プロローグ
『ザー』
雨の音で目が覚める。
「雨か…気だるいな。」
そういって体を起きあげる。
伸ばしっ放しの長い黒髪が視界を遮るがいつものことだ、慣れた手つきで視界を開く。
私の名は結崎小枝。伸ばしっ放しの長すぎる髪と小柄な身体が特徴の14になる女の子だ。人付き合いが苦手で昔から友達と呼べるものは変わり者の友人が一人いるだけだ。
「だるいしサボろうかな…。」
そんなことを考えていた時だった。
『ピンポーン、ピンポーン』
インターホンの音が家中に響く。インターホンを二回、彼女と私の間のサインだ。
「今空けるよ」
聞こえるわけも無いのにそう、つぶやき、重い身体を上げ玄関に向かう。階段のだるさがヤバイ
玄関の鍵を開け、扉を開ける。するとそこにはいつもの元気いっぱいな笑顔があった
「おはよー!今日は雨だけどがんばって学校行こうー」
…やはり私の考えはお見通しか。
彼女は鳴海由美いつも元気な茶髪のポニーテールの同い年の女の子だ。
スポーツもでき、勉強もできる(国語、英語は100点しか見たことが無いほど得意)その上その明るい性格からか男女問わず人気が高い。しかし、なぜか私みたいな周りを不快にさせるようなやつを友達と呼び、よく私のことを優先的に考える変わり者だ。
「まあまて、私の朝はケロッグコーンフレークから始まる」
「その前に顔洗ってきたほうが良いよ。よだれ跡ついてる」
なんてこったい!ボケをスルーだけじゃなくよだれ跡まで指摘されるとは恥ずかしい
とりあえず顔を洗いのんびりと着替えを始める。髪を整えてくれると言うのでお願いする。
彼女とこうしている時間は好きだ、だが準備が終わると学校という最悪な時間がやってくる
だから私はいつも時間ギリギリまで準備をする。
「小枝の髪っていつもサラサラでうらやましいなー。」
「ゆみちんの髪も十分サラサラじゃないか」
「私はたまにサラサラだけど、小枝は毎日サラサラなんだよー。」
「まぁ、使ってるシャンプーがたまたま私の髪質に合ってるだけさ。」
「そんな事無いと思うけどなー。そういえば今日は珍しくミニなんだね。」
「雨がはねて濡れたら嫌だからな、それにミニの方が風通しがいいから涼しくて良い。」
「やはりオシャレでは無いあたりが小枝らしいや」
ゆみちんがくすりと笑う。
「私服可なのがあの学校の唯一の良いとこだ。」
「もっとたくさん良いとこあるよー。」
苦笑を浮べながらゆみちんが言う。
「たとえば?」
私には他にいいと思ったところが無い。故に思わず聞いた。ゆみちんは少し考えると、
「…築5年なとことか?」
と言い出した。
「無理すんな。」
私に合わせて考えた結果なのだろうがなんともひどい回答だ。思わず気遣いをしてしまう。
そんな他愛の無い会話をしていると時間になっていた。私にとって最悪な時間に…
キーンコーンカーンコーン
1限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
私はすぐに次の授業の準備をし、ぼー、と窓の外を見ている。
すると後ろからいつもの元気な声が近づいてくる。
「なに黄昏ちゃってんのさ!」
「黄昏てるんじゃなくてもの思いに耽っているのさ。」
「ほう、あの小枝が考え事とな。」
さらりと失礼なことを言うわが友人に思わずでこピンをしてしまう。
「あいたぁ!!」
「主いわく、天罰だそうだ。」
「いつ、キリスト教徒になったのさ。」
ゆみちんがおでこをさすりながらツッコむ
「生まれてから今までの間のどこか。」
私はクールに返す。すると突然、私にでこピンが向かってき、パチーンといい音が鳴る。
「っーーー!!!」
まさにクリティカルヒット
あまりの痛みにおでこを抑え顔を伏せる。
「主いわく、目には目を歯にはドリルだそうだ。」
笑いながらゆみちんが言う。
「なんて天元突破してそうな主だ。」
涙目になりながら返す。そんなやりとりをしていると、
キーンコーンカーンコーン
…予鈴がなった。
「それじゃ席に戻るね!」
「お元気で」
「保健室は認めておりません。」
ゆみちんはそういって席に戻る。まさか早退禁止令まで出るとは思わなかったよ。まさにやぶへびだ
キーンコーンカーンコーン
4限目の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響く。
給食を早々に食べ終え、図書室に向かおうとしたが呼び止められる。
「なんか昼休みに女子バスケ部と男子バスケ部が試合するらしいんだけど一緒に見に行かない?」
と、ゆみちんが誘ってくる。だが、私はそういうものにあまり興味が無い。
「すまないが私はパスするよ。」
「まぁ、そう言うとは思ってたけどね。たまには興味持つかなと思って聞いてみた。」
少し寂しそうな笑顔でゆみちんが答える。少し心が痛い。
「まぁ、気が向いたら体育館にきなよ!待ってるから!」
「気が向いたら、ね」
そう言って別れる。背中越しに会話が聞こえる。
「結崎さんなんて?」
どうやら一緒に試合を見に行く人達を待たせていたみたいだ。おそらく誘われたときにわざわざ私を呼びに来たのだろう。
「やめとくってさー」
残念そうな顔でゆみちんが答えている。なんだか無性に申し訳ない。
「そっかー。でも丁度良いっていえば丁度よかったよねー。」
集団の一人がそう言い出す。
「どういうこと?」
ゆみちんが聞き返す。
「だって結崎さんってなんか、ねー?」
「うん、場の雰囲気悪くなるんだよねー。」
っーーー!!!!!
私はとてもそれ以上その場にいられず走り出していた。気がついた時には図書室に来ていた。
図書室の奥で一人、涙を堪える。
いつもの事じゃないかと自分に言い聞かすも、涙は止まらない。
せめて声は出さないようにと口を押さえる。
涙が止まった頃にはすでに三十分も経っていた。
早退禁止令が出てはいたが今日は早退しよう…。正直、目も腫れてしまっているだろうから人に顔を見られたくない。
だから学校は嫌いだ。私にとっては本当の意味で最悪な時間だ。
保健室で適当なことを言って早退許可をもらい、荷物をまとめる。
「…ゆみちん心配するかな?」
校門の前で学校を振り返り、思わずつぶやく。
『あとで電話して謝らないとな。』
そんな事を思いながら踵を返し、家路を歩く。
「ただいま」
誰もいないのは分かっているが習慣的に言ってしまう。
朝には無かった書置きが居間のテーブルが置いてある。
『出張で三日ほど帰ってこれなくなりました。生活費は振り込んでおいたので無駄遣いをしないように。P.S.奈落の行き方が分からないからメールで教えて』
…あの人は相変わらずだな、自由というかなんと言うか。
『仲間をペットだけにして行けばおk』
とメールを送る。
私の家は母子家庭の一人っ子。といっても元から共働きで母の収入で家計賄ってたので生活は大して苦しくはならなかった。
父は私が幼い頃に蒸発した、とても好きな父だった。
それだけに突然いなくなるのはショックが大きかった。思えば、その頃から人と関わるのを避けるようになっていた。
今だから分かるが、昔の私は好きな人がいなくなる悲しみをもう味わいたくなかったんだと思う。
だから、本能的に人と関わることを避け、人を好きにならないようにしていたんだろう。
「さて、学校が終わる時間までなにをしようか。」
雷が鳴ってるときにパソコンは使いたくないし、本は湿気で曲がるので本棚から出したくない。
そう思っていると、突然私のケータイが鳴り出す。
「ゆみちんからだ。」
メ-ルを開く。
『何も言わず帰るなんてひどいじゃんか!せめて一言ぐらいは言ってよ…寂しいじゃんか』
なんだか、すごく照れくささと申し訳なさがこみあがってくる。
『ごめん、低気圧のせいだろうけど頭が無性に痛くなってきて』
適当な理由で帰ったと思わせるメールを送る。
本当の事は言えない、言ったらきっとゆみちんその娘達を怒るだろう。
私なんかの為にそんな事をしたらゆみちんまで皆に嫌われてしまう。だから、本当の事は絶対に教えない。教えるわけにはいかない。嫌われ者は私一人でいい…。
メールが帰ってきた。授業中に返すなんてゆみちんにしては珍しい。よほど心配してくれたのか、それとも余程怒っているのか…。メールを開いてみる。
『そっか…でも、心配するからメールぐらいはしてね。』
『本当にごめん、今度の日曜にお詫びするからそれで許して。』
『うん、わかった。それじゃ、また日曜日に』
そんなやりとりをしてしばらくゲームに勤しんでいたら気がつけば外は真っ暗だ。時計は十一時を指そうかというところまできていた。
そろそろ、お風呂入って寝ようかな。
そう思い、何気なく外を再び見る。雨はいつの間にか止んでいたらしく、星が出ている。
すると、突然、空から光の塊が近くの山の方へ落ちていった。
流れ星とは珍しいものを見たな、明日は土曜で暇だし、あの山まで行ってみるか。
そんな事を思いながら私は風呂場へ向かった。
こんな粗末な作品を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
あと二話ぐらい先から本格的に旅立ちが始まる予定です、旅立ちが始まると二次創作になるのでご注意ください。