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異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第13章 届く

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届くⅡ

 疑心暗鬼になればキリがない。食事に毒は入っていないのか。位置情報探査機の類は仕込まれていないのか。爆薬などは仕掛けられていないのか――。

 手分けして、三人で不審物を探す。爆薬でも仕掛けられていれば、いつホープ号が吹き飛ぶかも分からない。位置情報が父王に知られれば、いつ騎士たちが攻めてきてもおかしくはない。人の気配を感じた気がして振り向いても、他に飛行船はなかった。

 一時間探しても、二時間探してもそれらしきものは見つからない。デッキで三人揃って肩で息をし、唸り声を上げる。


「本当に……何もないんだろうな?」


「これだけ探しても見つからないんです。きっと大丈夫でしょう」


「でも、もしかしたらってことだってあるし」


 結論は出ずに、手摺りまで移動してしゃがみ込み、空を見上げた。ここまで来て、私たちは何をやっているのだろう。好きな人の父親の粗探しをし、疑うなんて。

 アルフレッドとゼインもこちらにやってきて、荒い息をしながら手摺に寄りかかる。ゼインなんて、石炭の中を探し回ったから煤だらけだ。以前に見た『ひげおじさん』をまたやらかしている。


「いつまで探せば良いんですか?」


「不審物が見つかるまで……か?」


「うーん……お二人ともお疲れでしょうし、僕一人で探しましょうか……?」


 そうは言うのに、ゼインは完全に伸びてしまった。脱力し、目を潤ませる。


「カラ元気……ですけどね」


「一人で探してたら日が暮れるだろ」


「これじゃ、何も食べられずに飢え死にですよ」


 確かに、毒は食べてみないと分からない。恐れている限り、今回仕入れた物資は何も食べられないのだ。


「どうにかならないの?」


「一応、次の街で解毒剤を仕入れますか。安全第一で行きましょう」


 妥協点は見つかったので、ほっと胸をなでおろす。


「そうだな。それに、軋轢がある父子だとしても、ここまで疑うのは申し訳ない、か」


 アルフレッドは無表情で積まれた木箱へ目を向けた。


「さ、納得出来たら倉庫まで運ぶぞ。ただし、ティアは見学な」


「むう」


 頬を膨らませると、何故かゼインが吹き出した。軽いものがあるなら私だって運べるのに。文句を言ったところで拒否しかされないので、アルフレッドとゼインの荷運びを見守るしかなかった。軍手はつけているものの、木の棘が刺さらないように祈るばかりだ。

 木箱が減っていくのを見ながら、考えてみる。私はこれからどう振る舞って、どう決着をつければ良いのだろう。出来ればこのまま空を渡りながら、私にも出来る何かを探したい。


「うーん……」


 深い海の中にいるようで、解決という水面は見えてこない。


「ティア」


 不意にアルフレッドに名を呼ばれ、顔を上げた。


「隣、良いか?」


 アルフレッドは首を傾げながら微笑むので、私も小さく頷く。


「はあー、疲れましたねー」


 ゼインも肩を慣らしながらアルフレッドの隣へ行き、腰を下ろした。

 木箱が積んであった場所には、今はもう何もない。いつものガランとしたデッキが広がっているだけだ。


「二人とも、少し良いか?」


 話を切り出したのはアルフレッドだった。その瞳には、何か決意が宿っているかのようだ。


「俺なりに、この逃亡の終着を考えてみた。ハルネイオ国を信じたいが、こうするしかない」


 アルフレッドは腕を組み、前方を見据える。


「父上も、ハルネイオ国王ですら手出し出来ない、この国の王宮島……国王の元に逃げ落ちるのはどうだろう」


「亡命ってことですか?」


「ああ。事情を話せば、ハルネイオ国の対応が間違っていると分かるだろう」


 そんなに上手く行くだろうか。国王の元へ辿り着いたとして、ハルネイオ国に差し出される心配はないのだろうか。

 アルフレッドの方を見てみると、自信満々とまではいかないようだ。瞳が揺れている。


「私は、ハルネイオ国に一生帰れなくなるのは嫌。お母様のお墓参りが出来なくなっちゃうもん」


「今のまま、国王陛下と対立したままなら、ずっと墓参りは出来ないぞ?」


「分かってる。分かってるけど……」


 他に良い案はないだろうか。どうしても考えてしまう。


「今決断しなくても、ゆっくり考えたら良いですよ。時間だけはありますから」


 ゼインは立ち上がると伸びをする。


「直近の島には、あと二時間くらいで到着します。僕は準備してきますね。お二人も、あと一時間くらいしたら倉庫にこもってください」


「ああ」


 また憂鬱な時間が始まるのか。アルフレッドと顔を見合わせ、苦笑いをした。


 倉庫の中にアルフレッドと閉じこもる。島に到着したか分からないまま、ホープ号は下降した。


「行ってきますねー」


 のんびりとしたゼインの声だけが廊下の方から聞こえた。

 いつまでこんな生活を続けなくてはならないのだろう。島の景色すら見られないなんて。外に出れば物珍しい光景が広がっているのを知っているだけに、ストレスばかりが溜まっていく。


「ティア、そんなに怖い顔をするな」


「んー」


 アルフレッドと二人だから耐えられる。それに、完全に巻き込まれただけのアルフレッドの方が、ストレスは溜まるだろうに。

 肩で息を吐き出し、なんとか思考を逸してみる。


「解毒剤って苦いのかなぁ」


「ん? 多分な」


「嫌だなぁ」


 毒を飲んだ訳でもないのに、解毒剤の味を思い浮かべてしまう。顔をしかめると、アルフレッドは小さく笑い声を上げた。


「今からそんな心配をしてどうする」


「だってー。粉薬だって飲めないのに」


 苦いものは昔から得意ではないのだ。

 なんとなく照明を見上げると、先日の出来事を思い出した。クラゲを二人で透かし、笑い合う。また、あんな思い出を増やしたい。

 ぼんやりとしていると、廊下から足音が聞こえてきた。ゼインが帰ってきたのだろうか。間を置かず、ホープ号は上昇を始める。

 神妙な顔つきでゼインが倉庫にやってきたのは、それから十数分後のことだった。


「あの……」


 手には封筒らしきものを持っている。封蝋のデザインは、あの獅子とスイートピーの花――グライゼル侯爵家の家紋だ。見つけた途端、心臓が飛び跳ねた。

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