人達。何故か司会進行をやってる、冒険者ギルドで受付をしてくれた栗毛のお姉さん。そして俺とセンテ。
ギルドでは帽子かぶっていたから気がつかなかったんだけど、お姉さん兎人族だったんだね。ロップイヤー系かな、垂れた耳が可愛らしいです。舞台衣装っぽい露出高めの服のおかげで、なんていうか生バニーガール状態。
それにしてもお姉さん、無闇やたらと場のテンションを盛り上げるのは止めてください。センテはそれに乗っかってやたらと煽らないでください。正直場の熱気が上がるほど、俺は憂鬱になっていきます。
人の目線に慣れてないんだよ、小市民だから。
統括ギルドに行った時点では「これから関係者の前でスキルを見せてもらうから」とか言われて、「確かに一度は見せる必要はあるよな」とか思ってたのだが、これだけの人の前に連れて来られるとは予想外。そのことについて問いただしたら「みんな関係者みたいなものだから」とか。関係者という言葉を拡大解釈しすぎだろう。
こそこそと隣に立っているウェイスト氏に話しかける。
「スキル登録されるたびにこんなことやってるんですか」
「まぁ我々の業務の一環として、新しいスキルは早い段階で知名度を上げて使う人を増やす必要があるのだよ。そのためにはなるべく派手に新スキルの発見を告知するのが効果的でね」
「……スキル習得条件を特定するための実験協力者を集めるため、ですか」
スキルはその性質上、基本的に1人1回しか習得できないはず。ならばサンプル数を増やすためには協力者を増やすのが必須条件だ。
だが、ウェイスト氏は首を振る。
「確かにそれも理由の1つではあるがね。……サカイ君、君は上位スキルあるいは複合スキルというものは知っているかい?」
「その名前の通り、基礎体技スキルの強化版と、複数のスキル効果を統合したもの、でしょうか」
「本質的には間違ってはいないね」
頷いて、簡単に説明をしてくれた。
基礎体技スキルとは、俺が使えるものでいう<跳躍>や<ダッシュ>、持っていないものでいえば<騎乗><罠設置>のようにスキルがなくてもスキルと同じ行動を取れるものだ。スキルがなかった元の世界でもジャンプできるし走ることもできる。馬に乗れば騎乗だし、ドアの上に黒板消しを挟めば罠設置だ。
それに対して複合体技スキルは、使用するためにはいくつかの体技スキルがある程度のレベルに達している必要がある。例えば<立体軌道>であればある程度ジャンプ力や走力、腕の力や身の軽さが必要だ。つまり前提となるスキルをある程度使いこなしていないと、最低限のモノマネでさえもまともに行うことができない。
そして上位体技。
「ある技術を極めた場合、体系付けられた“魔法”とは異なる、擬似魔法的な効果が付随して発生することがあるんだ」
それは魔法というより気功といったほうがイメージしやすいかもしれない。剣技を極めれば鋼鉄もバターのように切り裂き、拳技を極めれば素手で鉱石を貫く。<ダッシュ>の上位スキルである<縮地>では体内時間の急激な加速により、瞬間移動紛いの動きもできるそうだ。いずれも、体術の延長上では決して成し得ない領域。
複合体技と上位体技に共通する1つの要因。
「どちらも、前提となるスキルを極め、組み合わせることによって使えることになるのだよ。専門家の間ではそのようなスキル間の関係を、木の幹と枝葉に見立てて“スキルツリー”と呼んだりするが」
つまり、1つの体技スキルが発見されるということは、それから派生するスキルが存在する可能性があるということ。そしてそれを見つけるためには――
「結局は人海戦術というのが少々情けないがね。新しいスキルを使う者が増えるということは、誰かがその先に辿り着く可能性が増えるということ。我々の目的は“スキルツリー”の先端を求めることなのだよ」
世の中の為という立派なお題目は立てていても、結局はすべて研究者のエゴのようなものだ、と呟いた。
◇ ◇ ◇
ちょっと真面目な雰囲気を作ってるのとは関係なしに、イベントはひたすらに盛り上がっていく。
「――さて、いよいよ本日のメインイベントの説明に移らせていただきます!!」
『うおおおおおおおおおお!!』
受付のお姉さんが煽る煽る。会場のテンションがやばい事に。
今回登録した物が物だけに、肉体派の層がメインで集まっているのだろう。正直むさくるしい事この上ない。
「今回のテーマはズバリ“鬼ごっこ”!! 新スキル<立体軌道>で街中を縦横無尽に逃げ回るお2人を、会場の皆さんで捕まえて頂きたいのです!!」
『うおおおおおおおおおお!!』
◇ ◇ ◇
「ちょっと……鬼ごっこって何ですか」
「あぁ……体技系スキルの場合はだいたい、その性能を実感してもらうための参加型イベントを実施するのが習わしでね。といっても登録者が希望したときだけだが」
「俺は希望してませんよ!?」
「おや、助手のセンテ君が君の許可は取ってあると言っていたのだが」
始めてしまったものは仕方ないから諦めてくれと言ってウェイスト氏は笑う。
確かにここまで盛り上げてしまった以上、今更やっぱりやりませんというのは通らないだろう。俺の顔出しをしてしまっている以上は、悪い評判が流れてこの街での生活にも関わるかもしれない。
だが、周囲が作った流れに逆らえないという印象を持たれたままにというのも、それはそれで今後に影響が出かねない。ここは1つ、軽くふっかけてみるか。
「ちなみに俺のメリットは何ですか」
勝手に話を決められたことに対する不満。返答によっては今すぐこの場から立ち去る。そんな意図を篭める。
「スキルの知名度が上がれば、購入する人も増える。その分君への報酬も増えるわけだが、それでは不満かね」
「それは俺にとってというより、貴方がた統括ギルドにとってのメリットでしょう」
先ほど聞いた話からすると、統括ギルドはそもそもスキルを普及させることが目的。であれば、別に俺がどうこうする必要もなくスキルの知名度をあげるだろうし、需要が増えることによる恩恵は結局俺よりも多いはず。
「ふむ……」
ウェイスト氏は顎に手を当てて少し考えるような仕草をする。
「まぁ、こちらも無理にとは言わんよ。センテ君さえ参加してくれれば、イベントの体裁は整うからね」
ぐっ、そう来たか……
正直な所、今さらイベントから降りるという選択肢を取るつもりはないし、彼も分かってて言っているだろう。もしかしたらという可能性を示すことであわよくば何か報酬を得られればと思ったのだが、センテも参加するとなるとイベント中止というカードが使えない。
……と、そこで1つ気になることに気がついた。
「そういえばスキル登録がある度にこのようなイベントを行なっているという事ですが、今回みたいに登録者側が複数人参加することってあるんですか」
「いや、何せ新発見のスキルだからね。普通は登録者本人くらいしか覚えていないものだ」
そう、何でセンテがこの場に残っているのか。
俺一人で登録していたら、イベントへの参加を促されても断っていた可能性が高い。必要な手続きを行なったら、それで終了だっただろう。逆に言えば、俺が嫌がることだと分かっていて今の状況を作った。
知り合って間もない関係とはいえ、面白半分でも人の嫌がることををするタイプでもないと思うんだけどなぁ。
答えのでない考えに没頭しかけたとき、ウェイスト氏の一言がそれを遮った。
「そういえば彼女は昨日、君がイベントに参加しない場合は自分が代行するからという条件で1つ頼み事をしてきてね」
「頼み事?」
「君の後ろ盾になって欲しいと。私はこう答えたよ」
これまでの柔和な老紳士の表情が消え、1つの組織を束ねる長としての顔に変わる。
「君にそれだけの価値があるなら喜んでそうしよう」
冷徹な、こちらを値踏みするような眼差しにゾッとしたものを感じたが、それを必死で表情にでないように堪えた。
――本当に、センテは俺に何を求めているのだろうか。
考えても答えは出ない。
だが、センテが示した提案のほうに少し興味がわいた。
後ろ盾、か。
ウェイスト氏個人にしろ、彼から繋がる学術ギルド、あるいは統括ギルド。普通ならば一介のなりたて冒険者がパイプを作るには、いささか大きすぎる相手だ。
だが、今この時差し出す手札によっては、それが可能になる。
センテが知っていて、ウェイスト氏に示せる価値。それは1つしかないだろう。
それをセンテが直接言わなかったのは、俺に与えた選択肢か。
だがまぁ、彼女がそれを望んでいるなら乗ってもいいかな、とそう思った。
俺は、彼が求めるでろう一枚の手札を差し出した。
「……俺は1つの“恩恵”を持っています」
「……ふむ?」
俺が急に何を言い出したのか掴みかねているのだろう。ウェイスト氏は片眉を上げ、続きを促した。
「その恩恵の効果はスキルを取得した通知が行われるというものです」
俺の言葉の内容を徐々に理解すると共に、彼の表情がこれまでにないほど真剣なものとなった。
そう、以前センテとも話したことだ。
なんでスキルやその習得方法を調べるのに、彼らはわざわざこんなに手間をかけているのか。その理由がわかっていれば、俺の恩恵の効果が何をもたらすのかは自明の理だ。
ウェイスト氏は、ふぅ、と大きくため息をついた。
「……元々イベントに協力してくれた登録者には多少の報酬を支払うことにはなっていたが……どうやらそれでは足りないようだ」
その表情はギルド代表者としての顔ではなく、1人の研究者として、新しい発見の予感に興奮を隠しきれないものだった。
「私の権限の許す限り最大限の便宜を図ろう。その代わり、今後君に協力してもらいたい事がある」
「それは今から始まるイベントについて、ですか?」
「それも含めて、だ」
そう言って、お互いにニヤリと笑った。
◇ ◇ ◇
「ところで今回は鬼ごっこということは、前のときはどんな事やったんですか?」
「前々回が……<隠形>というスキルでね。そのときは確か防衛ゲームだったか」
隠れてゴールに向かう登録者を、一般参加者が皆で探し出して阻止するという趣向だったらしい。
「その次……前回はなんだったんです?」
「前回の登録スキルはちょっとそういうのには向いてなかったからね」
と、遠い目をする。
縫製ギルドに所属していた人が登録した、服の上からでも正確にバストサイズを当てることが出来るスキルだとか。
「……そのスキル、ウエスト版はありませんか」
「ふむ……バスト版の習得条件を応用すればあるいは……」
「ぜひ実験には協力させてください」
「もちろんだ」
硬い握手を交わしたのだった。
スキル<隠形>は投稿いただいたネタをちょっと改変したものです。
ありがとうございます。
申し訳ないのですが、後半の流れがちょっと気になっていたので修正させていただきます。