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第八話 君を傷つけた世界を、俺が壊す

「ずいぶん、探しましたよ。…こんな奥まった森でひっそり暮らしていたとは」


 突然そう言って現れたのは、以前サクラが断った領主の使い。

 彼は、かつての一件が原因で領主の機嫌を損ね、職を失い、恨みと歪んだ執着を燃やしていた。


「我が主人は、失敗を許さないお方。

お前のせいで、俺の名誉は地に堕ちた。お前を殺して主人に献上すれば、きっと……」


「やめろ、サクラに近づくな……!」


 ヘンドリックが割って入り、剣を抜く。

 だが相手は、背後に控えていた魔術師に命じて、魔法を放たせた。

「高位の魔術師を雇ったのでね…もう二の舞はふみませんよ…殺せ!」


「ヘンドリック、逃げ――」

 ヘンドリックも咄嗟に魔法を放ち、相殺しようとするが、防ぎきれず、魔法の残滓がーー

 その声を最後に、サクラの体は石と化した。


 掴もうとして、行き場をなくした手。止まった心臓。

 ヘンドリックは、生まれて初めて叫び声を上げた。


「さくらああああああああああああああああああッ!!!!!!」


その日、ヘンドリックは神人として"覚醒"した。

サクラが危惧していた、誰にも止められない、

圧倒的な力を。


本来、可視化するほどの魔力など人間の身では起こり得ない。

だが現に、ヘンドリックは空高くほとばしる巨大な柱のような黒き魔力につつまれている。


「見逃すべきじゃ、なかった。

こんな虫ケラ、生き残らせる価値がない」


「こ、こんなことあるはず…!私が悪かった!頼む、やめ……ヒッ」


 男も、魔術師も。神人として覚醒したヘンドリックが放つ、圧倒的な力に飲まれていく。もう、止めようとする人も、逃げる術もなく、

……塵すらも残らない。


 ヘンドリックは冷静に、領主とその取り巻きを静かに“処理”していく。

 まるで、屑を掃除するかのように――。


「間違った……もっと、苦しませたら良かった、のに…っ」


 それからヘンドリックは、サクラを背負い、旅に出た。

 石化した彼女の解呪の手段を求め、どんな術でも試し、国を駆け巡り――

 強大な魔物を討伐し、そのカリスマ性をもって名声を築き、帝国の中枢、高位貴族にまで上りつめた。



 ただ、時計の進む音が響く。

 殆どの時間を過ごす書斎の片隅、石化したサクラを見つめながら――


「……石のままなら、サクラはどこにも行かないね。

 誰にも笑いかけない。

 誰にも奪われない」


石化したサクラ。

サクラに似合いそうなドレスを、沢山買い揃えた。

着せ替え人形のように、豪奢な宝飾品を手ずから付けて抱きしめる。


「ああ、綺麗だな、サクラ…」


暖かく柔らかだったサクラは今はもう冷たく、固く、無機質なまま。


「……サクラの声が、聞きたい」


「……もう一度、

 “おかえり”って、抱きしめて……」


 そう呟いたとき、彼の頬を、一筋の涙が伝った。

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