表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました【完結】  作者: 七宮叶歌
第5章 超える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/50

超えるⅢ

 狭い廊下を抜け、階段を登る。デッキに出ると、一気に清々しい空気が肺へと流れ込む。


「ティア、何とかなっただろ?」


「……うん」


 疑っていた訳ではないけれど、本当に何とかなってしまった。微笑むアルフレッドに、静かに頷いてみせる。

 空を見上げると、止まったプロペラが目に入った。黒い煤が付き、僅かに煙も上がっている。


「私たち、よく無事だったよね」


「ああ」


 雷が落ちても墜落しないなんて、ホープ号は強い船だ。支柱を撫で、よく頑張ったねと褒め讃えた。


「ティア、これは知っているかは分からないが……」


「ん?」


 首を傾げて、アルフレッドの先の言葉を急かす。


「国外には王族の顔は知られてない。肖像画は門外不出だからな」


「ってことは、私は逃げ回らなくても良いの?」


「いや、ラベンダー色の目がある限り、狙われ続けるだろう」


「そんなぁ」


 一瞬だけ期待をしたのに、損をした気分だ。アルフレッドは更に続ける。


「ティアだけじゃない。俺も一緒だ。重要指名手配犯の顔は世界中に広がってるだろうからな」


 ということは、アルフレッドも身分が知られればその場で殺されるのだろう。巻き込まれただけで命を狙われるなんて、申し訳ないことをしてしまった。

 頭を下げようとした時、アルフレッドは両手を広げて深呼吸をした。


「俺は、ここまで追い詰められないと、この自由は手に入れられなかった。だから、ティアには感謝してるんだ。ありがとう」


 責められるよりも、胸に込み上げてくる何かがある。よく分からない感情に、涙が溢れ落ちた。衝動的に、アルフレッドの背中に飛び付いていた。


「私こそありがとう。身分という名の檻から解き放ってくれて」


 嘘偽りのない、私の本心だ。アルフレッドは頬を薔薇色に染め、はにかむように笑ってくれた。


 * * *


 最寄りの島に到着し、錨を下ろす。ゼインは止まったプロペラを見上げ、大きく息を吐き出した。


「ホープ号、良く耐えてくれましたね」


「レイン、安全だって確信があって操縦してたんじゃないのか?」


「そんな訳ないじゃないですか」


 もしかして、私たちが島に着陸出来たのは奇跡だったのだろうか。あんぐりと口を開ける以外に感情を表現する術はなかった。


「凄い度胸だな……」


「それくらいじゃなくちゃ、航空士なんてやってられません」


 確かに、航空士は乗員の命を預かる仕事だ。その場で泣き言なんて言えない。にしても、ゼインは立派だと思う。


「レイン、良く頑張ったね」


 言いながら、ゼインの背中を撫ぜる。頭を撫でたかったけれど、手が届かなかったのだ。


「もっと褒めてくれても良いんですよ?」


「調子に乗るな」


 即座にアルフレッドのツッコミが入る。ゼインは大袈裟に笑いながらも、もう一度プロペラを見上げた。


「このプロペラを修理するには……三日くらいかかるでしょうね。その間、セシル様とティア様にはホープ号からは降りないでいただかないと」


「なんでぇ!?」


 せっかく着陸したのに、船から降ろさないなんて鬼の所業だ。両手で拳を作り、ゼインに盾突いてみる。


「故郷の……ハルネイオ国の騎士は追ってこないとはいえ、先日のようなことがあってもすぐには飛び立てませんから」


 ゼインにしては珍しく確信を突いてくる。そんなのには耐えられない。ストレスばかりが溜まるだろう。


「私は嫌! 街に行くんだから!」


「ちょっ……ティア様!」


 一瞬遅れたゼインの隙を突き、タラップを目指す。その時、ゼインが呻き声を上げたのだ。


「……痛っ! 無理な体勢をしたせいで、腰が鈍っちゃいましたかね」


 その拍子に、誰かにワンピースの襟首を掴まれてしまった。こんなことをするなんて、一人しか思い浮かばない。


「まったく、お転婆な王女様だ」


 アルフレッドだ。じたばたと足を動かしても、前に進むことが出来ない。


「離してよぉ!」


「駄目だ」


「王女なんて言ったら、バレちゃうでしょ!?」


「何がバレるんだ? 今のはただの比喩だぞ?」


 悪戯に笑い、私を挑発しているかのようだ。これでは抵抗なんて出来ないではないか。頬を膨らませて床を睨みつける。


「じゃ、船内に戻るぞ」


 アルフレッドは私の手を握り直し、階段へと向かう。


「しっかり新婚を楽しんでくださいねー!」


 ゼインの呑気な声が聞こえる。新婚設定なんて、雷雲での危機ですっかり頭から飛んでいた。恐らく、アルフレッドもなのだろう。頬が紅潮するのがしっかりと見えた。


「部屋に一人でいても暇だろ? 俺の部屋に来ないか?」


「仕方ないなぁ」


 外出への期待を諦めきれず、ぶっきらぼうに返してしまった。でも、アルフレッドなら安心出来るし、一緒にいたいなとも思う。

 私の心内を知らないアルフレッドは無言で肩を落とした。

 私の部屋とさほど大きさの変わらないそこには、必要最低限のものしか置いていなかった。ベッド、机、椅子、鏡――質素な家具が並んでいる。


「少し遊ぼう。丁度、カードがあるんだ」


 アルフレッドは私を椅子に座らせ、自分はベッドに腰を下ろす。テーブルに置いてあったカードを手に取り、手際良くシャッフルしていく。


「セシルは……」


「どうした?」


 口にして良いのか分からないまま言葉にしてしまい、俯いてしまった。


「怒らないから、言ってみろよ」


「セシルは……どうしてそんなにお父様から嫌われてるの?」


 気になっていたのに、今まで聞けなかった。アルフレッドの手が止まる。


「……ま、話しても良いか」


 アルフレッドは儚く笑い、カードを配り始めた。

 私以上の親子の確執があるなんて、想像もしていなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ