届くⅡ
疑心暗鬼になればキリがない。食事に毒は入っていないのか。位置情報探査機の類は仕込まれていないのか。爆薬などは仕掛けられていないのか――。
手分けして、三人で不審物を探す。爆薬でも仕掛けられていれば、いつホープ号が吹き飛ぶかも分からない。位置情報が父王に知られれば、いつ騎士たちが攻めてきてもおかしくはない。人の気配を感じた気がして振り向いても、他に飛行船はなかった。
一時間探しても、二時間探してもそれらしきものは見つからない。デッキで三人揃って肩で息をし、唸り声を上げる。
「本当に……何もないんだろうな?」
「これだけ探しても見つからないんです。きっと大丈夫でしょう」
「でも、もしかしたらってことだってあるし」
結論は出ずに、手摺りまで移動してしゃがみ込み、空を見上げた。ここまで来て、私たちは何をやっているのだろう。好きな人の父親の粗探しをし、疑うなんて。
アルフレッドとゼインもこちらにやってきて、荒い息をしながら手摺に寄りかかる。ゼインなんて、石炭の中を探し回ったから煤だらけだ。以前に見た『ひげおじさん』をまたやらかしている。
「いつまで探せば良いんですか?」
「不審物が見つかるまで……か?」
「うーん……お二人ともお疲れでしょうし、僕一人で探しましょうか……?」
そうは言うのに、ゼインは完全に伸びてしまった。脱力し、目を潤ませる。
「カラ元気……ですけどね」
「一人で探してたら日が暮れるだろ」
「これじゃ、何も食べられずに飢え死にですよ」
確かに、毒は食べてみないと分からない。恐れている限り、今回仕入れた物資は何も食べられないのだ。
「どうにかならないの?」
「一応、次の街で解毒剤を仕入れますか。安全第一で行きましょう」
妥協点は見つかったので、ほっと胸をなでおろす。
「そうだな。それに、軋轢がある父子だとしても、ここまで疑うのは申し訳ない、か」
アルフレッドは無表情で積まれた木箱へ目を向けた。
「さ、納得出来たら倉庫まで運ぶぞ。ただし、ティアは見学な」
「むう」
頬を膨らませると、何故かゼインが吹き出した。軽いものがあるなら私だって運べるのに。文句を言ったところで拒否しかされないので、アルフレッドとゼインの荷運びを見守るしかなかった。軍手はつけているものの、木の棘が刺さらないように祈るばかりだ。
木箱が減っていくのを見ながら、考えてみる。私はこれからどう振る舞って、どう決着をつければ良いのだろう。出来ればこのまま空を渡りながら、私にも出来る何かを探したい。
「うーん……」
深い海の中にいるようで、解決という水面は見えてこない。
「ティア」
不意にアルフレッドに名を呼ばれ、顔を上げた。
「隣、良いか?」
アルフレッドは首を傾げながら微笑むので、私も小さく頷く。
「はあー、疲れましたねー」
ゼインも肩を慣らしながらアルフレッドの隣へ行き、腰を下ろした。
木箱が積んであった場所には、今はもう何もない。いつものガランとしたデッキが広がっているだけだ。
「二人とも、少し良いか?」
話を切り出したのはアルフレッドだった。その瞳には、何か決意が宿っているかのようだ。
「俺なりに、この逃亡の終着を考えてみた。ハルネイオ国を信じたいが、こうするしかない」
アルフレッドは腕を組み、前方を見据える。
「父上も、ハルネイオ国王ですら手出し出来ない、この国の王宮島……国王の元に逃げ落ちるのはどうだろう」
「亡命ってことですか?」
「ああ。事情を話せば、ハルネイオ国の対応が間違っていると分かるだろう」
そんなに上手く行くだろうか。国王の元へ辿り着いたとして、ハルネイオ国に差し出される心配はないのだろうか。
アルフレッドの方を見てみると、自信満々とまではいかないようだ。瞳が揺れている。
「私は、ハルネイオ国に一生帰れなくなるのは嫌。お母様のお墓参りが出来なくなっちゃうもん」
「今のまま、国王陛下と対立したままなら、ずっと墓参りは出来ないぞ?」
「分かってる。分かってるけど……」
他に良い案はないだろうか。どうしても考えてしまう。
「今決断しなくても、ゆっくり考えたら良いですよ。時間だけはありますから」
ゼインは立ち上がると伸びをする。
「直近の島には、あと二時間くらいで到着します。僕は準備してきますね。お二人も、あと一時間くらいしたら倉庫にこもってください」
「ああ」
また憂鬱な時間が始まるのか。アルフレッドと顔を見合わせ、苦笑いをした。
倉庫の中にアルフレッドと閉じこもる。島に到着したか分からないまま、ホープ号は下降した。
「行ってきますねー」
のんびりとしたゼインの声だけが廊下の方から聞こえた。
いつまでこんな生活を続けなくてはならないのだろう。島の景色すら見られないなんて。外に出れば物珍しい光景が広がっているのを知っているだけに、ストレスばかりが溜まっていく。
「ティア、そんなに怖い顔をするな」
「んー」
アルフレッドと二人だから耐えられる。それに、完全に巻き込まれただけのアルフレッドの方が、ストレスは溜まるだろうに。
肩で息を吐き出し、なんとか思考を逸してみる。
「解毒剤って苦いのかなぁ」
「ん? 多分な」
「嫌だなぁ」
毒を飲んだ訳でもないのに、解毒剤の味を思い浮かべてしまう。顔をしかめると、アルフレッドは小さく笑い声を上げた。
「今からそんな心配をしてどうする」
「だってー。粉薬だって飲めないのに」
苦いものは昔から得意ではないのだ。
なんとなく照明を見上げると、先日の出来事を思い出した。クラゲを二人で透かし、笑い合う。また、あんな思い出を増やしたい。
ぼんやりとしていると、廊下から足音が聞こえてきた。ゼインが帰ってきたのだろうか。間を置かず、ホープ号は上昇を始める。
神妙な顔つきでゼインが倉庫にやってきたのは、それから十数分後のことだった。
「あの……」
手には封筒らしきものを持っている。封蝋のデザインは、あの獅子とスイートピーの花――グライゼル侯爵家の家紋だ。見つけた途端、心臓が飛び跳ねた。




