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異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第14章 囁く

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囁くⅠ

 その日のうちに、ゼインは王宮島へと向けて舵を切った。結局、私の話は聞いてもらえないままだ。お母様、ごめんなさい。もう会えなくなるかもしれません。雨のせいで見えはしないのに、窓から天を仰いだ。

 それから何度、夜を越えただろう。アルフレッドとは未だに気まずいままだ。


「おはよう」


「ああ。おはよう」


 微笑んでくれるのに、そこから会話が続かない。私も何を話したら良いのか分からず、俯いてしまう。いけないことだと分かっていても、まっすぐにアルフレッドの瞳を見ることは出来なかった。

 必然的に三人で一緒にいることも少なくなってしまい、アルフレッドは自室に閉じこもってばかりだ。流石に心配になってしまう。


「ねえ、気まずいの耐久戦みたいになってるのやめよう?」


 食事も終わって倉庫でのんびりしている時に、ゼインに振ってみた。やはりアルフレッドは部屋に戻っている。


「地味につらいですよねぇ」


「セシルがカード持ってるから、それが使えたら良いんだけど」


「そうですねぇ」


 ゼインは手を顎に当て、「うーん」と唸る。


「神経衰弱でもしたいですねぇ。セシル様をこてんぱんに負かして、『ははーっ』て言ってもらいたいですねぇ」


「良いねぇ。そんなセシルも見てみたいなぁ」


 二人で顔を見合わせ、意地悪っぽく笑う。


「セシル様の部屋に押しかけちゃいましょっか」


「うん!」


 これは、私がアルフレッドと話す口実だ。

 ゼインを急かし、アルフレッドの部屋へと急ぐ。そこに言葉は要らなかった。


「セシル様、開けますよ」


 ゼインはアルフレッドの部屋をノックし、反応を待つ。すると、すぐに返事は来た。


「入って良いぞ」


 よし、このまま素直にいって。ゼインがドアを開けると同時に、部屋へとなだれ込んだ。アルフレッドは目を丸くする。


「セシル、神経衰弱しよう?」


「記憶力の勝負です」


「あ、ああ」


 私たちの迫力に、アルフレッドは押される。一つしかない椅子から立ち上がると、仲違いする前と同じようにベッドへと腰掛けた。ゼインもにこにことその隣に腰を下ろしたので、私は椅子を借りる。

 アルフレッドは引き出しからカードを取り出すと、軽快にシャッフルしていく。


「セシル様、僕に負けたら『ははーっ』てしてくださいね」


「何だ、それ」


「罰ゲームです」


 先ほどの話題は本気だったのか。ちょっとだけ呆れてしまい、笑いが込み上げる。


「……で、最近、ちゃんとティア様と話してます?」


 いきなりゼインが確信を突くので、吹き出しそうになってしまった。


「話してるぞ。な?」


 あれは話しているとは言えない。ただ挨拶を交わしているだけだ。私が小さく首を横に振ると、アルフレッドは首を傾げる。


「セシル様は無自覚ですか? やれやれですね」


「何のことだ」


「ティア様に愛想尽かされても知りませんよ?」


 どちらかというと、『私が』ではなく『アルフレッドが』愛想を尽かしているのだと思う。アルフレッドは無言でテーブルにカードを広げ、更にシャッフルする。


「あと何日で王宮島に着く予定だ?」


「五日、ですかね。食料の補給を入れたら、それくらいになります」


「そうか」


 王宮島に逃げ落ちれば、もう選択の余地はない。一生ルーヴェン国に閉じこもることになるのだろう。手に入れた自由も限定付きになってしまう。


「ティア様はこれで良いんですか?」


「えっ? 私は……」


 突然、話を振られて肩が飛び跳ねる。私の気持ちを素直に言って、これ以上嫌われないだろうか。そう思うと勝手に鼓動が速まっていく。


「伝えるなら今しかありませんよ」


 ゼインは微笑みを崩さず、そっと囁く。それが後押しとなり、重たい口を開いていた。


「どうしても、『亡命』じゃなきゃ駄目?」


「他に手立てなんて――」


「亡命まで行かなくても、ルーヴェン国王に事情を説明するだけで保護はしてもらえるでしょ?」


「そんなに簡単にいくかどうか」


 アルフレッドは表情が硬いままでカードを動かす手を止めた。


「誰から引く?」


「じゃんけんしましょうよ」


「……じゃ、いくぞ。じゃんけんぽん」


 アルフレッドがグーで私がパー、一拍遅れてゼインがチョキを出す。


「何で遅れるんだ」


「たまたまですよ」


「あいこだったから、もう一回」


 苦笑いをしつつ、フォローを入れてみる。


「……いくぞ。あいこでしょ」


 今度はアルフレッドがパーで私がグー、また一拍遅れてゼインがグーを出した。


「なんでまた遅れるんだ。しかも負けてるぞ?」


「たまたまですって」

 

「時計回りな」


「僕が最後ですかぁ」


 始める前から意気消沈したのか、ゼインは肩を落とした。

 アルフレッドは手元のカードを二枚ひっくり返す。初手なのに同じ数字が揃ってしまった。


「ズルはしてないぞ。しっかり混ぜたからな」


「分かってますって」


 何故か狼狽えるアルフレッドに、ゼインは苦笑いをする。

 続いてアルフレッドがカードを捲ると、数字は揃わずに裏返された。


「な? ズルしてなかっただろ?」


「分かってますって」


 あまりの必死さに、 私が吹き出してしまった。


「私の番かぁ」


 手前のカードを一枚選ぶ。しかし、この数字は見ていない。適当にカードを捲ると、やはり揃わなかった。戻そうとカードに触っている時に、一枚だけ服の袖に引っ掛けてしまった。はらりと落ち、三枚目のカードが露わとなる。


「やっちゃったぁ」


 慌てて戻すと、アルフレッドとゼインはグッドサインを送ってくれた。


「……妥協案はないんですか?」


「妥協?」


「保護してもらえないなら亡命するっていう、仮定案ですよ」


 ゼインは喋りながらカードをひっくり返す。しかし、数字は揃わない。ゼインは口を尖らせながらカードを裏返した。


「ティアはそれで納得出来るのか?」


「……うん。保護してもらえないなら、仕方ないから」


「そうか」


 アルフレッドはカードを捲る。今度は数字が揃わずに、元の場所へと戻る。


「負けても『ははーっ』はやらないからな」


「今、言いましたよね? 聞きました? ティア様!」


「うん、聞いた!」


 アルフレッドの『ははーっ』 には、しっかりと抑揚がついていた。ちょっとした感動だ。

 アルフレッドは咳ばらいをし、なかったことにしようとしたらしい。


「俺はティアの身の安全を一番に考えたい。それには保護じゃなく、亡命を選んだほうが良いと思うんだけどな」


 独り言のように、ボソボソと口にする。

 私のことを考えるなら、保護を選んで欲しい。言いたいのに、口にする勇気はなくなってしまった。アルフレッドは目を瞑り、歯を食いしばっていたのだ。

 それ以上、話は進展せずにゲームばかりが進み、私が揃えられたのは二組のみだった。話は一応纏まったはずなのに、心は釈然としない。結局、アルフレッドとまともな会話が出来なかった。更に落ち込んでしまった心をなんとかしようと、一人でデッキに上る。

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