08話 初ギルドとクラスチェンジ
今日帰ってきたら、いきなりお気に入り数やらアクセス数が5倍くらいに増えていてびっくりしました。ありがとうございます。
スキル登録の報酬は、アレのあとに支払われるという。
どうせ面倒なことなんだろうけど、やたら楽しそうなセンテを見ているとまぁいいかという気持ちにもなって来る。どうせ明日になればわかるだろうと、それ以上尋ねることは止めた。
それよりも折角の、異世界都市の初訪問だ。精々楽しむとしようではないか。
とは言っても、先立つ物がないのではどうしようもない。今は表示されていないとは言え“一文なし”の称号の払拭と、先ほどから地味に肩に食い込む重みの精算を最初に行うことにした。
「討伐対象の魔物退治したり採集した素材を売るのは、戦闘系<スキル>持っている人のお金稼ぎの基本だからね」
牙猪を狩れるくらいの腕があれば、並の水準の生活くらいはできるらしい。
今俺の手元にあるのは、毛皮と牙が3頭分と、肉が1頭分。素材を売るには、大きくわけて3通りの方法がある。
プランAは直接生産系のギルドに売る方法。この場合、毛皮と牙については鍛冶ギルド、肉については調理ギルドに持っていくのがセオリーだという。毛皮については縫製ギルド、牙や爪は装飾ギルドでもいいが、前者は布や糸、後者は鉱石や鱗、羽がメインなので種類によっては引き取ってくれないこともある。
「伝手があるなら、直接防具屋とか肉屋に持ち込んでもいいんだけど」
「センテはどこかに無いのか?」
「あたしはあっちこっち飛び回ってるからねー」
プランBは店舗への持ち込みや露店売りといった、消費者へ直接売り込む方法。需要や在庫によっては買取が拒まれることもあるし、相場の変動も大きい。レア素材や供給が少ないモノなどはこちらの方が高値がつくこともあるらしいが。
そしてプランC。冒険者ギルドで納品系の依頼を探す。
ここはギルド通りの南端にある冒険者ギルド。最も人通りの多い一角。開け放たれた大きなドアの向こうから、通り一番の活気があふれてきている。
ドアを潜れば、賑やかな喧騒。装備のガチャつく音。汗の匂い。そして人、人、人。
アメリカを象徴する“人種のサラダボウル”なんて言葉があったけど、まさにそんな感じ。だけどこちらの方が遥かに多種多様。
一見して俺やセンテのように地球人そのものの姿をしている人でも、髪も肌も目の色さえも同じ組み合わせの人はほとんどいない。それに加えて、定番の猫耳、ウサ耳から始まって、エルフ、ドワーフ、リザードマンなどなど……
外を歩いていた人達と違って、ここでは皆武装している。さすがにフルプレートメイルなんてものを着ている人はいないが、金属鎧から皮鎧まで形状は様々で、ローブを纏っている人もいる。
さすがに伝説のエロ鎧を着ている人はいなかった。
建物内部の構造としては、統括ギルドは受付が小さく多数の部屋で構成されていたのに対し、こちらは部屋といえば正面のカウンターの奥にある扉のみ。あとはフロア丸々が大きな待合室かホテルのフロントのような構造になっている。壁からちょっと離れたところにある巨大な掲示板には、裏表までびっしりと依頼か何かの紙が貼られているようだ。広いフロアには間隔をあけて机と椅子がいくつか並び、そこではパーティーを組んでいるのかいくつかのグループが熱心に何かを話している。
もしかしてこのレイアウトも例の“内藤さん”の趣味かと聞いたら、
「デザイン書を持ち込んで『こんな風にしてくれないとこの部屋に住み着く』って、当時の統括ギルド長の応接間で3日3晩立て篭って宴会をしたんだって」
フリーダムすぎるだろう内藤さん。
そしてありがとう、最高に楽しんでるよ内藤さん。
だけど素人がこの中に入っていくにはちょっと勇気がいるよ内藤さん。
センテに引き連れられ、人の殆どいない隅っこのカウンターへ向かう。
武装していて当たり前な空間でラフな格好の俺はだいぶ浮いているのだろう。周りからジロジロと視線が向けられる。
――やめて! そんな目で見ないで!!
人混みを抜けてたどり着いたのは、依頼ではなく登録の受付らしい。
「ギルドに登録してからじゃないと、報酬貰えないからね」
まぁそうだろうな。
受付にいた栗毛セミロングのお姉さんの説明を聞いた限りでは、冒険者ギルドはこんなシステムになっているらしい。
基本的には各々の力量を表す冒険者ランクがあり、適正な難易度に割り振られた依頼を選んで受けることができる。実力をあげたり依頼をこなして実績を積んだりすると冒険者ランクが上がる。これはスキルレベルに馴染んだこの世界の人には、受け入れられやすいシステムのようだ。
冒険者の能力は基本的に、カードの機能によってスキルレベルから自動的に算出される“能力値”というD~Sの5段階制を用いている。これはほとんどの能力がスキルレベルという形で明確に測定される、この世界ならではの区分方法だと思う。
だがこの区分方法には1つ問題がある。それはあくまで能力のみを基準にするものであるため、本人の性格や信頼性というものが度外視されるということだ。
そのため、能力値とは別に“実績値”という基準を使用している。こちらは実際に依頼をこなした数や成功率、依頼主の評価をもとにして、同じくD~Sの5段階に区分する。
冒険者ランクとはこれら能力値と実績値の組み合わせによるもので、D-CやA-Aのように表記するシステムとなっているのだ。
依頼についてはその種類によって求められる要素が異なっており、例えば単純な討伐や採集系であれば能力値重視、信頼が求められる配達系であれば実績値重視。護衛任務などになると能力値がそこそこ満たしつつ後者重視という形になる。なので、能力値と実績値の両者の間に優劣はないのだ。
このシステムは冒険者ギルドだけでなく他の生産系ギルドでも使われているらしい。ただ冒険者ギルドでは戦闘系のスキルにより冒険者レベルを算出しているが、生産系ギルドであれば生産や加工系のスキルによってランク付け――鍛冶ギルドであれば鍛冶師ランク、縫製ギルドであれば縫製師ランクなど――されるらしい。
ちなみに獣や魔物といった生物についても似たような基準で指定されていて、個体の強さを示す能力値と脅威度の組み合わせとなっている。脅威度というのは、群れで行動したり毒を持っていたり待ち伏せが得意だったりと個体の身体能力では測れない要素。
ちなみに牙猪はC-Dと、能力値は下から2番目、脅威度に至っては最低ランクとなっているそうな。基本バカだったとは言ってもあれで下から2番目という事は、この世界の生態系というのはいったいどうなっているのだろうか。
最後に登録の意思の確認をされたが、もちろんOK。まぁ形式的なものらしい。ネットでよくある「あなたは18歳以上ですか?」「はい」「いいえ」並みに、誰に聞いても同じ答えが返ってくる質問だと思う。
「スキルカードはお持ちですか? ないようでしたらレンタルになりますが」
所有者のスキルレベルを表示する魔法具で身分証にもなる便利なものだが、やっぱりそこそこお高いらしい。
「ちなみに自分で買った場合はどんなメリットがありますか」
「レンタル品は最低ランクなのでスキルレベル表示しかできませんが、市販のものでしたらそれに加えて才能レベルも表示できますよ」
――才能レベル?
簡単に言うと、スキルレベルとは独立した値であり、各スキルレベルの上昇のしやすさを示すものだそうだ。ビギナーを卒業した冒険者はそれを参考にして、鍛える方向性や自分に適したクラスを目指すのだとか。ただ残念なことに高価なものでも<体力>や<敏捷>、<知能><魔力>といった基礎体力、基礎知能スキルくらいしか表示されないという。
「あたしも最近新しいのに買い換えたんだ。シンタローに貸してるのは、それまで使ってた古いやつ。後で売っちゃおうと思ってたけどちょうど良かったよ」
そっか、これも才能レベルを見られたのか。
最上段に輝く路上生活者の文字がうざくてずっと仕舞ってた。あとでちゃんと見直しておいたほうがいいのかなぁ。
センテには引き続きカードは貸してくれると聞いてあるので、有難く使わせてもらう。
スキルカードをお姉さんに渡すと、それを見たお姉さんの営業スマイルの質が一瞬変わったのが分かった。
絶対称号欄見たんだろうなー……
何か言われるかとも思ったがさすがプロ。そのまま黙って冒険者ランクの判定を行なってくれた。
「少しスキルの種類が少ないですので、慎太郎さんはD3からのスタートになりますね」
にっこりスマイルと一緒にカードを返してもらう。見れば名前の下のこれまで空白だった部分に、
◆冒険者ランク
D-D
と新たに表示されていた。
一般人の平均能力値がCだというから、補正効果の存在を考えるとそこまであげるのには苦労しないだろう。ただ、能力値が一段階上がると必然的に依頼の難易度が上がるため、その時点で実績値は1段階下げられるらしい。
ともあれ、無事登録も済んだことだし牙猪の素材採集クエを探してみるかと思ってカウンターを離れようとしたら、センテが受付のお姉さんから何やら小さな紙を受け取っているのに気がついた。
それは何か、と聞いたら
「ギルドで使える商品券。人を紹介したら貰えるんだ」
「随分と親切だと思ったらそれが目的だったのかよ!」
依頼受付の人に確認したら素材納品の依頼があるとのことなので、これ幸いと依頼達成。報酬を有難くいただきます。素材がちょっと余ったので、残りは直接生産系ギルドへ。
ここの通貨単位は“リオン”というらしい。最小単位が銅貨1枚1リオン。これが50枚で銀貨1枚。多分この上位に金貨があるのだろうけどそちらに触れる機会はないかもしれない……
収入は合計で銀貨10枚500リオン。外食するとだいたい1食5~10リオンなのでこれだけで半月は過ごせると一瞬思ったが、宿泊費を計算に入れてなかった。いや野宿するつもりはないんだって。
「ということで、どこかいい宿は知らないか?」
「うーん、宿屋はあまり知らないなぁ。あたしはこの街に実家があるから……」
そこまで言ったところで、何かを思いついたようにポンと手を合わせる。
「そうだ、うちに住めばいいよ。部屋も余ってるし」
いやいやいや。
「ほぼ初対面の男を実家に連れて行くなよ」
「大丈夫。友達とか、たまに泊まっていくから家族も慣れてるし。みんな忙しいから、むしろ家事とかちょっと手伝ってくれる人がいてくれると助かるんだ」
「ふーむ」
まぁ、そんなに遠慮することもないか?
「それに多少お金稼げたけどまだ節約したほうがいいよ。武器も防具も持ってないし、一式揃えるとそれなりにお金かかるよ?」
「……それじゃあ、遠慮なく。しばらくお世話になります」
センテの案内でたどり着いたのは街の外壁付近、比較的古い住宅が並ぶ区画だった。
そのまままっすぐ向かう先は、一際広い敷地を持つ建物。だが決して裕福ではないようで、庭はあまり手入れがされてなく、建物自体も薄汚れている。
油が切れかけてギシギシとなる門をこじ開け、中に入る。
「ただいまー」
センテのその声に反応したのは、庭の隅っこで遊んでいた子供達。
「姉ちゃん!」
ぱっと顔を輝かせダッシュで次々と飛びついてくるのを、受け止めては下ろし次を受け止めては下ろし。たまにこっちに渡されるので肩車などしてみる。
「姉ちゃん今度はどこ行ってたのー?」「お姉ちゃんお土産はー?」「この人だれ? 彼氏ー?」
押し寄せる言葉の嵐に苦笑しながら、一人一人返事を返しているが、最後の子だけは連続でデコピンを食らわせている。泣きそうになってきてるからやめてあげて! と思っていると、後ろのほうから大人の声が聞こえた。
「おかえりなさい、センテ」
エプロンで手を拭きながら玄関から出てきたのは、センテを一回り大人びさせて雰囲気を柔らかくしたような女性。歳は多分俺より少し下くらいかな。センテと同じく杏色の髪は、背中で軽く束ねられている。
「タリア姉、ただいまー」
そう言って、今度は自分のほうから飛びつく。胸元に抱きついたセンテの頭を撫でながら、彼女はこちらに顔を向けた。
「こちらの方は?」
「境慎太郎と言います。センテさんにはいろいろとお世話になってまして……」
「タリア・ナディールと言います。タリアと呼んでください。……こちらこそ、センテがご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「キュクロート山で拾ったんだー。うちで飼っていいでしょ?」
……ちょっとー。
タリアさんは妹の冗談に笑い返しながら、ふと何かに気づいたような表情をした。
「もしかして、【啓示】で?」
「うん。どんな意味があるのかは分からないけど……」
どういう意味だろう?
俺が疑問に感じたことに気づいたのか、センテは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。あたしも目的があってシンタローをここに連れてきたんだ」
「……そうか。気にしなくていいよ。助けてもらっているのは事実だし。別に俺をどうこうするつもりはないんだろ?」
「掃除とか子守くらいは手伝って欲しいな」
そう言って、安心したように普段の明るい表情で笑った。
――無償の親切でないことに不満を感じるほど、俺は子供ではない。
むしろ俺を助けることで彼女が何かを得ることができるのであれば、それは喜ばしいことだと思う。
「それじゃ、すみませんがしばらくこちらでお世話になりますね」
「はい、こちらこそ。ナディール孤児院へようこそ」
改めて挨拶をすると、タリアさんは優しく微笑んで返してくれた。
◇ ◇ ◇
「そういえば住む場所もできたことだし、クラス変わったんじゃない?」
「おお、確かに! これで路上生活者は返上だな」
ふっふっふーと笑いながら、いそいそとポケットからスキルカードを取り出す。さーて、何になっているかなーっと。
◆称号
スキルを見つけた 居候
「あはは」
「必要か!? このクラスは本当に必要なのか!?」
爆笑するセンテを横目に、せめて“食客”とかあるだろうよー、と頭をかかえた。
ご意見ご感想、お待ちしております。
何か面白そうなスキルとかクラスとか、称号とかないですかねー(必死
ちょっとランクとかのシステムを英数表記から英―英表記に変えました。
我ながら分かりづらかったですし