表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第15章 掲げる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/50

掲げるⅠ

「行きますよぉ!」


 三人で操縦室にこもり、着陸に備える。こんなにも胸が張り詰める着陸は初めてだ。キャノピーから木造りの停泊所の光景を眺め、息を詰める。

 人はいる。多分、いける。

 着陸と同時に、弾かれたようにデッキへと飛び出した。


「メヌエッタ! 走れ!」


 アルフレッドの声にも答えずに、破裂しそうな心臓を抱えながらタラップを駆け下りる。

 何事かと野次馬根性を現した人々が歩道に群がってくる。これなら、銃は撃てないだろう。

 馬車が停泊する車道を走り、遊園地の門の前で足を止めた。アルフレッドとゼインが僅かに遅れてやってくる。


「無駄な抵抗はやめなさい! やめないなら――」


「撃つのですか!?」


 私が声を張ると、銃を構える騎士も、野次馬たちも半歩下がった。


「名乗るんですね? 張り切っていきましょ!」


 外野には聞こえないように、ゼインは声をひそめている。その言葉が、余計に私の鼓動を速めていく。


「……私は、ハルネイオ国王女、メヌエッタ・ハルネイオです! 私は事故死なんかしていません!」


「ホラを吹くのはやめなさい!」


「ホラなんかではありません! 私の瞳が見えないのですか!?」


 民衆に私の瞳が見えるように、ぐるりと見渡した。


「見ろ! あの子、ラベンダー色の瞳だ!」


「じゃあ、本物のメヌエッタ王女なの?」


 民衆がざわめき始める。


「殿下、手を上げてください!」


「私が王女だと認めるのですね?」


 にやりと口角を上げてみせる。これで通じなかったら詰んだな、と拳を握った。騎士たちは苦虫を噛み潰したような表情に変わる。


「殿下たちを捕らえろ!」


 銃は下ろし、殺気は携えたままで騎士たちは私たちを取り囲む。


「私のことは捕らえても構いません! ですが、アルフレッドに乱暴なことはしないで! 貴方たちのせいで、大怪我を負っているのです!」


 必死な抵抗も虚しく、私たち三人は後ろ手に捕らえられてしまった。アルフレッドの悲鳴が胸を抉る。


「お願い! もう抵抗はしないから、手を離して!」


「……離して差し上げろ」


 団長と見られる騎士が唸ると、ぱっと手が離された。慌ててアルフレッドに駆け寄り、その手を握る。


「大丈夫!?」


「いや……」


 アルフレッドが言い淀むなんて、相当痛いのだろう。ゼインも駆け付け、顔をしかめた。


「また出血が……」


 言われて肩に目を向ける。紺のジャケットには、少しずつ赤いシミが広がっていく。


「船に乗ったら、手当をさせてください」


「じゃあ、さっさと歩け」


 騎士は容赦なくゼインを小突く。


「小突く必要ないですよね!?」


 ゼインは反抗したけれど、アルフレッドのためにも大人しく従う他はなかった。

 騎士たちの飛空船に乗ると、私だけ隔離されてしまった。もう、アルフレッドとゼインがどうなってしまったのか、知る由もない。ホープ号の倍はあろうかという部屋に、赤い調度品が並べられている。私が乗船すると見越してなのだろうか。唇を噛み、スカートを握り締める。

 ハルネイオ国の王宮島への旅路は十五日に及んだ。その間、部屋からは出してもらえていない。私の好きな肉料理がふんだんに用意され、シャワーも好きなだけ浴びられた。それなのに、心は空っぽで満たされない。

 食事を運ぶ騎士に、アルフレッドと会わせてくれと何度も嘆願した。しかし、叶えられることはなかった。

 騎士に取り囲まれながら、王宮島へと上陸を果たす。帰りたくて、帰りたくはなかった場所だ。


「アルフレッドとゼインはどうなるのです?」


 聞くと、騎士は表情を崩さずに答える。


「元は無罪です。今日のうちに釈放されるでしょう」


「良かった……」


 胸を撫で下ろしてから違和感に気付く。無罪だと分かっているのなら、何故、銃口を向けられたのだろう。頭に血が上ってしまい、頬を膨らませた。

 騎士に連行されながら、王宮の白い廊下を歩く。玉座にでも向かっているのだろう。すれ違う使用人たちは、一様に冷静な表情で礼をする。私が帰城するとの通達もされていたのだろう。

 まっすぐに玉座の間の前まで辿り着き、扉の前で止められた。


「メヌエッタ殿下をお連れしました」


「通せ」


 凛とした父王の声が聞こえる。久しぶりの感覚に、指先が痺れていく。

 重たい蝶番の音が響き、玉座の間が開かれる。ステンドグラスを背負った金髪の父王は、私を涼しい顔で見ていた。


「お父様……」


「メヌエッタ」


 しかし、私が睨みつけると、父王は動揺したのか立ち上がった。


「怒っているのか?」


「当たり前です。殺されかけたのですから」


 父王はすぐに私の元へと駆け寄ってきて、目線を合わせる。相変わらず、私を見る瞳だけは優しいのだな、と瞬きをした。


「……いや、その……私には私なりのドラクシア国を庇う名聞があったのだ。許してくれ」


 許すことなんて出来はしない。私が目を吊り上げると、父王の瞳が揺らいだ。


「私が怪我をしなかったのは、庇ってくれた人がいたからです」


「その者はどうなったのだ?」


「大怪我をしました」


 拳を握り締め、口を結ぶ。


「そうか。その者が怪我をしてくれたお陰で、メヌエッタは助かったのだな」


 父王が反省しているとは、どうしても思えない。まるで私の怒りを分かってくれていない。父王の足に蹴りを入れたくなったけれど、必死に我慢する。


「陛下、アルフレッド卿とそのお供をお連れしました」


「通してくれ」


 父王の視線は私から逸れた。やっとアルフレッドとゼインに会える。振り返ってみると、そこには緊張した面持ちのアルフレッドと、少し膨れたゼインの姿があった。


「何ですか、お供って」


 ゼインのぼやきが微かに聞こえる。それよりも、アルフレッドの怪我の様子が気になって仕方がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ