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異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第7章 揺れる

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揺れるⅠ

 ゼインがぎっくり腰になってから、三日が経った。修理予定のプロペラは搭載される気配がない。まだ基礎部分だけが残されたままだ。

 朝のうちにアルフレッドがゼインに現状を報告する。ようやく起き上がれるようになったゼインはベッドに腰掛け、眉間にしわを寄せながらただただ唸り声を上げた。


「これが普通の修理速度なのか?」


「プロペラを一から作ってるなら頷ける速度ではありますけど。ちょっと遅いですねぇ」


 船大工ののんびりとした態度から言っても、ちょっとどころではないと思うのだ。


「絶対に急いでないよ、あの人たち」


「金だけはむしり取る気満々だしな」


 アルフレッドも腕を組み、大きく溜め息を吐く。


「こっちはお願いをしてる立場だし、無理強いは出来ないし……困ったな」


「少しだけ、弱みをちらつかせてみますか?」


 弱みとは何だろう。しかも、何故、ゼインはそれを知っているのだろう。首を傾げると、ゼインは口元を上げた。


「ちょっと伝手がありましてね。噂話なら僕の耳に入ってくるんです」


「また伝手?」


 ゼインは何者なのだろう。ただの執事、兼、航空士であるだけで、こんな伝手があるだろうか。気になりすぎる。

 じっとゼインを見詰めながら、ゆっくりと詰め寄った。しかし、身体がくっつく前にアルフレッドの手が私の肩を掴む。


「使えるものは使おう。便利だからな」


「ひょっとして、僕、道具扱いされてます!?」


 ショックを受けたように、ゼインは大袈裟に項垂れる。それを気に留める様子もなく、アルフレッドは私に微笑みかけた。


「これで少しは修理が進むと良いな」


「うん」


「……僕、ふてくされますよ?」


 アルフレッドと頷き合っていると、ゼインが頬を膨らませた。まるで少女がするような仕草だ。ちょっとだけ気持ち悪いと思ってしまった。

 アルフレッドは目を細める。


「レイン。止めなさい」


「はい」


 自分でも違和感があったのだろう。ゼインはすぐに口の中から空気を抜き、しゅんとしてしまった。


「よし、早速、船大工を脅しに行こう。レイン、あいつらの弱みを教えてくれ」


「それはですね――」


 『脅しに』なんて、私たちが悪者みたいだ。もう少し良い言い方がなかったのだろうか。ゼインの言葉をなんとなく聞きながら、少し呆れてしまった。


 * * *


 コンタクトレンズも入れ、変装はバッチリだ。黒髪のアルフレッドと一緒に、ホープ号の前に集まり始めた船大工たちの元へと向かう。

 棟梁は――いた。船大工たちの中心で大笑いをしている。


「ちょっと良いか?」


「ん? ああ、お前か」


 相変わらず、雇い主に随分な口の聞き方だな、とベージュの衣服に油の汚れがついている棟梁に目を細めた。

 アルフレッドは物怖じせず、真剣な顔で口を開く。


「もっと作業のスピードは上がらないか?」


「猛スピードでやってるだろう」


「話しながら、グダグダが猛スピードなのか?」


 アルフレッドの言葉に、棟梁は眉をひそめる。


「船を傷付けたのはお前だよな? 俺らにいちゃもんつけんのか?」


 その目力は後退りしてしまうほどの迫力だ。そこで、アルフレッドがあの言葉を持ち出す。


「……つい一ヶ月ほど前に、ここで事故があったんだってな」


「それがなんだ?」


 棟梁の表情にはまだ余裕がある。


「賠償金は払ってるのか?」


「払って――」


「払ってないよな?」


 アルフレッドは一歩前に出るけれど、棟梁も引かない。


「脅しか?」


「俺は報酬に見合った仕事をしてくれるなら、何も言わない。してくれないなら……分かってるよな?」


 アルフレッドの語気に、ついに棟梁が舌打ちをした。


「お前ら、急いで仕事するぞ!」


「えー!?」


「じゃねぇと、俺らの首が飛ぶ」


 棟梁はぎろりとアルフレッドと私を睨みつけると、金槌を手に取った。そのまま木材置き場へと向かう。


「これで良かったのかな? 私たち、恨みを買ったんじゃ……」


「素直に仕事をしてたら、こんな脅しなんかしなかった。仕事をしないあいつらが悪いって割り切るしかない」


「うーん」


 理不尽な世の中だ。それにしても、アルフレッドはよく立派に立ち回ってくれた。


「セシル」


「ん?」


 アルフレッドは若干、首を傾げる。


「私とレインは、セシルの味方だからね」


「……ああ」


 アルフレッドは微笑みながら、私の手を取った。温かい。自然とその温もりに縋っていた。


「じゃあ、毎朝恒例のラジオチェックでもするか。レインのところに戻るぞ」


「うん」


 昨日とは打って変わって、トンカチが釘を打つ音が響き始める。会話も少なくなっている。脅したかいがあったというものだ。とはいえ、あまり良い気持ちにはなれず、ゼインの部屋を目指した。

 タラップを上り、デッキを抜け、階段を降りる。ドアを開くと、一気に明るい部屋が広がった。


「船大工たち、ちゃんと仕事始めましたねぇ」


 この部屋の窓から見える分にも、明らかに船大工の仕事は見違えたのだろう。


「やりましたね、僕」


「交渉したのは俺だぞ?」


「情報提供したのは僕です」


 ゼインはドヤ顔をし、腰を反らそうとしてしまった。途中でゼインの悲鳴が上がる。


「レイン、そんなことしてたらまた悪化するぞ?」


「気を付けます……」


 ゼインの目には涙が浮かんでいる。

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