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贄の森土と血の呪縛

直樹は村の外れの森に足を踏み入れた瞬間、胸に冷たい刃が突き刺さるような感覚に襲われた。夏の夜、湿った土の匂いが鼻をつき、霧が木々の間を這う。古い神社の裏手に続く石畳は、月明かりにぼんやり浮かぶだけ。母の転勤でこの田舎村に引っ越して一週間、都会の喧騒とは対極の静けさに、直樹の霊感がざわめいた。普通の人間より少しだけ鋭い感覚が、森の奥に何か得体の知れないものを感じ取る。

「直樹、ビビってる?」 彩音が笑う。ショートカットの髪が揺れ、彼女の声は明るいが、彼女もまた霊感を持つ瞳で森の闇を警戒していた。「ただの散歩だよ、ね?」 直樹は苦笑し、懐中電灯を握り直す。背後で亮介が低い声で言う。「この村、毎年若い命を生贄にしてる。神のため、生き埋めにするんだ」 直樹は「オカルトかよ」と笑うが、霊感が亮介の言葉に不気味な真実を嗅ぎ取る。

森の奥、朽ちた鳥居の前に苔むした石碑が立っていた。文字は風化し、「贄」の一文字だけが浮かぶ。彩音が「不気味~!」と笑いながら石碑に触れた瞬間、霧が濃くなり、森が死んだように静まり返った。直樹の霊感が、背後で何かが動く気配を捉える。

その夜、直樹は夢を見た。暗い森、土を掘る音。「還せ…私の命を…」 女の声が耳の奥で響き、目覚めると枕元に土の塊が落ちていた。血の匂いが鼻をつく。霊感が、土に宿る怨みを確かに感じた。

翌日、彩音が学校に来なかった。「風邪だって」と亮介が言うが、直樹の霊感が危険を告げる。神社へ向かうと、石碑に赤い手形がべったりついていた。「…何だ、これ?」 背筋が凍る。

神社の宮司、老女の美和が現れた。「石碑に触れた者は、神に呼ばれるよ」 彼女の目は闇を湛え、声は冷たい。「村の風習さ。神の怒りを鎮めるため、若い命を捧げるの」 直樹の霊感が、美和の言葉に嘘がないことを感じ、ぞっとした。

直樹は亮介を連れて森を調べた。彩音の行方が分からないまま、夜の森は息を潜める。懐中電灯の光に照らされた木々の間から、囁きが聞こえる。「還せ…還せ…」 直樹の霊感が、怨念の波動を捉える。亮介が言う。「この風習、20歳前後の若者を生き埋めにする。村の繁栄のためだ」 直樹は「そんなわけねえ」と返すが、霊感が森の空気を重く感じる。

森の奥で、彩音のヘアピンを見つけた。近くの木に、血で書かれた「逃げるな」の文字。直樹の霊感が、怨念の源を近くに感じる。「彩音!?」 心臓が締め付けられる。亮介が冷静に言う。「彼女、選ばれた。神の贄だ」 地面が揺れ、霧が渦を巻いた。

直樹は彩音を見つけ、村から逃げ出した。彩音は震えながら言う。「私の姉貴、葵…去年、森で消えた。あの風習のせいよ」 彼女の霊感が、姉の気配をまだ感じていた。直樹も頷く。「俺の兄貴、悠斗も…2年前、消えた」 彼の霊感も、兄の存在を近くに感じる。二人は知っていた。兄姉を奪ったのは、村の狂った風習だ。

村人たちが追いかけてきた。松明を手に、目が異様な光を放つ。村長の息子、健太が叫ぶ。「贄を逃がすな!」 その笑顔は、楽しむように歪んでいる。直樹は彩音の手を握り、森の奥へ走る。霧の中から、血まみれの葵が現れた。「彩音…逃げなさい…」 彼女の目は赤く、声は冷たいが、愛に満ちている。直樹の前に、悠斗も現れる。血に濡れた姿で、囁く。「直樹…守るよ」 霊感が、二人の強い未練を捉える。

霊体に助けられ、逃げる。彩音が涙声で言う。「姉貴…なんで成仏しないの? なんで私を…」 直樹も思う。兄貴、なぜ現世に? 霊感が、兄姉の愛と痛みを強く感じる。

村人たちの追跡は執拗だった。古い小屋に隠れる直樹と彩音。狭い空間、彩音の雨で濡れた服が肌に張り付き、肩が触れる。「…近い、ゴメン」 彩音の顔が赤らむ。直樹はドキリとするが、彼女の怯えた瞳に、守りたいと強く思う。「俺がついてる」 手が触れ合い、心が近づく。霊感が、彩音の温もりに安堵を覚える。

小屋の外で、健太の声。「見つけた! 神の贄だ!」 その目は、獲物を楽しむ獣のよう。直樹は叫ぶ。「何でこんなことする!」 健太が笑う。「村を守るためだ。俺が葵を縛った。悠斗もだ」 直樹は怒りに震える。「てめえが…!」 霊感が、健太の言葉に嘘がないことを感じ、疑う。

村の古老、佐藤が現れ、静かに言う。「健太だけじゃないよ。村の掟だ」 佐藤の目は暗く、どこか怯えている。彩音の親戚、由美も現れ、目を伏せる。「彩音、ごめん…村のためだったの」 直樹の霊感が、由美の罪悪感を捉える。三人の言葉が、犯人を絞れない迷宮に導く。

森の中心、古い祭壇にたどり着く。血に染まった石、松明の炎、村人たちが呪文を唱える。美和が言う。「贄を捧げねば、村は滅びる」 彼女の目は、狂信に濡れている。直樹は叫ぶ。「葵、悠斗、誰が殺した!」 健太が笑う。「俺だ。神のために縛った」 佐藤が呟く。「掟のためだ」 由美が涙声で言う。「仕方なかったの…」 直樹の霊感が、三人の気配に複雑な闇を感じる。

祭壇の周りでビジョンが広がる。葵と悠斗が生き埋めにされた瞬間。縛られ、土をかぶせられる。葵の叫び。「彩音…ごめん…生きて…」 悠斗の声。「直樹…絶対守る…」 土をかける手は、健太、佐藤、由美…そして、村のほぼ全員。「村の繁栄のため、贄が必要だった」 美和の声は冷たく、村人たちの目は狂気に満ちている。直樹と彩音は愕然とする。「村…全員が?」

ビジョンは遡る。葵は恋人と逃げようとし、掟を破った。悠斗は風習を暴こうとした。村人全員が集まり、松明を手に彼らを縛り、土をかけた。葵の最期の記憶。「彩音、幼い頃に約束したよね。ずっとそばにいるって」 悠斗の声。「直樹、お前が泣いてた夜、俺が守ったろ?」 彼らは妹弟への愛ゆえ、成仏せず霊体として留まった。

彩音は涙を流す。「姉貴…私を、こんな風に守って…」 直樹も呟く。「兄貴…ずっとそばにいたんだ」 葵が現れ、静かに言う。「彩音、幸せになって。私の分まで」 悠斗も微笑む。「直樹、強く生きろ」 血まみれの姿なのに、声は温かい。直樹の霊感が、彼らの愛を強く感じ、胸が熱くなる。

直樹は祭壇の石碑を壊す。「こんな風習、ぶっ壊す!」 彩音も叫ぶ。「姉貴の命、ムダにしない!」 地面が揺れ、松明が消える。村人たちの呪文が止まり、霧が晴れる。葵と悠斗が最後に微笑み、消える。「ありがとう…もう、休める」

朝日が森を照らす。直樹と彩音は村を後にする。「二度と戻らない」と直樹が言う。彩音が頷き、手を握る。「でも…一緒にいようね」 直樹は微笑む。「ああ、約束だ」 葵と悠斗の愛は二人を永遠に守り、未来への希望が広がった。

END


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