表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第四話 静かな炎

春の市が開かれる日。

 村の外れまで薬草の買い足しに出たサクラは、思いのほか人の多さに目を丸くした。


「わっ、すごいね……。ヘンドリック、はぐれないように手――」


「……手は、いい」


 隣で歩くヘンドリックは、ずっと仏頂面だった。

 明らかに人混みを警戒している。いや――違う。彼は、サクラを見ている人たちを、睨んでいた。


「……あの男、サクラを見てた。……殺す?」


「しないでね!?!?!?」



「この辺りじゃ珍しい薬草でね、よかったらこちらの――あ、君、名前は?」


「え? あ、私はサク――」


 その瞬間。

 隣にいたヘンドリックが、静かにサクラの腕を引いた。

 強くはない。でも、拒めない力だった。


「……サクラって呼ぶな」


「えっ?」


 商人が目をぱちくりさせる中、ヘンドリックはじっとその男を見据えていた。

 微笑みもしない。礼も言わない。ただ、冷ややかな声で呟いた。


「俺以外がその名前を呼ぶのは、気に入らない」



「……ちょっと、ヘンドリック? さっきの言い方、怖かったよ」


「……あんな男、サクラに触れる資格ない」


「でも、普通に挨拶されただけだし……そんなに睨まなくても……」


 ヘンドリックは立ち止まる。

 そして、振り返って、はっきりと言った。


「……なんで、俺だけが、こんなに苦しいの」


「え……?」


「“弟”なら、誰が名前を呼んでもよくて、話しかけられても、笑ってくれて。……でも俺が何か言うと、“子どもなんだから”って言われて」


「それは、そういうつもりじゃ――」


「……俺は、弟じゃない」


 足音が近づいた。

 サクラの目の前に立ったヘンドリックは、そっと彼女の頬に触れる。


「弟じゃない。……もう、サクラのこと、そういうふうには見れない」


「ヘンドリック……?」


 その言葉の意味に気づくには、まだ早すぎた。


「思春期…?そっとしておくべきかなあ…

私も覚えがあるけど、お母さんなんて知らない!みたいな……?」


 でも、その夜から、ヘンドリックは隣で眠らなくなった。


 代わりに、深夜。誰もいないはずの部屋で、低く呟く声。


「……俺だけが、見てればいいのに。……全部全部、俺だけのものであればいいのに」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ