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異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第9章 近付く

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近付くⅡ

 そんなゼインの変化にアルフレッドが気付かないはずもない。

 

「レイン、何があった?」


 アルフレッドはゼインの感情を刺激しないように、落ち着いたトーンで話す。ゼインは目を伏せ、空笑いをする。


「大したことじゃないんです。こっちの話で」


「じゃあ、なんでそんなにつらそうな顔をする?」


 これにはゼインも押し黙ってしまった。逃げるように、彼はウェイターが持ってきたビールジョッキを口へと運び、「ぷはー」っと豪快に飲む。


「僕の話なんて、聞かせられるようなものじゃないですよ」


「……俺のことは執事として何でも知ってるのに、自分のことは一切、話さない。それって卑怯じゃないか?」


 『卑怯』という言葉に反応したのか、ゼインはむせてしまった。一方で、アルフレッドの瞳はどこか物悲しい。

 ゼインは涙目になりながら、何度か咳払いをした。

 

「酔いが回ったら話します、きっと」


 そうして、またジョッキを口へと運ぶ。私はアルフレッドとゼインの中に割って入る勇気もなく、ただ傍観していた。

 大声で話していた先客はふらふらと立ち上がり、千鳥足で店を後にする。それをゼインは横目で確認しているようだった。もう一口ビールを飲むと、重たい口を開く。


「マリーゴールド嬢とか、フェルナシス公爵の嫡男とか……さっきの客が話してたじゃないですか」


「ああ」


 ゼインはだいぶ酒が回ってきたようだ。時折しゃっくりをしながら話す。

 アルフレッドと一緒に、私も首だけで頷いていた。


「あれ、僕の身内なんですよ」


「は……?」


 突然の暴露に、私は口を半開きにし、アルフレッドは無表情になってしまった。間を開けて、アルフレッドは僅かに身を乗り出す。


「身内って言っても、主と使用人とかの関係……だよな?」


「いえ、フェルナシス公爵の嫡男はー……僕の兄です。腹違いですけどねー」


 ゼインは苦笑いをしながら肩を竦める。

 つまり、ゼインはフェルナシス公爵の息子――とんでもない話の展開に、膝の上の手に力が入る。頭が上手く働いてくれない。アルフレッドも小さく首を横に振って、現実から目を逸らそうとしているようだ。


「じゃあ、なんで俺のところで執事なんか」


「僕、親に勘当されたんですよ。帰る家が……ないっていうやつです」


「何が原因だ?」


 ゼインは吐息をつき、ジョッキに残ったビールを一気飲みする。


「一気に話してもパンクするでしょ? 食事を楽しみながらにしましょうよ。……すみませーん、ビール、ジョッキで一つ!」


 ゼインは声を張り、追加注文をする。

 私の気持ちを整理するためにも、ゆっくり話すのは大歓迎なのだけれど、二人は大丈夫なのだろうか。アルフレッドとゼインの様子を窺ってみる。アルフレッドは神妙な顔つきになっており、ゼインはいつもと変わらない。いや、ゼインは無理に明るく振る舞っているのだろう。


「ティア様は僕に質問とかないんですか?」


「えっ? 私?」


 突然、話を振られて肩がびくついてしまった。ここで黙るのはゼインに失礼だ。とはいえ、アルフレッドとは違う質問は思い浮かばない。


「私も、レインが親に勘当された原因が気になる」


「そう……ですよねぇ」


 ゼインの声が掠れたところで、お待ちかねのステーキが運ばれてきた。店に入った当初のワクワク感は、どこへ吹き飛んでしまったのだろう。空腹なのに、食べて良いのだろうか、という疑念が生まれてしまう。フォークとナイフを手に取り、焼かれた鉄板の上で音を立てるステーキを眺めてみる。


「お二人とも、ぼーっとしてないで……食べましょうよ。せっかくのステーキが……焦げちゃいまっ……すよ」


 ゼインは私たちの様子を気にかけつつ、フォークとナイフを器用に使ってステーキを切り分ける。こうしてよく見てみると、ゼインのそれは貴族令息の仕草だ。何故、今まで気付かなかったのだろう。

 アルフレッドと顔を見合わせ、再びステーキと向き合う。私もステーキを一口大に切り分け、そのうちの一つを頬張った。肉汁が口内を満たし、幸福感が染み出す。アルフレッドのナイフが不意に無作法な音を立てた。


「……やっぱり、話さなきゃ駄目ですか?」


 ゼインは今更、怖気づいてしまったのだろうか。私とアルフレッドの目を見て、口を尖らせる。


「気になりすぎるからな」


「うーん……」


 ゼインは鼻から大きく息を吐き出し、視線を落とした。


「……兄とマリーゴールドの政略結婚を……僕がぶち壊したんですよ。結婚を嫌がる兄が……可哀想になっちゃって」


「可哀想なだけでぶち壊すか?」


「いや、言葉の綾です。ちゃんと理由はありっ……ます」


 ゼインは二杯目のジョッキに手を掛け、小さく唸る。


「兄には幼馴染で好きな人がいたんです。それに、マリーゴールドの両親が傲慢……って言ったら良いんですかね。本人も傲慢なんですけど、兄との結婚……イコール金目当て、みたいな。別荘を建てるって周りに言いふらしてましたしね」


 愛していない相手なんて、私と同じだ。それを他人事のように聞けてしまう私自身に、少しだけ嫌悪感を覚えてしまう。

 ゼインの目が座ってきた。


「突然、フェルナシス公爵家の金品は私たちのものだー! なんて言われて……納得出来ますか? って話ですよ」


 ゼインが頷いていると、アルフレッドは悲しげな瞳をゼインに向けていた。


「それで、お前が勘当された、と」


「そうなんですよー。国王陛下公認の結婚だったので、そうせざるをっ……得なかったというか。ま、結果オーライなんですけどね」


 ゼインは親指を立てて笑うけれど、私たちは苦笑いしか出来なかった。私とアルフレッドの食事の手は止まっている。ステーキから立ち上る湯気はいつの間にか消えていた。


「他人の結婚を壊した僕は、幸せな結婚を……しちゃいけないんですよ。僕が好きだった人も……他の誰かを見つけてるでしょう」


 言葉とは裏腹に、ゼインは目を伏せて哀愁を漂わせる。ジョッキを握る指は震え、口元は悲しそうに下がっていた。

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