表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝手に婚約破棄されましたが喜んで応じます  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/20

第9話 昼下がりの邸宅で


 ヴァレンタイン邸の応接室に、柔らかな午後の日差しが差し込む。

 窓から見える庭の緑は鮮やかで、鳥たちのさえずりが静かに響き渡る。

 エリーナ・ヴァレンタインは、深紅のドレスを軽く整えながら窓際に立つ。

 派手すぎず、それでいて高貴さと華やかさを兼ね備えた装いだ。

 少し気取った立ち姿ではあるが、微かに緊張の色も感じられた。


 軽いノックが響き、扉が開く。

 「失礼します」

 金髪に近い栗色の髪を揺らし、セリオン・カーブァルが礼服姿で現れる。

 表情は落ち着いているが、その瞳には微かな緊張と葛藤が光っていた。


 「こんにちは、エリーナ」

 「こんにちは、セリオン。どうぞ、おかけください」

 エリーナは丁寧に頭を下げ、ソファに座る彼を迎え入れた。

 婚約破棄後も会う機会はあったが、正式に邸宅に迎え入れるのはやはり特別な意味がある。


 ソファに腰を下ろしたセリオンは、少し間を置き深呼吸する。

 胸の奥では、あの夜の出来事が鮮明に蘇る。

 ――本当は手放したくなかった。

 ――止めてほしかったのに、言わなければならなかった。

 ――身勝手な理由で君を傷つけたことを、心から謝りたい。


 「……今日は、謝りに参りました。先日の件、本当に申し訳なく思っています」

 セリオンの声には誠意が滲む。


 エリーナは椅子に腰を下ろし、落ち着いた声で返す。

 「謝罪の言葉は理解しています。でも、簡単には許せませんわ」

 瞳の奥に、少しだけ柔らかさが漂う。


 「その気持ちは当然です。焦るつもりはありません。ただ、こうして君の前にいるだけで……少し心が落ち着きます」


 セリオンは微笑むが、その目には複雑な想いが宿っていた。

 「正直に言うと……本当は手放したくなかったし、止めてほしかった。本当は君のこと愛しているのに、身勝手な理由でごめん」


 エリーナは一瞬息を飲んだが、やがて柔らかい微笑みを浮かべる。

 「そう……なら少し安心できるわ。謝るだけで済むと思ってはいませんでしょう?」

 

 「その通りです。あの夜の俺の判断は間違っていた。

本当君も傷ついていたのに、俺は君の完璧なところに嫉妬してしまった」

 セリオンは視線を少し伏せ、慎重に言葉を選ぶ。


 応接室には、静かな沈黙がゆっくりと流れる。

 手を伸ばせば届きそうな距離に座っているのに、まだ触れられない。

 互いに言葉少なで視線を交わすだけだが、その静寂の中に温もりが宿る。


 「少しずつ……でも、あなたを信じる気持ちは戻せそうな気がするわ」

 エリーナは俯きながらも、柔らかい声で言う。

 「ありがとう、エリーナ、少しずつ信頼を取り戻せるように努力する」

 「私も少し安心できたわ」


 沈黙は長く続く。午後の光が二人を包み、心の距離が少しずつ近づいていく。

 言葉よりも確かなもの――互いを想う気持ちと、触れなくても伝わる温かさが、昼下がりの応接室に静かに満ちていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ