最終話 永遠に紡ぐ物語
サクラは結婚して初めて気づいた。
「ヘンドリックの甘やかし」は、本気で限度がないということを。
「おはよう、サクラ。私のかわいい妻」
「うわぁ……今の言い方すごくくすぐったい……!」
「何度でも呼ぶ。かわいい妻、朝だよ。妻、起きて」
「そんな連呼しないで!?」
「さあ、今日は私が抱き抱えて散歩でもどう?」
「自分で歩くよ!」
ヘンドリックは、いまや領地を治める公爵。
優れた頭脳と、膨大な魔力。
世界を滅ぼそうとする、"悪神ヘンドリック"の面影は、もうない。
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サクラに似たふわふわの髪と、ヘンドリック譲りの宝石のような瞳を持つ、小さな天使。
彼女の名は――アリア。
ヘンドリックは、彼女の髪を結ぶのも、靴を選ぶのも、自分でしたがる。
「アリア、今日も麗しの私の天使。いつか天上に還ってしまいそうで心配になる」
「おとうさま、てんじょーってなあにー?」
「……悪い大人が連れていく場所。だから絶対についていくな。神だろうと全員殺す」
「ヘンドリック!ちょ、こらああ!!!!」
ーー
遊び疲れて、眠っているアリアを眺めながら、ヘンドリックとサクラはゆるやかな時間を過ごしている。
「ヘンドリック……ありがとうね。こんなに大切に、幸せにしてくれて」
「違う。私の方が、君に救われてる」
「幼い頃から、“君と、君の笑顔と、君のすべてを、俺だけが守る”と――決めていた。
アリアが産まれて、守りたいものが増えたが、こんなに幸せないことはない」
「20年先も、30年先も、…100年先も。一生愛してる」
サクラはそっと微笑んで、彼の手を握る。
「……うん。私も変わらず、あなたを愛してるよ」
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――世界を滅ぼすはずだった“悪神”は、たった一人との出逢いにより、全てが変わった。
世界への憎悪はなりをひそめ、恋は執着へ、執着は愛へ。
2人は、これからも変わらぬ愛を紡いでいく。
世界は滅びず、めでたしめでたしで、幕が降りるのだった。